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2023.01.09
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.86】自己肯定感と強さまとう マインドセットを上向きに 2023年春夏ファッションの6大トレンド
写真左から「プラダ」「ディオール」「ロエベ」「ドリス ヴァン ノッテン」
2023年春夏コレクションではボディコンシャスに象徴されるポジティブな自意識が熱気を帯びさせた。何者にもよりかからないインディペンデントな女性像が提案され、強さやアクティブ感が盛り込まれている。ウェルビーイング(健やかさ)への意識も高まり、装いは軽やかでしなやかに。「自分らしさ」をセルフプロデュースするような着こなしが支持を集めそうだ。
◆セルフコンシャス(Self Conscious)
写真左から「フェンディ(FENDI)」、「ミュウミュウ(MIU MIU)」
自分のありようをポジティブに肯定する装いが新シーズンの軸に座る。体の線を際立たせる「ボディコンシャス」が復活。でも、かつての妖艶さは遠ざけ、健やかさを前面に押し出す。体型や年齢に関係なく、プラウドな自意識でまとうのが今の傾向だ。
具体的なアイテムではフィット感の高いボディスーツやミニドレスなどが主役に躍り出る。体の輪郭を描き出す「セカンドスキン」系ウエアは選択肢が広がりそう。シアー素材で素肌を透かし見せるスタイリングも増える。ショート丈やカットアウトでのチラ肌見せが印象づけるのは、セクシー感よりヘルシー感。スパンコールやビジュウのきらめき演出がボディにゴージャスさを上乗せする。
◆アウトランジェリー(Out Lingerie)
写真左から「セリーヌ(CELINE)」、「バーバリー(BURBERRY)」
ウエアの「インとアウト」が入り交じる。内側に着る「イン」の代名詞的なランジェリーは、「アウト」系のワークウエアやストリートアイテムとマリアージュ。ビスチェにカーゴパンツを合わせるような内外同居型のスタイリングが盛り上がる。ランジェリー風味を帯びたワンピースやボトムスが控えめなセンシュアリティ(官能性)を漂わせる。
出番を選ばないシーンフリーの拡張が進む。ランジェリー風でありながら、エロスは封じ込め、Y2Kのようなチャーミングさや初々しさを醸し出すのが新シーズンの流儀。ワンピースにベビードールを忍び込ませるようなクロスオーバーが加速。タフなイメージのワークウエア系パンツにもフェミニン感をプラス。つやめき生地が落ち感を引き出し、しなやかなシルエットを描き出す。
◆ネオ・スーチング(Neo Suiting)
写真左から「ランバン(LANVIN)」、「グッチ(GUCCI)」
スーツの新解釈が勢いづく。長く続いてきた本格テーラードにもウィットフルなアレンジが加わる。大胆な解体や再構築が試される。肩を張った1980~90年代のパワーショルダーがカムバック。角張ったボクシーや、ウエストを絞ったシェイプドなどのシルエットもダイナミック。サルトリアル(職人仕立て)のたたずまいを残しつつ、若々しく軽快な着映えに導いている。
ジャケットの着丈はクロップド丈からロング丈まで、バリエーションが広がる。ボトムスにショートパンツやミニ丈を迎えるマッチングは普段使いに誘う。ダブルブレストはジェンダーレスな風情。サンダルを履くような、抜け感を漂わせるコーディネートがスーツの堅苦しさをそぐ。
◆ダイナミックコントラスト(Dynamic Contrast)
写真左から「ヴェルサーチェ(Versace)」、「バルマン(BALMAIN)」
おしゃれマインドの高揚を追い風に、フォルムの主張が強まる。ボリュームの強弱で動きを出すコントラスト演出は装いをダイナミックに弾ませる。フィット感の高いウエアとのコンビネーションが装いの見どころに。ウエストシェイプを利かせたり、裾を広がらせたり。膝でくびれさせたマーメイドラインはエレガンスを薫らせる。
レトロ感を呼び込むのは裾周りの仕掛け。ジャケットは古風なペプラムがレディー感を醸し出す。ワンピースやスカートはラウンドを帯びたバブルヘムで朗らかな雰囲気に。ディテールでは長めのフリンジがヒッピーライクな表情をまとわせる。ボリューミーなデコラティブ靴も足元を華やがせる。
◆ヴィンテージ・グランジクラフト(Vintage Grunge Craft)
写真左から「クロエ(Chloé)」、「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」
ラグジュアリーブランドが自らヴィンテージを扱うまでにリセール市場が厚みを増している。新作アイテムにもヴィンテージを盛り込むクリエーションが目立つ。古着との棲み分けを図るかのように、手仕事技を注ぎ込んで、格上テイストに仕上げている。SDGsやタイムレスの流れを受けて、経年変化を味わえる愛着アイテムが提案されるようになってきた。
新シーズンに勢いづくのは、グランジとのミックスだ。90年代気分を宿した、モダンヒッピー風のたたずまいが見直されている。ノスタルジックな雰囲気を醸し出しながらも、ストリートに寄せないで、レディーライクにアレンジする「エレガントグランジ」が新傾向だ。ビーズやパッチワークなどのハンドクラフトが温かみを添える。
◆プラウドロック(Proud Rock)
写真左から「ジバンシィ(GIVENCHY)」、「サカイ(sacai)」
芯が強く、自立した女性像が打ち出されている。スタンスはジェンダーニュートラル(中立的)でプラウド。ロック魂を秘めたライダースジャケットは象徴的なアイテム。パワースーツやトレンチコートも凜々しさやタフ感を印象づける。マニッシュ寄りの着こなしだが、スカートや靴でフェミニン感を盛り込むアレンジがかつてのダンディーレディーとの違い。気負わない自然体の立ち位置だ。
たくましくしなやかといった両面性を兼ね備えたイメージが装いに深みをもたらす。デニムは多彩なバリエーションが登場。ストレッチジャージやシアーなどの素材が自在の着こなしに寄り添う。たおやかに仕立てたカーゴパンツはアイコニックなボトムス。張り出しポケットが強めのキャラクターをまとわせる。
23年春夏シーズンの合い言葉は「ボディポジティブ」。伸びやかな気分でおしゃれを楽しむよろこびを取り戻す装いに誘う。やや羽目を外すぐらいの勢いで、ファッションとたわむれる着こなしも盛り上がりそう。ようやくハッピー感をまとうことに引け目やためらいを感じなくて済む状況が戻ってくるような気分を先読みして、素肌見せやランジェリー使いに踏み込んだ。プラウドな強さを備えた女性たちへのエンパワーメントが新シーズンのファッションミッションとなりそうだ。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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