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2019.09.25
【2020春夏ミラノコレクション ハイライト1】充実のミラノ サステナビリティはクリエーションのベースに デザインではミニマルが浮上
今回のミラノコレクションは、カレンダーの並びをがらりと変え、「プラダ(PRADA)」が初日に、最終日前日に「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」や「グッチ(GUCCI)」が登場。ビッグネームを最初と最後に持ってくることで、遠方から来る客たちが遅れてミラノ入りしたり早く移動したりしてしまうのを防ぎ、初日から後半まで安定した集客をキープするというイタリアファッション協会の作戦だ。また公式スケジュールの前日である17日には、前回に続いて「ユナイテッド・カラーズ・オブ・ベネトン(UNITED COLORS OF BENETTON)」がミラノでショーを発表したり、「トミー・ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」がイベントを行ったりして、公式スケジュールより前倒しでスタート。近年、日数が減り気味だったミラノが、密度も増してのロングランとなった。
今回のミラノで外せないテーマは、今、イタリアで大きく叫ばれているサステナビリティやアースコンシャス。6月のピッティやメンズコレクションでもメインテーマのひとつだったが、これはウィメンズにも。リサイクルや環境にダメージを与えない製法の素材を取り入れるのはもちろん、ラフィアやリネン、コットンなどの自然素材を積極的に使うブランドも多かった。そして、そんなエココンシャスからの連想もあってのことか、全体的にアフリカン、サファリ、ジャングル、トライバル、そして海・・・といった自然を意識したムードが漂う。その開放的なムードを60、70年代のヒッピーやボヘミアン的テイストに、またはリゾートや旅のイメージに、はたまた自由やボーダレスという連想でダイバーシティに落とし込むブランドもあった。
一方で、特にアクセサリーにオリジンを持つ老舗ブランドなどは、より自分たちのルーツへの原点回帰を探るところもあった。これは今シーズンに関わらず、老舗ブランドがしばしばやることだが、お家芸(モチーフ、またはアイコンやロゴなど)を見直して強調したり、クオリティを強調するためにあえて極限にシンプルを追求したりといった、トレンドとは別の、またはトレンドに逆流するような打ち出しをする傾向も見られた。
2大ブランドが示す原点回帰と新機軸
プラダ(PRADA)
ランウェイのアーティスティックな空間演出にも定評がある「プラダ」だが、今回はプラダ財団の広大な空間にタイルを敷き詰め、迷路のようなランウェイを構成。南イタリアの家によくあるタイル張りのテラスのような空間が、ラフィアやガーゼのドレス、貝殻のネックレスやカニモチーフのイヤリング、ビーズ刺繍、アップリケなどで繰り返し登場するシダの葉?モチーフなどの夏らしいイメージとマッチし、その色は白とニュアンスのある暖色系をメインに黒を効かせた今回のコレクションカラーに呼応する。
そんなコレクションでミウッチャ・プラダが重きを置いたのは「スタイル」。着る人それぞれへの原点回帰や本人らしいスタイルの追求がテーマになっている。ガーゼ、シルク、カシミア、キッドモヘアなど天然素材を各所に使い、シンプルにそぎ落とされたベーシックなルックは、それぞれが一つのストーリーを完結する。
ワイドラペルのジャケットに七分丈のスカート、オプティカル柄のスーツ、コートドレスなど「プラダ」の原点回帰とも言えるボントンテイストなアイテムも多いが、その一方でアシンメトリーなドレスやレザーピースをひもでつないだトップのようなチャレンジングなアイテムも。
結局のところ、この手のクラシックに回帰するという試みは、そもそものブランド力、またはクリエーションの舞台骨がしっかりしていなければできないこと。今回ミラノコレクションの初日を飾った「プラダ」のコレクションは、その幕開けにふさわしく、貫録と余裕を見せつけたものとなった。
グッチ(GUCCI)
「グッチ」のクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・ミケーレは、今シーズンのコレクションにおいて、フランスの哲学者、ミシェル・フーコーの「生政治学」の考えを引用した。
それは権力が市民を支配する際に、単に法制度だけでなく個人が内的意識レベルで服従させ、少数の存在を違法と認めて無視し、それによって自由な討論の流布を妨げ、人をコントロールし、制限し規制する社会。このコレクションはファッションにおいてのそのような体制への対抗や疑問を投げかけているようだ。
会場には水平式エレベーターが引かれ、オープニングにはオールホワイトのルックのモデルたちが立ったままそこを流れていく。それらはサロペットやワークウエアなどユニフォーム的なアイテムがメイン。途中で光が落ち、第二部的なパーツではもはやオールホワイトではない(本物の?)新作コレクションを着たモデルが足早にランウェイを闊歩する。つまり前半が「生政治学」の世界、そして後半は個々がそれに対抗してアイデンティティを求める世界、ということだろうか。
そこにはこれまでアレッサンドロ・ミケーレが得意としてきた時代や文化的要素のミックスも、パッチワークやアップリケ、ビジュー使いなどの大胆な装飾もない、実にミニマルな世界観が展開される。そして、胸元が大きく開いたトップスや、カッティングによって肌が見えるドレス、大胆なスリット、下着や肌が大胆に透ける素材やレースの多様など、これまでにはなかったセクシーな要素が満載なのにも驚きだ、もちろん彼が大切にしてきたジェンダーレスを物語るようなメンズライクなスリーピースにタイドアップ、ダブルのスーツやチェスターコートなども健在ではあるのだが。
そしてもうひとつ健在なのは「グッチ」の真髄であるモノグラムや伝統的モチーフ。モノグラムを全身に施したスーツや、ラベル風のモチーフを入れたパンツやジャケット、フラットなポインテッドトゥのビットパンプスの多様など。このようなわずかな定番的要素以外は、別の人間が作ったコレクションのよう。それはさらに進化するグッチの新しいステージの始まりを意味しているかのようだ。
アフリカン、サファリ、ジャングル、トライバル、海・・・サステナブルを表現する自然テーマ
フェンディ(FENDI)
54年間クリエイティブ・ディレクターを務めたカール・ラガーフェルド亡き後、クリエイティブ・ディレクターのシルヴィア・ヴェントゥリーニ・フェンディがソロで舵を取った今回の「フェンディ」。
6月のメンズの春夏コレクションでもミリタリーやガーデニングがテーマだったが、ウィメンズでもそんなアウトドアな雰囲気は継続。メンズほど明確ではないが、アウターに付けられた大きなアウトポケット、キルティングジャケットやワークウェアのようなジャケット、ボクサーショーツやバミューダなどアウトドアの象徴的な要素をフラワーとチェック、明るい色をふんだんに使い、スエードやコットンなど天然素材を豊富に展開する。
そこにはエアリーな透け素材のレイヤード、パフスリーブやフレアスカート、そして「フェンディ」ならではのサマーファー使いを加えることで、時にはガーリーに、時にはラグジュアリーなフェミニンさを加える。カールの後任をまるで若い新進デザイナーが継いだかと見紛うようなフレッシュで若々しいコレクションは、よい意味で驚きを与えてくれた。
マルニ(MARNI)
メンズコレクションの際にはドイツ人アーティスト、ジュディス・ホプフによって作られたプラスチック製品やペットボトルが浮かぶ海の底をイメージしたセットが印象的だった「マルニ」。実は今回のウィメンズのショー会場には、6月のメンズコレクションの際に使用したペットボトルを再生して作ったマテリアルで、セットとなる緑の森が作られているのだとか。つまりそこには、環境問題への警鐘を鳴らすのに一役買ったプラスチックたちが、今度は自然に戻るという隠れたストーリーがあるのだ。
ウィメンズではそうして取り戻した自然を大いに楽しんでいるかのようなハッピームードが溢れる。カラフルな原色を使った、花や葉っぱなどのボタニカルモチーフ、アフリカンテイストのプリント、フラワーモチーフのアップリケやメッシュのレイヤード。それをギャザーがたっぷり入ったボリューミーなワンピースやマーメイドシルエットのドレスから、プリミティブなイメージのラップ風スカートや胴着のようなジャケットや草履のようなサンダルまでエスニック感満載のシルエットで展開する。ワンショルダーのドレスや無造作にカットされたニット、チュールをのぞかせたスカートなど、「マルニ」お得意のアシンメトリーやレイヤードも全体に散りばめられている。
サステナビリティというのは今のイタリアファッション界が避けて通れないテーマだが、説教じみていたり押しつけがましいと白けてしまうもの。それを明るくキュートに、ハッピームードでさらりと問題提起する「マルニ」の姿勢には好感を感じる。
ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)
「ドルチェ&ガッバーナ」の今季のテーマは「Sicilian Jungle」。トロピカルやサファリをテーマにした6月のメンズコレクションに通ずる野性味溢れるテイストを、ウィメンズではセンシュアリティさをたっぷり加えて仕上げている。
セットにはジャングルが作られ、そこを潜り抜けるようにモデルたちが登場。同ブランドの得意とするゼブラやレオパードのアニマル柄は、サファリスーツにコーディネートされたり、動物自体がミニドレスいっぱいに描かれたり。カラフルな葉っぱやフルーツのモチーフは、プリントとしてマキシフレアドレスやミニドレス、ガウンコートなど様々なルックとして登場。パイナップルのブラトップ、スイカのスカーフを結んで作ったトップなどユニークなアイテムもある。さらにストロー、ロープを使ったディテールやラフィア素材のフリンジドレスなどにより、プリミティブなイメージもプラスされる。
中盤からはブラックのセンシュアルなルックが入り混じる。透け素材やレースを多用したり、ボディコンシャスなシルエットのドレスがセンシュアルな魅力を放つ。
ワイルドさとお色気を合わせ持つ、エネルギッシュな女性像。時代のキーワードはうまく取り入れつつ、まさに「ドルチェ&ガッバーナ」らしい個性を発揮したコレクションとなった。
アルベルタ フェレッティ(ALBERTA FERRETTI)
「アルベルタ フェレッティ」は、エスニックやアフリカンな要素を盛り込みながら、70年代風のヒッピーテイストをナチュラルコンシャスに再現。全体的に使われているオレンジ、サンド、からし色などのパンチの効いたアースカラーもそんな雰囲気を盛り上げる。
各所に登場するスエードやデニム、タイダイやアフリカンモチーフプリントなどの印象的な素材、ミラーやスタッズ、カッティングレースなどのディテールが、チュニックドレスやシフォンロングドレス、サファリスーツやバミューダパンツなど、旅心を感じさせるアイテムの中で様々に使われ、全体的に自由でワイルドなイメージになっている。
そんな中に透け素材、刺繍やビジュー使いなどの凝ったディテールを加えることで、「アルベルタ フェレッティ」らしい甘くてフェミニンな品の良さが強調されている。
ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)
「ロロ・ピアーナ」の今シーズンのテーマは「モロッコ」。サハラ砂漠の砂、赤い土や夕日、地中海の海・・・など、モロッコの自然からの連想だ。そんなイメージはサンド、ベージュ、オレンジ、ボルドー、ネイビーなど、コレクションの色に反映されるのと同じに、レインシステムのシャツや撥水加工のテクノスエードなど、ハイテク技術を駆使し、自然の天候にもエレガントに対応できるアイテムも展開。もちろんカシミア、シルク、リネンなど上質な天然素材たちも健在だ。
センシャル、ポジティブ・・・ミラノらしい女性像を描くデザイナーたち
ヌメロ ヴェントゥーノ(N21)
今回からメンズ・ウイメンズ混合ショーとなった、「ヌメロ ヴェントゥーノ」。インビテーションには女性用の下着に使われるようなヌードカラーの透け素材で作られたメンズブリーフが。ショーが始まる前からジェンダーレスを感じさせるが、ショーピースたちもメンズ、ウィメンズとも基本的にイメージは同じ。多用されているミクロフラワーモチーフプリントや、軽く流れる感じを与える透け素材や光沢素材など、どちらかと言うとフェミニンなイメージを与える素材はメンズにも使用。ジップやボタンのディテールによって、ワンショルダーにしたり、アンバランスに半開きにしたり、片袖だけ大きくカットされて肌が見えるようなアシンメトリーな雰囲気もシェアされている。
ちなみに今回のテーマは「EMANTICIPATED EROTIC MOOD」。自然なエロティックを自由に追求しよう・・・というところから始まっているようだ。が、エロティックというほど大胆な露出があるわけではなく、スタンドカラーに長く垂らしたボウはむしろエレガントで、ベビードールやパフスリーブのドレスなどはロマンチックなアイテムも多い。
ただ、その中にカッティングによる露出や透け感を入れることで、そんなエロティックさの「アティテュード」(と言う言葉はデラクアが好んで使う表現だが)が醸し出されるということなのだろう。
ブルマリン(BLUMARINE)
前回はブランドの様々なアイコン的モチーフのオンパレードだった「ブルマリン」だが、今回はその中でも特にフラワーモチーフに注力。ランウェイにもバラの花が描かれ、コレクション全般にプリント、レース、ビーズ、または花びらのようなフリルで、フラワーテイストが咲き乱れる。今年のキーカラーであるペールピンクをふんだんに使いつつ、同時によく見られるペールブルーや黒を各所に。そしてこちらもアイコン的モチーフのひとつであるアニマル柄も登場する。
流れるようなシフォンのロングドレス、レース使いのキャミソールドレス、ボディコンシャスなチューブドレス、ショーツやマイクロミニなど、甘くセクシーなアイテムで登場。今回もまったくぶれのない「THEブルマリン」という感じのコレクションだった。
マックスマーラ(MAXMARA)
今回の「マックスマーラ」のコレクションは、女性が活躍するアクション・スパイを描く数少ない女性作家ナターシャ・ウォルターや大ヒット中のテレビドラマで女性捜査官が活躍する「キリングイブ」の脚本家フィービー・ウォラー・ブリッジ、そして彼女たちが描くスパイや捜査官などのアクションヒロインたちがイメージソースとなっているとか。そして架空の女スパイ「マックスマーラ風007」のタフな日常からゴージャスなパーティやバカンスまでをランウェイで描き出す。
大きなポケットがたくさんついたミリタリーシャツやジャケット、グレンチェックのテーラードコートやスリーピース、洋服と同色のネクタイやミリタリーキャップなど、クールかつアグレッシブなアイテムが多々登場する。が、それをシェルピンクやパウダーブルーなどのペールトーンの甘い色彩で仕上げたり、バミューダパンツや七分丈スカートにはソックス+ピンヒールでセクシーさを添えたりとフェミニンさを各所に入れ込んでいる。
クールでアクティブな中にエレガンスを添えた、機能的だけど華も品もあるコレクションには、パワーウーマンを常に応援してきた「マックスマーラ」ならではの微妙なさじ加減が活きる。
エトロ(ETRO)
前回に続き、今回もミラノ音楽院を会場にショーを行った「エトロ」。中庭にはアルニカ模様で作られた巨大な気球が。クリエイティブ・ディレクターのヴェロニカ・エトロは、カリブ海で活動した女海賊、アン・ボニーやメアリ・リードや、アニタ・パレンバーグやマリアンヌ・フェイスフルのようなアリストグルーピーをインスピレーション源とした。ワイルドで自由な精神とブルジョアの洗練という2つの対照的な力をミックスした世界観が繰り広げられる。
それはフィッシュテイルのマキシドレスやチュニックドレス、ポンチョやベスト、コットンのマキシカーディガンやベロアの民族調ジャケットなどのアイテムが、ペイズリーやイカット柄、ストライプなどのプリントや、刺繍やスパンコール、パッチワークなどで展開される。
そこにはフリンジやマクラメ刺繍などのディテール、そしてベルベル族がつけるようなアクセサリー、マキシハットやスカーフ、レースアップサンダルなどもボヘミアンテイストを盛り上げる。これらのアイテムをしばしばテーラードジャケットに合わせているのも今年風だ。これがただのヒッピーや放浪民になってしまわないのはバランスの良いトーンのシックな色使いと「エトロ」らしい仕立ての良さにある。
またショー最後には、1960年代に創始者、ジンモ・エトロが作ったメンズシャツ「GE01」を着たモデルたちが登場。ユニセックスで使えるこのシャツのディテールカスタマイズが可能な「EtroByYourName」というプロジェクトがスタートする。
エリザベッタ・フランキ(ELISABETTA FRANCHI)
今シーズンの「エリザベッタ・フランキ」のイメージは、ラグジュアリーなクルーズの世界。舞台セットにはヨットの甲板を設置し、実際に海の上を旅しているような気分にさせる演出だ。
セーラーを意識した、ボーダー使いやブレザー、碇や浮き輪、チェーンなどのモチーフ、または海でのバカンスをイメージさせる透け感のあるドレス、またはショーツやバミューダなどが続々登場。アクセサリーにもセーラーマンズハットやスイミングキャップ風の帽子、ラフィアのバッグやストローヘアハット、フラットシューズなどがアクセントを加える。そしてそこには、「エリザベッタ・フランキ」らしいモダンなセクシーさがミックスされ、独自の世界観が展開されている。
モスキーノ(MOSCHINO)
ダイレクトなテーマを掲げることが多い「モスキーノ」だが、クリエイティブ・ディレクター、ジェレミー・スコットは今回のコレクションに関して 「ミューズたちはアーティストたちをインスパイアし、アーティストたちは世界からインスパイアした」とだけコメント。例によっての凝りに凝ったインビテーションは、今回パレットと絵筆だったので絵画、特にピカソやミロなどスペインの画家を中心とするキュビズムがテーマだろうか。
ランウェイにはピカソ、ミロなどを彷彿させるプリントが全面になされた、パワースーツやジャケット、チューブドレス、バルーンスカートなど様々なアイテムで展開。ジャケットの中には大きく肩やウエストを強調し、シルエット自体でキュビズムのようなアンバランスさを表現したアイテムも。中盤からそれはスペインを前面に出したテイストに移行し、闘牛士やフラメンコダンサーの衣装のようなルックやフラメンコギターのモチーフやマヨルカ陶器ようなのプリントを使ったアイテムが続々登場する。
フィナーレにはモノクロで裸体像が書かれた絵の額縁に入ったモデルが登場。アメリカ的消費文化のパロディが多かったこれまでとはちょっと雰囲気が違う感じで、奥の深い熱さとパンチが効いたコレクションだった。
原点を見直しヘリテージをアップデート
ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)
クリエイティブ・ディレクター、ダニエル・リーによる2回目の「ボッテガ・ヴェネタ」のショー。前回に引き続き、ランウェイはガラス張りのボックスの中に設置され、床には大きなイントレチャートがなされたレザーが一面に。
「生まれ変わったボッテガ・ヴェネタが築き上げてきたコードをさらに進化させた」と新ディレクター本人がコメントするように、装飾はよりそぎ落とされてミニマルになり、ボリューミーなシルエットやその対局にあるボディコンシャスなラインがより明確に展開される。唯一、猿とパイナップルのプリントが登場する以外はすべて、ブラック、またはチョコレートブラウン、オレンジ、タピオカ色などのレザーの魅力が引き立つ暖かい色をモノトーンで構成する。それをパワーショルダーのスーツ、マキシボリュームのトレンチやアノラックなど、前回に続くボリューミーなシルエットやイントレチャートを連想させるようなツイストだけの装飾のニットドレスなどボディコンシャスなアイテムなど、コンテンポラリーなテイストをプラスする。
洋服がシンプルであればあるほど製品のクオリティの良し悪しが露呈しやすく、バッグや靴などのアクセサリーはより引き立つ。この潔いシンプルさは「ボッテガ・ヴェネタ」の上質さと老舗バッグブランドというオリジンがあるからこそ成立するのかもしれない
ミッソーニ(MISSONI)
バンニ・ミステリオージというプール(冬はスケート場)で、プールの回りをランウェイにした荘厳なショーを行った「ミッソーニ」。
様々なパターンとカラーのミックスは同ブランドのお得意とするところだが、今回のコレクションではそのパワーが炸裂。マイクロフラワーにチェック、ストライプ、ジグザグ、トライバル風の柄や幾何学模様など様々なパターンを由にレイヤードしたコーディネーションで登場する。それを時には今年風のペールトーンで、時には原色の強い色を使った南米風の色使い、またはきらびやかなラメ入りからタイダイまで、マルチカラーで展開。
最後には花の形のソーラーライトを持ってモデルたちが登場。ハッピームード満載のショーだった。
エムエスジーエム(MSGM)
「エムエスジーエム」は、今年ブランド10周年。メンズコレクションはピッティでアニバーサリーショーを発表したが、ウィメンズは本拠地ミラノで、その10年を祝うような象徴的なコレクションを発表した。
クリエイティブ・ディレクターのマッシモ・ジョルジェッティはこのコレクションについて、「ファッションに対する愛、発するエネルギー、あふれるエモーション、それらすべてがブランドの真髄であることへのセレブレーション」だと語る。
その言葉のとおり、「エムエスジーエム」のシグニチャー的要素である、カラー、プリント、ロゴモチーフ、アートプリント、タイダイなどすべてのルックに入れている。インビテーションやランウェイにも使われている蛍光イエローをはじめとしたビビッドカラーで展開。それがオーバーボリュームのジャケット、パフスリーブや大胆なフリルをあしらったシャツ、フリンジドレスなどに使われる。フラワーモチーフはプリントONプリントでレイヤードしたり、エアリー素材のワンピースに。アニバーサリーインビテーションがプリントされたシャツやMのロゴを使ったベルトなど得意のロゴモチーフ使いも、もちろん登場。それをボウやリボン、ルーシュなどの要素や透け感のある素材で全体的に甘く仕上げている。
10年で一気にミラノの主要ブランドにのし上がったMSGM。このブランドが多くの人に愛され、大きく成長してきた理由がこのコレクションに凝縮されている
エミリオ・プッチ(EMILIO PUCCI)
ミラノショールームにてプレゼンテーション形式でコレクションを発表した「エミリオ・プッチ」。今シーズンは「エミリオ・プッチ」による1966年のアーカイブプリントをコンテンポラリーに再現。60年代にデザインしたVivaraプリントや新プリントCiwaraプリントも多用される。ラグジュアリーアクティブ、フランボワイヤント デイ、エフォートレス グラム イブニングという3つのカテゴリーに分けて展開。
ラグジュアリーアクティブでは、最先端技術によりテクニックシルクのジャカードパターンやレーザーカットを使ったアイテム、またプッチでは初めての素材ミックスのアイテムが登場する。
フランボワイヤント デイでは、サファリシャツやパラッツォパジャマなど着心地がよく軽量で実用的なアイテムが多く揃う。エフォートレス グラム イブニングではスパンコールが散りばめられたドレスや透け感のある柔らかい生地のドレスが鮮やかなプッチプリントにマッチする。
ヘルノ(HERNO)
今年の「ヘルノ」は、昨年の70周年を機にオリジンを見直そうと言う考えの元、80年代に裏地として使われていた生地に入っていたモノグラムを復活。メンズコレクションでは登場していたものだが、ウィメンズではよりグラマラスにロゴ使いがなされ、今年の注目色のペールカラーのものも。
またエコサステナブルな新ライン「ヘルノ グローブ」はウィメンズでも登場。リサイクルナイロン、リサイクルダウンが使われたアイテムや、植物由来の天然色素配合で環境負荷の軽減が配慮された製品が揃った。
進化するエフォートレスとタイムレス
トッズ(TOD’S)
今回の「トッズ」のコレクションテーマは「ITALIAN TIMELESS」。「タイムレス」というのは同ブランドの永遠のテーマだが、今回のTIMELESSの「T」はつまりトッズの頭文字であり、アーカイブからの復刻の文字を使ったアイコンにも掛けていて、これはハンドバッグの留め具やドライビングシューズの上、バックルなどコレクション全体に登場する。かつTradition(伝統)、Talent(才能)そしてTime(時間)の「T」でもあるのだとか。
インスピレーション源はミケランジェロ・アントニオーニ監督の作品で女優モニカ・ヴィッティが演じる内相的な女性像やエレガンス。1960年代のイタリアを代表する名女優モニカ・ヴィッティのけだるく物憂い雰囲気が、素材のミックスやアシンメトリーなシルエット、部分的に入った丸いカットワークのディテールなど、アンバランスな雰囲気と通じるのだろうか。
また印象的なカラーディテールのアナコンダやタイダイ染めがなされたナッパ、各所に登場するゼブラプリントなど、シンプルなシルエットの中にはっと目を引くディテールが散りばめられているのも特徴だ。
良質でなければタイムレス=時を超えて使い続けることはできないし、奇をてらったデザインではモノがよくてもやはり長くは使えない。絶対的な質の良さに裏付けられた控えめなディテールの遊びで、今シーズンも「トッズ」ならではの世界観を見せ付けた。
エンポリオ アルマーニ(EMPORIO ARMANI)
「エンポリオ アルマーニ」の今シーズンのテーマは「AIR」。全体的に広がるのが軽く流れるような雰囲気。今年のキーカラーと言えるペールトーンのパウダーピンク、スカイブルー、グレージュなど優しい色がチュール、シルク、タフタなど流れるような素材によって仕上げられる。それらはオーバーサイズのシャツジャケットやコート、ワイドパンツやジョグパンツ、大きなフレアのスカートなど、すべてゆったりしたエフォートレスなシルエット。
それが後半にはスパンコールやマイクロファイバーによる光輝くドレスのオンパレードに。動きによって輝きが変わる見事な光の遊びで圧巻のフィナーレを飾った。
アニオナ(AGNONA)
「アニオナ」の今シーズンのインスピレーションは、メンフィス最初のショールームのオープニングの白黒写真から。この写真が物語るのが、「ミラノにとってデザインとファッションが融合した瞬間であり、ミラネーゼが最高に美しい着こなしができる時代の到来」と言うクリエイティブ・ディレクター、サイモン・ホロウェイは、80年代の初期のミラノのスタイルをコレクションに落とし込む。
パワーショルダーのコートやジャケットにはっきりしたウエストラインのパンツ、ロングにショートのアイテムをレイヤードによって作られるバランスなど、デザインからの連想が象徴されるような構築的なシルエットだ。
カラーはオールホワイトに始まり、グレーやセージ、そして今年らしいペールカラーへと展開する。これらをアニオナらしい上質の生地で仕上げることで、ミラネーゼらしい控えめな品のよさが強調される。
ブルネロ・クチネリ(BRUNELLO CUCINELLI)
「ブルネロ・クチネリ」はプレゼンテーション形式でコレクションを発表。「NATURAL ESSENCE」というテーマで、同ブランドが基調としてきた「調和」、「シンプル」、「ナチュラル」といった要素を再び見直し、自然なフォルムと素材のクオリティをどう際立てるかを追求したコレクション。リネン、コットン、オーガンジー、ナッパなどの天然素材を使い、ピンクやトルマリンブルーなどの暖かいニュートラルカラーを用いたタイムレスなアイテム達が揃う。
ハイブリットやミクスチャーが創りだすオリジナリティー
ジル・サンダー(JIL SANDER)
今回はブレラ美術館の回廊を使い、中庭に真っ白な砂山を置いた幻想的なセットでショーを行った「ジル・サンダー」。クリエイティブ・ディレクター、ルーシー&ルーク・メイヤー得意の相反するミックスチャーテイストがミニマルなシルエットに映える。
多用されるマット素材と光沢素材のマッチング、張り感のある素材に部分的に使われたエアリーな素材のアクセント、テーラードジャケットやコートなどマスキュリンなアイテムとカラフルプリントのフェミニンなシルクドレスのコーディネーションなど、対照的なモノが重なり合う。前回ほどではないが、マーシャルアーツの練習着を彷彿させるジャンプスーツや、スタンドカラーにフロントのボタンが象徴的な東南アジアの民族衣装のようなアンサンブルなどオリエンタルな雰囲気も漂う。
それが後半にはラフィア、ペーパー、ビーズによるフリンジやタッセル、マクラメ刺繍など職人技の効いたアイテムでトライバルテイストがプラス。控えめな個性がディテールとコントラストで強調される見ごたえのあるコレクションだった。
エムエム6 メゾン マルジェラ(MM6 Maison Margiela)
前シーズンに引き続き今シーズンもミラノでコレクション発表を行った「エムエム6 メゾン マルジェラ」。今回はジョン・レノンとオノ・ヨーコが1969年の結婚後に行った、反戦パフォーマンス「ベッド・イン」をインスピレーションに、メンズ・ウイメンズ混合のミニショー形式コレクションを発表。
ウェディングがベースになっているため、ヴェールや手袋、チュール使いなどの典型的な花嫁衣裳の要素に、メッセージTシャツ、デニムやレザーなどカジュアルアイテム絡めたコーディネートが展開される。またレノン夫婦に因み、イギリスと日本のトラディションを融合し、英国風ジャケットもあれば胴着や裃のようなフォルムもある。それぞれのモデル達が色々なタイプの音(と音楽)が流れるスピーカーを持ち、好きな方向に歩き回るパフォーマンスで、様々なミックスカルチャーを提案する。
取材・文:田中美貴