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2019.05.15

日本の伝統的パターン応用で廃棄ゼロファッション目指す「Synflux(シンフラックス)」―H&Mファウンデーションで日本チームが初受賞

「アーリー・バード特別賞」を受賞した「Synflux」の4人。21~28歳の全員20代。

 ファッション業界におけるサステナブル(持続可能)で革新的なアイディアを表彰する「グローバル チェンジ アワード(GLOBAL CHANGE AWARD)」が4月にストックホルムで発表され、生地の廃棄ロスを削減するためのパターンメイキングシステム「アルゴリズミック・クチュール」を開発した「Synflux(シンフラックス)」が日本人チームとして初受賞。「Synflux」が、受賞アイディアに関する説明や、廃棄ゼロのサステナブルファッションに向けたビジョンなどをプレゼンテーション形式で行った。

廃棄ゼロファッションを目指して 設計から小売りまで包括的にアプローチ

 

  • 「アルゴリズミック・クチュール」に関するプレゼンテーションを行う「Synflux」の川崎和也代表

  • 「アルゴリズミック・クチュール」を用いて製作したドレス

  • 四角形と三角形を組み合わせて構成する型紙を生成するため無駄な廃棄が少なくなる一方、パターンの切断面がジグザグになるため縫製部分が多くなる。「縫製の最適化を図るアルゴリズム開発が次の課題」(川崎氏)

 同アワードの特別賞として発表されるのが、「アーリー・バード特別賞」。応募期間の前半に応募し最高評価を得たチームに贈られるもので、「Synflux」が日本人開発チームとして初めて受賞した。「Synflux」が受賞したアイディアは、人工知能を活用して生地の廃棄ロスを最小限に抑えた型紙を割り出す「アルゴミック・クチュール」。一般的に15%ほど生地の廃棄ロスが出るといわれている立体裁断に対し、日本の伝統的な直線裁断を応用。着用者の3Dデータから、廃棄分を最小限に抑えられるよう最適化された型紙を独自のアルゴリズムで自動生成するもの。

 できあがった型紙を着用者の好みの形や素材、色にカスタマイズするオンラインプラットフォームも現在開発中で、「システム、プロダクト、サービスという、3つにおけるイノベーションを一気に実現できるのが私たちのサービス」とSynflux代表の川崎和也氏。「ビジネス向けには、サステナブルな素材開発やオンデマンドなファブリケーション(生地生成)、生産プロセスの最適・合理化といった取り組み、顧客向けには、デザインのカスタマイズ、サステナブルな商品の提供といった価値を提供できる」とした。

 

 2020年の実用化を目指しており、現在は大手繊維メーカーやファッションブランドとのコラボレーションも企画中だ。「素材、設計、製造、流通、廃棄というサステナブルファッションにおける5つの領域のうち、私たちが現在フォーカスしているのは、設計と流通。素材メーカーと連携してリサイクル素材を応用する、流通についてもオンデマンドにすることで在庫ゼロにするなど、サステナブルファッションに対して包括的なアプローチを目指したい」(川崎代表)とした。

 

※「Synflux」:同チームの代表でファッションデザイナー/プロジェクトリードを行う川崎和也氏、ファッションデザイナーの佐野虎太郎氏、デザインエンジニア/プログラマーの清水快氏、デザインエンジニア/プログラマーの藤平祐輔氏の4人で構成。

 

ファッション界のノーベル賞 アフリカ&アジアからの応募が増加

  • H&Mグループの山浦誉史CSRコーディネーターが、同グループのサステナビリティへの取り組みも併せて発表した

  • 「H&M」は、サステナブルな素材を使用したコレクション「コンシャス・エクスクルーシブ(Conscious Exclusive)」も発表している

 「グローバル チェンジ アワード」は、H&Mグループ創業者ステファン・パーション一族が設立した非営利財団が主催・支援を行うアワードで、ファッション業界のノーベル賞とも呼ばれる。第1回目に受賞したオレンジ由来の繊維“オレンジ・ファイバー”は、受賞後に「サルヴァトーレ フェラガモ」で採用されるなど実績もあげている。4回目の開催となった今回のテーマは、“デジタライゼーション”。前年に比べて2倍以上の6,640組(182カ国)の応募があり、特にアフリカやアジアなどテクノロジー開発における新興市場からの応募が飛躍的に伸びたという。

 

 受賞したのは、デザインから着用、リサイクルまで衣服の全工程の循環を実現させるデジタル・システム「Loop Scoop」(開発チーム:circular.fashion/独)、アウトドアウエア用に開発した鉱物ベースの生分解性メンブレン素材「Sane membrane」(dimpora/スイス)、生命力の強い雑草イラクサの茎から生み出した布「Sustainable Sting」(Green Nettle Textile/ケニア)、子どもの成長に合わせてたたみ込まれた部分を広げて着用する“育つ”衣服「Clothes that Grow」(Petit Pli/英)、花や果実から作り出した代替レザー「Lab Leather」(Le Qara/ペルー)の5組。

 

 受賞者5組は、総額100万ユーロ(1億2,000万円相当)の助成金が分配されるほか、今年から開始したクラウドファウンディングによる支援も受けられる。また1年間に渡り、NY、ストックホルム、香港で行われる1年間のイノベーション促進プログラムに参加する(応募期間は2018年8月29日~2018年10月17日、クラウドファウンディングによる支援の受付は2019年4月4日~2019年5月3日)。

 

 「Synflux」が受賞した特別賞では、助成金は受けられないものの、NYや香港で行われるイノベーション促進プログラムに参加することが可能。「Synflux」メンバーも同プログラムに参加するため、今月にもNYに出発するという。

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