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2025.10.10

【2026春夏パリ ハイライト2】エレガンスの継承、時代の呼吸

写真左から「サンローラン」「アライア」「ステラ マッカートニー」「マックイーン」

 

 パリコレクションのハイライト記事、第2回目では、「サンローラン(SAINT LAURENT)」や「アライア(ALAÏA)」といったフランスを代表するハイブランドを中心に、ピーター・コッピングを迎えた「ランバン(LANVIN)」の2回目のコレクション、新任デュラン・ランティンクによる 「ジャンポール・ゴルチエ(JEAN PAUL GAULTIER)」、「マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)」や「シーエフシーエル(CFCL)」などの日本勢を紹介する。

 

サンローラン(SAINT LAURENT)

Courtesy of SAINT LAURENT

 

 エッフェル塔を背景に、フレンチガーデンを設置してコレクションを見せたアンソニー・ヴァカレロによる「サンローラン」。ライダースジャケット、コート、そしてドレスという3つのアイテムでシンプルに構成。しかし、ジャンルが少ない分、視覚的にイメージが強く残るコレクションとなった。

 

 パワーショルダーのレザー製ライダースで幕開け。合わせられたのが、イヴ・サン・ローランのクリエーションを彷彿とさせる、襟元に結び目を作るラヴァリエールスタイルのブラウス。アイテムによってはネックラインを深くし、よりセンシュアルに演出。

 

 今年6月に発表されたメンズコレクションからの流れを汲み、極めて薄いナイロン素材を用いたコートのシリーズが続く。インナーには何も着用せず、シースルーのドレスとして提案をしている。

 

 何よりも鮮烈だったのが後半のドレス群。ジゴ袖のガウンドレスは見事なボリュームを見せるが、コートと同じナイロン素材により、風をはらんで軽やか。マスタード、コニャック、レイクブルーなど、アーシーなカラーパレットも美しく、「サンローラン」というオートクチュール・メゾンらしい魅力溢れる作品となっていた。

 

アライア(ALAÏA)

Courtesy of ALAÏA

 

 旧カルティエ財団の建築物内でショーを開催した、ピーター・ミュリエによる「アライア」。これまでアーティスティックな側面を強調して来たが、今季はシンプルな日常着の要素を配して、よりウェアラブルなムードを打ち出したという。とはいえ、全身がシースルーだったり、ボディコンシャスを通り越してスーパースキニーだったり。それなりに整えられた身体とアティテュードを要求されることに変わりは無い。

 

 タッセルを88個取り付けたスカートにはベアショルダートップスを合わせ、ニットのオールインワンなど、縦方向に引っ張ってテンションを出したヴァーティカルラインを強調したルックが目立った今季。拘束衣のように腕を出さないことで、その細さが強調されている。

 

 シルクフリンジを飾ったスカートには、パイソンのブルゾンをコーディネートし、シルクフリンジのスカートにはケープコートをコーディネート。アイテムによっては着易そうな雰囲気を漂わせてはいるが、例えばトレンチについては、片足だけを出す構造になっていて特別感は強い。

 

 女性の身体を美しいオブジェとして捉えたアズディン・アライアの美学を受け継ぎつつも、依然としてアーティスティックな方向性を貫く「アライア」だった。

 

ステラ マッカートニー(Stella McCartney)

Courtesy of Stella McCartney

 

 「ステラ マッカートニー」は改装工事中のポンピドーセンターを会場にコレクションを発表。ソーシャライトで歌手のダフネ・ギネス、今年「シャネル(CHANEL)」を去ったヴィルジニー・ヴィアール、アーティストのジェフ・クーンズ、マイケル・ジャクソンの娘のパリス・ジャクソンなど、各界のセレブリティが大結集した。ショー前に会場ではビートルズの「Come together」が流れ、暗転すると英女優のヘレン・ミレンが客席を立ち、「Come together」の歌詞を力強く朗読。そしてショーが始まった。

 

 地球に住む者が一体となることを願って“Come together”をコレクションタイトルに掲げた今季。前回のオフィスで発表された、“ステラ・コーポレーション”をイメージしたコレクション同様、ワークウェアからイヴニングウェアへの変化を1つの流れで見せつつ、今季はパステルカラーを用い、フリルなどの装飾を増やすことでよりフェミニンに仕上げている。

 

 目を引いたのが、オーストリッチの羽のドレス。実は、ステラ・マッカートニー自身が開発した、Fevversと名付けられた人工の羽。風に揺れる様は本物と見まがう程。その完成度には驚かされた。

 

ランバン(LANVIN)

Courtesy of LANVIN

 

 2025年1月の2025秋冬コレクション同様、イベントホールのパヴィヨン・ガブリエルを会場にショーを開催した、ピーター・コッピングによる着任2シーズン目となる「ランバン」。

 

 先シーズンでは、創始者ジャンヌ・ランバンのクリエーションを再解釈し、彼女が活動したアール・デコ期の意匠やシルエットをふんだんに取り入れていたが、今季は更に一歩前進させ、よりモダンでスポーティ、そして機能的な側面を加えている。

 

 スリーブの切り返しを無くした美しいテーラードジャケットは、バックサイドをオープンにし、外気を取り込んで涼をとれるデザインに。プリーツ部分からライニングが飛び出したかのようなデザインのスカートには、カジュアルなニットプルをコーディネートし、前シーズンよりもデイウェアを充実させている。

 

 1970年代風のスカーフプリントのドレスは、2種類以上のモチーフを組み合わせてグラフィカルな仕上がり。アール・デコ風の刺繍を施したドレスと美しい調和を見せる。

 

 洗いを掛けたライニング素材とタフタによるバスル入りのドレスには、敢えてスポーティな黒のストラップを配し、最終ルックのシフォンドレスの裾はローエッジで終了させている。フォルムはクラシカルであっても、随所にモダンな手法を取り入れて新鮮な印象を与えることに成功。新生ランバン像が確固たるものになった、と思わせた今季だった。

 

マックイーン(McQueen)

Courtesy of McQueen

 

 ロビン・ハーディ監督による1973年の映画「ウィッカーマン」から着想を得た、ショーン・マクギアーによる「マックイーン」。映画にちなみ、会場には共同体の再生を祝う祭りから着想を得た、8,000メートルのジュートリボンを使用した民俗的なメイポール風の構造物を設置。

 

 ウィッカーマンは、古代ケルトの宗教・ドルイド教の生贄の儀式に使われた木製の巨大な人間の形をした檻。中に動物や人間を生贄として入れたまま、火を点けて燃やす儀式に使用されていたという。映画は、人間の原始的な欲望や動物的本能を描く恐怖ドラマとなっている。

 

 そんなイメージソースが、アシメトリーのミリタリートップスや、レースアップのランジェリードレス、切り裂かれたかのようなカットの入ったワンピースなどに反映。血を思わせる赤やテントウムシプリントのバルーンドレス、炎を思わせるフリンジのドレスやラフィアの花を飾ったブルゾンなど、それぞれがコントラストを描いている。メタルモールを刺繍したトップスや羽とスパンコールのロングドレスなど、クチュール的なアイテムも。

 

 パンツルックは、これまでになく股上が浅くて際どいが、それはアレキサンダー・マックイーン時代のコレクションで見られたスタイル。所々に原点のエッセンスを配し、創始者へのリスペクトを見せていたのだった。

 

クロエ(Chloé)

© Chloé

 

 1950〜60年代のアーカイブからインスパイアされたという、シェミナ・カマリによる「クロエ」。コレクションタイトルを“Entre deux(二つの間)”とし、オートクチュールとプレタポルテの間を行き来するクリエーションを見せた。

 

 「クロエ」の創始者ギャビー・アギョンは、女性をオートクチュールから解放することを理念として「クロエ」をスタートさせたが、今季は敢えてクチュール寄りの表現を用いている。

 

 フローラルプリントのコットンドレスで幕開け。カジュアルな素材でありながら、ドレーピングのために生地を贅沢にあしらい、いわゆるプレタポルテのアイテムとは一線を画す仕上がりを見せる。スウィムウェアやランジェリーなどの要素を配しながら、ベージュやカーキなど、徐々にアーシーなカラーパレットのルックに移行。

 

 砂漠の遊牧民、ノマド的な装いを想起させるも、依然としてドレーピングやギャザーによる装飾性の高いアイテムで構成され、それぞれにクチュール感が漂っている。しかし、生地の重さを感じさせず、軽やかに仕上げているところにも、クチュールの技術によって裏打ちされていると感じさせたのだった。

 

ガニー(GANNI)

Courtesy of GANNI

 

 ディッテ・レフストラップによる「ガニー」は、パリ11区のイベントホールにてプレゼンテーション形式で最新コレクションを発表。“夏はみんなのもの”と題して、幼少期のパーソナルなイメージや思い出を服に反映させた。

 

 デンマークの漁港の街、ヒアツハルス出身のレフストラップは、子どもの頃に車窓から見た花畑を、霞んだフローラルモチーフでプリント生地に表現。母親が編んだような暖かみのある3Dフラワーニットや、DIY的に仕立てられたコサージュを飾ったワンピース。どれも手作業の魅力が込められている。

 

 スタッズを打ったミニホーボーバッグやアイコンであるブーバッグも依然として魅力的だが、今季はガーデニングバッグが愛らしいアクセントとなっていた。

 

アニエスベー(agnès b.)

Courtesy of agnès b.

 

 ブランド設立50周年を迎え、6年振りにパリコレクション公式スケジュール上でショーを開催した「アニエスベー」。パリ5区のベルナルダン中学校のホールを会場にショーを開催した。

 

 パリ・オペラ座のエトワール、ユーゴ・マルシャンがダンスを披露してショーは幕開け。アートコレクター、写真家、そして活動家でもあるアニエス・ベーは、フランチカジュアルを体現するデザイナーでもある。

 

 “toute une histoire (quite a story)”と名付けたコレクションは、これまでの彼女の軌跡を辿るもので、ヴェルサイユのトリアノン宮で発表された18世紀風のドレスや、鮮やかなフォトプリントのワンピースなど、長くコレクションを目にして来た者にとって思い出深いアイテムが多く含まれていた。

 

 これまでに様々なアーティストとコラボレーションしてきたが、今季はフューチュラ2000やギルバート&ジョージ、ハーモニー・コリンといった大御所による作品をプリントアイテムにあしらっている。

 

 フィナーレでは、Mことマチュー・シェディッドとラッパーのオキシモ・プッチーノが演奏。アニエス・ベーがマイクを持って登場し、「merci,arigato,thank you」を連呼。半世紀という長きに渡るキャリアを築いたデザイナーに盛大な拍手が送られたのだった。

 

マメ クロゴウチ(Mame Kurogouchi)

Courtesy of Mame Kurogouchi

 

 黒河内麻衣子による「マメ クロゴウチ」は、これまで通りレストラン・オガタを会場にショーを開催した。ブランド設立15周年を迎え、パーソナルな原点に立ち返ろうとしたという今季。故郷での原風景をイメージし、雪や霧、あるいは昭和のグラスの器、窓にはめられていたプレスガラスなどにインスピレーションを求めた。

 

 日本のガラスの歴史を辿ろうとした時に、ガラスがもたらされた古墳時代のガラスは壊れやすく、それがつららや氷の壊れやすさとリンクし、イメージが膨らんだという。会場には様々なガラスの器が展示され、ローマ時代の銀化した花瓶も見られた。透明、あるいは銀化によるオーロラ色がジャージーやニットのカラーパレットとなり、昭和のプレスガラスがモチーフとなる。

 

 僅かに金色や銀色に光るニットや、星やジオメトリックモチーフ、あるいはフローラルモチーフが彩るトップスやスカート。グレーやベージュなど、ナチュラルカラーのアイテムにも、どこかに軽やかさと透明感が感じられ、黒のアイテムでさえも重々しさは無く、柔らかい印象でエレガント。

 

 ガラスにまつわる視覚的な思い出、あるいは故郷での原風景を丁寧に手繰り寄せ、一つのコレクションとして繊細に表現していた。

 

シーエフシーエル(CFCL)

Courtesy of CFCL Inc.

 

 ショー直前に、The Business of Fashionの BoF 500 Class of 2025に選出されたことが発表された高橋悠介による「シーエフシーエル」。世界的に注目を集める存在となっていることを改めて示すこととなった。パリ3区の劇場ゲテ・リリックを会場に、TLF Trioによる生演奏をBGMにしてショーを開催されたショーでは、これまで以上に優美でしなやか、そしてフェミニンなアイテムが流れるように登場。新しい方向性を示して見せた。

 

 アーティスト、森万里子のアクリル彫刻や工芸家エミール・ガレのガラス作品にイメージを求めたドレスは、オーガンザを一枚重ねたかのよう。しかし、ニットとして一続きで編まれている。

 

 今季は、「私たちは実をつける植物のように創造したいのである。再現するのではなく。代理を介してではなく、直接に創造したいのである」との言葉を残したダダイズムのアーティスト、ジャン・アルプの提唱した「具体芸術」に影響を受けたという。その妻ゾフィー・トイバー・アルプのインテリアデザインに着想を得た、部分的に穴を開けながらAラインに編み立てたドレスは、独特の動きを見せて目を引いた。

 

 最後に登場したフリンジのドレスは、メタリックフィルムを巻き付けた糸によるタッセル上のパーツを、プログラミングで開けた穴に通して完成させたもの。造形的に完成された美しさを見せた。

 

ウジョー(Ujoh)

Courtesy of Ujoh

 

 今夏の日本の気候は、これまで以上に過酷だった。特に日本のデザイナー達は、高温高湿度の中で、いかに人々にモードな服をまとってもらえるか、を考え、その対応を迫られているようである。そんな中で、西崎暢・亜湖の二人による今季の「ウジョー」は、極端な気候の中でも軽やかに生きるための夏のユニフォームを提案。

 

 空気をはらむギャバジン、肌触りの良いポプリン、リネンやコットンといった自然素材にヴィスコースをミックスし、涼しさを第一に考えた素材使いを見せている。

 

 そして、優美さを兼ね備えた涼やかなデザイン。レーシーなプラストロンやベストの中には、シャツのような柔らかいジャケットを合わせ、パンツにはトロピカルモチーフを刺繍したレーシーなパネルとシースルーシャツをコーディネート。爽やかなブルーストライプのリゾートドレスも登場した。

 

 これまでは、スーツスタイルのバリエーションを見せて来たこのブランドだが、今季は涼しさを第一に考慮したせいか、より一層フェミニンでエレガントな世界観が生まれていた。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供

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