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2012.11.30

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.3】パリ・ミラノ 2013春夏コレクション

 2013年春夏パリコレクションはアシンメトリー(非対称)フォルムやラッフル&フリル使いなどの技巧を凝らしつつ、シルエットはミニマル傾向を強めた。ニューヨークコレクションからの流れを引き継ぐかのように、オプアート的な模様や柄の演出も躍った。ミラノではジャポニズムやオリエンタル趣味が打ち出され、世界を覆うシンプル傾向に同調しない反骨の志をうかがわせた。

 

 フォルム面で押し出されていたのは、左右や前後で丈、形を変えるアシンメトリーの仕立て。ワンショルダーや丈違いスカートなどのバランス崩しが目立った。ボレロ丈の短いジャケット、腰骨の下ではくローウエストなども提案されていた。ただ、全体的にはロング&リーンのすっきりしたシルエットが主体になっていて、ミニマル志向の定着を印象づけた。

(左)ワンショルダー、CoSTUME NATIONAL PARIS 2013SS
(右)植物柄、TORY BURCH NY 2013SS
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 モチーフの面では、目の錯覚を利用した幾何学的な模様をダイナミックに配したオプアート風の柄が目を惹いた。ワンピースや上下セットアップに、ストライプや市松模様などの統一したモチーフをあしらって、全身をアイキャッチーな柄で染め上げた。色は黒や白、ベージュピンク、ベージュ、ブルーが多用され、上下を同じ色でまとめるワントーンが目についた。

(左)ロング&リーン、GIORGIO ARMANI MILANO 2013SS
(中)オプアート風、VERSUS MILANO 2013SS
(右)オプアート風、ISSEY MIYAKE PARIS 2013SS Photo by Koji Hirano
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 テイストやスタイリングの面では、日本調や東洋的デザインが新顔。キモノスリーブやエスニックディテールがシンプルの流れに別の風を吹き込ませていた。ラッフル、フリルなどの装飾はミニマルにエレガンスを差し込んだ。レトロフューチャーも新トレンドとなり、透ける素材や、濡れたような表情の光沢のあるマテリアルも登場。素材面ではサマーファー&レザーがシーズンレスの傾向を裏付けた。

(左)東洋的デザイン、ETRO MILANO 2013SS、Photo by Koji Hirano
(右)トランスペアレント、プリズム、BOTTEGA VENETA MILANO 2013SS Photo by Koji Hirano
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◆2013年春夏パリコレクション

 エディ・スリマン氏が率いる新「SAINT LAURENT(サンローラン)」で、スリマン氏はお得意の細身スタイリングを軸にしつつ、ボヘミアンやロックスピリットを注ぎ込んだ。かつてこのスーツを着たいがためにカール・ラガーフェルド氏が大減量に励んだという伝説を持つ「ディオール オム」で一時代を築いたスレンダーシェイプに磨きを掛けた。タキシード風ジャケットと極細パンツの組み合わせは禁欲的な輪郭を切り出していた。

 スキャンダラスなデザイナー解任劇を経て、ラフ・シモンズ氏にゆだねられた「Dior(ディオール)」。ストイックな構築美で知られる「Jil Sander(ジル・サンダー)」から移ったシモンズ氏はソリッドな黒一色のパンツスーツでブランド新生を宣言した。創業デザイナーが考案したAラインをはじめ、メゾンの歴代アーカイブにオマージュを捧げつつ、クラシックな原型に、アシンメトリーなアレンジや透ける生地などを重ね、静かな熱情を忍び込ませた。

◆2013年春夏ミラノコレクション

 ミラノコレクションではトレンド羅針盤の「PRADA(プラダ)」が日本の着物文化に敬意を払った。ジャケットやドレスに和服風の布扱いを持ち込んで、肩から斜めに掛け落とすようなアクロバティックで立体的な仕立てを試みた。抜き衣紋(襟足を出す着方)や足袋などの着物ディテールも転用。花魁(おいらん)が履いた高歯の下駄に似た厚底シューズまで披露した。柄や色にも和の風情が混ぜ込まれていたが、単なる着物コピーではなく、かすかなシニカルが隠し味になっていた。

 以前から現代アートへのリスペクトをクリエーションに根っこに抱く「MARNI(マルニ)」だけに、ストライプを筆頭にしたオプアートの流れはしっかり受け止めてみせた。複数の幾何学的モチーフをぶつけ合わせて、軽やかなケミストリー(化学反応)を生んだ。総花柄やペプラム、フレア裾などの装飾性は、引き算が過ぎるミニマル志向への物静かな反論とも映る。

 「GUCCI(グッチ)」は色で主張した。濃いピンクのパンツスーツで始まったコレクションはブルーやイエローなどのはっきり色に彩られ、色数を絞るミニマルの流れに便乗しないムードをアピール。宇宙服を思わせるメタリックカラーの上下もあった。過剰に開いた袖先やハイネックのブラウスは貴族風。肩をさらしたカットや、大胆に深いスリットも服のドラマ性をあらためて証明し、このブランドらしいリッチな気分でランウェイを包んだ。

 創業デザイナーが復帰した「JIL SANDER(ジル・サンダー)」。無駄を削ぎ落としたスタイリングでは今のうねりをずっと前に予言した存在だ。そのサンダー氏はミニマル全盛のモードシーンにあっても、理知的で張り詰めた美意識が特別な高みにあることを見せつけた。硬質なシンプリシティー、ダークカラーと白のクリアなコントラストはさびつきを感じさせない。建築的なフォルムや抑制の利いたカッティングがクリーンでピュアな女性像を描き出した。

 生まれ故郷シチリアの街のざわめきと歴史をプリントモチーフでドレスに落とし込んだ「DOLCE&GABBANA(ドルチェ&ガッバーナ)」。強い色を重ねて、生命感をみなぎらせた。ドレスは袖にふくらみを持たせ、グラマラスなプロポーションを目に焼き付ける。新トレンドのストライプもカラフルな彩りにアレンジし、イタリアンロマンティックを薫らせた。ビスチェ、チューブトップをドレスに溶け合わせ、ランジェリーをあでやかにアウター化してのけた。

 オリエンタルムードを色濃く立ちこめさせたのは「EMILIO PUCCI(エミリオ・プッチ)」。ベトナムの民族衣装を連想させる白いドレスをはじめ、東南アジアや中国に着想を得たとおぼしきデザインやモチーフが畳みかけるようにランウェイへ送り出された。ドラゴンや虎のモチーフ、チャイナ服風の飾りボタンなども配して、エキゾチックな気分を高めた。ビーズの刺繍やシースルーのニードルワークなどは東洋的なリュクスを薫らせていた。

 劇的な作風で知られたアレキサンダー・マックイーン、ジョン・ガリアーノの両氏が去り、リアルな作風が勢いを増してきたパリ。らしさを保ちつつ、世界的な潮流への目配りもおろそかにしないミラノ。それぞれの立ち位置を少しずつ微調整しながらも、各メゾンの担い手たちは新しいスタイルを提案した。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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