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2015.11.13

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.28】2016年春夏東京コレクション

 2016年春夏シーズンの東京コレクション(10月12~17日)はここ数シーズンの傾向である大人路線をキープしつつも、若々しさやスーパーフェミニン感、チアフルムード、そして、「タイムレス」な美意識などが打ち出された。素材使いやディテールは深みを増し、これまで以上に創り手の個性や持ち味が出たように感じた。インスピレーションソースは古今東西に広がりを見せた。マーケットや世界トレンドに目配りしつつも、ウィットに富んだ「主張」で東京らしいミックス感やオリジナリティーを印象に残した。

(左から)mintdesignsmatohu

 公式スケジュールに復帰した「ミントデザインズ(mintdesigns)」はハイブリッドの手法を操って、やさしげなフューチャリスティックを薫らせた。シルバーにつやめく箔プリントと、オーガニックな風合いのテキスタイルを交じわらせ、ケミカルとナチュラルの異なる質感を響き合わせた。インダストリアルとロマンティックを交錯させるアレンジはグローバルトレンドにもなじむ。花柄はモノトーンで描き、甘さを抑えた。「庭園」というテーマを選びながら、天然色に彩るのではなく、白と黒を主体にやや無機質なカラーパレットを選択。お得意のパステルカラーも控えめに使って、アーバンクールな表情を強めた。左右でダイナミックに見栄えや素材感が異なるアシンメトリー(非対称)を多用して「不ぞろいの美」を奏でた。

 

 「まとふ(matohu)」は松尾芭蕉が晩年にたどり着いた境地「かろみ(軽み)」を今回のテーマに選んだ。シグネチャーアウターの「長着(ながぎ)」にレースを用いたのは、シンボリックなアプローチ。単にマテリアルの重量をそぐだけではなく、軽やかさを引き出しつつ、若々しいニュアンスを加えている。東コレで初めて披露したショートパンツはフレッシュな着映え。ミニスカートもポジティブなムードを呼び込んでいた。オレンジやピンク、イエローで彩って大人っぽいポップ感を色で示した。ギンガムチェックも静かな動きを添えた。服の形をシンプルめに整えているのは、「かろみ」の精神に通じる手つきと映った。

(左から)KEITA MARUYAMAbeautiful people

 東コレに復帰して2シーズン目の「ケイタ マルヤマ(KEITA MARUYAMA)」は「あさきゆめみし」をテーマに選んで、ジャパネスクを下味にリラクシングな装いを打ち出した。グローバルトレンドとなりつつある「スーパーフェミニン」を思わせる、たおやかな風情がオリエンタルエキゾチックを際立たせている。落ち感が優美なシルエットを軸に、リゾートムードを帯びた上級くつろぎウエアを提案。動きに合わせて揺れるラッフルやドレープが女っぽさを醸し出した。紐やリボン、フリンジを垂らして動きを強調。レトロなスカーフ使いも大人感を寄り添わせていた。

 

 今回の東コレではフェミニンへの傾斜、大人ムードの深まり、軽やかさの提案などが目についた。これらの要素を兼ね備えていたのが「ビューティフルピープル(beautiful people)」のランウェイだった。もともとプレッピーを持ち味とするブランドだが、今回は全体をややクラシックな雰囲気でまとめ、気張らないレディー感を押し出している。エアリーな仕立てで風をはらませ、ゆったりしたフォルムで伸びやかな気分を誘い込んだ。裾に張り出したラッフルがボリュームにめりはりをつけている。つば広のストローハットは着姿に素敵な影を落としていた。

(左から)Hanae Mori manuscritFACETASM

 「ハナエ モリ マニュスクリ(Hanae Mori manuscrit)」と名前が変わって初の東コレで天津憂氏は重さをそぎ落とした。肌が透け見える薄布を操ったうえ、脇や脚がのぞくカッティングを多用。エレガンスと軽快感をクロスオーバーさせている。布が曲線を描いて流れ落ちる左右アシンメトリー(不ぞろい)のディテールでワンピースをドラマティックに仕上げた。サマーアウターはガウン風、トレンチ変形と目新しいフォルムで仕立て、スーパーロング丈で縦に長いシルエットを描いた。ブルーや白のワントーンでノーブルに整えたルックでは細部のクチュールテクニックが品格を漂わせていた。

 

 メンズでミラノデビューを飾った「ファセッタズム(FACETASM)」はウィメンズでは「結び目」の物語を様々なバリエーションでつづった。まるで「おみくじ柱」のように短いリボンをびっしり服に結わえ付け、着姿を毛羽立たせている。トップスから地続きの布をウエストから垂らして結び、服の常識からの「はみ出し」を企てた。たくさんの結び目や垂れ下がりが醸し出したいたずら感や不整合が着姿に茶目っ気とアートムードを引き寄せている。強風を受けて髪が真横に吹き流されたかのような異形のヘアアレンジもスタイリングに溶けこんでいた。

(左から)MIHARA YASUHIROCHRISTIAN DADA

 「ミハラヤスヒロ(MIHARA YASUHIRO)」はルックの大半がメンズで、限られた点数でのウィメンズとなったが、持ち前の職人気質と細部へのこだわりが随所にうかがえた。あえて仮縫い状態のような「作りかけ感」を残したテーラードジャケットに、ソフト生地で仕立てた極太のワイドパンツで合わせたコーディネートは、アンバランス感が楽しい。ニットトップスもネック周りや裾の糸がほつれていて、グランジ気分を帯びた。デニムアウターはあちこちで端の処理をあえて「不始末」にとどめ、反骨ムードをまとった。デニムで仕立てたワイドパンツはマキシ丈スカートのよう。スカジャン風ブルゾンは正面と背中側で極端に見栄えが異なり、トリッキーな着姿に誘っていた。

 

 「クリスチャン ダダ(CHRISTIAN DADA)」はアシンメトリーやほつれなどの技巧を凝らして、フェミニンでセンシュアル(官能的)なスタイルを提案した。プリーツスカートは片方の脚だけをミニ丈にして大胆に素肌をさらし、残りをスーパーロングで仕立て、アンバランスを際立たせている。端のほつれたようなデニムや、グラマラスな刺繍を施した黒革ジャケットは「パンクチュール」の気配を醸し出す。透かしレースを多用して、妖しさとセクシーを交じり合わせ、優しいエロスを帯びさせていた。

(左から)UjohLAMARCK

 「ウジョー(Ujoh)」の西崎暢氏はパタンナーとしての経験を生かしてフォルムに不ぞろいを組み込んだ。異なる風情の裾が足まわりで躍り、着姿にリズミカルな動きを呼び込んでいる。アシンメトリーの技巧が今回の東コレで全体的に多く用いられたのは、デコラティブとリラクシングを両立させる意図からとも見える。凝ったレイヤードを仕掛けたのも、今のモードの気分になじむ。スカート3枚を重ねばきしたようなボトムスをはじめ、異なるムードを調和させるミックスレイヤードを巧みに組み立てている。複雑な動きや立体的な重ね着が着姿にプレイフルな気分を忍び込ませていた。

 

 フォルムに動的なグラマラスを仕込む演出が相次ぐ中、「ラマルク(LAMARCK)」はラッフルやリボンにロマンティックを託した。リボン風の布を長く垂らしたり、セオリー外の位置に飾りラッフルを配したりして、レディーライクなクチュール感を帯びさせている。トランスペアレントな布使いは涼やかでクリアーな風情を招き入れた。布の動きを織り込んで、装いにエレガンスとポジティブ感を同居させた。前後で見え具合を変え、ドラマティックな着映えの違いを演出した。背中をセンシュアルに露出するカッティングがバックショットを強調。アイキャッチーなサングラスも大人っぽさを印象づけていた。

 ケミカルな質感やSFっぽい未来感覚はグローバルモードで主要テーマに掲げられている。楽観的な宇宙観や昔から見た未来意識(レトロフューチャー)などがギークな雰囲気を生む。「アツシナカシマ(ATSUSHI NAKASHIMA)」の中島篤デザイナーは伝説的SF映画『2001年宇宙の旅』(1968年)にインスパイアされて、宇宙服にも通じるトーンをまとわせた。光を反射するメタリックが装いをまばゆく彩る。ネオプレン系の素材感もスポーティーテイストを引き出していた。構築的なシルエットはどこか人工的なたたずまい。白をベースにした、やや無機質な色合わせもサイエンスの冷ややかさを目に残した。

 

 「イン-プロセス バイ ホール オーハラ(IN-PROCESS BY HALL OHARA)」はサファリをイメージソースに選んだ。「アフリカ」は世界的にもホットなテーマになっていて、視野の広さが頼もしく映る。ランウェイをにぎわせたのは、ライオンやキリン、ゼブラといった、サファリでおなじみのアニマルたち。ワイルドモチーフが装いを朗らかに盛り上げた。複数の模様をコラージュ風に組み合わせて、躍動を起こした。キーアイテムとなるサファリジャケットはアイコニックなディテールをばらして読み換えを試みた。日本ではなじみの薄い異国テイストを独自にアレンジし直す気概が着姿をチアフルに弾ませていた。

 

 Mercedes-Benz Fashion Weekに変わっておおむね5年を迎え、東コレは自分たちの進むべき方角をつかみつつあるように見える。チャレンジングな「遊び」があちこちで見られた点や、自分たちのこだわりをきちんとアピールできていたあたりは今回の収穫と言える。一方、かつての「東京ポップ」とは違って、大人がまといやすいこなれ感が備わっているところも東コレ全体の成長を感じさせる。フレッシュな大人感とビジネスのリアリティーを高めつつ、思い思いに「着る楽しさ」を歌い上げたように見えた16年春夏の東コレだった。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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