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2018.05.24

楽天市場 独自配送網でさらなる成長へ、ポイント施策でクロスユース加速

 
 楽天は1月、「楽天市場」出店者向けに、同社独自の配送ネットワークを構築する考えを明らかにした。「宅配クライシス」を受けたもので、ネット販売に特化した配送ネットワークを、2年以内に構築するとしている。また、同月には西友と共同でネットスーパーを運営することを発表したほか、ビックカメラとの共同事業「楽天ビック」をスタートするなど直販事業にも力を入れる。さらなる拡大を図る楽天市場の成長戦略とは。
 
 独自の配送ネットワーク構築は、1月30日に都内で開催された出店者向けイベント「楽天新春カンファレンス2018」で発表された。同社で楽天市場事業を統括する、矢澤俊介執行役員楽天市場事業長は「店舗の困りごとを解決しないといけないというのが、自前で物流を整備する最大の理由だ」と話す。同社では、出店者の物流業務を請け負う「楽天スーパーロジスティクス」を展開している。そこで利用する物流拠点についても、時期は未定だが10カ所まで拡大する予定で、昨今の宅配会社による運賃値上げや荷物の総量規制を受けて、新たな方針を打ち出したことになる。
 
 「宅配クライシス」で、出店店舗はどの程度影響を受けているのか。矢澤執行役員は「出店店舗の責任者に話を聞く機会は多いが、運賃値上げで利益構造そのものが変わってきており、経費増にどう対応するかで頭がいっぱいになっているネット販売企業の社長も多い。また、昨年末には荷物の総量規制があり、出荷できないという事態に陥った店舗もあった。今以上に突っ込んだ施策を行うことで、出店者に貢献しないといけないタイミングだと思っている」と話す。
 
 今年に入ってからも、多くの通販事業者が配送料を値上げしている。これまで、一定の金額以上注文すれば送料を無料にしていた大手通販企業でも、取りやめるケースが相次いだ。楽天市場の出店店舗は中小規模の事業者が多いだけに、経費大幅増の影響は大きいはずで、このままでは楽天市場の拡大基調に水を差すことになりかねない。
 
 事業スタートに向けた具体的なスケジュールや投資金額はどうなっているのか。矢澤執行役員は「現段階ではまだ明かせないが、今年後半には説明する機会を設けたい。革新的なサービスを出せると思っている」と自信を見せる。三木谷社長は1月のイベントで、「宅配会社による物流は、これまでCtoCが基本になっていた」と指摘。つまり、個人間、あるいは法人間の宅配を想定していたインフラに、通販のようなBtoCのビジネスモデルを乗せていったために、ひずみが大きくなってしまったというわけだ。
 
 今後は、BtoCに最適化された物流ネットワークを構築していくことになるが、どんなサービスを想定しているのか。「これまでは、店舗が出荷した商品が宅配会社の拠点に来てから、『いつ届けなければいけないか』というデータが登録される。当社であれば、注文があった時点でそれを把握しているので、より効率的に届けることができる。また、AIを使った需要予測の精度がかなり高くなっており、在庫をどの倉庫に配置すれば最適なのかも分かる」(矢澤執行役員)。
 
 例えば「注文時にはいつ在宅しているのか明確でないため、取りあえず翌日を受取日にしていた」というケースもある。「到着直前に予定が変わるのは良くあるので、ユーザーが受け取りたいタイミングで届けるためのサービス設計を進めている」という(同)。
 
 これらのサービスは、同社の物流センターから出荷するのが前提となるわけだ。今後、出店店舗は同社の倉庫に全ての荷物を預けることになるのだろうか。矢澤執行役員は「現在、詳細を詰めているところだ。楽天スーパーロジスティクスのように全在庫を預けるタイプと、出荷する際に出店者の利用する倉庫から当社物流センターに移動するタイプの2種類を考えている」と説明する。
 
 同社では現在、店舗向け決済代行サービス「楽天ペイ(楽天市場決済)」の導入を進めている。全店舗の決済手段を統一することで使いやすさの向上につなげるのが狙いだ。配送方法が統一されれば、ユーザーにとっての利便性はさらに高まることになる。
 
楽天ビック好調
 

 
 物流網構築に関しては、近年強化している直販事業の成長にも大きく関わってくる。同社ではこれまで手掛けてきた、書籍、ファッション、日用品に加えて、家電の直販にも乗り出した。4月11日には楽天市場内に、「ビックカメラ楽天市場店」を刷新する形で「楽天ビック」を開設。大型家電の設置や配送面などで利便性を向上させるほか、O2O施策も強化。家電販売のサービスレベルを向上することで、流通総額の拡大を図る狙いだ。
 
 矢澤執行役員は、開設から約1カ月が経過した楽天ビックの現状について、「ビックカメラ楽天市場店の前年同期売り上げと比較した場合、比べものにならないほど売れており、家電だけではなく非家電商材も好調だ。なおかつ、楽天ビックの売り上げを除いた、楽天市場全体における家電の売り上げも前年同期と変わっていない」と話す。楽天市場に出店する家電ネット販売企業の担当者も「楽天ビックの影響は特に出ていない」とそれを裏付ける。
 
 今後の成長に向けたカギとなるのは、やはり物流だ。東京23区などで今夏にも注文当日配送を導入。今後はビックと楽天の物流センターを連携させ、ビックの扱う商品のうち、小物については、楽天の保有する神奈川県相模原市の物流センターから配送するようにする。また、楽天市場に出店する他の店舗にビックの配送網を活用してもらうという構想もあり、その際はビックの千葉県内の物流センターから大型商品が配送できるようになる。
 
 矢澤執行役員は「物流というピースが揃えば直販はもっと伸びる。楽天市場というサービスはネット販売の枠を超えてきているので、実店舗への送客もどんどんできるようになるだろう」と話す。
 
SPUは拡大
 

 さらなる楽天市場の成長に向けて、物流インフラの整備が片方の車輪としたら、もう片方の車輪は「楽天スーパポイントを軸とした楽天経済圏拡大によるユーザーの囲い込み」だ。同社では、グループサービス利用者が楽天市場で買い物をした際に、ポイントを恒常的に増量する施策「スーパーポイントアッププログラム(SPU)」を展開しており、3・4・5月にはポイントアップ対象となるサービスを大幅に追加。SPUを導入した16年は、新規顧客や休眠顧客の復帰が目立っていたが、最近はヘビーユーザーがグループ内の複数サービスを利用するケースが増えており、クロスユースが加速しているという。
 
 特に、4月に対象となった楽天トラベルについては、SPU導入後に明確に予約数が上昇。矢澤執行役員は「SPUの対象サービスはもっと増やしていく。当社は『ショッピング・イズ・エンタテインメント』を掲げてきたが、サービス拡大で『ライフ・イズ・エンタテインメント』になってきており、サービス間をつなげるハイウエイがSPUだ」と強調する。
 
 経済圏拡大のさらなる拡大に貢献しそうなのが、携帯キャリアへの参入だ。矢澤執行役員は「本当に楽しみだ」と期待感を口にする。携帯事業は来年10月のサービス開始を予定している。独自物流、携帯キャリアと大きな取り組みを進める楽天。東京五輪の開催される2020年には、その成果が形になりそうだ。
 
 
 
「出店者に貢献する機会だ」
 
"宅配クライシス"の根本解決
 
 
【矢澤俊介執行役員に聞く】
 
 
 
 楽天市場の事業戦略について、矢澤俊介執行役員(=ページ最上部写真)に聞いた。
 
 ――楽天市場において新たな取り組みをさまざまな形で進めている。
 
「楽天市場に対し、消費者が求めているものがどんどん変化している。インターネット、ネット販売が身近になったからだ。当社としてもその都度変化しなければいけない。それは、独自物流もそうだし、全店舗の決済手段を統一する『ワンペイメント』もそうだし、『楽天ペイ』の実店舗決済・アプリ決済・オンライン決済もそうだ。楽天市場という通販サイトで買い物をしてもらうにとどまらず、楽天IDを核に消費者の選択肢を増やす、というのが現在の課題だ。消費者からみた楽天というブランドはどんどん広がっており、それに応えることで出店企業に喜んでもらえるようにしたい」
 
 ――独自の配送ネットワーク構築を表明した。
 
「運賃値上げが店舗の利益構造を変えてしまっており、今以上に突っ込んだ施策を展開することで、出店企業に貢献しなければいけないタイミングだと思っている。当社のサービス設計は、ユーザーからみた際に、使いやすい配送方法を作り上げるというのが前提となる。宅配クライシスに関しては、根本となっている問題を解決しないと、今後の飛躍的な成長は難しいのが実情だ。4万5000店舗を代表する形で、当社が物流を作り上げるしかない」
 
 ――具体的に、どの部分に楽天が関わるのか。
 
「基本的には当社がすべてやっていくことになる。ただ、集荷から配送までいくつかのパートがあるわけだが、すべて当社だけでやるわけではなく、パートナーと共同で取り組む部分もある」
 「ユーザーが受け取りやすい、今までにはないサービスを作り上げる。そのメリットを出店者に説明しながら、徐々に当社物流にスイッチしていただければ」
 
 ――荷物の受け取り場所も拡大する。
 
「街のさまざまなポイントでも受け取れるようにする。店舗の商品を預かっているのであり、顧客との接点も持つわけだから、一番大事なのはクオリティーだ。実店舗での受け取りはすでに始めているが、毎月そのシェアが拡大しており、一部の店舗では売り上げの9割が店頭受け取りだ。商品説明や使用方法を店頭で聞きたいというニーズは根強い。出店者にとっても、新たな顧客との接点になる」
 
 ――その他には。
 
「大手メーカーやなどとコラボレーションしたさまざまな取り組みを進めている。楽天市場をメディアとしてブランド訴求し、楽天市場限定の商品を販売するといったもので、飲料や日用品などで成果が出ている。また、当社が仲介して出店企業をメーカーに紹介し、新たなビジネスがスタートするケースも増えている。昨年、電通とマーケティング事業を行う合弁会社を設立したが、それにより当社が声をかけやすい大手企業も増えた」
 
 ――若年層取り込みに向けた施策は。
 
「1つはCtoCサービスの強化。フリマアプリ「ラクマ」のユーザーを楽天市場に誘導する。もう1つはファッションだ。若年層に人気があるブランドや出店者をしっかりサポートしていく」
 
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