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2024.10.06

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.99】深み増した演出 ドレッシーと毒気の交差 2025年春夏・東京コレクション

写真左から「テルマ」「フェティコ」「ミューラル」「チカ キサダ」

 

 世界4大コレクションに先駆けるタイミングで、2025年春夏の「楽天ファッション・ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」(通称、東京コレクション/以下、東コレ)が開催された。近年の東コレはクリエーションの厚みが増して、グローバルトレンドを先導するような動きも強まってきた。ミニマルにひねりを加える流れを受け継ぎつつ、東コレらしい毒っ気やパンク感もほんのり織り交ぜている。ドレッシーさやセンシュアル感が濃くなったのも今回の変化だ。メンズの有力ブランドが存在感を示す東コレだが、ウィメンズにフォーカスして動向をリポートする。

 

◆テルマ(TELMA)

Courtesy of TELMA

 

 ブランド初のランウェイショーで優美さとエアリー感、はかなさと強さが交じり合うかのような装いを打ち出した。日本各地の産地から調達したオリジナル素材がルックに深みをもたらしている。テーラードジャケットは和紙素材で仕立てた。シアーアイテムのレイヤードが透け感を入り組ませて、奥行きのある着こなしに導く。つやめきを帯びたナイロンやシルクを用いて、オプティカル(光学的)アート風に整え、繊細なムードのプリント柄を多用。どの方向からの視線も受け止める服に仕上げた。

 

◆チカ キサダ(Chika Kisada)

Courtesy of Chika Kisada

 

 多彩なレッドを操って、艶美なルックに仕上げた。ミステリアスで妖艶なムードも帯びている。強みのバレエ色をやや薄めて、レディーライクな装いに軸足を移すかのよう。得意のチュールを重層的に用いて、シルエットの奥行きを深めた。官能性と強さを印象付けたのは、コルセットやビスチェ。レース仕立てのボディースーツもしなやかなフォルムを引き立てた。マニッシュとフォーマルを融け合わせ、隠し味にバレエといったレシピ。他者に頼らない独自のインディペンデントな人物像を描き出していた。

 

◆フェティコ(FETICO)

Courtesy of FETICO

 

 アズディン・アライアに代表される1980年代のボディーコンシャスに再解釈を試みた。ノスタルジックさや穏やかムードを漂わせている。ビスチェをキーピースに選んで、造形的な立体感を高めた。スリップドレスやジャンプスーツもレトロ感を帯びている。ブラックドレスのシリーズは、ドレッシーで官能的な雰囲気を醸し出した。国内産のデニムやジャカードなどを組み入れた異素材ミックスで装いに奥行きを加えている。随所にランジェリーディテールがあしらわれ、秘めたつやめきを引き立てた。

 

◆サポート サーフェス(support surface)

Courtesy of support surface

 

 体を動かすたびに工夫が際立つ、アルチザンの仕事ぶりが光った。ボリュームが弾む。ブラウスは袖周りに豊かな布を使い、身頃にはドレープが穏やかに流れている。パンツスタイルが多く、もものあたりを樽のように膨らませたフォルムがリゾート気分を誘う。アシンメトリーなディテールがささやかな変化をもたらす。ほのかなシアー素材を上品にレイヤードし、オリジナルのストライプ柄が動きを印象づける。タックやギャザー、切り替えが立体感を生み出した。奇をてらわない服作りはいつもながらで、作風自体がタイムレスな魅力を放っている。

 

◆ピリングス(pillings)

Courtesy of pillings

 

 ミニマルでエアリーな表現を見せた。ブランドのスタート以来、オリジナルのニットに強みを持つが、今回はブラウスやスティックパンツも打ち出して、軽やかで清らかなたたずまいに整えている。ニットの質感が深まり、ハイゲージはほとんど布帛のよう。機械編みも取り入れながらも、繊細さを失っていない。ベージュやペールトーンでニュートラルな着映えに仕上げた。ブラウスはつやめきを帯び、クリーンな気品を宿している。ドレープやたるみ、タックなどのディテールが味わい深い。ポケットの裏が見えるシアーパンツは透明感と新テイストの両方を印象付けた。

 

◆ミューラル(MURRAL)

Courtesy of MURRAL

 

 ドイツの植物図鑑から着想を得て、植物風のオリジナル柄をキーモチーフに選んでいる。総柄のセットアップはナチュラル感を帯びて優しげ。ビーズで編んだボディージュエリー状のアイテムがツタのように絡まり、生命感を宿す。つやめいた素材を多用。フェティッシュな表情のビスチェやコルセットが妖艶なムードをまとわせた。レースで仕立てたドレスもミステリアスなたたずまい。透けるアームカバーは貴婦人の風情をまとう。花柄を編み込んだ、黒系のシアーアイテムが秘めやかな気品を呼び込んでいた。

 

◆ヴィヴィアーノ(VIVIANO)

Courtesy of VIVIANO

 

 庭園を会場にノーブルでドレッシーなルックをそろえた。バラのモチーフをあしらい、レッドやピンクで華やぎを添えている。ブラックのフォーマル調ウエアにもフラワーモチーフを配し、エレガンスを引き立てた。ワンピースにはチュールやレースを用いて、ロマンティックエレガンスを薫らせている。テーラードのセットアップといったメンズ風味のルックも提案。ミリタリーやワークウエアをエレガントにアレンジ。ビスチェやブラトップとも交らせた。適度に素肌をのぞかせ、健やかな官能性を漂わせている。

 

◆ユェチ・チ(YUEQI QI)

Courtesy of YUEQI QI/Photo by Ko Tsuchiya

 

 中国手工芸の装飾的ディテールを盛り込みつつ、ストリート感とポジティブセクシーを交わらせた。東洋風エキゾチックな薫りもまとわせている。スポーツユニフォームにはランジェリー風のレースをあしらい、華やかなコントラストを演出。「アディダス オリジナルス(adidas Originals)」とのコラボレーションウエアも披露。健やかさと官能性が入り交じって、重層的な見え具合に。「アグ(UGG)」とコラボしたカウボーイブーツが足元にタフ感を呼び込んだ。クチュールとアスレジャーが響き合うアクティブロマンティックのムードを放った。

 

◆バルムング(BALMUNG)

Courtesy of BALMUNG

 

 宇宙的なイメージやサイバースペースのムードをたたえ、未来感の漂うテイストを打ち出した。全体を通して、ストリートスタイルを新たに再定義するかのように、ボリューム感や動感を鮮烈に表現している。目を引いたのは、オーバーサイズのシルエット。ふわっとした軽やかなアウターがボリューミーにボディーを包み込む。シャーベットグリーンやライトグレー、メタリックカラーが調和している。クラシックなアイテムにひねりを加えてアレンジ。MA-1も解体・再構築した。独特のコスミックパターンがスペーシーな雰囲気を映し出した。

 

◆セイヴソン(Seivson)

Courtesy of Seivson

 

 複雑なレイヤードを操って、近未来的で不穏なムードを立ちのぼらせた。生地のあちこちにしわやひだを寄せて、ひずみやゆがみのイメージを宿らせている。窓のルーバー風の短冊状ピースを連ね、隙間から素肌をのぞかせた。ほつれや穴開けなどの技法を駆使してダメージ感を加えている。不規則で不ぞろいな布使いが多い中、プリーツの直線がクールな印象を引き出した。ボリュームアウターに解体・再構築の技法を注ぎこんでトレンチコートやMA-1を変形。西陣織をはじめ、各種のオリジナル生地が特別感を寄り添わせた。

 

◆オー・ゼロ・ユー(O0u)

Courtesy of Japan Fashion Week Organization

 

 公益性の高い企業への認証「B Corp」を取得しているライフスタイルD2Cブランドだ。サステナビリティーを重んじたクリエーションが強み。ベージュや白のワントーンやニアトーンを軸に据えて、穏やかでノーブルな装いをそろえた。シルキーな風合いが上品さを引き立てる。シアー素材のトップスを重ね、エアリーなレイヤードを組み上げた。シャツ系のベーシックアイテムに、ラッフルやドレープ、ノット(結び目)使いなどのディテールで表情を加えている。トレンド感のあるルックでありながら、環境への高い意識がうかがえた。

 

◆サルバム(sulvam)

Courtesy of sulvam

 

 スポンサーの楽天が支援する「バイアール(by R)」の枠で藤田哲平デザイナーの母校、文化服装学院でランウェイショーを開いた。ウィメンズコレクションの立ち上がりを受けて、メンズとウィメンズ両方を披露。ウィメンズのタイドアップではロングシャツが落ち感を出した。全身をペイズリー柄で埋め尽くしたスカート・セットアップはボーダー柄と組み合わせている。スーツとマリンボーダー・カットソーの相性も試した。真っ赤なスーツは打ち合わせがアシンメトリーで、動きのあるシルエットを描く。ピンストライプ柄のスカートも裾が不規則に躍っていた。自由度の高いミックススタイリングがスリリングな着映えに導いた。

 

 

 

 感染症対策のハードルが下がって、ショー演出の選択肢が広がった。ウィメンズではないが、お笑い劇場「ルミネtheよしもと」(新宿)で吉本新喜劇と組んだランウェイショーを企画した「ヨシオクボ(yoshiokubo)」はファッションの枠を超えて関心を集めた。「カミヤ(KAMIYA)」は秋葉原のキャンプ練習場を舞台に選んだ。2度目の発表となった「アンリアレイジ オム(anrealage homme)」をはじめ、メンズの実力派がそろい、参加ブランドの厚みが一段と増して、世界の主要コレクションに劣らない発信力を備えつつある。日本初開催となったフランス発の合同展示会「トラノイ」も期間中に開催され、ファッションウィークとしての総合力が高まってきたこともあり、今後はもう一段の国際的な注目度の高まりが期待できそうだ。

 

 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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