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2024.10.04

【2025春夏パリ ハイライト1】過渡期を迎えるビッグメゾン メゾンの魅力を凝縮したコレクションを発表

写真左から「シャネル」「ヴァレンティノ」「ステラ マッカートニー」「マックイーン」

 

 2024年9月23日から10月1日まで、9日間を会期とするパリコレクションが開催され、パリ市内各所でショーやプレゼンテーションが行われた。主催するオート・クチュール組合の公式カレンダー上では、106のブランドがコレクションを発表。前シーズンよりも2ブランド減。フィジカルなショーを行ったブランドは計67で、こちらも3ブランド減。両者とも微減であり、特に大きな変化と捉えるには足らないと言えるだろう。

 

 毎シーズン注目される新任デザイナーによるコレクション発表は、今季はアレッサンドロ・ミケーレによる「ヴァレンティノ(VALENTINO)」のみ。ドリス・ヴァン・ノッテン本人が退いた同ブランドのコレクションや、ヴィルジニー・ヴィアールが退いた「シャネル(CHANEL)」は、それぞれデザインスタジオによるコレクションとなり、ある意味大いに話題を集めたと言える。サラ・バートンを迎えた「ジバンシィ(GIVENCHY)」は、今季は残念ながらコレクション発表をせず、来季に持ち越された。

 

 新任デザイナーによる2回目のコレクションとなるブランドは、「マックイーン(McQueen)」と「クロエ(Chloé)」、そして「ラコステ(LACOSTE)」。ブランドのカラーに合わせて、自らのクリエーションをどのように昇華させるのか、期待感を抱きながら注視したシーズンとなった。

 

シャネル(CHANEL)

Courtesy of CHANEL

 

 オートクチュールコレクションが発表される直前の今年6月6日に、アーティスティック・ディレクターのヴィルジニー・ヴィアールの退任が発表され、デザインスタジオによる初のプレタポルテ(高級既製服)コレクションとなった「シャネル」。会場は、一部の改装工事を終えたグランパレ。ランウェイ中央には大きな鳥かごを設置した。カンボン通りのココ・シャネルの部屋には、色石で彩られた鳥かごのミニチュアが置かれており、その鳥かごからインスパイアされて制作された、ヴァネッサ・パラディが出演した1991年の香水「Coco」のキャンペーンフィルムは未だに言及される名作に。以来、鳥かごは「シャネル」のアイコンの一つとなっている。

 

 軽やかさと若々しさが強調された今季。モスリンのケープを合わせたツイードのワンピースや、格子状に編まれた風を通す薄いニットドレス、グランパレの内部の鉄筋を思わせるモチーフのニットスカートなど、レーシーでありながらスポーティで新鮮。

 

 ココ・シャネルがモチーフとして好んだ鳥の羽のイメージは、コレクションを通して様々なルックで見られた。実際の羽をあしらった襟や、モスリンやシフォンによる羽をイメージさせる装飾、プリントなどで登場し、軽やかさを演出する重要なディテールとなっている。鳥の羽をモチーフにしたシルバーのチェーンベルトやネックレス、ドロップパールのイヤリングが合わせられ、ネオクラシックとモダンのコントラストも。ブラックドレスにはオーガンザの透け感をプラスし、羽を刺繍して風になびくような動きを持たせたアイテムも目を引いた。

 

 全てのキャットウォークが終了すると、リサ・マリー・プレスリーの娘、ライリー・キーオが登場し、ヴァネッサ・パラディさながらに鳥かご内のブランコに乗ってプリンスの「When Doves Cry」をパフォーマンス。

 

 次期アーティスティック・ディレクターの就任については、ジョン・ガリアーノ、トム・フォード、ジャクムス、セリーヌを離れたエディ・スリマン、はたまたヴォーグの編集長も経験したスタイリスト、カリーヌ・ロワトフェルドなどの名前が挙がっている。誰が就任してもしなくても、最注目ブランドの一つであり続ける「シャネル」である。

 

ヴァレンティノ(VALENTINO)

Courtesy of VALENTINO

 

 パリ郊外との境界にある14区の柔道場を会場にショーを行った、アレッサンドロ・ミケーレによる「ヴァレンティノ」のファーストコレクション。先だって発表された2025リゾートコレクションでは171体というボリュームだったが、今季は85体ものルックが登場し、今季のパリコレクション中最多となった。タイトルは“Pavillon des Folies(狂気のパヴィリオン)”。

 

 アーティスティック・ディレクターに就任して以来、ブランド内に残されている膨大なアーカイブをつぶさに研究・分析しているというミケーレ。1960~80年代の様々なエッセンスが交錯し、重厚さを持つルックでコレクションを構成している。

 

 ポルカドットや大きなフリル、重々しささえ漂わせる刺繍、ペイズリーなどカシミールを彷彿とさせるエキゾチックなモチーフ。「ヴァレンティノ」が長年あしらって来たディテールを各ルックに散りばめ、オムニバス的に見せている。しかし、そのままアウトプットするのではなく、デニムパンツやスニーカーをコーディネートしてモダンにアップデート。

 

 ランウェイにはトワル地が掛けられた調度品が置かれ、打ち捨てられた邸宅内のよう。ホーンテッドかつテアトリカルな会場と相まって、ただロマンティックだったり美しかったりするだけではない、タイトル通りどこかに狂気をはらみ、毒を感じさせるコレクションとなった。

 

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

Courtesy of Dries Van Noten/Photo by GORUNWAY

 

 ドリス・ヴァン・ノッテンがブランドから去り、元アシスタントを含めたデザインスタジオによる初のコレクションは、ヴァン・ノッテンが築いてきた世界観へのリスペクト・賞賛を込めた内容となった。

 

 パイソンモチーフやフローラル、マーブルペーパーモチーフのプリント、艶やかな光沢のあるジャカード素材、フロッキー加工素材など、様々な表情を見せる生地を巧みに操り、軽やかさと重厚さを兼ね備えたスタイリングを見せる。蘭の花の模様とパイソンを掛け合わせたスタッズのコートや、ジオメトリックなモチーフや具象的なモチーフのジャカード素材によるジャケット、あるいはコードを這わせたカーペットのようなジャカード素材のブルゾン。鮮烈なイメージを持つアイテムには、レースをあしらったシルクランジェリー風のアイテムを合わせて、アイテム同士の硬軟のコントラストを見せる。

 

 華やかなカラーパレットは、ボリウッドをテーマにした1997春夏コレクションを彷彿。ピンク、イエロー、グリーン、オレンジなど、ヴィヴィッドな色がほんの襟元部分だけに使われたり、ルック全体を彩ったり。そのコントラストも、このブランドらしさとしてコレクション全体に表出。

 

 どこかに過去のコレクションのエッセンスが見え隠れし、アーカイブを紐解いた跡が確認出来るのだが、これまでのイメージをより一層凝縮させたような強さが全体に漂っていた。

 

マックイーン(McQueen)

Courtesy of McQueen

 

 アレキサンダー・マックイーンによる1994秋冬コレクションにオマージュを捧げた、ショーン・マクギアによる「マックイーン」。アイルランド及びスコットランドに伝わる寓話の主人公で、死を告げる妖精である「バンシー」にイメージを求め、このブランドらしい大胆なアイデアに裏打ちされたテーラリングを融合させている。

 

 人間は寒さを感じた時に、身を縮こませながら服の前身頃を最大限重ねて暖を取ろうとするが、今季のジャケット類はその仕草から着想を得て、多くがツイストしてドレープを寄せたものになっている。アイテムによっては、チュールを挟み込んで透け感を出したり、背面に馬に跨るバンシーを刺繍したり、豊かなバリエーションを見せた。

 

 細かく裂いたシフォンをフリンジ状にして縫い付けた、バンシーをイメージしたドレスは、レースの上から刺繍を施してクチュール的な作品に仕上げている。バンシーの長い髪の毛を思わせるモンゴリアンラムのようなコートは、140mものシフォンを使用。糸を抜いてファーのような効果を出している。

 

 修道女のウィンプル(頭巾)を思わせるような特徴的な襟のシャツ、パブリックスクール風ルックや、ミリタリージャケットなど、厳格さを醸すユニフォームからの引用も見られ、レーシーで繊細なアイテムとのコントラストを演出。春夏コレクションではあるが、ヨーロッパの中でも寒い地域を想起させるコレクションとなっていた。

 

ステラ マッカートニー(Stella McCartney)

Courtesy of Stella McCartney

 

 2024春夏コレクションのショー会場と同じく、市場街であるサックス大通りをブロックしてオープンエアでショーを発表した「ステラ マッカートニー」。英女優ヘレン・ミレンによる「あなたが愛しているものを守りなさい」というメッセージが流れてショーがスタート。これは、作家で野鳥観察家のジョナサン・フランゼンの著作「地球の終わりの終わり」からインスパイアされたもの。

 

 力強さ、官能性、そしてスポーティというキーワードの下、鳥を救うことが地球を救うことに繋がるとし、今季は鳥のモチーフや鳥を想起させるアイテムが散りばめられている。再生ポリエステル素材による鳥の巣を想起させるドレスや、鳥をプリントしたトップス、鳥モチーフのチェーンブラなど、鳥インスパイアのアイテムがコレクションを彩っていた。

 

 オーバーサイズのジャケットはマニッシュに仕立てられ、ドレーピングのシースルードレスや、終盤に登場したレーシーでフェミニンなドレスやセットアップとコントラストを見せる。デニムジャケットやドレーピングトップスなどには、鉛フリーのクリスタルガラスが散りばめられ、コレクションにアクセントを加えていた。

 

 本コレクションは、全素材について91%の持続可能率を達成しているが、例えばシルバーカバーの「ステラ ライダーバッグ」は、サトウキビ由来の素材と菌糸体で作られた素材HYDEFYを使用。またコレクションを彩った鳥モチーフのアクセサリーは、王立造幣局傘下の「886ロイヤルミント(886 The Royal Mint)」とコラボレーションしたもので、電子機器や医療廃棄物を再利用した金と銀をあしらっている。クリエーションを通してブランドの方向性を明確にし、依然として徹底した姿勢を見せていた。

 

クロエ(Chloé)

Courtesy of Chloé

 

 シェミナ・カマリによる「クロエ」は、コレクションを通じて「夏への憧れ」、そして「自由」を表現。1970年代のカール・ラガーフェルドのアーカイブを研究し、モダンにアップデートしている。

 

 1970年代の雰囲気は、フローラルモチーフのドレスにより強く表れているが、ギャザーを寄せてボリュームを持たせ、前後で丈の長さを変えてよりエッジーかつドレッシーに仕立てた。冒頭のキャミソールやドロワーズなどのランジェリーのシリーズも、1970年代のアーカイブからの引用。ギピュールレースにコットンジャージーをミックスしてスポーティに。コクーンのような、ゆったりとしたシルエットのランジェリードレスも目を引いた。

 

 ギャザーを寄せたパフスリーブのジャケットは、多くがワークウェアからインスパイアされたもの。ランジェリーやシルクシフォンのドレスと、無骨さも漂わせるジャケットとのコントラストが鮮烈。

 

 リゾートの雰囲気も漂わせるが、今季は、カール・ラガーフェルドがミック・ジャガー夫人だったビアンカ・ジャガーやスーパーモデルのパット・クリーヴランドと過ごした、1970年代のサン・トロペでのバカンスもイメージソースとなっている。

 

ザ・ロウ(THE ROW)

Courtesy of The Row

 

 「Elevated staple(高められた必需品)」をイメージした、メアリー・ケイト・オルセとアシュレー・オルセンによる「ザ・ロウ」。今季は、ベーシックなアイテムを最高の素材で表現することに挑んだ。ブラックやホワイト、グレーなどのミニマルなカラーリングでまとめ、奥行きのある素材で軽やかに仕上げている。

 

 何気ないトップスも、狩猟に出るハンター用のニットに使用されるカセンティーノコットンで創り上げ、森に入った時に自然にブラッシングされる風合いを出している。

 

 トレンチやケープトップスなどは、ボリュームを持たせて新しいシルエットを提案。肩にショールを掛けたようなデザインのロングシルエットのイブニングも、重厚感のある素材をあしらってボリュームを持たせている。ボートネックのコクーンシルエットのトップスには、敢えてデニムパンツを合わせ、ドレッシーカジュアルのコントラストを演出。また、ポプリンをウオッシュしたワークウェア風シャツにはスカートを合わせ、相反する要素を1つのルックの中で表現。

 

 コーディネートされたシューズの多くはフラットタイプのバレリーナで、今季は開放的なイメージを演出するのに一役買っていた。

 

ラコステ(LACOSTE)

Courtesy of LACOSTE

 

 ペラジア・コロトロスによる「ラコステ」は、1920年代に電話交換局だった建築物を会場にショーを行った。イギリスを拠点とするアーティスト、スージー・マクマレーによるテニスのネットをモチーフにした作品をランウェイ中央の天井から設置。壁には波の映像を流すLEDモニター。

 

 創業者のルネ・ラコステが友人たちと海で楽しむ写真がインスピレーション源となったという今季は、1920~30年代の水着やテニスのエッセンスを散りばめながら、モダンなデイリーウェアを提案。

 

 1930年代を彷彿とさせるオーバーサイズのトレンチでスタート。バックサイドがオープンになったテニスウェア風ワンピースや、水着を想起させるタンクトップなどは、それぞれ時代感を漂わせながらも新鮮なアイテムに仕上げている。

 

 「ラコステ」のワニのマークは、ルネ・ラコステとアーティストのロベール・ジョルジュがコラボレーションして1927年に発表されたものであるが、今季はそのイラストをコートやニットのモチーフとして、細いベルトのバックルとして、様々な形で散りばめている。

 

 グリーン、イエロー、チョコレートブラウンなど、特徴的なカラーパレットが印象的だった今季。それぞれに深みがあり、美しいハーモニーを見せ、コレクション全体をより一層魅力的なものにしていた。

 

 

 

取材・文:清水友顕/Text by Tomoaki SHIMIZU

画像:各ブランド提供

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