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2019.02.28

【アマゾンの処分取消訴訟】 訴訟もグローバル、景表法の実証実務に影響も

 景品表示法や独占禁止法の処分をめぐる行政訴訟で「経済分析」の活用が進む可能性がある。消費者庁による措置命令取り消しを求めたアマゾンジャパンが、法廷で「経済分析」による反論を行ったとみられるからだ。欧米の独禁法関連訴訟ではしばしば活用される手法。だが、日本国内の行政訴訟で持ち出されたケースは、「記憶の限りない」(競争法に詳しい弁護士)。ましてや景表法関連訴訟における活用でもある。判決に影響を与える証拠として採用されれば、国内の訴訟・立証実務が大きく変わるかもしれない。

 2月8日の公判は、アマゾンの弁護士が「(自らの経済分析に対し、消費者庁が提出した)経済分析の意見書に再反論したい」と申し出て、裁判官が「アリックスパートナーズの?」と反応する一幕があった。詳細は、アマゾンによる再三の「閲覧制限」申請で窺い知れない。ただ、経済分析、アリックスという二つのワードからおぼろげながらその狙いが浮かびあがる。

欧米では常套手段

 「経済分析」と言われてもピンとこないが、端的にいえば専門家に依頼した統計的手法で自らの主張の正当性を立証すること。欧米ではさかんに行われるこの手法、日本国内で活用されることはほとんどない。

 活用の典型例は、「カルテル(独占目的で行う価格等の協定)」。実際に違法行為でどれほど価格が引き上げられたか、「詳細な経済分析を背景に数%単位の損害算定が争点になる」(前出の弁護士)という。

 経営コンサルティングを行うアリックスパートナーズの名も、そこで意味を帯びてくる。「経済分析を依頼するとなると国内ではアリックスとNERA(ネラ)が有名。独禁法関連の経済分析を積極的に打ち出しているのはこの2社くらい。国内で実績のある経済コンサルファームは少なく、アマゾンは外資系だから、その観点から反論しようとしているのでは」(同)とみるためだ。

「著しい」を争う?

 では、アマゾンは景表法関連訴訟でいかに活用しようというのか。前出弁護士は、「考えられるのは、『著しい有利(性)』の争点」と推察する。

 一般的な争点は、一つに「表示主体者」の問題がある。不当な二重価格表示を行った今回の処分の場合、表示主体者が「モール(アマゾン)」か「出品者」か、という点だ。ただ、この争点で経済分析が活用できる余地は皆無と言っていい。

 一方、不当と判断された二重価格で通常の価格表示等と比べ、どれほどの顧客が誤認し誘引されたか、という争点。売り上げや、そのほか何らかの指標に変動がないため「誤認がない」という観点では活用を検討する余地があるとみられる。

 別件だが、イメージしやすいのが、だいにち堂の行政処分取消訴訟。「優良誤認」を争うものだが、「著しい優良性」があったことを示すため、消費者庁は3000人を対象にした消費者調査を実施。約6割が「視界の不良な状態が改善されると思った」などとする証拠を提出している。経済分析とは全く異なるが、統計的手法による立証である点は共通する。

変わる訴訟戦術

 繰り返すが、日本で経済分析の活用例は少ない。前出弁護士も「独禁法違反をめぐる審判請求で何度か見たが、経済分析を考慮した判決は記憶の限りない」という。それだけに、仮に判決に影響を及ぼす証拠に採用されれば影響は大きい。

 一つは、両当事者(企業と行政)が経済分析をやらざるを得なくなるということ。これまでカルテル等の損害額の認定は、民事訴訟法の定めに従い、日本では裁判所の裁量が大きかった。

 だが、詳細な経済分析で立証となれば、「数百万、場合によってより多額の費用で経済分析を行う必要が出てくる。当然、誰に頼むのか、どう立証するか、という訴訟戦術の詳細も詰める必要がある。行政もこれまで実務の蓄積がないところを考えなければならず大変」(同)。独禁法のみならず、有利誤認で前例ができれば景表法も同じだ。

 裁判後、経済分析やアリックスとの関係を尋ねようとアマゾンの弁護士に接触を試みたが、「会社に聞いてください」と、多くを語らない。アマゾンも「係争中のためコメントを差し控える」とするため真相は不明。ただ、「閲覧制限」で注目を避けたいアマゾンの思惑に反し、影響の大きさから訴訟への注目度は俄然高まることになりそうだ。

 

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