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2019.01.22

【2019秋冬パリメンズ ハイライト5】ウィメンズ、別都市からの移転組――百花繚乱のパリメンズ

 メンズコレクション最終日は、重要ブランドが集中した。ウンベルト・レオンとキャロル・リムによる「ケンゾー」、ジョニー・ヨハンセンによる「アクネ ストゥディオス」、「ポール・スミス」、そしてエディ・スリマンの「セリーヌ」が最新コレクションを発表した。

ケンゾー(KENZO)

 「ケンゾー」は、ルーヴル美術館の地下に位置するイベントスペース、カルーセル・ドゥ・ルーヴルにてショーを開催した。会場内はナイーヴな極彩色のペインティングで彩られていたが、これはシャーマンでもあったペルーのアーティスト、パブロ・アマリンゴの手によるもの。今シーズンは、19世紀に中国からペルーへ渡ったウンベルト・レオンの祖先について思いを馳せつつ、19世紀の探検家の装いからインスパイアされたアイテムで構成。マチュピチュやクスコを思わせる、グラフィカルなモチーフと色鮮やかなカラーパレットも美しく、フォーマルからアウトドアまでバリエーション豊かなアイテムが並んだ。

 フューシャピンクやブルー、イエロー、グリーンなど、原色がメインとなり、キャメルや濃紺といったベーシックカラーは数体のみ。ダウンジャケットなどのアウトドアウェアについては、リバーシブルで袖の脱着が可能。これは天候に左右されない作りを目指した結果だという。ジャケット類もリバーシブルが多く、今回は特にKenzo Expeditionのタグが取り付けられている。中国からペルーに輸入されていた米の袋のグラフィックから着想を得たモチーフのプリントシャツなども登場し、これまで以上に語るべきストーリーの多い、重厚なコレクションとなっていた。

「ケンゾー」2019秋冬コレクション

アクネ ストゥディオス(Acne Studios)

 「アクネ ストゥディオス」は、これまでオートクチュール期間中に発表していたウィメンズコレクションを、何と今回はメンズコレクション期間中の特別枠で発表した。会場はパレ・ド・トーキョー。ドロップショルダーのジャケットとワイドパンツのセットアップやハイウエストのバギーパンツ、ボディコンシャスなドレープドレス、大きな肩パッドを入れたメンズファブリックのジャンプスーツなど、どことなく80年代を想起させる雰囲気。しかし、グローブやネックレス、冬用の登山靴のようなシューズ、ギャザーが寄っているストッキングなど、アクセサリー類がレトロ感を打ち消し、また独特な肩のラインや袖のフォルムで、全体としてはとてつもないモダニティを放っている。

 艶やかな光を放つダマスクモチーフのドレスがあれば、野暮ったいローゲージニットのショート丈ドレスもある。フューチャリスティックなボンディング素材のコートがあれば、ニットリブをはめ込んだワイルドなファーコートもある。そんな垢抜けなさと妖艶さが同居し、ゾクゾクさせるような魅力を感じさせた。

「アクネ ストゥディオス」2019秋冬コレクション

ポール・スミス(Paul Smith)

 「ポール・スミス」はモンマルトルの麓の劇場、エリゼ・モンマルトルでショーを開催した。冒頭のフロックコートとジャケットのシリーズは、レッド、イエロー、コバルト、オレンジ、ピンクと、全て発色の良いカラーリング。シルバーやグリーン、イエロー、ターコイズなど、グリッター&原色系の華やかなアイテムが多く見られ、ブラックやグレーはむしろ差し色に感じられるほど。ファーのフードキャップを合わせてアウトドアな空気感を演出し、アイテムは徐々にカジュアルに。毎シーズン、キーとなるプリントが登場するが、今季はフランドル派の絵画風の大胆な花モチーフがメイン。ボンバースやワークパンツなどに仕立てられた。

「ポール・スミス」2019秋冬コレクション

セリーヌ(CELINE)

 「セリーヌ」は、コンコルド広場に特設されたスペースで最新コレクションを発表した。バゲット状のLEDを組み合わせた大きな球体型オブジェが、カメラマンスペース前からランウェイ奥へ移動してショーがスタート。細いネクタイとサングラス、チェックのマフラー、細身のシルエット、ロック的なスタイリング、といったエディ・スリマンの記号が全開のコレクション。しかし、ノスタルジーに浸ることはなく、随所に新しいアイデアが生かされている。

 コレクション全体としてはテーラードが中心となるが、ジャケットやコートは大きな肩パッドが入りモダンな仕上がり。レディースライクになりがちな粗目のツイード素材のコートは、シンプルかつ洗練された形でマニッシュにまとめている。アイテムを彩る、流星や円などのブローチ類はコンパクトながらもインパクト大。フィナーレでの拍手喝采以上に、エディ・スリマンの登場で会場は割れんばかりの拍手に包まれ、根強いサポーターたちの数の多さを確認でき、スターデザイナーであるエディ・スリマンの新たな時代の幕開けを実感できたのだった。

「セリーヌ」2109秋冬コレクション

 また注目の欧米勢として、「ステラ・マッカートニー」「J.W.アンダーソン」「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」について言及したい。

ステラ マッカートニー(Stella McCartney)

 「ステラ マッカートニー」はサン・シュルピスに程近い自社ショールームで最新コレクションを発表。6回目となる今回は、ビートルズの映画『イエロー・サブマリン』をモチーフに、ステラらしいアイデアにあふれる構成となっている。映画の中でもキーカラーとなっていたイエロー等のイニングを配したコートには、サイドベンツ部分にオレンジのラバーを圧着。ポール、ジョン、リンゴ、ジョージのそれぞれ4人の顔をインターシャで表現したニットプルや、潜水艦のワッペンのシャツなど、映画に関連したモチーフをあしらったアイテムの他に、得意とするテーラードやダメージ風のニットなども登場。しかし一番の注目アイテムは、ビートルズのワッペンと缶バッヂ、ピンバッッヂを一面に取り付けたコート。日本では80万円ほどになるとのことだが、ビートルズファンにとっては垂涎のアイテムとなりそうだ。

「ステラ マッカートニー」2019秋冬コレクション

JW アンダーソン(JW ANDERSON)

 「JW アンダーソン」は、5区のカルチェ・ラタンにあるアーティストのスタジオだったスペースで、パリでは初となるショーを開催した。昨年、パリで旗艦店をオープンさせ、満を持してのコレクション発表となる。これまでの作品をカジュアルにアレンジし、グレードアップさせたというコレクションは、世界を旅行して巡った結果、様々なものから影響を受け、それが随所に感じられる内容となっている。例えば、リングを重ねたようなゴールドのバングルやアニマルモチーフのソックスなどはトライバルなイメージで、テーブルクロスのようなモチーフのニットはフォークロリック。それらを、フリンジやリボンで装飾された独自のカッティングのアイテムを組み合わせることで、強いスタイリングが生み出されていた。

オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)

 「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」は、ルーヴル美術館地下のカルーセル・ドゥ・ルーヴルを会場に最新コレクションを発表。従来通り、フォーマルとストリートを自由自在に行き来する内容となってはいるが、アイデアの豊富さとバリエーションの豊かさが際立っていた。得意とするテーラード類のジャケットは、大きな肩パッドが入り、バギーパンツや巻き付けるようなワイドパンツを合わせ、オーバーサイズのシルエットで統一。ジャケットによっては両身頃にカットが入っていたり、半身だけ異素材が使われていたり。グリーン、オレンジなどの原色のシリーズの中でも、トランスポーターのユニフォームを思わせるイエローのシリーズが印象的だった。

「オフ-ホワイト c/o ヴァージル アブロー」2019秋冬コレクション

 今季のメンズコレクションは、これまでのメンズコレクションとは異なる様相を見せていた。「ケンゾー」がメンズコレクションと共にウィメンズを併せて発表し始めてから久しいが、「アミ アレクサンドル マテュッシ」や「ベルルッティ」など、元々はメンズからスタートしているブランドが、ショーで発表するルックの中でウィメンズの割合を強めている。その一方で、「セリーヌ」や「ステラ マッカートニー」のように、元々はレディースのみを発信してきたブランドがメンズに参入。またアクネ ストゥディオスは、メンズコレクション期間中にあえてウィメンズを発表。それぞれのブランドが、独特な動きを見せたのも今シーズンの特徴だ。

 そして、「JW アンダーソン」や「ジル・サンダー」のように、ロンドンやミラノから発表の場を移したブランドが増え、全体的に注目ブランドが多かった。そういった意味では、今季のパリは活気があり、百花繚乱ともいえる華やかさを呈していたのである。

 メンズはウィメンズと比べてブランド数が少なく、比較的収益をあげやすいとされ、今後もメンズに参入するブランドが増えるかもしれない。また、変則的にレディースを発表するブランドが増えることで、パリのメンズコレクションの重要性はより一層増していくのかもしれない。ただし『黄色いベスト運動』が収束したら、という条件付きだが。

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