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2023.03.08
中国の「寝そべり族」に見る国家衰退への道
「寝そべり族」というキーワードを聞いたことがあるだろうか。中国で今問題となっている、無気力になった若者から中年を指す言葉で、寝たきりではなく自らの意思で「寝そべって」いるのである。
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良い大学に入り、良い会社に入ることが幸せな生活につながると考える人が多いのは、中国も日本も同じである。但し、中国の受験戦争は日本のそれよりもはるかに過酷で厳しいと言われている。小さい頃から、寝る時間、食事の時間、移動時間と、1分1秒を無駄にせずひたすら勉強し続ける生活を送り、非常に狭い門を潜り抜けようとするのである。
無事に大学に入って就職した先に待つのは、朝9時~夜9時まで週6日間働く「996」と言われる過酷な勤務である。午前0時~深夜0時まで週7日働く「007」という冗談のような言葉も存在する。
それだけ働いても、都会では家を持つことは難しい。中国の不動産は、2010年を100とすると2016年時点で160近くなっており(経済産業研究所 CEICデータベースより)、現在では更に価格上昇している。つまり、収入の多くが家賃に費やされることになり、かくして夢と気力を失った「寝そべり族」がうまれるのである。
「寝そべり族」は、6つの「しない」をモットーとし、最低限の生活を送るスタイルである。具体的には、「家を買わない」「結婚しない」「子どもを作らない」「車を買わない」「消費しない」「頑張らない」の6つである。この主義を持つ人が増え続ける中では、経済の活性化が望めないことは自明だろう。
背景として住宅価格の高騰を挙げたが、格差の広がりも見逃すことができない。中国のGDPはアメリカに次ぐ規模を誇るが、1人当たりに換算すると「高所得国」ではなく、「上位中所得国」に該当する(日本貿易振興機構より)。広がる格差の中で、その壁を乗り越えて成功を手にすることはなお難しくなっている。
同じような現象は韓国でも見られる。こちらは「恋愛」「結婚」「出産」を諦めた「三放世代」というキーワードが2011年に登場。その後「就職」と「マイホーム」も諦める「五放世代」になり、更には「人間関係」「夢」も諦めた「七放世代」、ついには何もかも諦めた「n放世代」という若者が現れた。
韓国でも厳しい受験競争に、高騰する住宅価格という背景は中国と同様である。ひるがえって日本はどうであろう。日本では「さとり世代」というキーワードが存在する。「欲」もなく、「恋愛」「旅行」「車」といったことにも興味がなく、休日は家で過ごすライフスタイルの若者を指す言葉である。
今のところ、中国や韓国とは状況が違い国家レベルで問題視されてはいないようだ。せいぜい、「さとり世代」とどう接したら良いか、といった風潮である。しかし、住宅価格高騰や格差拡大といった背景は日本でも同様であり、いずれ同じ道を辿り国力衰退につながる可能性がある。
「元気」や「やる気」を出せと言われても難しい。またあの狂乱のバブルでもこない限り、すぐにこの風潮が変わるとは思えない。
やはり、賃上げやリスキリングによる安定性向上に、子育て支援による安心を提供する政策が継続的に実行され、中長期的に効果を発揮することで未来に希望を持てることが、「寝そべり」から起き上がる確実な方法だろう。(記事:Paji・記事一覧を見る)