PICK UP

2025.04.21

大人の上質なモード感を増す「MEKKI」、海外を視野にブランドの第2章へ

 2021年春夏シーズンにデビューしたウィメンズブランド「MEKKI(メッキ)」。デザイナーの宮本葉月さんは国内外ブランドのPRや企画、ディレクションなど幅広く活動後、ブランディング及びデザインやコンサルティングなどを担う「マッハバール」を設立し、自社ブランドとしてメッキを立ち上げた。国内外の厳選した生地を使い、コレクションブランドを手掛ける国内有数の縫製工場で縫い上げるその服は、フリルやチュールなどの加飾も甘くならず、絶妙なバランスでモードなエレガンスを醸し出す。着用して実感するきれいな身体のライン、顔映り、心地良さがファッション好きな大人の女性たちの共感を得ている。コロナ禍のデビューながら、百貨店やセレクトショップに販路を広げ、ポップアップストアにも積極的に取り組み自らファンを増やした。24年8月には銀座に初の直営店を出店。25-26年秋冬コレクションではモード感を増した新作を発表し、初のランウェイショーも開催。海外進出も見据えたブランディングをスタートさせた。

 

「草の根のブランディング」を積み重ねる

 「メッキは加工させるものだけれども、丁寧に手を加え加工されたものを纏うことで誰しもを輝かせる。メッキが剥がれ落ちていく時も、また新たに加工していく時も、より輝いていける。纏った瞬間高揚するそんな日々を…」

 

 ブランドコンセプトに表明されているように、メッキはデビュー以来、大人の女性を輝かせることに徹してきた。ファーストコレクションから継続する「ラッフルブラウス」は象徴的だ。生地は光沢があり、肌をきれいに見せる日本製のコットンを採用。普段はシルクのみを縫う工場で丹念に仕上げている。

 

 「コットンはカジュアルになりがちなので、違う表現ができないかと考え、ラッフルに着目した」とデザイナーの宮本葉月さんは話す。襟周りに広がるラッフルのみだと身体が大きく見えてしまうため、前身頃にエスカルゴ型のパネルを縦に配列、後ろも背中が大きく見えないようパネルの数を加減しながらベストのバランスを探し、着丈を調整してモードなフォルムを生み出した。裾のアシンメトリーなフリルもポイントだ。ジャケットと合わせてラッフルを覗かせたり、デニムパンツとのコーディネートも品の良い着崩しを楽しめる。「ラグジュアリーブランドのアイテムと合わせるお客様も多い」と、上質な服に触れてきた顧客の評価も高い。

 

  • ラッフルブラウスのコーディネート

 縫製工場泣かせのデザインが多いが、アウター以外の服作りは宮本さんが自らサンプルを縫うことから始めるという。「作りたい服のイメージがあって生地を探すこともあれば、素晴らしい生地に出会ってやっと思い描いていた服が作れるということもある」と宮本さん。生地はメイド・イン・ジャパンにこだわる一方、イタリアのジャカードやニット、トルコのバージンウールなど海外からも厳選する。こだわりの生地を使い、「最初は全て勘で縫っていき、着たときに心地良く、身体のラインがきれいに見えるよう調整を繰り返す」ことでサンプルを磨き、「商品化までに修正は1回するかしないか」まで作り込む。生産管理も自社で行い、工場と直接やりとりを重ねることで「仕上がりに外れがなく、追加のタイミングを逃さない」服作りを可能にしている。

 

 コレクションは春夏と秋冬に発表しているが、シーズンを問わず着られるアイテムが多いこともメッキの特徴だ。「眠らない服作り」と宮本さんがいうように、クローゼットにしまい込まれず、着たいときにいつでも取り出してもらえる「クローゼットのスタメン」を想定して服作りに取り組む。過去のコレクションと最新作のコーディネートを楽しむ顧客も少なくない。デビューから4年、定番として支持されるアイテムを育て、メッキのブランドイメージを醸成してきた。

 

 セレクトショップや百貨店への卸をメインに、取扱店舗でのポップアップストアにも力を入れた。公式オンラインストアも展開しているが、接客を通じたリアルなコミュニケーションがメッキの真骨頂だ。宮本さん自身がこれまでのキャリアの中で、セレクトショップやブランドでPRや企画、ディレクションのほか、販売でも実績を残してきたことによる。「インポートのラグジュアリーブランドもセレクトショップで販売できた時代で、良い服を知っているお客様に対応させていただいことがすごく学びになった」。その経験からメッキでは、百貨店やセレクトショップへの卸をメインとしながら、自ら「草の根のブランディング」を積み重ねることで各地に一人ひとりファンを増やしてきた。物と人の力で売り切ることを基本とし、セールをいっさい行わないブランドでもある。

 

デビュー4年で銀座に初の直営店

 4年目での出店はブランドの立ち上げ時から思い描いていた。「いくら物の力があっても、その魅力を伝える人がいなければお客様は着いてこなくなってしまう。店舗を出したらしっかりとした接客をするという考えは当初からあった」と宮本さん。機が熟してきたタイミングで、デザイナーブランドに特化した館を目指す東急プラザ銀座からその第1弾としてオファーを受け、2024年8月8日に初の直営店を出店した。

 

 店舗は同館の3階エントランスという好立地にあり、売り場面積は約150㎡。白を基調とした空間にVPを見せる台什器やバリエーションを展開するハンガーラックがゆったりと配置され、メッキの服の特徴である多彩なシルエットが自然と目に留まる。点在する台は、工事現場で足場として使われる滑り止めの付いた金属板で形作った。メッキのブランド名から連想されるインダストリアルな空気感を醸しつつ、丁寧に加工することで無骨ではないシルバーを際立たせた。

 

  • 「メッキ」東急プラザ銀座店

 台はショーのステージをイメージしたもの。ブランドがデビューしたのはコロナ禍で、ランウェイショーができなかったことから、「お客様自身がショーのステージに立っているような高揚感を体感できる見せ方をしたい」と、ファーストコレクションからお立ち台にディスプレイしてきた。顧客には馴染みの風景だが、作り込んだお立ち台を出現させることでこれまでにない特別感を演出している。

 

 オープン以降は、日本人客はもとより、欧米を中心とする訪日外国人のフリー客、遠方から訪れる顧客も多く、新作も定番も順調な動き。卸先のセレクトショップや百貨店で購入していた顧客は、直営店の品揃えを目にしてシルエットの豊かさはもちろん、「カラー展開の充実ぶりに驚かれる」という。卸先は自店の世界観や顧客層に合ったアイテムやカラーを求めるため、同じアイテムでもブラックを中心にセレクトするケースが多いからだ。直営店では全色を揃えていることから、「このアイテムのこの色が見たかった」という反応が目立ち、カラー物ほど動く傾向が見られる。「お客様の年代は20代から80代まで幅広く、親娘で着るために上下セットで購入することも多い」のも特徴だ。

 

思わず店内を回遊してしまうメッキワールド

 取材時は25年春夏コレクションを中心にMDが組まれ、早々に完売したものも多い。

 「W BL(ダブルブラウス)」は襟が二重になったブラウスで、バックのセーラー襟、ゆったりとした袖幅、程よい丈感が特徴。スカートやパンツとの組み合わせ次第で、カジュアルにもきれいめにも決まる。投入から2回完売し、さらに追加生産した今季の人気アイテム。箔のラメプリントを施した5ポケットパンツ「Thrive(サーブ)」とのコーディネートも涼し気でおしゃれだ。「FOU FOU(フー フー)」はストレートシルエットで、ウエストゴムで楽に履けるのも魅力。「以前、手の不自由なお客様がメッキのアイテムを購入してくださったことがあったんです。ウエストゴムを使ったことはなかったのですが、デザインで可愛いくできないかと考え、パンツに落とし込んだ」という背景がある。コロナ禍中に百貨店のポップアップで発売すると半年分が2週間で売り切れるヒットとなり、再生産した今季も完売した。

 

  • ダブルブラウスとサーブのコーディネート

 「Gleam(グリーム)」は、繊細で透け感のある軽やかな風合いと柔らかい肌触りの生地を使ったグッとフェミニンでドレッシーなスタイルだ。「日本人はちょっと敬遠しそうなデザインなんですけど、スタイリングによってさまざまなオケージョンに着こなせる」というように、海外旅行先のホテルでは1枚でレストランでの食事もでき、デニムとTシャツの上に着用すればタウンユースも楽しめる。

 

 デニムパンツも注目だ。「BOMB DENIM PANTS(ボムデニムパンツ)」に使われているのは、何と超ヘビーな16オンスデニム。職人の手加工によるダメージは風格さえ感じさせる。堅牢なデニムだがブリーチを重ねることで柔らかな穿き心地を生み出し、ワイドシルエットのグランジなストレートパンツに仕上げた。「ドレス作りをパーフェクトにできるラグジュアリーブランドがデニムを作る、そのカッコ良さを表現したかった」という。

 

 コレクションブランドのデニム製品を手掛ける縫製工場と組んだワークパンツ「NEBON DENIM(ネボンデニム)」も出色。15オンスのリジッドデニムを使い、センタープレスを利かせることで上品できれいなラインを生んだ。ヒップの丸みを拾わない構造、ライトグレーのステッチなど随所に工夫が見られ、深いポケットは何かと重宝しそう。熟練職人が「久々にテンションが上がった」ともらす本格派デニムだ。

 

  • 「ボムデニムパンツ」はグランジなカッコ良さ

  • 「ボムデニムパンツ」のコーディネート

  • リジッドデニムの魅力を凝縮した「ネボンデニム」

  • 「ネボンデニム」のコーディネート

 Tシャツも、LOS ANGELSのロゴプリントを配したメッキのシグネチャーTシャツ「LOS LTS(ロスロングスリーブTシャツ)」、生地にシルクのような軋(きし)みを持たせた「Impossible TEE(インポッシブルT)」、シーズンテーマをグラフィックで表現した「CANDER LTS(キャンダーロングスリーブTシャツ)」など、細部にメッキならではの工夫を施す。ウィメンズは胸元のボリューム感が目立たないようプリントの位置や幅を調整し、ユニセックスは男女共に着やすいようリブを太めにするなど、着てこそ心地良さを実感する作りになっている。

 

海外展開を見据え、ブランドの新たな扉を開く

 「25年春夏はメッキの原点に立ち返ったコレクション」と宮本さん。ファーストコレクションのTシャツにプリントしていたワード「A NEW(ア・ニュー)」をテーマに据え、「これまでのメッキ、ありがとう」という思いで服作りと向き合った。というのも、5年目から表現スタイルを大きく変えることを、ブランドの設立当初から計画していたからだ。「自分が追い求めたいものをしっかりと作っていき、海外展開も模索したい」と、25-26年秋冬コレクションは「ガラリと変えた」。アイコンアイテムもラッフルブラウス以外は全て区切りをつけ、店頭では新作コレクションのみを展開していく。

 

 新たなスタート地点に立った25-26年秋冬は、ギリシャ語で「自然」を表す「Physis(フュシス)」がテーマ。ブラックを中心とするダークトーンを基調に、トレンチコートをモチーフとしたドロップショルダーのレザードレスなど、大人の上質なモード感を強めた。今年2月には初のランウェイショーも東急プラザ銀座で行い、「これからのメッキ」が進む方向を示した。

 

  • 25-26年秋冬コレクションでは初のランウェイショーを開いた

  • 25-26年秋冬コレクションより

 新たなメッキの世界観が間もなく直営店から発信される。「国内外からのお客様が多い立地なので、今後は店内で体験型のイベントも実施していきたい。女性だけでなく、さまざまな人たちが高揚感を持てたり、楽しめる企画をやっていきたいと考えています」と宮本さんは話す。

 

写真/野﨑慧嗣、マッハバール提供
取材・文/久保雅裕

 

 

 

■関連リンク
MEKKI公式サイト:https://www.mekki-official.com/

MACHBAR公式サイト:https://www.machbartokyo.com/

久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremode コントリビューティングエディター
 

 ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。一般社団法人東京ファッションデザイナー協議会 代表理事・議長。繊研新聞社在籍時にフリーペーパー「senken h(センケン アッシュ)」を創刊。同誌編集長、パリ支局長などを歴任し、現在はフリージャーナリスト。コンサルティング、マーケティングも手掛ける。2019年、encoremode コントリビューティングエディターに就任。2024年3月まで杉野服飾大学特任教授/杉野学園「ファッション力」編集長を務めた。

 

Journal Cubocci

この記事は「encore(アンコール)」より提供を受けて配信しております。

■USENのウェブマガジン「encore(アンコール)」

 

株式会社USENの音楽情報サイト「encore(アンコール)」、ファッションメディア「encoremode(アンコールモード)」への取材依頼、広告掲載等のお問い合わせはサイト内の「お問い合わせ」ボタン(メールフォーム)をご利用ください。

「encore」
https://e.usen.com/

「encoremode」
https://e.usen.com/encoremode/index.html

 

メールマガジン登録