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2015.10.09

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.27】2016年春夏NYコレクション

 グラマラスで陽気、そして健やか。2016年春夏シーズンのニューヨークコレクション(9月10~17日)は原色や朗らかモチーフが躍り、装いを活気づけた。前向きな茶目っ気もまぶされ、無愛想なミニマルと縁を切った。目先のトレンド提案に終始しないで、それぞれの「本領」を示す創作態度がコレクション全体を勢いづかせている。

 映画とNYへの愛を、「マーク ジェイコブス(MARC JACOBS)」はコレクションに注ぎ込んだ。歴史的映画館のジーグフェルド・シアターを舞台に、ファニーなコレクションを組み上げた。映画の名場面をプリントしたスーパーロング丈コートは、ポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルへのオマージュのよう。「ハイ&ロー」のミックステイストが冴え、持ち味のグランジ風アレンジも復活。主張の強い赤と青をぶつけたマルチモチーフが着姿を彩った。グリッター色や深いスリットも装いをグラムにつやめかせた。デニムジャケットやベースボールブルゾン、タキシードスーツ、イブニングドレスなど、性格の異なるアイテムを詰め込んで、シーンやスタイルにとらわれないNYらしいダイバーシティー(多様性)を表現した。

 

 地元NYの空気を写し取ったコレクションが相次いだ。「ダイアン フォン ファステンバーグ(DIANE von FURSTENBERG)」はディスコやグラムロックの気分を重ねて、1970年代テイストをつやめかせた。「ロマンティック」がNYの新トーンとなる中、ゴールドやシャンパンメタリックでドレスをまばゆく仕上げている。官能的なシルエットのロングドレスは女神ライクなたたずまい。若々しいムードがNY全体で強まる一方、このブランドらしいアダルトな雰囲気を濃くした。

(左から)MICHAEL KORS COLLECTION/PROENZA SCHOULER

 楽観的なムードを、「マイケル・コース コレクション(MICHAEL KORS COLLECTION)」はベルトで印象づけた。わざとベルト端を余らせ、長めに垂らした。極太や2連タイプも投入。装いにリズムを添えた。バッグはロングストラップで斜め掛け。グシャッと握りつぶす持ち方も面白い。服を彩ったのは、ポピーの花びら。立体モチーフや花柄プリントでデコラティブにあしらった。深く切れ込んだネックラインはのどかでセクシー。リネンの自然なしわを生かした。トレンチコートは様々に変形させてリラクシングに整えていた。

 

 「プロエンザ スクーラー(PROENZA SCHOULER)」はラテンムードを濃厚にまとわせた。デザイナーデュオの1人、ラザロ・ヘルナンデス氏のルーツをコレクションの根っこに据え、キューバ経由でスペインへとさかのぼる旅に出た。フラメンコ衣装を連想させるベアショルダーやティアード、ラッフル、ポンポン飾りでワンピースを情熱的に見せた。長いリボンをキーモチーフに選んで、ロマンティシズムを薫らせている。黒と白のツートーンを基調にしつつ、燃えるような赤でセンシュアルを宿らせた。丁寧なハンドクラフトがエモーショナルな装いに品格を寄り添わせている。

(左から)ALEXANDER WANG3.1 Phillip Lim

 「原点回帰」という、今回のNYコレクションの裏テーマを最も鮮明に示していたのは、節目の10周年を迎えた「アレキサンダー ワン(ALEXANDER WANG)」。ここ数シーズンはスポーティーシックを先導してきたが、今回はNYダウンタウンのストリート感を強く打ち出している。ボマージャケット、フーディー、デニムスカートなどにアーバン風味のアレンジを施した。「Balenciaga(バレンシアガ)」からの退任を決めたデザイナーはこれまでよりも自在な雰囲気でメッシュやフリンジを多用。お得意のスウェットシャツやトラックパンツにもクールなスパイスを加え、どこか吹っ切れたようなすがすがしい印象を残した。

 

 スポーティーでスラウチな着姿を軸に据えた「3.1 フィリップ リム(3.1 Phillip Lim)」もベースラインを再確認した。10周年の節目に持ち味をリファインしつつ、ナチュラル感を加えて、オーガニック志向の空気をつかまえた。植物モチーフをあしらい、色もオリーブグリーンを多用。エコ感覚を忍び込ませている。ドローストリングスをあちこちから垂らし、量感をドラマティックに操る流麗なシルエットを印象づけた。パーカやベースボールジャケットを穏やかな表情にアレンジ。つやめきを帯びた生地とマットな布のミックスで風合いの違いを際立たせていた。

(左から)JASON WUDEREK LAM

 ミッドセンチュリー(1950年前後)の家具をインスピレーションソースとした「ジェイソン ウー(JASON WU)」。ワンピースの裾をラッフルやフリンジで弾ませ、グラマラスな着映えに導いた。エレガントなドレスを得意とするが、今回は曲線美を引き出すシルエットを構築。ノーブルなショルダー景色を生むケープが貴婦人ムードを呼び込んだ。薄手のエアリー生地が気高いレディー感を引き立たせている。スリーブレス・ジャケットやショートパンツでフレッシュな着姿も提案。大人のドレッシーな装いの幅を広げてみせた。

 

 さりげなさや無雑作感がかえって芯の強い女性像を結んでいたのは「デレク ラム(DEREK LAM)」。アフリカ系の権利を主張し続けた、伝説的ジャズシンガー、ニーナ・シモンをイメージミューズに置いて、インディペンデントな意識を装いに写し込んだ。袖先が広がったベルスリーブといったダイナミックな袖ディテールを試みた。袖から垂らしたロングフリンジや、トライバル調のアクセサリーにアフロの面影を宿した。シャツドレスやカフタンといった、気張らないフォルムは自然体ボヘミアンの気分。アメリカンスポーツウエアの骨組みと、流れ落ちるようなたおやかさを巧みにマリアージュしていた。

(左から)rag & boneLACOSTE

 「ラグ&ボーン(rag & bone)」はシグネチャー的切り口のミリタリーや英国テイラーリングを押し出した。ボマージャケットをはじめ、軍用フィールドジャケットやリブ編みセーターといったミリタリーアイテムを、ストリート気分で軽やかにトランスフォーム。ショー会場に選んだブルックリン特有の気取りのなさを写し込んでいる。ガーリーなテイストも濃くし、キャミソールワンピースやレザースカートを披露。布をくり抜くカットアウト、片側の肩だけを露出するハーフ・ベアショルダーなど、ヌーディーなスタイリングも若々しさを呼び込んでいた。

 

 「ラコステ(LACOSTE)」はオリンピックスピリットをテーマに選び、ポジティブな装いをラインアップ。2016年夏のリオデジャネイロ夏季五輪でフランス代表チームのウエアを担当する「ラコステ」は各国の国旗を抽象モチーフ化してアスレティックな着姿に落とし込んだ。ポロシャツ・ワンピースは創業者が考案したとされるポロシャツのヘリテージをボディーコンシャス気味にひねり直している。メタリック素材やシャイニー生地のつやめき演出も投入。カーゴポケットやファスナーでミリタリーやワークウエアの雰囲気も取り入れていた。

(左から)TOMMY HILFIGERBCBGMAXAZRIA

 プレイフル、チアフル、カラフル――。カリブ海の楽園ムードに染まった「トミー ヒルフィガー(TOMMY HILFIGER)」のコレクションは多幸感に包まれた。レゲエでおなじみのラスタカラーがトロピカル気分に誘う。赤や黄、緑が同居するマルチカラーのボーダー柄がリゾートやバケーションの雰囲気を街着に呼び込む。タンクトップやマキシ丈のワンピースはビーチルックの風情を連れてきた。メッシュ編みのニットワンピース、ホルターネックの肩出しウエアも涼やかな着映え。バケツハットはヒットを予感させる。

 

 地元NYらしさを打ち出すブランドが相次いだ今回のNYコレクションにあって、「ビーシービージーマックスアズリア(BCBGMAXAZRIA)」の西海岸志向は異彩を放った。サーフィンやスケートボードに通じる、南カリフォルニアのビーチスタイルを持ち込んだ。タイダイの染め模様やスモーキーなパステルカラーなど、伸びやかな色と柄を重ね合わせ、ボーホーなレイヤードに仕上げている。ユースカルチャーの軽快感、エスニックのヌケ感などをカラーリッチなタッチでミックス。全体にジョイフルでハッピーな装いにまとめ上げていた。

 

 ロマンティックや楽観、若々しさといったムードがNYコレクション全体を華やがせた。カラーリッチな色使いやプレイフルなディテールも装いに弾みをつける。ミニマル、ノームコアの流れとは別物のNY流デコラティブ(装飾主義)はコスモポリタンで伸びやか。スポーティーやミリタリーといったトレンドが「コンフォート(着心地よさ)」という大テーマに溶け込み、新たなNYルックが輪郭を現しつつある。

 

 ジェンダーレスのうねりが続く中、そこからの揺り戻しとも見える格好でフェミニンやセクシーが息を吹き返したのも、今回の変化。大胆スリットやオフショルダー、ラッフル、シフォン系生地の多用はその表れだ。気負わない「エフォートレス」のマインドを受け継いで、やわらかいトーンで「女らしさ」をささやいた。

 

 マーケットを意識したビジネス志向の強さで知られてきたNYのファッション界。だが、キャリアを重ねた中堅・ベテランの厚みが増してきたこともあって、それぞれのオリジンに根ざした提案に踏み込みが深くなってきた。トレンドを生み出し、それに乗っかって売るという戦略を超えて、ブランドの価値そのものを高める方向にNYのクリエイターたちはあらためて向かい始めたようだ。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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