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2023.11.04
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.92】「ミニマリュクス」が台頭 流麗な落ち感重視 2024年春夏ニューヨーク&ロンドンコレクション
写真左から「コーチ」「マイケル・コース コレクション」「バーバリー」「3.1 フィリップ リム」
2024年春夏のニューヨーク&ロンドンコレクションは物静かで流麗なレディー感が強まった。シルエットは全体にミニマルでありつつ、しなやかなリュクスをまとわせる「ミニマリュクス」が軸に。Y2Kやセンシュアルがやや後退し、飾り立てない品格を重んじる「クワイエットラグジュアリー」が台頭。ナイトシーンやお出掛け機会が増えたのを受けて、楽観と気品を同居させた装いが打ち出された。「地球沸騰」の時代を背景に、スリーブレスに代表される涼やかなルックが主役に。シアー素材やカットアウトを用いたエアリーなレイヤードが用意されている。
■ニューヨークコレクション
◆コーチ(COACH)
パワフルだった1990年代ニューヨークへの郷愁を歌い上げた。ブランドシンボル的なレザー素材を多用。スリップドレスやトレンチコート、バイカージャケットなどに仕立てている。セットアップでウエストを見せる演出も。レザージャケットでの「ボトムレス」コーデまで披露した。
ボディコンシャスのニットドレスからはブラトップを透かし見せ。テーラードとプレイフルをねじり合わせた。キーピースのバッグは左右に2個持ち。大小のずらしコンビネーションが動感を引き出している。エコフレンドリーな取り組みがグランジやパンクの気分を帯びた「レトロック(レトロ×ロック)」感を濃くしている。足元はパテントスニーカーやモーターサイクルブーツが90s感を添えた。スチュアート・ヴィヴァースは就任10周年をナイトクラビングとパワードレッシングでエキサイティングに彩った。
◆マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)
◆マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)
“ホリデーバケーション”をテーマに、リゾート旅に誘うかのような装いをそろえた。総レースのボディコンシャスなドレスは清らかで涼しげ。袖はベルスリーブ。かご風バッグを携え、足元はフラットサンダルだ。ブラトップの透かし見せを多用。
白シャツやジャケットにミニボトムスを引き合わせた。高い位置にベルトを巻いたり、バスト下でエンパイアシルエットに切り換えたり。ニットアップやセータードレスがしなやかにボディラインを描き出す。ゴールドのリングチェーンがゴージャスに装いを彩る。深めのVネックや大胆なスリットがエフォートレスなセンシュアルを寄り添わせる。花柄とジラフモチーフも伸びやかな景色で、楽観とロマンティックが手を取りあうようなコレクションを披露した。
◆トリー バーチ(Tory Burch)
クワイエットラグジュアリーを軽やかでやさしげなトーンに整えたような装いを用意した。ジャケットは曲線を帯びて朗らかな表情を映し出した。両袖の内側に深くスリットを入れて、ヌーディーな見え具合に。U字形の深いフロントも女性らしい曲線美を演出。シャイニーなコートドレスはフューチャリスティックな気分に誘う。
ボタンレス仕様のジャケットで堅さをオフして軽やかなたたずまいに。スカートはミニ丈で若々しいムードで。ワンショルダーのミニドレスも披露した。フィッシュネットの重ね着で涼やかなレイヤードに。クリノリン風にスカートを膨らませてボリュームを弾ませた。スポーティでクラッシィというブランドの強みを発揮。バレエシューズ風のフラットパンプスが足元にも伸びやかな気分を注ぎ込んでいた。
◆3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)
◆3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)
エアリーでヘルシーな装いを並べた。ブラトップやショートトップス入りのセットアップにシアー服を重ねるレイヤードは上品でさわやか。多用したスリーブレスもヌーディー。セットアップにはジレやショートパンツ、ワイドパンツも組み込んで、デニムはアシンメトリーに上下で仕立てた。
スカーフで仕立てたようなシリーズは気負わないエレガンスを漂わせ、ドレープ使いの巧みさが際立つ。黒主体のドレッシーな上下には透け感をまとわせた。シャツジャケットやパジャマなどでくつろいだ雰囲気を差し込んだ。フルレングスのイブニングウエアは優美に流れ落ちるシルエット。コードやビジューを配して動きを添えている。ゆかりのチャイナタウンで久々のランウェイショーを開き、ニューヨークの多様性への敬意と愛着を示した。
■ロンドンコレクション
◆バーバリー(BURBERRY)
英国流のアウトドアライフに誘った。シグネチャーアイテムのトレンチコートを夏向きにシフトさせ、重たさをそぎ落とした。カシュクール風やオーバーサイズなど、再構築のバリエーションが多彩。シルエットはローウエストが目立つ。ベルトをヒップラインにまで下げ、重心を落とした。
シャツ襟をトレンチ襟にかぶせる小技が目を引く。トレンチを背中側にずり落ちさせる着方も面白い。ノースリーブやパンツ、セットアップは全体にミニマル。肩掛けバッグはロングストラップで落ち感を出している。花柄のロングドレスは極彩色が鮮やか。ワンショルダーのドレスは流れ落ちるカスケード仕上げ。ヘリテージやブランドコードを重んじながら、トレンチの変形や新キーカラーのナイトブルーなどの新機軸を打ち出してみせた。
◆ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)
◆ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)
カラフル、プレイフル、ウィットフルのファニーなルックを並べた。主役はMA-1。詰め物が破れ目からあふれ出すという、奇想が弾む。ボトムレスルックも見せた。ビニール仕立てのTシャツは中綿をぎっしり詰めて、パフィに膨らませている。ケミカルな質感が原色となじんでいる。
帯状の布をあちこちで交差させたバンデージドレスは立体感が豊か。ニット・ワンピースはゆるめの編み地が涼やかに演出。トレンチコートはドレスライクに仕立てている。タイトフィットのボディスーツには、パニエ風に膨らませたスカートを引き合わせて、量感を揺さぶった。フーディーは極太のドローストリングスを添えて、ミニ丈ワンピース風にトランスフォーム。見慣れたアイテムを、見たことのないイメージに昇華させた。アート好きの本領を発揮したギャラリー風のこの上なくアイデアフルな演出だ。
◆アーデム(ERDEM)
英国の上流階級ムードとノスタルジーを立ちこめさせた。アンティークの生地を用いて、ドレスを仕立てている。ベアショルダーの夜会服風ドレスに、ロンググローブを合わせた。フィット&フレアの貴婦人ライクなシルエットが気品をまとわせる。裾が広がるプリーツスカートやリボン付きシューズにエレガンスが薫る。
ブラトップとショートジャケットのコンビネーションを押し出した。英国邸宅モチーフを随所に写し込んで優雅に。シアースカートや部分レースをレイヤードに組み込んでブラトップを透かし見せ。ロマンティックな花柄がノスタルジー気分に誘う。着丈の長いジャケットにはロングスカートを合わせて、落ち感を高めた。鮮やかな色のライダースジャケットにはスタッズを全面に施し、強さと高貴さが交じり合わせていた。
タイムレスの流れを受けて、ノスタルジーやロマンティックをほのかに漂わせる演出が目立つ。ディテールで意外性を出す演出が増えた。優美に流れ落ちるシルエットが主流になり、テイスト面ではアッパー志向が濃くなってきているようだ。
画像:各ブランド提供
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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