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2000.04.19

【2025ミラノサローネハイライト】デザインウィークにてさらに勢力を強めるファッション勢

©Alessandro Russotti

 

 イタリア・ミラノにて、2025年4月8~13日まで、ミラノデザインウィーク(通称ミラノサローネ)が開催された。元々は「サローネ・デル・モービレ」という家具の国際見本市だったのが、同時期に見本市会場外=市内各所でも家具の展示やインスタレーション、イベントなどが行われるようになり、その規模が拡大。招待状がある人しか入れない、閉鎖的なファッションウィークとは違い、デザインウィークの展示は一般の人にも公開しているため、その人気はどんどん高まり、今や世界中から観光客が押し寄せる一大イベントとなった。そしてその盛り上がりぶりは年々増している状態だ。

 

 もはやデザインウィークはインテリアメーカーだけのものではなく、あらゆる業界が参入しているが、特にファッション業界との結びつきは強く、ファッションブランドの展示は毎年の目玉となっている。今年も大手ブランドたちが、見ごたえのあるインスタレーションを発表し、どこも入り口には平日でも長い行列ができていた。さて、そんな中から特に注目を集めた展示を紹介しよう。

 

エルメス(HERMÈS)

Courtesy of HERMÈS

 

 デザインウィークの目玉的存在で、毎年、大きな注目を集める「エルメス」。今回は、「オブジェを創り出すもの」というキーワードから、アイディアが形になっていくような様子をインスタレーションで表現した。

 

 真っ白ないくつかの箱の中に作品が並べられ、彫刻家が作品を掘り出す前の大理石のように、その箱の中にオブジェそのもの、オブジェに対し抱くアイデア、そしてオブジェから想起される夢が入っているようなイメージを表した。宙に浮かぶ白い箱の下からはオーラのようなカラフルな光がこぼれている。そこには、空間に変化をもたらすような光(オーラ)を放つオブジェの製作を目指す、メゾンのクリエーションが垣間見える。

 

 今回は素材への探求を行い、特にガラスに注目。ガラスは工房によってノウハウが異なるので、イタリア、フランス、スイスなどの様々な工房と協力して作品を作り上げた。特にケーシング技法という、クリアな吹きガラスにカラーガラスを重ね、ガラス職人がコールドワークでカラーガラスを削り取るカッティングを施すことで、表面にストライプやチェッカーボードのパターンを描いた「カザック」の花瓶や「ドゥブレ・ドゥ・エルメス」のジャグや花瓶、またはフュージング技法という、カットしたガラスを自由に配置し熱で溶融し合体させて制作した、「ドゥブレ・ドゥ・エルメス」のボックスなどは圧巻だ。

 

 さらにトマス・アロンソによる、ラッカー仕上げのガラスによる直線的な四角いテーブルベースに日本の伝統的な木工技術である「曲木」を利用した杉材のラウンドテーブルが美しいサイドテーブル 「ピヴォット・ドゥ・エルメス」には、メゾンの卓越した職人技を感じる。

 

 また一枚一枚を異なる染色液に丁寧に浸し、重ね染めしたカシミアプレード「サマー・ダイ」を始めとするブランケット類や、ナイジェル・ピークのデザインのカオリン白磁の新作テーブルウェアコレクション「エルメス・アン・コントルポワン」も発表された。

 

ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)

Courtesy of Louis Vuitton

 

 「ルイ・ヴィトン)」は2012 年から、世界の有名デザイナーたちとの協業による独創的で機能的な家具やオブジェの限定シリーズ「オブジェ・ノマド コレクション」を発表してきた。今年はさらにスケールを広げ、「オブジェ・ノマド」、「シグネチャー・コレクション(家具と照明)」、「デコレーション(オブジェとテキスタイル)」、「テーブルウェア」、「ゲーム」の5つの製品カテゴリーを含んだ「ルイ・ヴィトン ホームコレクション」を発表。セルベッローニ宮にて新コレクションがお披露目された。

 「オブジェ・ノマド」からは、エストウディオ・カンパーナによる、アイコニックな「コクーンチェア」の新バージョン「コクーンクチュール」や、8色展開でそれぞれ一点限りの限定生産キャビネット「カレイドスコープ」が登場。「シグネチャー・コレクション」では、パトリック・ジュアンによるトランクのような金色の南京錠があしらわれたアームチェアや、クリスティアン・モハデッドによる、シグネチャーステッチ、ラフィック、トランク製造の職人技を彷彿とさせるディテールを施したソファやチェアが登場。またパトリシア・ウルキオラの曲線を描く新作アームチェアや、アトリエ・ビアゲッティの新作ランプも発表された。「デコレーション」では、ハイメ・アジョンによるレザーとセラミックのカラフルなオブジェが、「テーブルウェア」ではnendoによる、モノグラム、花、菱形など、無限のバリエーションで装飾されたリモージュ磁器が登場。また、ピンボールやチェス用テーブル、テーブルフットボールなども展示された。

 さらに、新コレクションの発表を記念しクリエイションでグラフィックアーティスト、フォルトゥナート・デペーロと、デザイナー、シャルロット・ペリアンへのオマージュの新作も発表。前者は、テキスタイルとテーブルウェアを、後者は中庭にペリアンがスケッチした家を再現し、新テキスタイルを発表した。

 

 そして、デザインウィークに合わせて、ミラノの旗艦店がリニューアルオープン。この新店舗は3つ星レストランの「ダ・ヴィットリオ」とコラボしたカフェやレストランを併設したり、ホームコレクションを備えた同ブランド初のデザインに特化したフロアが登場し、ライフスタイル全体を包括する提案がなされている。
 

ロエベ(LOEWE)

Courtesy of LOEWE

 

 毎年、ブランドを体現するクラフトマンシップを象徴する作品展示を行う「ロエベ」。今年も25名のアーティストやデザイナー、建築家により特別にデザインされた作品をパラッツォ・チッテリオにて展示した。

 

 今回は“ロエベ ティーポット”というテーマで、ティーポットをそれぞれのアーディストが様々に解釈して製作した、芸術的かつメッセージ性のあるコレクションとなっている。世界各地における「お茶を淹れる」、という文化における多様で豊かな伝統を活かしつつ、ポットの彫刻的造形を見つめ直し、それをさまざまな種類の釉薬や仕上げを取り入れたり、スケールやプロポーションを誇張したり反転させることで、従来のティーポットの概念を覆す作品たちが生まれた。

 

参加アーティストは以下の通り:
ライア・アルケロス(スペイン)、サム・ベイクウェル(英国)、ルー・ビーン(中華人民共和国)、チェン・ミン(中華人民共和国)、デイヴィッド・チッパーフィールド(英国)、チョ・ミンスク(大韓民国)、トンマーゾ・コルヴィ・モーラ(イタリア)、マドダ・ファーニ(南アフリカ)、シモーヌ・ファタル(レバノン)、スナ・フジタ(日本)、深澤直人(日本)、イ・インチン(大韓民国)、ダン・マッカーシー(英国)、道川省三(日本)、
新里明士(日本)、ウォルター・プライス(アメリカ合衆国)、崎山隆之(日本)、ワン・シュウ(中華人民共和国)、ローズマリー・トロッケル(ドイツ)、パトリシア・ウルキオラ(スペイン)、エドマンド・ドゥ・ヴァール(英国)、ローズ・ワイリー(英国)、デン・シーピン(中華人民共和国)、安永正臣(日本)、ジェーン・ヤン-デーン(大韓民国)
 

 また、サローネ向けに制作したホームウェアのセレクションも発表した。レザーを編んで作ったコースター、ポットカバー、そしてカモミール、ストロベリー、ベルガモットの花、ティーバッグをモチーフにしたレザー製のボタニカルチャームなどが登場。さらに今回の作品テーマである“ティーポット”にちなんだ限定のアールグレイのキャンドルや京都の老舗茶筒メーカー、開化堂とのコラボレーションによる、オリジナルのブリキ製茶筒など稀少なコレクションも。これらはすべて、会場のパラッツォ・チッテリオでのみ販売された。

 

ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)

Courtesy of LORO PIANA

 

 「ロロ・ピアーナ」は、「ディモーレスタジオ」とのコラボで、“ラ・プリマ・ノッテ・ディ・クイエテ(La Prima Notte di Quiete)”というタイトルの没入型インスタレーションを発表した。このタイトルは「初めての静かな夜」という意味で、嵐の去った後の静寂を表している。

 

 全体的に映画のような演出となっており、劇場のチケットカウンターのように仕立てられたエントランスから入り、ダイニングルーム、リビングルーム、ベッドルーム、バスルーム、そして小さな庭へと舞台が繰り広げられる。天井部分の水漏れの後や割れて散らばった皿など嵐を思わせるドラマティックさと、バスタブからあふれ出る水や読みかけの本、乱れたベッドなどの生々しい臨場感が創り出され、音響効果とともに、静寂と動きの間の緊張感を与える。

 

 インテリアにはカシミヤ、ベルベット、サイザル麻、ウールのカーペットなどの天然素材が多用され、「ロロ・ピアーナ」の素材も各所に散りばめられている。家具に関しても、「ロロ・ピアーナ・インテリア」の代表的コレクションやヴィンテージ品に、新作家具、テーブルウェア、素材を組み合わせて展示。また「ディモーレスタジオ」がデザインした家具を、「ロロ・ピアーナ・インテリア」のファブリックで装飾したものもあり、様々な要素が融合しながら、独特な雰囲気を醸し出した。

 

グッチ(GUCCI)

  • Credits by François Halard

  • Credits by François Halard

  • Credits by François Halard

Courtesy of GUCCI

 

 「グッチ」は、サン・シンプリチャーノ教会にて“Gucci | Bamboo Encounters”と題したエキシビションを開催。クリエイティブ・エージェンシー 「2050+」とその創設者であるイッポリト・ペステッリーニ・ラパレッリがキュレーションとデザインを手がけ、「グッチ」が1940年代半ばに発表した「グッチ バンブー 1947」からのインスピレーションによって、様々なアーティストが竹を主役にして製作した作品を展示した。

 

 スウェーデン系チリ人アーティストのアントン・アルバレスによる、バンブーのありのままのフォルムに着目した彫刻「1802251226」、パレスチナ出身の建築家兼アーティスト兼研究者ディマ・スロウジによる竹で編んだカゴと手吹きガラスを組み合わせた作品「Hybrid Exhalations」、オランダのデザイン集団Kite Clubによる、バンブーと現代的な素材を用いた凧のシリーズ作品「Thank you, Bamboo」等が展示された。また、エウジェニオ・ロッシとヤーズド・コントラクターのデュオによるthe back studioによる光のインスタレーション作品「bamboo assemblage n.1」も登場した。

 

エイポック エイブル イッセイ ミヤケ(A-POC ABLE ISSEY MIYAKE)

© ISSEY MIYAKE INC.

 

 「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ」はミラノの旗艦店にて、デザインスタジオ、アトリエ・オイとのコラボによるプロジェクト「TYPE-XIII Atelier Oï project」を発表した。これまでは「一枚の布」の持つ可能性をさまざまな技法を用いて追求し、独自の衣服を創ってきたが、このプロジェクトでは照明という新たな領域に挑戦し、アトリエ・オイのアイデアの「一本のワイヤー」と融合させた新たなコンセプトの二つの照明器具シリーズを生み出した。

 

 まず一つは、日本の照明メーカー「アンビエンテック」と共同開発したポータブル型の照明器具シリーズ「O Series」。シェードにはアトリエ・オイが構造設計を手掛けた楕円形のワイヤーフレームと、「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ」の服に使われているリサイクルポリエステルをベースにした「Steam Stretch」素材を採用し、マグネットで生地を留めることでランプシェードになる仕組み。生け花からのインスピレーションで、季節や迎えるゲストに合わせて花を生けるように、その時々の気分や環境に応じてアレンジができるデザインが特徴だ。プリーツのひだから洩れるやわらかな光が、花のような繊細な美しさとしなやかさを醸し出す。

 

 もうひとつは、は、「エイポック エイブル イッセイ ミヤケ」を象徴する無縫製ニットによる照明シリーズ「A Series」。シェードの形状が編み込まれたチューブ状のニット生地にフレームとなるワイヤーを挿入することで、立体的な照明のフォルムが生まれる。連続して編まれたシェードは、カットする位置によって空間に合わせてさまざまな形状や大きさに仕上げることも可能。デザインウィークでは、スペインの照明ブランド「PARACHILNA」の協力を得て実現したペンダント型照明器具のプロトタイプを展示した。

 

サンローラン(SAINT LAURENT)

Courtesy of SAINT LAURENT

 

 「サンローラン」は、パディリオーネ・ヴィスコンティにて「サンローラン – シャルロット・ペリアン(SAINT LAURENT – CHARLOTTE PERRIAND)」展を開催し、シャルロット・ペリアンとのエクスクルーシブなコラボレーションによる作品4点を発表した。これは、ムッシュ イヴ・サンローランがペリアンの作品を賞賛していたことに敬意を表したものだ。

 

 アンソニー・ヴァカレロは、1943年から1967年にかけてペリアンが手がけた、これまでは試作品やスケッチとしてしか存在していなかった4つの家具デザインを選び、これらを忠実に再現して限定版として再発表。世界各地の自宅やパリの外交官の邸宅のための3つの作品「La Bibliothèque Rio de Janeiro(リオ・デ・ジャネイロの書棚)」、「Le Fauteuil Visiteur Indochine(インドシナのゲスト用肘掛け椅子)」、「La Canapé de la Residences de l’Ambassadeur du Japan(パリ日本大使公邸のソファ)」と、ペリアンの机の上に置かれた小さな模型としてしか知られていなかった「Table Mille-Feuilles(ミルフィーユのテーブル)」が初めて実物大で制作された。これらの作品は、個数限定でオーダーメイドにて販売される。また、この展覧会に合わせて、ペリアンの写真セレクションが5月4日までパリのサンローラン バビロンにて、5月7日までサンローラン リヴ・ドロワにて展示されている。

 

店舗でのホームライン新作展示も

 

 

アルマーニ/カーザ(ARMANI / CASA)

Courtesy of ARMANI / CASA

 

 「アルマーニ/カーザ」は誕生25周年を記念し、ミラノのヴェネチア大通りの旗艦店にて新作を発表。あえて店で展示を行ったのは、店内で新作を見られるだけでなく、15個のショーウインドウからも作品を見ることができるため、通りを通行するより多くの人との深いつながりを持てるように、というジョルジオ・アルマーニの思いからだ。「境界が狭まりがちな今日において、境界を広げる提案がしたかった」とジョルジオ・アルマーニは言う。

 

 新コレクションのテーマは“オリエンタル インク(Oriental Inks)”。日本の室内のような大きな和紙の壁によって作り出された空間演出の中、竹、猿や龍、ジャングルの密林など水墨画や墨絵のようなモチーフが施された新作を展示。今年20周年を迎えるオートクチュールライン「アルマーニ・プリヴェ」に通ずるようなオーダーメイドによる伝統的な職人技と細部へこだわりと実用性がバランスよく融合する。

 

 700時間かけて作られる刺繍が施されたアームチェアや、2400時間かけて15人で刺繍したベッド「アメデオ」など職人技の生きたアイテムが登場。脚が畳風になったテーブル「トロカデロ」や、竹モチーフのベースが付いた漆塗りの丸テーブルと、パッド入りアームチェアの「ヴィヴァーチェ」シリーズには和のテイストが。または刀のようなハンドル部分に龍の絵が描かれた「ヴィルトゥ」やコンソールの新バージョン「セーヌ」にもベルベットに金属糸とビーズで龍の刺繍を施すなど、ラッキーチャームとして龍がフォーカスされている。ベルベットで覆われ、フレームと組み合わされたボックスのセット「アメリー」や竹モチーフのナプキンリング「ウインド」を始めとしたホームアクセサリーも充実している。

 

フェンディ カーサ(FENDI CASA)

Courtesy of FENDI CASA

 

 「フェンディ カーサ」はミラノの旗艦店にて新作コレクションを発表。創業100周年のアニバーサリーイヤーを象徴するかのような、クラフツマンシップとブランドらしいアイコニックな要素に溢れるコレクションを繰り広げた。若い才能を発掘し支援する取り組みにおいてデザインマイアミ2024で、「フェンディ」がコラボレーションした英国のデザイナー、ルイス・ケメノエがキュレーションを担当。マンゾーニ通りに面する側は、金属素材、官能性、そして豪華さのあるアイテムを集め、一方ヴェルディ通りに面する側は、自然の質感、より有機的な形状、色調や陰影の相互作用、そして洗練された控えめなエレガンスのある展示がなされている。

 

 新作としては、「フェンディ」のローマ本社がある合理主義建築からインスピレーションを得た、チェリアーニ・ショスタクのデザインによるモジュール式のシーティングシステム「レイター」、衣服を着替えたり、アクセサリーを変えるようなファッションのコンセプトを取り入れた、丸みを帯びた形状を持つソファ「フェンディ カバー」、ステファノ・ガッリツォリによる、アームレストが波打つリボンのような曲線を描くチェア「ツイスト」、ピーター・マベオによる、新しい「FF」ロゴを施した「エフォ」シリーズなどが登場。このシリーズは、サイドテーブルのカラーにはフェンディ イエローを採用し、キャビネットは扉のハンドルがFになっており、扉を閉めると組み合わされ、「FF」ロゴになるというアイコニックなデザインだ。併せて、既存コレクションにも色や素材、サイズを変えた新しいバージョンが加わった。

 

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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