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2018.07.08
【2018秋冬パリオートクチュール ハイライト】ヴェトモンがプレタを発表 多様性を増すパリ・オートクチュール・ファッションウィーク
7月1日より5日間に渡りパリ各所で、オートクチュール(高級仕立服)コレクションが開催された。クチュール組合が発表する公式カレンダー上では、34のブランドがショーを発表。カレンダー外ではインディペンデントのクチュリエたちが、小規模・中規模のコレクションを顧客とジャーナリストに向けて服を見せ、さらに、ヴァンドーム広場に店舗を構えるハイジュエリーブランドが最新コレクションを発表。「カルティエ(Cartier)」や「ミキモト(MIKIMOTO)」が初参入して話題となり、ジュエリー業界の好況を印象付けた。そんな中で、「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」と「ヴェトモン(VETEMENTS)」という2つの注目ブランドが、オートクチュールではなくプレタポルテ(高級既製服)のコレクションを、敢えてこの時期に変則的に発表しているのが印象深かった。
アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)
カミーユ・セー高校の廊下スペースを利用してショーを見せたのが、ジョニー・ヨハンセンによる「アクネ ストゥディオズ」。独特なカッティングでボリュームを持たせたワークウェアやユニフォーム、あるいは不思議な装飾のカットソーなど、「アクネ ストゥディオズ」らしいアイテムが並んだが、今シーズンはダンサーの写真やマース・カニンガムの公演ポスターなどをグラフィカルに配置。コンテンポラリーダンスの要素を加えることで独自性と新しさが生まれ、同時にレトロ感と躍動感がプラスされていた。最後の「白鳥の湖」にちなんだモチーフやオペラ座をプリントしてラメの輝きを加えたシリーズも、今までの「アクネ ストゥディオズ」には無かった雰囲気で新鮮な驚きを与えた。
ヴェトモン(VETEMENTS)
19区の外れにあるイベントセンターの荷下ろし用の駐車スペースでショーを開催した「ヴェトモン」。コレクションは、リーダー格のデムナ・ヴァザリアの故国ジョージアを前面に出し、自らが経験した内戦や政治的混乱を服に投影し、内容としては重々しさも漂わせた。ただ、ジプシーの女性たちが好むフローラルプリントを組み合わせたトレンチコートや、ジョージア、ウクライナ、ロシア、トルコなどの国旗をあしらったブルゾンを登場させるなど、このブランドらしい遊びのあるアイデアを織り交ぜている。グルジア語のバックル付きベルトや釘が飛び出たスニーカーなど、アクセサリー類も目を引き、テーマ性も含めて今まで以上に重厚な内容となっていた。
ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVÉ)
7区にあるイタリア大使館を舞台にショーを開催した「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」。若い世代にもクチュールの素晴らしさを知って欲しいとの意向で、原点回帰を目指した。シンプルなパンツスーツを中心にしたデイウェアは、布が持つ張りと艶やかさを生かしたものが多く、落ち着いたトーンの夜会服は、シンプルさと装飾性をバランス良く配している。ブルーとピンクを中心にした華やかなイヴニングドレスは、クラシックなものからアルマーニらしい実験性に富んだアイテムまで幅広く見せ、最後のベージュのシリーズはアルマーニにしか描き得ない世界観だった。全96ルックという力強いコレクションの根底にあるものは、アルマーニの造形的で構築的なシルエットを創り上げる感性と技術力で、改めて“アルマーニ・クチュール”の力強さを印象付けた。
ゴルチエ パリ(GAULTIER PARIS)
本社パーティルームでショーを開催した「ゴルチエ パリ」は、得意とするテーラードを中心に据えたコレクションを発表。特にタバコを吸うためにデザインされたスモーキングジャケットにまつわる、ゴルチエらしいユーモア溢れる作品が並んだ。ホースヘアで“No smoking”の文字を立体的にあしらったドレスや、“Smoking no smoking”の文字をラインストーンで描いたマスクなど、随所にタバコ、あるいはスモーキングにまつわるジョークが散りばめられている。今回は特にメンズのルックも多く登場し、その度に歓声が上がり会場を沸かせた。
ヴィクター&ロルフ(Viktor&Rolf)
「ヴィクター&ロルフ」は、18区の劇場ル・トリアノンでショーを開催。ブランド設立25周年を祝うべく、これまでの代表的な作品をウェディング・ドレスに変換させて発表した。タイトルは“The Immaculate Collection(純白のコレクション)”。2005年の秋冬の“Sleeping Beauty”のコレクションから引用された枕をあしらったガウンドレス、チェーンソーでカットしたかのような2010年春夏のチュールドレス、2015年秋冬のキャンバスをあしらったドレス、そして今年1月に発表されたダッチェスサテンを編みこんだドレスなど、全てを白で統一。しかし、そのまま白に変換するのではなく、テクニックや素材、ディテールを違えて、再解釈している点が新鮮だった。
今回のオートクチュールは、「ミュウ ミュウ(MIU MIU)」や「エルメス(HERMES)」が大々的にプレコレクションを発表し、「ソニア リキエル(SONIA RYKIEL)」がオートクチュールに参入するなど、トピックには事欠かないシーズンとなった。しかし、プレタポルテ、プレコレクション、ハイジュエリーなど、オートクチュール以外の要素も多く、オートクチュールとしては全体的な方向性が見え辛いシーズンとなったのは確かである。ただ、多様性という全世界的なトレンドには同調してはいるため、しっかりとファッション(流行)を守り抜いていた、と言えるのかもしれない。
取材・文:清水友顕