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2018.10.18
アマゾンが音声ECを外部の事業者に解禁、進むか?”声でネット販売”<
「○○(商品名)を注文して」。パソコンやスマートフォンなどのデバイスを操作することなく、"声"で買い物ができる環境が急速に整いつつある。アマゾンジャパンが独自開発した人工知能(AI)の「アレクサ」を搭載したAIスピーカー「アマゾンエコー」を介して、商品を注文して決済まで完結できる仕組みを自社のECだけでなく、いよいよ外部の企業にも解禁。すでに複数のネット販売実施企業が対応し、音声ショッピングへの挑戦を開始している。音声によるECのこれからとは。
「"アマゾンペイ"での決済に対応し、『スキル』をビジネスに活用できるようになった」。アマゾンジャパンは10月11日に開催した12月に出荷予定の10・1インチの画面を搭載した「エコーショー」などAIスピーカーの新端末の説明会の開催に合わせて、「エコー」や「アレクサ」で利用できる音声サービス「スキル」に、アマゾンがネット販売実施事業者向けに提供している独自決済サービスでアマゾンのアカウントに登録されている配送先住所やクレジットカード番号などの顧客情報を利用してそのまま決済できる「アマゾンペイ」を連携させたと発表した。
すでに「スキル」は様々な企業や開発者によって開発され、現状、1500程度公開されているが、従来までは"決済"に対応しておらず、「通販スキル」は原則なかった。もちろん、これまでも「エコー」などを介して「○○が買いたい」と呼びかければ音声でショッピングすることはできたが、買い物先はアマゾンの通販サイトのみに限定されており、アマゾン以外の事業者の商品には対応していなかった。ただ、今回の「アマゾンペイ」との連携スタートで、注文から決済まで音声で完結できる体制が整った。
アマゾンのこうした音声EC環境の外部への解禁の動きや「エコーショー」や7月に発売した「エコースポット」のように画面付きのAIスピーカーの登場で音声だけでなく、画像や動画を合わせて活用できるようになり、より音声をメインとしたショッピングの可能性が広がったということもあって、「新たな売り場」にチャレンジすべく、すでに様々なネット販売実施企業が対応を開始しているようだ。
10月11日からはJTBが全国のレジャー施設の検索および電子チケットを購入できるスキル「JTBおでかけチケット」をリリース。まずは「スポット」で提供し、12月には「ショー」にも対応する。また、夢の街創造委員会は全国1万2000店の飲食店から出前を注文し決済できるスキル「出前館」を10月下旬から「スポット」で提供、同じく「ショー」でも対応する。このほか、ピザの宅配注文などができるスキル「PIZZA SALVATORE CUOMO」。物販系ではワインを購入できるスキル「京橋ワイン」やギフト用の果物や高級菓子などを購入できるスキル「リンベルショップ」など音声ショッピングのスキルも順次、公開されるようだ。
現状、アマゾンペイ対応のスキルの開発は特定の事業者に制限しているが、米アマゾンでは大手家電量販店などに交じり、小規模事業者などもスキルを介した音声ショッピングに取り組んでいるところもあり、日本でも近々にも「アマゾンペイ対応スキル」の開発を広く解禁する模様だ。
では、音声ショッピングを行なうにあたって成果をあげるための条件とは何か。1つはメインの操作が声であることを意識した設計のようだ。各社のスキルを見てみると、例えば「出前館」であれば、ウェブサイト上で展開するサービスのように「できるだけ多くの宅配可能な店舗・フードを検索できるようにする」ということを前提とするのではなく、「何を食べたい気分ですか?」として、まず「カレー」や「中華」といったジャンルごとに分け、店舗やフードを探していくという「音声での操作性を意識した設計としている」(同社)ことが分かる。また、「リンベルショップ」では「極みの逸品」として商品を6商品に厳選して声で「1番目」などと選択しやすくしつつ、さらに音声に加えて、生産者の声を交えた商品説明動画を盛り込むなど効果的に「音声+動画」で訴求している。
音声ファーストの操作性に加えて、端末を意識したレイアウト設計も重要となってくるようだ。例えばアマゾンの場合、画面付きの端末でも10・1インチの四角い画面の「ショー」や小型の円形画面がついた「スポット」がある。また、テレビに接続してアマゾンがネット配信する映画やテレビ番組などを視聴できるアマゾンのストリーミングメディア端末「ファイヤーTVスティック」が12月12日に出荷する新型の発売を機に、ソフトウェアのアップデートにより現行の端末も含めて「音声認識付きリモコン」で「アレクサ」に対応することになり、音声ショッピングが可能なスキルを含む一部のスキルが「エコー」がなくとも家庭のテレビで利用できるようになる。スクリーンの大きさが異なれば、最適な見せ方は変わってくるわけで、例えば「ショー」では1画面で6商品を見せるが、「スポット」では1商品のみで残りは下にスクロールさせたり、逆にテレビでは大きな画面を活かして異なる見せ方にするなどの対応が求められそうだ。AIスピーカーはアマゾンの「エコー」を始め、グーグルやLINEの製品も徐々に普及が広がっている。AIスピーカーを介したショッピングに本格的に対応しているのはアマゾンのみだが、今冬に画面付き端末「クローバデスク」を発売するLINEもいずれかのタイミングで音声ショッピングへの対応を始める公算が高そう。
また、前述通り、家庭のテレビで音声ショッピングもできる環境も整いつつある。「音声だけでは一度、購入したものや消費財などよくその製品を知っている商品しか購入しにくかったと思うが、ディスプレイ付き端末で写真や映像も使用できるようになったことで、活用次第で高額な商品も含めて様々な商品が販売できる可能性はあり、音声ファーストのショッピングが進むのではないかと我々も期待している」(柳田晃嗣アレクサビジネス本部長)とする。通販各社は新たな売り場での売り方を研究していく必要がありそうだ。