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2025.06.12
【NRF APAC 2025】オーセンティック・ブランズG IPとAIで成長を加速

写真左から:NRF ジル・ドボラック氏、ABGソルト会長、チュウアジア・パシフィック社長
「オーセンティック・ブランズ・グループ(Authentic Brands Group、ABG)」の創業者で会長兼CEOのジェイミー・ソルト氏と、アジア・パシフィック社長のウェスリー・チュウ氏が、「NRF 2025: リテールズ・ビッグショー・アジア・パシフィック(APAC)」2日目となる2025年6月3日、キーノートセッション(基調講演)に登壇した。
ABGは現在、世界第2位の知的財産(IP)ライセンス企業としてグローバルに存在感を強めている。傘下には「リーボック」「チャンピオン」「フォーエバー21」「ブルックス ブラザーズ」などのファッションブランドに加え、「ニーマン マーカス」「サックス・フィフス・アベニュー」「バーグドルフ・グッドマン」「バーニーズ・ニューヨーク」など百貨店グループを含む80以上のブランドを有し、150カ国以上に展開している。
世界には6,000の直営・フランチャイズ店舗と約24,000の販売拠点を持ち、1,700社以上のパートナー企業と連携。一般的なアパレルメーカーとは異なり、自社で製造を持たずに高収益モデルを築いている。現在のグローバル小売売上高は年間320億ドルを超え、今後5年以内に1,000億ドルの達成を目指すと明言した。
AIとデジタルの力で「人を増やさずに成長する」
ソルト会長は「我々は“壊れたブランド”ではなく、“壊れたビジネスモデル”を買収して再生する」と語り、ABGをファッション企業ではなく「テクノロジー企業」として再定義してきたと強調する。同社の従業員数はわずか540人ながら、AIやデジタル技術を駆使して高い効率性を実現している。
たとえば、法務部門では契約書作成の95%をAIが担い、事務業務の大幅な自動化を実現。動画コンテンツ制作にもAIを積極的に導入し、「従来の10分の1のコストで、150カ国に向けた多言語のインタビュー映像を展開できる」と語った。「こういうことは“やっているようで、実は誰もやっていない”」とも述べ、AI活用における先進性を強調した。
マーケティングにおいてもSNSと動画を軸に展開。InstagramやTikTokを中心としたプロモーションによって、月間7,000億件という驚異的なインプレッション数を獲得している。元NBAスターのシャキール・オニール氏を起用したReebokのプロモーション映像も、AIによって多言語化され、150カ国以上で配信されたという。

写真:カンファレンスを終え退場するABGソルト会長
アジアを成長ドライバーに
ABGは、今後の成長戦略においてアジア太平洋地域を「最重要市場」と位置づけている。2025年には中国・上海にアジア太平洋地域本部を正式に開設し、法務、マーケティング、広報などの主要部門を現地に配置。とりわけ東南アジア市場では、現地の文化や消費動向に合わせた「ローカル仕様」でのブランド展開を進めている。
チュウ社長は「アジアの消費者はデジタル感度が非常に高く、北米よりも市場の反応が速い」と述べ、今後も現地密着型の戦略を継続していく方針を明らかにした。
創業から15年を迎えた今も、ソルト会長は「ようやく基盤が整った段階。ここからが本当のスタートだ」と語る。次なる成長の鍵は、AIとデータに裏打ちされたブランド再生と、国境を越えた展開力。ABGが「デジタル時代のブランド帝国」として、今後アジアをはじめとする世界のマーケットでどのような展開をしていくのか注目だ。
取材・文:山中健
画像:NRF 2025 APAC 提供