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2024.09.16

「ミスターイット」サロンショーのような形式で新作を発表 継続することで発展し独自性を追求するコレクション

 「ミスターイット(mister it.)」は2024年9月14日、2025春夏コレクションを発表した。テーマは”open fitting”。デザイナー砂川卓也は、小規模な会場で直接声を届ける形式を選び、コレクションの背景にあるブランドの思いやデザインプロセスを説明した。前シーズンのアイデアを継続・発展させ、リアルな日常とオートクチュールを組み合わせたデザインが特徴となっている。
 
 コレクション前に、砂川が登場。「前シーズンはブランドの世界観を見てもらいました。今回はブランドが何をしたいか、どういう考えで洋服を作っているかを皆さんに丁寧にお伝えしたいと思い、このような機会を設けました。実は、ブランドを日本でスタートさせる前に、パリでコレクションをお披露目する機会がありました。パリにいた時にお世話になった10人のためだけに洋服を作り、その人たちを集めて、今回同様にプレゼンテーションを行い、『この人にはこうしたら喜んでもらえるかな』『こうすれば楽しんでもらえるかな』と考えながら、洋服を一つひとつデザインしました。この作り方は今も変わっていません。ブランドが成長し大きくなっても、作り方は変えずに、人を思いやりながら作る姿勢を貫きたいと思っています。すべてのアイテムにはインスピレーションを受けた人の名前を付けています。その名前の付いたアイテムが商品化されるのです。私は人と関わることが好きなので、これからもとことん人を大切にし、人を考える姿勢を続けていきたいと思います」と意図を説明した今シーズン。

  コレクションは、前から見るとマチ付きの機能的なポケットが付いたシャツ、後ろから見るとシャツから続くトレーンがイヴニングドレスやマリエのように見えるデザインの白いドレスシャツからスタートした。風をまとい、風船やヨットの帆のように膨らみ、ドラマチックなモードを作り出す。オートクチュールのサロンショーのように、札を持ったモデルたちが登場。違うのは、札に書かれているのが作品ナンバーではなく、モデルの名前であることだ。マリリン・モンロー、マリア・カラス、ココ・シャネルなどにオマージュを捧げたイヴ・サンローランのオートクチュールを思わせるが、書かれているのは世界的な女優や歌手などではなく、着用しているモデルの名前だ。

 
 リリースの説明をさらに詳しく伝える英語の音声が流れ、「さっきも説明しましたね」とユーモアを交えながら作品を解説している。テールスカートのように後ろを長くしたデザインや、スカーフをつなぎ合わせたドレスの組み合わせ、90年代のグランジや当時注目を集めたボディやトワルからインスピレーションを受けた袖なしジャケットなど、さまざまなスタイルが登場する。後ろの長いデザインは、実は孫と遊ぶ女性のために、動きやすさを追求した結果生まれたものだという。デニムパンツのコーディネートもリアリティを示しており、すべては着る人を想定し、全てのデザインに意味が込められている。

 
 また、スカーフとチュールを組み合わせたドレスや、前はセンタープレス、後ろは通常のデニム、テーブルクロスからインスパイアされたドレスなど、さまざまなデザインが登場。スカーフをつなぎ合わせたようなアクセサリーやドレス、前から見るとTシャツ、後ろから見るとドレスのように長いトレーンを付けたTシャツドレスなど、リアルな日常とオートクチュールのようなムードを融合させ、前後で全く異なる表情を見せるデザインが特徴的だった。
 

 マルタン・マルジェラやジャン・ポール・ゴルチエを思わせる、蚤の市で見つけたデッドストックのテキスタイルや服、スカーフなどからインスピレーションを受けたデザインも登場。カジュアルとクラシックなデザイン、さらにはオートクチュールの要素を自由自在に組み合わせ、伝統的な技術を重ねながらも軽やかでリアルに仕上げたデザインも目を引いた。
 

 前後の長さが異なるデザインや、スカーフをつなぎ合わせたドレスなども含めて”Couture Rhythm(仕立てのリズム)”と題した前シーズンのコレクションで発表したアイデアやデザインを継続し、さらに発展させたデザインも注目を集めた。前シーズンに顔のアウトラインをグラフィックにしたTシャツは、犯人のようにテーマを書いたベルトで目の部分を隠していたが、今回は目のグラフィックも加えて1つのデザインを完成させた。パフクッションのようなハートで作られたデザインは、ハートを集めた白いドレスシャツに生まれ変わっている。ヴィンテージスカーフや奄美大島の泥染めで加工したデザインも、ブラッシュアップされ、春夏コレクションらしいバランスと空気感で新たな表情を見せている。
 

 また、インスピレーションを受けた人のイニシャルを刺繍にしたアイテムも引き続き登場。チェックのシャツや、2匹のうさぎが描かれたニットなども、着る人をイメージして作られたものだ。

 シーズンごとで終わらせるのではなく、継続することで発展し、より良いものを生み出し、独自性を深めていく。パーマネントコレクションを作り出そうというアートと同じようなアプローチと、誰のために、なぜ、どんなデザインを作るのかという服作りとデザインの原点が共存するコレクション。

 
 砂川は「ショーの本番ではなく、その前日に皆さんを招いて丁寧にプレゼンテーションを行い、最終フィッティングを皆さんと一緒に確認できる場にしたかった。大会場でマイクを使って伝えるよりも、生の声で思いを伝えた方が、考えや気持ちが伝わるのではないかと思い、このような見せ方にしました」とした上で、「1つ1つしっかり作り込んだアイデアを反映したデザインがワンシーズンで終わってしまうのは、もったいない。ワンシーズンで何十型も作れるタイプではないので、1つ1つしっかり考えて、自分の思いを込めたものを皆さんに届けたいと思っています。毎シーズン新しいものを次々と生み出すのではなく、アイデアをアップデートしていくことを意識しながらコレクションを作っていきたい」と話した。
 
 
取材・文:樋口真一

 

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