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2012.10.02

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.2】NY・ロンドン 2013春夏コレクション

◆2013年春夏 ニューヨークコレクション

 ストライプ柄やホワイトルック、SF感覚、ビーチスタイルなど、目を惹く新トレンドがたたみかけるように提案され、2013年春夏ニューヨークコレクションは装うよろこびをランウェイから語りかけた。シルエットは飾り立てず、モチーフや素材で遊ぶ演出を印象づけた。夏には時季はずれ気味の長袖スリムシルエットやサマーコートなども提案された。

 

 久しぶりのリバイバルとなったストライプ柄は13年春夏シーンを最もにぎわすモチーフになる気配が濃い。「マーク ジェイコブス」が披露した極太の縦縞で上下を貫くツーピースを筆頭に、全身ストライプのスタイリングもお目見え。このところ続いたボーダー柄から一転して、視線を縦に誘うすっきりルックが台頭しそうだ。

 ダイナミックな柄模様使いはストライプにとどまらない。「マイケル コース」が見せたジオメトリック(幾何学的)パターンや、「タクーン」の鳥モチーフ、「トリー バーチ」の植物柄などで全身をドラマティックに彩る装いが相次いだ。「トム ブラウン」はチェック柄、「3.1 フィリップ リム」はパッチワークや柄on柄を提案。

(左)鳥モチーフ、THAKOON NY 2013SS
(右)植物柄、TORY BURCH NY 2013SS
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(左)チェック柄、THOM BROWNE NY 2013SS、Photo by Dan and Corina Lecca
(右)植物柄、3.1 Phillip Lim NY 2013SS
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 「デレク ラム」はレースのジオメトリック模様を見せた。目の錯覚を利用して未来的なムードを醸し出すオプティカルアートやキネティックアートなどを取り入れたようなグラフィカルな絵柄も多く、「着るアート」の趣で盛り上がった。複数の柄を重ねる「柄on柄」は日本でもヒットしそうだ。

 視線をとらえる柄パレードの一方で、繰り返し打ち出されたのが、オールホワイトの清潔でノーブルな装い。「アレキサンダー ワン」「DKNY」「ボーイ バイ バンド オブ アウトサイダーズ」などが白一色のファーストルックを送り出した。

(左)ビーチ×アスレチック、DKNY NY 2013SS
(右)オールホワイト、Boy. by BAND OF OUTSIDERS NY 2013SS
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 シャーベットトーンが沸かせた12年春夏シーンとは打って変わって、カラーレスでクリーンな白無垢姿を目に焼き付けた。「ビーシービージーマックスアズリア」が見せたような、白を最も引き立てる黒と重ねるスタイリングや、素材感でも互いを際立たせたりする「レザー×レース」のマリアージュも、クールでミステリアスなムードを引き寄せていた。

 13年春夏の脇トレンドとなりそうなのが「SF」や60年代。「ダイアン フォン ファステンバーグ」はグーグル・グラスを着用して話題になった。

 ダイビングスーツに使われるネオプレン素材やケミカルに照り映えるナイロン生地などを操って、フューチャリスティックな風情を漂わせる装いが「マイケル コース」「ヘルムート ラング」など、あちこちのパワーブランドから届けられた。透明なフィルム状のマテリアルを用いた新手のトランスペアレントは水に濡れたようなつやめいた見栄え。

フィルム状のマテリアル、Helmut Lang NY 2013SS
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 ゴーグルサイズのアイウエアも宇宙や近未来の気分を持ち込んだ。未来的な雰囲気はあるものの、多くはノスタルジック感も漂う。人類がまだ機械文明に楽天的な期待感を抱いていた1960年代の未来観を写し取ったかのようなレトロフューチャーのムードがかえって目新しく感じさせる。

ゴーグルサイズのアイウエア、MICHAEL KORS NY 2013SSS、Photo by Fernando Colon
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 これまでも提案されてきた、シーンをまたぐスタイリングはさらに一歩踏み込んだ。ビキニ水着風の肌見せウエアにジャケットやコートを重ねる着こなしは、ビーチルックを街になじませる試み。アスレチックなショートパンツと合わせるスーツ風コーディネートも目立った。「ラグ&ボーン」で提案されたビスチェやチューブトップを主役に据えた腹出しスタイルが復活。「カルバン クライン コレクション」は円錐状のコーンブラをビスチェに組み込んだ。セクシーすぎないランジェリーとの融合が進んだ。

(左)ビスチェ、チューブトップ、rag & bone NY 2013SS、Photo by Ming Han Chung
(右)ランジェリーとの融合、Calvin Klein NY 2013SS、Photo by Dan Lecca
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 シルエット面でメインストリームになったのは、角張ったボクシー系。半面、身体のラインになじむボディーコンシャス系も多く見られ、大きく二極分化する流れとなった。テイストの面では抽象的アートをまとう装いのほか、スポーティー、ビーチ、60年代風、グランジなど、ミニマルの流れに控えめなスパイスを添えるような味付けが新傾向となっていた。アイテムはジャンプスーツや夏コート、ビスチェトップス、フィルム素材シースルーなどが新顔だ。

◆2013年春夏 ロンドンコレクション

 柄やホワイトルック、ビーチスタイルなどの傾向は、続くロンドンコレクションでも見られた。モダンアートのような柄や鮮やかなカラーブロックなどでよりはっきり主張された。一方、ニューヨークでは控えめだった、襟や裾でシアトリカルなシルエットに仕上げる提案も相次いだ。

モダンアートのようなカラーブロック
Paul Smith London 2013SS
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 クラシックな英国スタイルと現代的なロンドンストリート風を溶け合わせる試みが目に付いた。艶美なケープとボディースーツ形の水着を重ねたファーストルックを見せた「バーバリー・プローサム」はそのシンボルと映る。「アクネ」は黒白ストライプやハーネス(安全留め具)巻きのブーツ、文字ロゴ、夏のジャケットやコートというアイテムなどで、新トレンドと共鳴していた。

 13年春夏シーンの口火を切ったニューヨークとロンドンの4大コレクション前半戦では、ここ何シーズンかもてはやされたミニマル傾向からの揺り戻しが見られた。フォルムをにぎやかにするのではなく、柄や素材で分かりやすく鮮度を上げるアプローチには、ミニマルを求めた時代の気分は尊重しつつ、「プチモード」に手を引く誘惑で、ささやかな冒険へ背中を押そうというクリエイターのたくらみがのぞく。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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