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2018.06.27

D2Cブランドがこぞって利用“地下鉄広告”の魅力――NYノースサイドフェスティバルに参加してわかったこと

 NYブルックリンで毎年6月上旬に開催される「ノースサイドフェスティバル(Northside Festival)」は、 様々な業態の重鎮やトレンドセッターを招き、音楽、イノベーション、メディアにおける、クリエイティブやカルチャーに纏わることを4日間にわたって開催するイベント。その中でも音楽をテーマとしたイベントは今年で10周年を迎えました。

 

 私が今年も参加してきたのは イノベーションのイベント。以前と変わらずお洒落なブティックホテルとして人気の高いワイスホテル、ウィリアムズバーグホテル、ウィリムヴェールホテルが会場となり、1セッション45分ほどのパネルディスカッションが3日間に渡り行われました。

 人気オンライン・メディアとしての地位を確立した「Refinery29.com(リファイナリー29)」。その創設者の1人であるピエラ・ジェラルディが登壇したパネルは、成長と進化を続けるオンライン・メディアだけに、満席になるほどの人気でした。パネルでは創設時の話や普段チームといかにクリエイティビティーに溢れるコンテンツアイディアを生む努力を社内で行っているのかなど彼女自身のユニークな取り組みが語られ、また超人気イベントの「29Rooms」についても触れられました。

 

 創設10周年記念として行われた「29Rooms」は、今ではインタラクティブなイベントも多いアメリカでその先駆け的な存在だったといえるでしょう。オンライン・メディアである「Refinery29」の世界、そしてそのコンテンツを、オンラインからリアルの世界に表現したイベントは、29種類の異なる遊び心に溢れたインタラクティブな部屋を作り上げたエクスペリエンシャル・イベント。

 

 イベントが最初に開催された時のアメリカは、すでにインスタグラムが広く利用されていた頃。会場すべてがセルフィースポットとなったこのイベントは、言うまでもなく大きな話題となりました。NYで行われた2年目の開催時には、NYファッションウィークと絡み、ディズニーや「マイケル コース」といった大手ブランドが特別なインスタレーションを行いました。今年で4年目。現在はニューヨークだけでなく、ほかの都市でも開催されるなど盛り上がりを見せています。

(左から)モデレーターを務めたブルームバーグのテクノロジー専門記者Gerrit de Vynch氏、ハンディーのカスタマー部門ヴァイス・プレジデントであるハン・タン氏、サンデーディナー創業者のリンゼイ・スラビー、アウトフロントCPEのジェイソン・クーパーマン氏

 日本での電車の中吊りは、雑誌広告や百貨店の催事などを目にすることが多いですが、NYの地下鉄では、ブランドの広告を見ることがここ数年の間に増えてきました。ブルームバーグ紙でテクノロジー記者として活躍するGerrit de Vynckをモデレーターに迎えたパネルでは、スピーカーとして、屋外広告メディアのアウトフロント(OUTFRONT Media)、マーケティングコンサルタント会社のサンデー・ディナー(Sunday Dinner)、そしてイケア商品の組み立てやカーテンの取り付けといったホームサービスを提供するデジタルネイティブ企業のハンディー(Handy)が参加しました。

 

 Vynck氏によれば、D2C企業が地下鉄広告を積極的に利用する機会が多くなってきているとのこと。実は私もこの数年同じように感じていたこともあり、実にタイムリーなテーマだったのです。

 

 スピーカーの1人であったHandyはここ数年、地下鉄広告を継続的に行っているといいます。恐らく彼らは、デジタルネイティブ企業の中でも、地下鉄広告に目をつけた先駆けではないかとも言っていました。

 

 ホームサービスのマーケットプレイスを提供するHandyがサービスを開始した最初のマーケットは、ニューヨーク。フェイスブックやグーグルなどの広告サービスもありますが、掲載コストを比較したところ、地下鉄広告はほかより安かったということ、広告としての信頼性が高いことなどが出稿の決め手になったといいます。

 

 実際に地下鉄広告を利用し、その反応を分析したところ、その結果に非常に満足したそう。オンラインやオフライン含めて様々な広告マーケティングを行いつつ、地下鉄での広告マーケティングを継続しているのだそうです。

 

 地下鉄車内や駅構内でみる広告には、地下鉄利用者に向けた特別な割引コードを添えた広告や、ブランドのキャンペーンなどいろいろなタイプの広告を目にします。私が以前地下鉄社内で見かけたHandyの広告は、割引コードが添えられたサービスの紹介だったと記憶しています。確かにプロモーションコードがあれば、新規顧客の獲得のきっかけを作り、そのマーケットでどのようなサービスが必要とされているのかなどブランドにとって大切なデータを集約することができます。

マンハッタンの14thユニオンスクエア駅構内の広告。LBGTを支援する6月のプライド月間にちなんだ広告を掲載したのは、デジタルネイティブブランドのハリーズ(HARRY’S)

 最近は、インスタグラムのストーリー機能でプロモーションコードを告知するブランドをよく目にします。インスタグラムを頻繁にチェックしたり、投稿をシェアするヘビーユーザーは、フォローしているアカウントの数も多いはず。その中で、ブランドが投稿する写真をはじめ、24時間で消えてしまうストーリーもあえて見てくれるようなフォロワーは、きっとブランドと深いエンゲージを持つ熱心なファンといえるでしょう。

 

 ロイヤルなフォロワーだけに、ストーリーを通して情報を告知するという方程式は、インスタグラムを頻繁に利用していれば自然とわかってくもの。投稿される写真だけでなく、ストーリーまでも自然とチェックするようになり、ブランドとエンゲージの深い顧客を作り出すチャンスに繋がるのです。

 

 話を元に戻しますが、昨年は、ピンタレストやインスタグラムなど、マーケティングツールとして欠かせないSNS企業がスピーカーとして数多く参加。どの内容も興味深いものでした。一方、今年はそうした内容がラインナップになかったのが若干残念ではありました。しかし、地下鉄で見かけるブランドの広告がブランド認知を広めるだけにとどまらず、実際に新規顧客獲得に大きな役割を果たしているということが、ブランド側から実際に聞くことができたのは、よかった部分でもありました。

 

 イベントやカンファレンスは、大小関係なく、いつも完璧な内容であるということはないのだなということが、いくつか参加してみてわかりました。参加する人の知識によっても評価は変わるでしょうし、またモデレーターのリードの仕方の良し悪しで、トークの盛り上がりや印象も変わります。

 

 「ノースサイドフェスティバル」のように、規模が小さめのイベントでは、セッションの後にスピーカーへ直接質問をしたり、連絡先の交換をするなど交流する機会が持てるのは、大きな利点だといえるでしょう。


 

RINA  

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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