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2015.09.09

低価格だけが売りじゃない 米国アパレルチェーン店の販売戦略

 ファストファッション、オフプライスリテイラーの快進撃が続きクーポンを乱用してきた親世代の買い物の仕方にも影響を受けている事もあり、若い人達は、正規価格では購入しなくなっています。慌てて買い物せずディスカウントされるまで待つ、トレンドはH&Mやザラで、高額ブランドはオフプライス店や古着店等の利用で、節約志向がますます高まっています。しかし、トレンドや価格だけが売り上げを延ばす手段では無く、別の視点で、消費者の心を掴んでいる状況も現れています。苦戦する企業にも光が、人気のチェーンにも影があります。注目したい、米国アパレルチェーンのハイライトをまとめました。

加工なしのリアルボディで急上昇!ハッシュタグは#aeriereal―AERIE(エアリー)

 アメリカンイーグル(AE)社の姉妹店、インナー・ランジェリーブランドの「エアリー」ですが、1年程前から、ふっくらとしたモデルやボディにタトゥーがあるモデルを起用し、フォトショップでの修正を全くしない広告キャンペーンを行っているのですが、等身大の女性達の共感を得た事から、売り上げが急進。第二四半期の「エアリー」の既存店の売り上げは18%増となっています。また、競合店の「アバクロ」「エアロポステール」等はトレンドを取り入れ大幅値下げをする事で集客した結果、利幅も縮小。AE社では、ザラの手法で小ロット性の在庫コントロールで大幅値下げを行っていない事も功をなしている。ショッピングモールの店頭を見ていてもAE社の集客が圧倒的です。

ボヘミアントレンドで20代のカリスマブランドに!
―FREE PEOPLE(フリーピープル)

 直近の四半期で、苦戦中の「アーバンアウトフィッターズ」が2%の微増なのに対し、ボヘミアンファッションで知られる姉妹店「フリーピープル」は14%増と好調。利幅の大きいスポーツウエアコレクションの好調も報告されており、13四半期連続、2桁増を記録!「フリーピープル」は、デパートや専門店にも卸売りをしており、価格帯は決して安くありません。H&Mやフォーエバー21でも展開しているトレンドであるにも関わらず、圧倒的な20代の若い女性消費者層に支持されているのです。キャンパスでの最新ファッションやトレンドを紹介しているウェブサイト「Collegefashionista.com」とゴールドマンサックス社が今年、共同で行った「大学生女子の好きなブランド」調査でも、H&M、フォーエバー21、ザラを抜いて1位にランクイン。

アパレルとアスレチックウエアブランドの人気順位リスト

 アパレル アスレチック
フリープープル  13% ナイキ  47%
トップショップ 8% ルルレモン 19%
 フォーエバー21 7% アディダス 5%
ザラ  6% ヴィクトリアンズシークレット 4%
アーバンアウトフィッターズ  6% アンダーアーマー 2%
H&M  5% アスリータ(ギャップ) 2%
 ジェイクルー 4% フォーエバー21 2%
メードウエル  3% ゼラ(ノードストローム) 1%
ブランディ・メルヴィレ 3% ファブレティックス 1%
エーソス  2% オールドネイビー 1%
       
       
       
       

新人事でイメチェンなるか!? ―アバクロンビー&フィッチ (Abercrombie & Fitch)

 様々な戦略で苦戦中のアバクロ、この9月からラルフローレン傘下のクラブモナコの元デザイナー、アーロン・レヴィーン氏を起用。カールラガーフェルドやトミーフィルフィガーでもデニムのデザインデイレクターを努めた経歴があり注目です。その他にも、クラブモナコ、KOHLS(コールズ)、CARTERS INC.(カーターズ)等から、新たに6名が加わった新人事体制での展開が気になる所です。

オンラインでのデニム売り上げは全米トップ―GAP(ギャップ )

 店舗縮小、従業員の解雇と苦戦中の「ギャップ」をしのぐ勢いで好調の姉妹店「オールドネイビー」。米国のトップ3アパレルブランドにも入り、バックトウスクール商戦では、若い世代の心を掴むデジタルマーケテイングが話題に。そんな苦戦中の「ギャップ」が、米国で唯一牛耳っているマーケットが、オンラインでのデニム販売。2013年の8月から2015年の7月、オンラインで買い物をした米国の消費者29万1330万人の内、「ギャップ」は堂々のトップ。次いで2位「リーバイス」、3位「オールドネイビー」、4位「アメリカンイーグル」、5位「バナナリパブリック」、6位「ジェイクルー」、7位「7 For All Mankind」、8位「AG」、9位「エキスプレス」、10位「J Brand」と続いている。

さらなる成長の可能性を秘めた“ビッグ”市場参入への決断は? ―ヴィクトリアズ・シークレット

 既に全世界35%を占める程の圧倒的シェアを誇るランジェリーブランドですが、この企業の最大のターニングポイントは、なんといっても9ビリオン(9,000億円)市場と言われるプライスサイズ(ビッグサイズ)を取り入れるかどうかという事。スレンダーなモデルを起用した「パーフェクトボディ」キャンペーンに対するプラスサイズ女性の抗議もありましたが、以前コラムで紹介した様に、米国ではプラスサイズの女性は非常に増加し商品は不足している状態。スレンダーでクールな女性をモデルにしたブランドイメージの問題はあれど、同社がプラスサイズをスタートするのは、そう難しい事ではないと思えます。店舗もプラスサイズ専門店として別に展開する事も考えられ、急進しているスポーツウエアのコレクションも含め、とてつもなく大きな成長を秘めたビジネスとなる可能性があるのです。

家賃の高いエリアへの大型店が運営難に―フォーエバー21(FOREVER21)

 トレンドコピーの乱用で、NYコレクションでは出入り禁止も噂されていますが、数年前から予想外の大型店舗での経営トラブルが伝えられています。5年前にオープンしたタイムズスクエアの店舗をはじめ、ワシントンの「タコマモール」、ラスベガス店、カリフォルニアのサンバーナデイーノ等、いずれも2,500平米以上の大型店舗を閉鎖、若しくは減床が検討されています。プライベートカンパニーの為、詳しい売り上げデータはありませんが、数年前から大型店舗による運営難が噂されています。海外に新たに100店舗のオープンを予定していますが、一部のヨーロッパの不採算店のリース契約の売却が伝えられている様です。

トレンドから逸脱した本物のブランドルーツが女性を魅了―MADEWELL(メイドウェル)

 ジェイクルーは低価格帯のMercantile(マーカンタイル)のオープンや、レギュラー店のベーシック回帰での体制と、その戦略はいずれも賛否両論。それに反する様に、2006年にスタートした姉妹店「Madewell(メイドウェル)」の方は、20~30代女性をターゲットに絶好調。「メイドウェル」の店舗数は今年15の新店舗をオープンしトータルで100店舗に達し、2014年の売り上げは前年比35%増。元々、1937年創業のワークウエアブランドであるルーツをバックボーンに、ジーンズ、オーバーオール、ダンガリーシャツ等に程よいトレンドがミックスされ人気を得ている。小物や雑貨と調和した店舗も楽しく、一連のファストファッションのトレンドからは逸脱したスタイルだ。多少値段は高くても、ノスタルジックで本物指向のコンセプトとデザインが、今どきの女性達にマッチしているのでしょう。

 

 低価格商品を展開し没個性の道を選んだ「ジェイクルー」と、信念を持った個性が魅力の「メイドウェル」、明暗をはっきりと分けている様に思えますが、低価格商品ばかりが今の市場のトレンドと言う訳ではなく、フリーピープルやメイドウェルの様に逸脱した個性は変わりのないブランドとして、ファン層を確立しているようです。


 

 

マックスリー・コーポレーション
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