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2019.03.07
【2019秋冬パリコレ ハイライト7】エルメス、メゾン マルジェラ、トム・ブラウン…テーラードトレンド力強く
パリコレクション6日目は、ナデージュ・ヴァンヘ=シビュルスキーによる「エルメス(HERMÈS)」、そして「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」と米女優のゼンデイヤとのコラボレーションによるコレクションが発表された。
エルメス(HERMÈS)
「エルメス」は、フランス共和国親衛隊の本部庁舎内に特設した会場を舞台に、最新コレクションを発表した。客席前には、細かくカットされた木製のパネルが設置され、裏側から照らし出す照明効果で星が瞬く夜空を演出。今季は、その星のイメージから、3種のスタッズを打ったカーフスウェードのスーツでスタート。トップ部分はややオーバーサイズに、ボトムのスカートはペンシルタイプでシャープに仕立て、コントラストを生む。
キーとなる意匠が、1962年に発表されたスカーフの「馬着」モチーフ。今季のトレンドでもあるラメ素材にプリントしたトップスや、アシメトリーの襟のシルク素材のブラウスなどにあしらわれている。「馬着」には、馬の品評会や乗馬コンテストなどで見られるロゼット(リボンをあしらった勲章)のモチーフも含まれ、ロゼットの折り畳まれたリボンをイメージさせる装飾の付いたニットプル、カーフレザーのドレス、シルクサテンのワンピースなど、多くのアイテムにロゼットの要素が巧みに取り込まれている。
また、「馬着」モチーフに見られるベルトの意匠をプリントしたレザーコートや、表と裏で色の異なるダブルフェイスカシミアのロングコート、表がウールで裏側がカシミアで色が異なるダブル素材のコートなど、「エルメス」らしい素材使いのアウターが充実。撥水加工を施したカーフレザーのダウンジャケットも目を引いたアイテムだ。しかし、何よりも驚かされたのが、レザーの刺し子によるジャケットやスカート。一針一針、糸を通してレザーに表情を出すという気の遠くなるような作業を経ている。今季も、「エルメス」らしさを追求する姿勢を強く感じさせるコレクションとなっていた。
トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)
「トミー ヒルフィガー」は、シャンゼリゼ劇場を会場にショーを開催した。今回はグローバルブランドアンバサダーに就任した米女優のゼンデイヤとのコラボレーション。実は、「トミー ヒルフィガー」は1973年にパリでショーを開催しており、実に6度目のショーとなる。ランウェイはトリコロールカラーの電飾がまぶしいディスコ仕様で、BGMは70~80年代のディスコクラシック。冒頭はマニッシュなチェックのスーツやデニムのセットアップなどが登場し、カジュアルなデイウェアを挟んで、70年代を意識したグラマラスでフェミニンなドレスへ。ホルターネックのワンピースやラメ素材のワンショルダードレスなど、当時を忍ばせるアイテムの数々が登場した。プラスサイズモデルも多く出演し、ブランドしての多様性を強調するかのようだ。最終モデルとして、ボディースーツとラメジャケットをまとったグレイス・ジョーンズがキャットウォークをすると、会場は興奮の坩堝に。フィナーレでは、モデル全員でシスター・スレッジの「We are family」を大合唱して幕を閉じた。
オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)
ヴァージル・アブローによる「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」は、ベルシーのアコーホテル所有のアリーナにて最新コレクションを発表した。モーターレースのイメージを、テーラリングやストリートアイテムに落とし込み、このブランドらしいスポーティな世界観を演出。ドライバーが着用するようなつなぎ、レースのフラッグを想起させるホワイト&ブラックのダウンジャケットやボンディングによって立体的なフォルムを出したトップスなど、レーシングイメージのアイテムの他に、異素材を組み合わせたジャケットや、フロック加工のチェックのコートなど、得意とするテーラリングアイテムをミックスしてバリエーション豊かに見せている。最後は、長いトレーンのボールドレスや、イエローとグレーのフラッグイメージのパターンモチーフのソワレなど、クチュールを意識した作品で締めた。
メゾン マルジェラ(Maison Margiela)
ジョン・ガリアーノによる「メゾン マルジェラ」は、グラン・パレを会場にショーを開催。デカダンス(退廃)に至る過程を服として表現。ユイスマンスの「さかしま」に影響を受けたとのことで、過飽和になったものを一度壊す作業を退廃と捉え、2月に発表されたアルティザナルコレクションで見せた「カオス」の流れを汲みながら、服を新しく捉え直したアイテムで構成。スカートをカットして異素材をはめ込んで袖にしたジャケットや、平面の布から立体に起こしたジャケットなど、通常の制作過程とは全く異なる手法を用いている。トレンチコートなどのアウターについては、裾部分にカットを入れ、裾の内側に足を入れ込むパンツのディテールを縫いつけることで、ジャンプスーツとして着用が可能となる。服についての常識を覆す、ジョン・ガリアーノらしい鮮烈な世界観を見せた。
トム ブラウン(THOM BROWNE)
7日目は、「トム ブラウン」のショーが行われた。会場は、ボ・ザール(国立高等美術学校)のホール。ランウェイ中央にはタイプライターが置かれた机が並び、ブラインドで囲まれたビューローのような箱型の装置を設置。全く同じスーツを着用したモデル達が装置の周りをウォーキングし、ビューローに入り、タイプライターを動かし初めてから、実質的なショーがスタートした。坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」が流れる中、「トム ブラウン」が解釈するマニッシュなテーラードが続く。その合間に、シャツ、ジャケット、コートをブレードやスパンコールで刺繍したドレスが挟み込まれる。コートとスカートとジャケットとシャツがパッチワークにより一体型になっているドレスを着用したモデル達が再びビューローに入り、タイプライターを動かし初めて、より一層デコラティブなアイテムが登場。刺繍を施したものや、ゴールドのスパンコールで覆われたものなど、ゴージャスだが、シュールレアリスティックな作品が並ぶ。ちなみに、ジャケットの身頃やバックサイドに描かれた両性具有的な女性の顔は、ロメーン・ブルックスによるウナ・トラブリッジの肖像画からの引用。ジェンダーの境目を曖昧にしたコレクションの象徴的モチーフとなっていた。
今季はチェックモチーフが多く見られた旨を既に伝えているが、チェックと共にフィーチャーされるものとして、テーラリングを前面に打ち出すブランドが目立った。ハウンドトゥースやプリンス・オブ・ウェールズパターンのチェックを、そのままマニッシュなスーツに仕立てているブランドが多い。もちろん、フェミニンで繊細なドレスはあるものの、その対極の男性用のスーツをコントラストとして提案している。それはジェンダーフリーの概念や、「メゾン マルジェラ」言うところのジェンダー・フルイドの概念からの影響が少なからずとも見え、今後、男性らしさと女性らしさを曖昧にする傾向は益々強まっていくのかもしれない。