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2015.03.18

“エッヂ”の効いた商業施設 大阪・梅田の「イーマ」が全館リニューアル

 商業施設というものは、時代性に合わせて常に改装を続けていく存在だ。大幅な売上不振に陥ることがない限り、閉館することはあまりない。ただし、時代ごとにその勢力図は刻一刻と変化する。強い選手や有能な監督の有無で黄金期と低迷期とに分かれる世界のプロチームスポーツに似ていなくもない。新世紀が明けたばかりの2002年に新規オープンした大阪・梅田の「イーマ」が4月16日、全館規模のリニューアルを実施する。当時は“エッヂ”の効いた商業施設として、業界の話題になったファッションビルである。

個性派テナントの揃ったファッションビル

 「イーマ」は開業時、まだ珍しかった「ジャーナルスタンダード」「シップス」「ユナイテッドアローズ」のセレクトショップ御三家を揃えた商業施設として関心を集めていた。インテリアの「フランフラン」の新業態「Jピリオド」や、レザーアイテムを扱う「クエルクス」など、周辺施設に出店していなかった個性派テナントを集積していた。当時、流通担当記者として、内覧会やオープン後の推移を取材したが、入口正面が吹き抜けになっていて、「なんて贅沢な空間の使い方をするのか」と驚いた記憶がある。ちなみに「イーマ」の名前は、“良い”“間=空間”を組み合わせた“良い間”に由来する。

 百貨店の「阪神梅田本店」の南側に通りを一本隔てた場所にある「イーマ」。大阪・梅田地区の一等地である。今もそうだが、地階は地下街「ディアモール大阪」と連絡しており、地上と地下からの流入を狙った構造だった。売り上げは順調に推移し、2006年度には年間売上高が93億円と最高値を記録した。当時の30-40代など若い層のファッションに関心が高い高感度な顧客を取り込んでいた。7-13階の東映の映画館「梅田ブルク」は複数スクリーンを持つシネマコンプレックスで、これも集客に貢献した。シネコンも当時はまだ目新しい存在だった(現在はやや食傷気味になっているが…)。

 

 開業後最初の改装は2008年。セレクト御三家からの変化――モノからコトへ再編し始めた時期だった。時を同じくして、複数の所有者がいた「イーマ」の下層階部分(地下2階-6階)が三菱商事に売却された。現在は、ザイマックスプロパティズ関西(大阪市北区)が管理・運営を担当している。

プロパティマネジメントの先駆的な物件に

 「イーマ」のオープン当時、取材を通して初めて耳にしたのが「プロパティマネジメント」という言葉だった。第三者に不動産の運営を委託し、最大限の効果(売り上げ)を上げてもらうという手法で、現在では頭文字を取って“PM”と呼ばれるようになっているし、そうした物件もたくさんあって広く知られているが、当時はまだ珍しい運営手法だった。これだと、ビルのオーナーに商業施設の運営ノウハウがなくても、ファッションを扱うことができる。

 

 現在では、こうしたファッションビルや商業施設の管理・運営を担う専門業者が一般的になった。不動産企業が系列にそういった会社を持つようにもなった。「物件の所有と経営を分けるのがPMの基本」だと、イーマの濱田和幸館長は説明する。

 

 PMの利点は、リーシング、運営の専門家が明確なコンセプトの下、より理想に近いフロア、テナントを構築、誘致できることだろう。当時の取材で、「PMは米国からの輸入」と聞いたが、日本では新しい商業施設の運営形態だったのである。

売り場の軸はぶらさず、南地区も視野に

 来たる4月16日のリニューアルオープンだが、強みのファッションアパレルに加えて、“サービス業態の充実”“スポーツアウトドアブランド”の強化が特徴だ。サービス業態の充実という点ではすでに昨年12月と今年1月、4階フロアが先行オープンしている。リゾートウエディングサロン「アールイズ・ウエディング」、フェイシャルエステ&メイクアップ・化粧品の「ベキュア」、ネイル・ヘア・エスパサロン「ビィーク」の3店舗である。5-6階の飲食フロアは既存店舗で営業中。地階と2-3階が主なリニューアル個所だ。一部、4月下旬にオープンがずれ込むテナントもあるが、書き入れ時のゴールデンウイークには間に合うようである。改装計画は昨秋から進んでいた。商業施設が増え過ぎて「混沌とする梅田地区において、ほかの施設にやれないことをやっていく。(開業した)2002年以来のコンセプトを踏襲する」(濱田館長)と語る。

 

 スポーツアウトドアブランドは3階に集積。「ジャックウルフスキン」や「アークテリクス」「マムート」など新規、個性派7ブランドが4月16日にオープンする予定だ。メンズ「トッドスナイダーライブラリー」「ロフトマンコープ」など個性派ファッションも導入するが、新規出店、関西初出店などといった“初顔”が目的ではないという。

 

 「関西初などにはこだわっていない。本来、テナントがやりたいこと、(広いスペースを使ったブランド観の演出など)ここでしかできないことをやってもらう」(濱田館長)ことが第一義だという。そのため、定期借地契約の期間も長めだという。「じっくりお客さんを作っていきたい」(同)というスタンスである。梅田の南側――「イーマ」の南側のオフィス街顧客も取り込みたいという。「大量消費のありきたりではないことにチャレンジする」(同)。年間売上高目標はピーク値には届かない予想だが、こういう個性派施設は、ついつい応援したくなる。


 

 

樋口 尚平
ひぐち・しょうへい

 

ファッション系業界紙で編集記者として流通、スポーツ、メンズなどの取材を担当後、独立。 大阪を拠点に、関西の流通の現場やアパレルメーカーを中心に取材活動を続ける。

 

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