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2025.07.03
【2026春夏パリメンズ ハイライト1】新任ディレクターの注目のコレクション

写真左から「ディオール」「ドリス ヴァン ノッテン」「サンローラン」「カラー」
2025年6月24日から29日までの6日間、パリ市内にて各ブランドがファッションショーを行うパリ・メンズコレクションが開催された。主催するパリオートクチュール組合の公式カレンダー上では、今季の参加ブランド総数は70となり、前シーズンの68から微増。日本のブランドも2つ増えて14となり、依然として全体の2割を占めている。公式カレンダーに載っていない「シュタイン(ssstein)」や「バウルズ(vowels)」といったブランドも、これまで通り作品発表をしており、日本ブランドの存在感は依然として大きい。
今季は、新任アーティスティック・ディレクターのデビューコレクションが大きな注目を集めた。その筆頭が、ジョナサン・アンダーソンによる「ディオール(DIOR)」。5月末にマリア・グラツィア・キウリがウィメンズのアーティスティック・ディレクターを退任し、メンズを手掛けていたキム・ジョーンズも今年の1月にブランドを去っている。そんな状況下で、6月に入った直後、ジョナサン・アンダーソンがウィメンズとメンズのみならず、クチュールとアクセサリーを含むすべてのクリエーションについてのアーティスティック・ディレクターに就任したことが発表された。「ロエベ(LOEWE)」のイメージを一から作り上げて成功に導いた功労者が、どのようなコレクションを発表するのか、大いに期待が集まっていた。
また、ジュリアン・クロスナーによる「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」、堀内太郎による「カラー(kolor)」といったブランドも、新任クリエイティブ・ディレクターによるコレクションとして話題となったが、フタを開けてみると、それぞれの創始者によるコレクションよりも装飾性を強めていた点が興味深かった。
ディオール(DIOR)


新任クリエイティブ・ディレクター、ジョナサン・アンダーソンによる初のメンズコレクション。廃兵院(アンヴァリッド)内にベルリンの絵画館(ゲメルデギャラリー)のベルベット張りの内装を模した空間を設置し、ルーヴル美術館とスコットランド国立美術館から貸し出されたジャン・シメオン・シャルダンの作品を飾った。
クラシカル・モダンな雰囲気の中で登場したルックは、「ディオール」のメゾンの歴史や西洋服飾史を紐解きながら現代的に再解釈したものばかりで、会場と見事に融合。新生ディオールを十二分に印象付けた。
ファーストルックは、アンダーソンの出身地でもあるアイルランドのドネガルツイードをあしらったバージャケット。大きなフリルを飾ったショートパンツを合わせ、時代を行き来するスタイルを見せた。
18~19世紀のメンズジャケットはデニムパンツとレザーサンダルを合わせ、フォーマルなウィングカラーのYシャツには、ピンクのベストとショール、そしてバギーなショーツをコーディネート。各ルックにはボウタイを合わせて時代感を演出。
ムッシュ・ディオールが愛した花々が刺繍で表現されたニットには、モアレのパープルのベストを合わせ、一見ちぐはぐな印象を与えるも、アンダーソンらしい美しいバランスと調和が生まれている。アンティーク的な要素を加えながらも、フレッシュで若々しい仕上がり。
古い物から新しい物を生み出すという方法論を編み出し、これまでの「ディオール」のメンズには無かったシルエットとスタイルを完成させていた。
ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)


ファレル・ウィリアムスによる「ルイ・ヴィトン」は、ポンピドゥー・センター前の広場を舞台にショーを開催。建築家ビジョイ・ジェイン(スタジオ・ムンバイ)とのコラボレーションによる、古代インドのボードゲーム「蛇と梯子」の実物大を設置し、インドにイメージを求めた。
一見シンプルなスーツスタイルでも、インドの男性が着用するような深いプリーツのパンツが合わせられ、アランニットプルにはメタリックなマドラスチェックのブルゾンがコーディネートされる。
ハードケース「クーリエ・ロジン・110」は、今季はパープルのトランスペアレントのバージョンや、マハラジャを思わせるビジュー付きのバージョンが登場。
今季は、ゾウやシマウマ、ヤシの木などの動植物モチーフが、バッグやジャケットなどにあしらわれたが、これは「ルイ・ヴィトン」がウェス・アンダーソン監督による2007年作の映画「ダージリン急行」に登場するスーツケースのためにデザインしたもの。今回初めて商品化されることとなった。そんなところにも、インドを想起させる要素が見え隠れするコレクションとなっていた。
サンローラン(SAINT LAURENT)


アンソニー・ヴァカレロによる「サンローラン」は、ケリングのピノー家のコレクションを展示する旧商品取引所内を会場にショーを開催。セレスト・ブルシエ=ムジュノによるインスタレーションの周囲をモデル達がウォーキングした。
「イヴ・サンローラン(YVES SAINT LAURENT)」時代の作品は、スモーキングスーツなど夜をイメージさせるルックが多かったが、今季は敢えて自然光の下の「サンローラン」像を描こうとしたという。そして、1970年代のパリの時代感を加えながら、軽やかでセンシュアルなデイリーウェアを創作。
特徴的だったのがパワーショルダー。ジャケットのみならず、シャツにもメタル製のボーンを入れて肩を強調させている。その一方で、シャツ自体の素材にはポリエステルやナイロン製のテクニカル素材をあしらい、軽さを演出してコントラストを描く。
股上の深いパンツも印象的。ベルトで絞ることによりドレープが生まれ、絶妙な曲線を描いている。裾には、アイロンをかけ忘れたかのような、押し潰されたプリーツ加工を施し、ワークウェアスタイルに遊びを加えている。それは、ネクタイをシャツに押し込むというスタイルにも通じ、肩の緊張感とその他のパーツの抜け感が、新鮮なコントラストとバランス感を生んでいた。
ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)


Courtesy of Dries Van Noten/Photo by GoRunway
昨年退任したドリス・ヴァン・ノッテンに代わり、長年のアシスタントだったジュリアン・クロスナーが就任して初のメンズコレクション。タイトルは“Just a perfect day”。フォブール・サン・タントワーヌ通りの、ホスピスとして使用されていた建築物内でショーを開催した。
フォーマルとカジュアルの融合を試み、海辺のパーティをイメージ。ピンクやグリーン、ブルーといった享楽的で美しいカラーパレットは、打ちっ放しのコンクリートを背景に鮮烈に映り、見る者を圧倒した。
ドロップショルダーのAラインのピーコートでスタート。張りのある、硬ささえ感じさせるコートにはマラソンシューズを合わせてカジュアルダウンさせている。フローラルモチーフのコートには、ニットのサイクルパンツを合わせ、立体的なテイラードシャツジャケットには、ジャカード素材のショーツをコーディネート。リボン状に切り裂いたネクタイモチーフのファブリックを縫い付けたクラフト感溢れるセットアップは、パジャマ風のルックだったり、スウィムウェア風だったり。フォーマルのカジュアルな解釈、カジュアルのフォーマルな表現が随所に見られた。
スポーティなショーツとタンクトップには、敢えて華やかな刺繍を施し、カジュアルなポロシャツには、カマーバンドを合わせてカジュアルとフォーマルの垣根を取り払う。カジュアルなニットプルとパンツのルックやタキシードには、パレオを巻いてリゾート風にアレンジ。
フィナーレでは、ルー・リードの「Perfect day」が響き渡る中、モデル達が一斉に登場し、「ドリス ヴァン ノッテン」全盛期を彷彿とさせた。
アミリ(AMIRI)


トンプル市場跡のイベントスペース、カロー・デュ・トンプルに架空のホテル「シャトー・アミリ」の庭を設置してショーを開催した、マイク・アミリによる「アミリ」。ホテルのバスローブやガウン、パジャマやルームシューズのフォルムがデザインに活かされ、タッセル付きのキーやルームキーのプレートなどがモチーフとして各ルックを彩った。
フローラルモチーフのレースブルゾンには、マスタードカラーのレザーパンツを合わせ、花のヴィンテージブローチを飾り、70年代風のグレンチェックのスーツにはルームキーイメージのタッセルをコーディネート。合わせられたのが、ルームシューズ風のレザーシューズ。ホテルの庭をイメージした花鳥モチーフは、大きな襟のジャカードジャケットや刺繍のスカジャン、刺繍のニットカーディガン、ショールカラーのジャケットなどにあしらわれた。
後半にはバスローブやガウンを思わせるルックが多く見られ、それぞれにフリンジを飾ったショールをコーディネート。シルク特有の眩い光沢感が美しい。
先シーズンから登場したレディースは、主軸となるニットドレスの他に、メンズライクなスーツやガウンルック、動く度に肌が露出するフリンジで埋め尽くされたセクシーなドレスも登場。レディースの服作りへの情熱も感じさせた。
カラー(kolor)


創始者、阿部潤一に代わり、アントワープ王立芸術学院で学び、東京でコレクションを発表して来た堀内太郎が手掛ける初の「カラー」のコレクション。5区の聾啞学校の前庭にて披露された。
ユニフォームをベースに解体・再構築をし、新たな要素を加えて全く違う物を生み出す。そして、細かなパーツと無数の色の集積こそが「カラー」の魅力でもあったが、ブランドカラーを失わせることなく、より一層強固なクリエーションが生まれていた。
ダブルのパンツ、トップ部分の素材違いのレイヤードなど、様々なアイデアによるメンズのルックは、どことなくセンシュアルな要素が感じられる。特にウィメンズのボリューム感は適度に増し、シルエットは造形的になり、フェミニンさが強調されていた。
東京発のブランドを、ヨーロッパで学んだ東京出身のデザイナーが手掛けたことになったのだが、随所に適度な誇張と装飾性が感じられ、これまでの純正東京ブランドとは異なる、ヨーロッパ的なモードの解釈を加えている印象を与えた。
取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供