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2018.06.19

【ミラノメンズ2019春夏 ハイライト3】スポーツ&ストリートがデフォルト化するミラノメンズ

 ミラノコレクション最終日18日は「ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)」、「フェンディ(FENDI))、今回は「エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)」のショーを行わず、本ラインだけに注力した「ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)」、そして1月に続き今度もミラノでコレクションを行った「ハンティング ワールド(HUNTING WORLD)」などがショーを開催。その他、「ステラ マッカートニー(Stella McCartney)」がメンズコレクション初のプレゼンテーションを、「トム フォード(TOM FORD)」も久しぶりにミラノでプレゼンテーションを行った。

ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)

 

 「ヌメロ ヴェントゥーノ」は先シーズンに続き、旅からインスピレーションを得た。カリブへ旅した思い出をイメージソースにしたコレクションのファーストルックは、モノートンのテーラリングルック。モノトーンのシックなスタイリングからショートパンツとノースリーブシャツのセットアップまで、自由気ままに組み合わせた、肩肘張らない着こなしが魅力だ。中での目をひくのは、抜襟のテクニック。ストライプやリゾート柄、ワンポイントなどパターンや装飾は様々だが、コレクション全体にセンシャルでリラックスした雰囲気を生み出している。そしてもう一つの特徴はクリア素材。ブラックやレッド、ブルーのPVC素材で、重くなりがちなアウターに春夏らしい軽やかさをもたらした。さらにはボトムスやバッグにも同素材を用いてレイヤードや透け感で洗練されたルックに抜け感をプラスした。

・「ヌメロ ヴェントゥーノ」2019春夏メンズコレクション

ジョルジオ アルマーニ(GIORGIO ARMANI)

 

 「エンポリオ アルマーニ」は9月にウイメンズとの合同ショーを予定しており、今回のコレクションではショーを行わないことを決定したが、「ジョルジオ アルマーニ」は今回も通常通り、最終日を飾った。

 今回の「ジョルジオ アルマーニ」のコレクションのテーマは、“DOUBLE-BREASTED”。スポーツとリラックスムードが満載でビジネススーツやジャケットの登場率が圧倒的に少ない今回のコレクションにおいて、あえてダブルブレスト?と思いきや、登場するモデル達は基本的にボタンは留めず、ジャケットの中はクルーネックのTシャツやジレ、デザインシャツなどを合わせるか、時には下に何も着ずジャケットだけで登場する。前開きの場合はダブルのほうが逆にオーバーサイジング感が増してリラックス度もアップし、ジャケットを着ていてもリラックスウエアのようだ。

 ジャケット自体も軽くソフトな素材で、チャークホワイトからパウダーブルーまで、優しい色使いが中心。またジレを多用しているが、それもアシンメトリーなデザインだったり、幾何学模様のプリントがなされていたり、パイピングが強調されていたり。本来トラディショナルなアイテムをサイズ感やディテールでリラックスウエアに変える試みは興味深い。もちろんジャケットだけでなく、ニット、パーカ、ブルゾンなどスポーティなピースも多数登場。スポーツやリラックスというのは今シーズンのミラノの一大トレンドだが、そこにはアルマーニらしいエレガンスが漂う。

「ジョルジオ アルマーニ」2019春夏メンズコレクション

「フェンディ(FENDI)」

 

 このところ、ロゴを多用したポップなテイストが続いていた「フェンディ(FENDI)」ゆえに、今シーズンのスポーツトレンドにはさぞマッチするだろうと思いきや、ショー会場は意外にも真っ暗な空間に官能的に赤く光るネオンサイン、そしてそれに続く赤い照明のトンネル。これは今回コラボした、イタリア人若手アーティスト、ニコ・ヴァシェラーリの作品だ。現在ローマのMAXXI博物館で個展を開催中の同アーティストが、今回のテーマである“ROMA AMOR”、「フェンディ」の本拠地であるローマとアモーレ(=愛)という文字の入れ替えで出来る2つの言葉を遊び心いっぱいのロゴにしたり、コミカルなキャラクターとフェンディのロゴを散りばめて、ダークな会場とコントラストをなしたセットを作った。

 この黒×赤はコレクション全体のキーカラーとなっていて、チェックやストライプ、プリントの一部に使われたり、この2色のコンビネーションのレイヤードコーディネートが数多く登場。ブルゾン、ショーツ、開襟シャツ、ニットポロといったカジュアルなアイテムを中心に、レインコートやアノラックなど機能性重視のアイテムが加わった健康的なストリートスタイルと不思議な感じでマッチする。そこに華を添えるのがお馴染みのFFロゴとヴァシェラーリがデザインした“ROMA AMOR”のポップなモチーフ。これが「フェンディ」ならではの質の高い素材や仕上げから生まれるラグジュアリー感と絶妙なバランスを醸し出す。

・「フェンディ」2019春夏メンズコレクション

 

ハンティング ワールド(HUNTING WORLD)

 ミラノコレクション初参加だった前回に引き続き、今回もミラノのトリを飾ったのが、クリエイティブ・ディレクター相澤陽介率いる「ハンティング ワールド」。ブランドのオリジンである“冒険、発見、探求心”を、今回は世界をまたがる7つの“海”をテーマにして展開。アメリカンブランドとしての太平洋や大西洋への思い入れと同時に同ブランドが製造を行うイタリアの地中海への憧れがミックスされている。それは前者を意識したハワイアンシャツやトロピカルプリントと、マリントーンやロープでデザインされたチェック、フラッグ柄のプリント等、後者のヨーロッパ風セーリングを連想させるモチーフで表現される。魚や地図が一面にプリントされたシャツやバミューダパンツ、エスパドリーユ、スカーフやキャップなどストレートに夏の海を連想させるアイテムも多数登場。またアノラックや同ブランドのアイコン的素材の撥水性のあるバチュークロスのバッグが各所に登場し、海での冒険には欠かせない機能性にもあふれるアイテムも。

・「ハンティング ワールド」2019春夏メンズコレクション

ステラ マッカートニー(Stella McCartney)

 「ステラ マッカートニー」は4年ぶりにミラノでコレクションを発表。ガーデンパーティー形式でプレゼンテーションを行った。料理やドリンクの屋台が並び、ライブパフォーマンスやワールドカップの放映が行われ、それを楽しんでいるようなモデル達…。自由でボヘミアンな雰囲気のなか、クルエルティフリーのローファーやボヘミアンスタイル のスニーカー、リサイクルポリエステルやナッパ風素材のバッグやアクセサリー、プリントやスローガンが特長のスカーフが登場。

 ケリンググループを離れ、単独オーナーとなった今回は、ステラの信念をさらに色濃く出したコレクションとなった。

・「ステラ マッカートニー」2019春夏メンズコレクション

 

トム フォード(TOM FORD)

 

 英ロンドンのショールーム、米ニューヨークでのランウェイショーなど、様々な形式やロケーションでコレクションを発表してきた「トム フォード」のメンズコレクション。久しぶりに、ミラノのショールームでコレクションを発表した。

 今シーズンは、モダニティを感じさせる落ち着いたコレクションをつくりあげた。目をひくのは、春夏コレクションとは思えないそのカラー構成だ。秋冬を思わせるダークカラーやブラウンをベースに使用。地球上の人々が持つ肌の色をイメージした、スキンカラーも効果的に使用している。コーディネートは、同ブランドが得意とするチェック・オン・チェック、トーン・オン・トーンで気品と遊び心が感じられる。

 このような提案の背景には、男性のワードローブを提案するというブランドのメッセージがあり、シーズン区分がどんどん曖昧になっている現代において、通年で着られるアイテムを提供したという。とは言っても、そこはさすが「トム フォード」。贅沢な素材や加工を、さり気なく採用している。例えば、グレンチェックコートはナッパレザーと、ウエスタンジャケットは表と裏で加工を変えて、リバーシブルに仕上げた。また、同ブランドの人気ブーツ「ジャンニ」の進化形モデルも登場。特殊なポリッシュ加工でガラスのような光沢を生み出したモデルなども印象的であった。

・「トム フォード」2019春夏メンズコレクション

 

スポーツ&ストリートがデフォルト化

 今シーズンのミラノメンズでは、スポーツテーマをストリートスピリットで解釈するというコレクションが非常に多かった。これは、ここ数シーズンの長期トレンドではあるが、ミラノメンズではもはやデフォルト化したとも言えるほどだ。多くのコレクション取材をしているジャーナリストたちからは、もはや食傷気味という声も聞こえるが、これが今の空気であることは間違いない。

 今のストリートトレンドは、ケンゾーなどを中心としたラグジュアリーストリート、ゴーシャ・ラブチンスキーやヴェトモンのユースファッションなど様々なトレンドが変化し、長期したもの。その中で、ミラノメンズもこの流れを作り出す発信源であった。「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン(MARCELO BURLON COUNTY OF MILAN)」、「パーム エンジェルス(Palm Angels)」がその代表だ。そして今。これらのブランドたちも、新たな局面を迎えている。

マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン

 

 「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン」は、スティーヴン・スピルバーグ監督による映画「未知との遭遇」とコラボレーションし、70年代後半のSFブームを取り入れたコレクションを発表した。映画のワンシーンを大胆にプリントしたTシャツや映画のタイトルをロゴのように配したポンチョなどのアイテムで直接的に映画をフィーチャーしながらも、イエローやピンク、オレンジなどのネオンカラーや、PVCやスパンデックスのような素材でフューチャリスティックなムードを表現していた。

 これまで黒や赤を基調とした力強いイメージのコレクションのイメージが強かった同ブランドだが、今シーズンはユース・ストリートの雰囲気を盛り込んだ。プレイフルなカラーパレットや印象的なストライプ柄、ハイカットスニーカー、そしてロゴ使い。ここ数シーズンでよく見られる”過去から見た未来”の要素を、素材やシルエットのバランスで“現代”の洗練されたコレクションへと落とし込んだ。また、バッグは「イーストパック(Eastpak)」、アイウェアは「リンダ ファロー(LINDA FARROW) 」とコラボレーションした。

・「マルセロ・ブロン カウンティ・オブ・ミラン」2019春夏メンズコレクション

パーム エンジェルス(Palm Angels)

 

 真っ白な屋外会場でショーを開催した「パーム エンジェルス」。会場の中央には大きな階段付きのステージが設置され、登場したモデルたちは会場をウォーキングした後ステージに上がって並んでいく。「パーム・エンジェルス」の進化は止まらない。ブランドらしいストリートやスポーティーなムードは残しつつ、ワーキンググローズなど時代の流れもミリタリーの要素と合わせながらバランス良く取り込んでいる。IDホルダーのようなサコッシュや、ネームタグのようなアクセサリー、ラゲージバンドのようなベルトなど、遊び心溢れる小物も見逃せない。そして今シーズンの注目の一つは、「アンダーアーマー(Under Armour)」とのコラボレーション。
ショーが始まる前に、仕掛けか偶然かわからないグループが全身真っ白なアンダーアーマーのアイテムを着用して会場を歩きまわったのもこのイントロだったのだろう。

 

 また、これらの若いブランドとは別に、ミラノのビッグネームもスリートの空気を踏み込みながら、リュクスなものづくり、ブランドのアイデンティティのアップデートを行っている。中でも「ヴェルサーチ(Versace)」のショーは特筆するべきものであっただろう。

・「パーム エンジェルス」2019春夏メンズコレクション

ヴェルサーチ(Versace)

 「ヴェルサーチ」は、ミラノにある本社の中庭に花棚のセットを設置して、ショーを行った。花盛りの空間の中に現れたのは、ダブルブレストのテーラードジャケットをキーとしたリラックスした佇まいのルックだ。ワンウォッシュのジーンズ、白シャツ、スニーカーを合わせた姿は、遠くからはシンプルで何気ないルックに見える。しかし、近づいてみるとジャケットのピンストライプは、「VERSACE」の文字が連なったもの。ヴェルサーチの自由な遊び心を感じさせるピースだ。この「VERSACE」ストライプとも言えるデザインをあしらったコートやセットアップ、スラックスをストリートな感覚でミックスしたルックを、ショーの序盤で見せた。

 ショーが進行するにつれ、クリーンなリラックスしたイメージから、ヴェルサーチらしい華やかで快楽的なルックに移行。メデューサアイコン、ロココ装飾、パイソン、フラワーモチーフ、スカーフ調プリント、蛍光カラーなど、ヴェルサーチのDNAとも言えるデザインやモチーフ、ディテールをふんだんに採用し、花々のセットともにショーを盛り上がる。セレブリティーカルチャーへのオマージュを捧げたというダブロイドプリントやリラックスしたムードの中に現れるタイトフィットも新鮮。メンズの中の女性性を感じさせる。

 「“インスピレーション”なんて過去の言葉。今日インな事でも明日にはアウトかもしれないし」というメッセージをプレスリリースに綴ったドナテラ・ヴェルサーチ。今シーズンのコレクションは今の空気をヴェルサーチ流にアップデートした、まさに“イン”でオリジナリティ溢れるものであった。

・「ヴェルサーチ」2019春夏メンズコレクション

 

取材・文:田中美貴
アパレルウェブ編集部

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