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2019.10.23

【2020春夏東京 ハイライト2】凱旋ショーが減りエンタメ界との取り組みも 「楽天 ファッション ウィーク東京」問われる東京デザイナーの真価

 「楽天 ファッション ウィーク東京2020春夏」が2019年3月19日に終了した。20年代に向けた最初のコレクションであり、令和初、更にスポンサーが変わり、ここ数年、東京のファッション・ウィークをリードし、話題の中心となっていた「Amazon Fashion“AT TOKYO”」がなくなったことで、東京のデザイナーの真価が問われた今回。東京がどう変わるのか、次の10年に向けてどんな新しい方向性が示されるのかも注目された。

 だが、そんな中でキーワードとなったのは、変化や新しさとは反対の、サステナブルやアースコンシャス、ミニマリズム、リラックス。ブランドのオリジナリティを追求し、得意技を進化させながら、無駄をそぎ落としたデザインや色、柄などで、そうした流れを取り入れたブランドが目を引いた。それとは対照的とも言えるアフリカやアートからインスパイアされたようなデザインや、90年代に注目を集めたズリーベットのようなリサイクルファッションを思い出させる方法などで、力強さや変化をプラスしたデザインも続いている。

ハイク(HYKE)

 「ハイク」はミリタリーやアーミーなど究極のユニフォームとも言うべきデザインやプリーツ、スポーツウエアなどをベースに、パターンやバランスを変化させ、進化させるという方法論を継続。完成度を高めながら、更にそぎ落としたデザインや2つのトップスを繋(つな)いだようなデザイン、既存の服を変形させたようなデザインなど、独自のミニマリズムを進化させたものやサステナブルの要素を取り入れたようなコレクションを見せた。アディダスとのコラボレーションも注目を集めた。

 

「ハイク」2020春夏コレクション

チノ(CINOH)

 「チノ」は白のシャツとパンツ、コート、トリコロールカラーのワンピース、チェックのシャツ、ブルーのパンツスーツなど、フレンチシックとでも呼べそうなシンプルなデザインをベースにしたコレクションを見せた。素材やディテールで遊んだデザインや着る人を美しく見せるリアルクローズは同ブランドの得意とするものだが、ミニマリズムやリラックスしたスタイルが求められる中で、時代やトレンドとマッチしたように、これまで以上に新鮮で美しく見えた。

 

「チノ」2020春夏コレクション

メルシーボークー、(mercibeaucoup,)

「メルシーボークー、」が変わった。東京でファッション・ウィークがスタートした10数年前、オーバーサイズやレイヤード、日本の野良着を思わせるデザインなどで圧倒的な人気を誇った独特のスタイルは姿を消し、シンプルでクリーン、クールなスタイルになった。山のプリントなどはあってもボリュームは抑えられ、柄も主張しすぎない。ロゴもさりげない。時代に合わせて変化した、新しいメルシーボークーとも言えそうなコレクション。「テーマは山。山を登るように新たな挑戦をしたいし、楽しんで山を登りたい」と宇津木えり。

ヒロココシノ(HIROKO KOSHINO)

 「ヒロココシノ」はアートとファッション、音楽などの境界線をなくすというチャレンジを続けながら、デザインを更に洗練させ、シンプルでクリーンにまとめたコレクションを見せた。ピアノなど楽器の曲線の美しさや音楽のリズムを着物のような直線とオートクチュール的な曲線、墨絵や書、抽象絵画のようなバランスなどを駆使して、服に仕上げる。アートや楽器、音符などから発想したデザインはイヴ・サンローランなども発表していたものだが、今回のデザインはミニマリズムやリラックスを求める時代の流れに対応したように、シンプルでリアルに表現されている。

ユキ トリヰ インターナショナル(YUKI TORII INTERNATIONAL)

 ここ数シーズン、鳥居ユキの大好きな花や自然からインスピレーションを得たようなコレクションを発表している「ユキトリヰインターナショナル」。今シーズンは具体的な花に加えて、花や自然をグラフィックで表現したデザインやグラフィティなど、グラフィカルな要素をプラスしたコレクションを発表した。彼女自身が育てる花や植物を思わせる楽しく、軽いコレクションは、デザイナー自身のライフスタイルがトレンドのサステナブルやアースコンシャスとマッチしていることを示すように、あくまでもリラックスしたムード。アクセサリーをプリントしたトロンプルイユやシンプルなアクセサリーもミニマリズムの流れに対応しているよう。

タエ アシダ(TAE ASHIDA)

 「タエアシダ」はアフリカのような力強さやアートのようなムードを取り入れた。アフリカの芸術から発想したキュービズムと日本的なコラージュをミックスして描いたような顔、アクションペインティングと日本の書や墨絵が共存するような柄。メンズコレクションにも同じように顔が描かれる。そして、サンローランのサファリルックやアニマル柄、レインボーカラーのドレス。トカゲのモチーフ。波とコイのモチーフ、金魚など、入れ墨を思わせる日本的なモチーフも。エレガントなスタイルの中にアフリカや日本的な力強さとアート性をプラスしたコレクション。

ノントーキョー(NON TOKYO)

 「ノントーキョー」は「藍の戦士」をテーマに、セーラームーンやプリキュアなど、幼少期に憧れた女の子のヒーローたちの強さと可憐(かれん)さを表現した。ミリタリーやオーバーサイズのコート、前後の違うデザインには花やフリル、メタリックなどの女の子らしいデザインをミックス。アニメという、わかりやすい日本の文化を使いながらイタリアのブランドなどが東京のカルチャーやストリートから影響を受けたコレクションを作るように、クールでバランス良くまとめている。

 

「ノントーキョー」2020春夏コレクション

 

 

バルムング(BALMUNG)

 「バルムング」は光沢のある白いスポーツウエアや異素材ドッキング、メタリックな素材や透ける素材など、今では“ロストフューチャー(失われた未来)”となったような60年代の未来派のようなムードと80年代や日本を思わせるオーバーサイズ、相反する要素の組み合わせなど、様々な要素をリミックス。未来的でありながらノスタルジック、アバンギャルドでありながらリアルで、リラックスしたムードも併せ持つコレクションを見せた。

 

「バルムング」2020春夏コレクション

ボディソング(BODYSONG.)

 「ボディソング」はたくさんのシルバーのロゴをプリントしたデニムやオーバーサイズのニットなど、カジュアルでリアルなアイテムを揃えた。クレージュなど60年代の未来派を思わせるものやコーティング、異素材ドッキングなどもあるものの、フューチャリスティックやアバンギャルドというよりも、リラックスしたムードやかっこよさ、リアリティが勝っている。

 

「ボディソング」2020春夏コレクション

ガッツダイナマイトキャバレーズ(GUT’S DYNAMITE CABARETS)

 今シーズンのフィナーレを飾ったのは「ガッツダイナマイトキャバレーズ」。リアルクローズから金子功から学んだ花柄ドレスや装飾的で女性に夢を与える服、時代の求める新スポーツライン「GCGX」、そして秀香の着るエレガントなブラックドレスまで、幅広い作品を並べた。「THANK YOU」をテーマに、これまでの感謝の気持ちを表現した今シーズン。これまで同様に武藤敬司や美保純、神取忍など、プロレスラーやタレントを使ったコレクションを見せた。悪ふざけともとられそうな遊び心は最初のショーから一貫しており、ゴルチエや80年代のパリコレクションを思い出させるような、エンターテインメント性の強いショーは今シーズンの東京の中で、印象に残る数少ないコレクションのひとつとなった。

 

「ガッツダイナマイトキャバレーズ」2020春夏コレクション

 「Amazon Fashion“AT TOKYO”」がなくなり、海外でコレクションを発表しているデザイナーが参加しなくなったことから、前回までに比べてインパクトや決定打に欠けたように見えた今シーズン。さらに、サステナブルやミニマリズムなどの流れから、日本の得意とするアバンギャルドや、若手デザイナーの得意とするストリート感覚や面白さだけでなく、これまで以上に生産背景や完成度、技術力が求められるようになったことや参加ブランドが減ったことも影響した。

 

小嶋陽菜の「ハーリップトゥ(Her lip to)」

 パリコレクションなどは参加ブランドも日程もほとんど変わらないが、東京は継続的にコレクションを行っているのは、ほとんどがショーをビジネスに活用できているヒロココシノ、ユキトリヰインターナショナル、タエアシダなどの大御所ブランド。また、「ヨシキモノ(YOSHIKIMONO)」がオープニングを飾り、小嶋陽菜の「ハーリップトゥ(Her lip to)」が最後の2日間に関連イベントとしてポップアップストアをオープンするなど、一般の認知度を上げる取り組みが続く一方で、若手の注目ブランドや中堅の実力派は海外に発表の場を移すか、数回でショーを行わなくなるという動きが定着している。展示会に合わせて8月や9月にショーを行うブランドもある。インキュベーション機能はあってもビジネスへの効果が問われているからだろう。

「ヨシキモノ(YOSHIKIMONO)」

 楽天ファッション・ウィーク東京となった東京のファッション・ウィーク。サステナブルは「持続可能な」という意味だというが、東京がコレクションを継続できるようなファッション・ウィークになれるかどうかも注目したい。

 

取材・文:樋口真一

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