PICK UP

2013.06.07

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.9】2013~14年秋冬ファッションを色めかせる6大トレンド

 2013-14年秋冬のトレンドはおしゃれに前のめりの気分を映す。ジェンダーを軽々と踏み越え、過剰なまでのデコラティブを楽しみ、ロックのリズムに酔う――。禁欲的なミニマル志向が陰る半面、朗らかなオーバーサイズやフェテイッシュな肌見せが台頭。ファッション体温計の目盛りを上げる装いの提案が相次ぎ、秋の訪れが待ち遠しくなりそうだ。

◆ジェンダーフリー

(左)ルイ・ヴィトン Pairs 2013AW / Photo by Louis Vuitton
(右)アレキサンダーワン NY 2013AW / Photo by Ming Han Chung

 男性の装いを拝借するマニッシュがトレンドになって久しい。13-14年秋冬はその傾向がさらに深まり、ジェンダー(社会的性差)をことさらに意識させないほどにメンズがウィメンズと溶け合う。最初からウィメンズ向けに仕立てられたコートドレスのように、紳士服からの借り物感が薄く、フェミニンを際立たせる提案が相次ぐ。これまでのような「ハンサムウーマン」仕様ではなく、ダンディーを気取らず、もっと自然に女性らしい着こなしになじむテイストが新味を感じさせる。紳士服の本場、英国のモチーフはさらに濃くなる。従来の一般的なチェック柄よりも格子の大きいウインドーペーンやグレンチェックが品格と落ち着きをもたらす。

◆ユーモラスカーブ

(左) ケンゾー Paris 2013AW
(右)ランバン Paris 2013AW

 ほっこりした曲線の輪郭が柔和な表情を生む。U字磁石を連想させる肩のラウンドは微笑ましい眺め。ソフトに身体を包み込み、ボディーラインを隠す。ビッグシルエットのアウターというトレンドとも歩調がそろう。表面に張りを持たせるボンディング加工は穏やかなカーブを描く。つややかなレザーやボリューミーなファーも曲線の景色を引き立てる。スポーティなスウェット、タフ顔のボマージャケット、裾広がりのフレアスカートなどにも、ユーモラスな丸みが忍び込む。

◆フェテイッシュモダン

(左)グッチ Milano 2013AW / Photo by Koji Hirano
(右)プラダ Milano 2013AW

 過剰なセクシーを遠ざけつつ、フェテイッシュな色気を漂わせるスタイリングがクローズアップされそうだ。デコルテ周りに素肌をさらす、透明感のあるヌーディー演出もその1つ。強いエロスを押さえ込んだ、節度あるモダンな味付けがキートーンになる。ペンシルスカートで引き締まったレッグラインを布越しに印象づけるような、ノーブルなセンシュアルは、成熟した女性の魅力を引き出す。深くスリットを入れたスカートは、堂々とした足裁きに視線を引き込む。

◆ネオマキシマリズム

(左)トム フォード London 2013AW / Photo by Koji Hirano
(右)ディースクエアード Milano 2013AW / Photo by Koji Hirano

 ここ数年、ランウェイを支配してきた、余計なデコレーションを極限まで削り込むミニマリズムが退潮を始めた。入れ替わるように台頭してきたのが、真逆の方向感を持つ「装飾主義」。しかも、これまでの反動もあってか、大胆でグラマラスなムードをまとっているのが新たな傾向。ニードルワークや、ジャイアントカラー(襟)、デコラティブカフス(袖先)、ペプラムなど、目をとらえるディテールを配してリュクスに飾り立てる。ダイナミックなプリント柄やアートなモチーフも秋冬の街を彩りそうだ。

◆ラグジュアリーパンク&ロック

(左) サンローラン Paris 2013AW
(右)エミリオ プッチ Milano 2013AW

 パンクやロックの攻撃的なムードを、ラグジュアリーとねじり合わせた新テイストがランウェイを勢いづかせた。ロックから発した装いは、これまでストリートファッション色が濃かったが、新トレンドは挑発的な気分は引き継ぎながらも、リッチ感やモード性とのマリアージュを試みる。レザーやメタリックなどのロックらしい素材を操りつつ、ハイファッションならではの流麗なシルエットに溶け合わせた。着古した風情が持ち味のグランジでさえも、グラマラスにひねり、エイジフリーな大人ロッカーの雰囲気を引き寄せている。

◆エフォートレスリッチ

(左)マックスマーラ Milano 2013AW
(右)エルメス Paris 2013AW

(左)ルイ・ヴィトン Paris 2013AW / Photo by Louis Vuitton
(右)マーク ジェイコブス NY 2013AW
コレクションレポート | ファッションショーの画像・写真はこちら

 頑張りすぎないヌケ感や、肩の力を抜いたリラクシングなたたずまいが支持を広げている「エフォートレス」。このテイストを軸にしながら、華やいだリッチ感を差し込んだ装いは、着やすさとリュクスを両立させる。スラウチという表現が象徴する、ゆるめの着こなしが、あでやかなディテールを施されて、ゴージャスに表情を変える。
例えば、最もくつろいだ衣服であるはずのパジャマでさえ、まるでスーツのようにアレンジ。シーンをまたぐ着こなしに変身させた。

 

 ストイックなミニマルのうねりが鎮まって、スリリングなおしゃれの実験精神が戻ってきた。ジェンダーやシーンといったファッションの「約束事」を挑発するかのような試みが相次ぎ、ファッショニスタのモチベーションも刺激されそう。ただ、節度やグッドセンスといったミニマルの残り香も受け継がれている。ポジティブと慎ましやかさ、ウィットと気品といった相反する方向感を両立させるような際どいテイストミックスが新シーズンの「ドレスコード」になる予感がする。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

宮田理江 公式サイト
アパレルウェブ ブログ
ブログ「fashion bible」

メールマガジン登録