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2018.06.20
老舗の阪神梅田本店、第I期棟がオープン―食にフォーカス、ファッションフロアもひと工夫
樋口尚平の「ヒントは現場に落ちている」 vol. 53
大阪・梅田に店舗を構える老舗の百貨店、阪神梅田本店。建て替え工事の最中だが、去る6月1日の金曜日に、その第Ⅰ期棟がオープンを迎えた。グループ店舗の阪急うめだ本店の建て替え時と同じく、2期に分けた工法を採り、今回はⅠ期目である。グランドオープンを迎えるⅡ期棟のオープンは、2021年秋の予定だ。従来の売り場面積の約80%に縮小したⅠ期棟だが、同店の要素を凝縮したようなMD構成である。
“ハレ”の阪急、“日常”の阪神
Ⅰ期棟の売り場面積は約2万7,000平方メートル。総投資額は530億円で、今期(2018年度)の通期の売上目標は420億円だ。Ⅰ期棟は同店の南東部分に該当し、第Ⅱ期棟はⅠ期棟から西側へ伸びる部分である。上から見ると、ちょうどアルファベットの「L」字型に似ている(文字の下が北側、上が南側という方位で見た場合)。今回はそのL字型の“縦”の部分が開業した。
フロア構成は地下1階、地上9階の10層。地階のみ、旧館部分を存続させている。この部分は元々、食品売り場だったが、さらに強みの商材を強化した形だ。従来、食品が売り上げに占める比率は45%だったと言うが、21年秋のグランドオープン時には、50%以上に高めていく計画だという。
売り場のコンセプトは“毎日が幸せになる百貨店”。同店の顧客はブランドではなく、商品そのものの魅力にひかれて購入するケースが多いらしい。商品を基軸にした売り場を構成していることが、同店の特徴だ。ブランドを目的に来店するのではなく、「サムシングニュー、何か新しいものはないか?」と日常的に売り場へ足を運ぶ――こういった顧客像のようだ。
梅田地区は、商業施設の“過剰供給”が指摘されて久しい。他施設との住み分けを図るために建て替え工事に踏み切った面もある阪神梅田本店だが、目と鼻の先にある阪急うめだ本店との住み分けはどのように考えているのか。この点は比較的容易で、阪急は“ハレの日”(非日常とラグジュアリー)、阪神は“日常”である。「より日常特化を進めることで、買い回りや相乗効果が高まる」(阪神本店販売促進部、松下直昭ゼネラルマネージャー)と考えている。
3階テラスの「エミ ウエルネス クローゼット」
新業態を積極的に導入したアパレル関連売り場
一方、ファッション関連フロアでも様々な新しい試みがなされている。主に3~6階フロアがファッション関連テナントの集積するところだが、新業態や編集型コーナーを積極的に導入した。その象徴的なものが、「テラス」と呼ばれる区画。イベントスペースを含んだ一角で、従来型のブランドごとに分かれたフロア構成とは異なる。アパレルだけ、雑貨だけといった特定の商材にこだわらず、ライフスタイルを表現することに留意している。
ファッション関連では、3階のテラスは「ウエルネス・スクエア」と題し、関連テナントを集積した。西日本最大規模の「エミ ウエルネス クローゼット」のほか、ナチュラル&オーガニックレストラン「コスメキッチン アダプテーション」が関西初出店している。衣食を包含したファッション提案が特徴だ。
4階のテラスの名称は、「リアル・クローゼット」。文字通り、使い勝手のいいアパレル・雑貨類を取り揃える。「ミラオーウェン」や、関西初の「アバハウス ル ランディ」「ロウェル シングス」、百貨店初出店の「アーガ」など、鮮度の高いファッション関連テナントを集めた。
5階のテラスは「リラナチュール」で、アダルトレディスが対象。「パハリト by バスコ」など、ナチュラルテイストのアパレルをラインナップした。プライベートブランドの「色えんぴつ」のコーナーも拡充し、12色のベーシックカラーのアパレルを企画した。6階はメンズフロア。テラスは「メンズライブラリー」で、アイテム別に編集された洋品・雑貨のコーナーに仕上げた。ゴルフウエア売り場も併設しており、旧売り場から継続展開する「パーリーゲイツ」のほか、新ブランド「ニューバランス ゴルフ」も導入した。
ペデストリアンデッキから阪神梅田本店を臨む(左手前の白と小豆色の建物が阪急うめだ本店)
OL・キャリアの取り込みにも力を入れる
今回のⅠ期棟でもう1つ、新しい試みは、戦略的な顧客層として、「30-40代のOL・キャリア」(松下マネージャー)を想定している点だ。元々、阪神梅田本店は年配層が強い店舗だが、比較的若い世代にも日常的に来店してもらえるよう、前述の“商品を基軸にした売り場構成”を意識している。「顧客層の新陳代謝を図る」(同)目的があるようだ。
オープン初日、開店前には2,500人が並んだという。6月1日から3日までの3日間の売上推移は、想定の1.5倍に達した。食品フロアに限定すると、同1.7倍だった。来館客数は、広域からの集客も進んだことで、前年の2.5倍、62万人にのぼった。この勢いを第Ⅱ期棟の完成までいかに持続していくか。今後の推移が興味深い。
樋口 尚平
ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。
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