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2025.02.16
【2025秋冬ニューヨークハイライト1】個人の自由を謳うNY クワイエットの進化形 やコンフォートラグジュリアスが結集
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写真左から「マイケル・コース」「コーチ」「トム ブラウン」「アナ スイ」
ニューヨークでは、2025年2月6日から12日までニューヨーク・ファッションウィーク(以下NYFW)が開催された。ファッション業界が推していたカマラ・ハリス前副大統領ではなくて、ドナルド・トランプ大統領が就任して最初のファッションウィークとなったが、今回は8年前のように女性のデモも行われず、ファッションウィークも静かに開催された。
NYFWのハイライトとして、まずランウェイを打ったインターナショナルブランドをピックアップしていこう。
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「トムブラン」の会場「ザ・シェッド」では2000羽もの白いオリガミの鳥たちのインスタレーションで出迎えたPhoto by Eri Kurobe
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「ウラ ジョンソン」のランウェイ会場は、ハドソン川と対岸が見える絶好のロケーション Photo by Eri Kurobe
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「コーチ」のショーは、パークアベニューアーモリーで Photo by Eri Kurobe
はたしてファッションにはどのくらい社会の気分が反映しているのか。今季は全体的に、色調はベーシックでクワイエット。それでいてビジューやスパンコールのきらめきで、あたかもノーザンライト(オーロラ)のような光を放つルックが気になる。
またドレープやスカートによる動きを生み出して、ミニマルでも過剰でもなく、モーションによるゆらぎや動きの面白さを表現。ケープやブランケットを巻いたり、レイヤーを重ねたりする着こなしも多く提案された。柔らかな曲線を描いたジャケットや、ゆるやかなコクーンシルエットも提案され、ソフトでありながら、個性を感じさせる。
多様性を軸とする「コリーナ ストラーダ(Collina Strada)」は、女性同士の同性婚をイメージしたモデルで、「(アメリカには)男性と女性しかいない」と宣言した政権とは一線を画した主張を打ち出した。
そしてコレクションのテーマに“自己表現”と“自由の選択”を掲げた「アナ スイ(ANNA SUI)」、あるいはシェイプを極端に大きく構築したり、シュリンクさせたりして形を追求しながら、着る人の個性を打ち出した「トム ブラウン(THOM BROWNE)」。静かに個人の自由と個性を掲げつつ、コンファタブルなエレガンスを希求する空気が、今季のコレクションから感じられた。
カルバン クライン コレクション(Calvin Klein Collection)
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Courtesy of Calvin Klein Collection
「カルバン クライン コレクション」は、6年ぶりにNYコレクションのランウェイに復活。クリエイティブディレクターのヴェロニカ・レオーニが就任して初のコレクションデビューとなり、メンズとレディースの2025秋冬コレクションを披露した。
ヴェロニカ・レオーニは、過去に「ジル サンダー(JIL SANDER)」や「セリーヌ(CELINE)」に在籍していたキャリアの持ち主であり、カルバン・クラインのシグネチャーであるミニマリズムを踏襲しながら、新しいモダニズムも提案。
同ブランドらしいブラックやグレーを主調にして、ミニマルなスタイルを提案しながら、ドレープをたっぷり使ったドレス、ケープブランケットを重ねるスタイルなどで、個性を打ち出した。
アナ スイ(ANNA SUI)
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Courtesy of ANNA SUI/Photo by Raul Gatchalian
「アナ スイ」は、2月8日ナショナルアーツクラブでランウェイを開催して、28 ルックを披露した。ここは19世紀に建てられた建造物に、多くのアートが飾られた由緒あるクラブだが、その空間にふさわしく“Madcap Heiress(型破りな遺産相続令嬢)”をテーマにしたルックを展開。
莫大な遺産を相続して、気ままに生きたバーバラ・ハットンらの令嬢たちをインスピレーション源として、フェイクファーを襟元にあしらったジャケットにジョドパードパンツ、レオパード柄のフェイクファーのコートなどを披露。ツイード調のチェック、ハンマードサテン、モンゴリアンファーやレースレーヨン、タイダイ加工を施したクラッシュベルベットなどの素材が使われ、30~40年代調のシルエットに、自由きままさを感じさせる令嬢スタイルを表現。
また今季はジュエリーデザイナーのエリクソン・ビーモンとコラボして、大ぶりのアクセサリーをあしらってみせた。
現代社会において、人々は夢や非日常を求めており、アナ・スイは、そうした欲望こそ「自己表現」や「自由な選択」への渇望であると考え、このコレクションを通じてその思いに応えたという。
ウラ ジョンソン(Ulla Johnson)
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「ウラ ジョンソン」は、2月9日にハドソン川と対岸が見える絶景のロケーションで、2025秋冬ランウェイを開催。ゴールドのフロアに、フランス人アーティスト、ジュリー・ハミスキーによる花のインスタレーションが置かれ、ゴールドを主調にしたコレクションで、ランウェイをきらめかせた。
ファーストルックはゴールドそのもののジップ付きロングニットで、ジャガード織りのコートや、ケープ付きのジャケットなどが登場。同ブランドらしいフリルを施したボヘミアンテイストのロングドレスは健在だが、今季はプリントよりはソリッドが主流だ。ビジュー付きのニットドレス、透け感あるオーガンジードレス、メタリックなポルカドットを施したドレスなどが華を添える。色彩パレットはゴールドからブラウンで、差し色としてはパープルやフューシャが目を奪う。
ニットは、レッグ・オブ・マトン型で、少し肩にボリュームをもたせてみせた。マキシ丈と、ミニを合わせるハイブリッドな着こなしを提案して、さまざまなニーズに応えるバリエーションを見せた。
コーチ(COACH)
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Courtesy of Coach/Photo by Isidore Montag
スチュアート・ヴィヴァースがクリエイティブディレクターを務める「コーチ」は、2月10日、パークアベニュー・アーモリーでレディース&メンズの2025秋冬コレクションを披露。
ファーストルックは、床すれすれのマキシ丈であるネイビーのコートで、ネオンイエローのサングラスが、エッジさを添える。続くルックもレザージャケット、ピーコート、ダッフルコートといったアメリカンクラシックを再定義して、進化させて見せた。
ローライズのウルトラバギーなジーンズは、すべてセカンドハンドのデニムを再利用しており、腰履きで合わせているのがクールだ。同じくバギーなパンツには、シュリンクした丈のTシャツ、そして首から下げるマイクロバッグを組み合わせてみせる。
また再利用したレザーを使ったクロップド丈の革ジャンやボマージャケットにも、独特の風合いがある。またヴィンテージなテイストのスリップ型のドレスや、パッチワークを施したデニムも、素材の再利用をしていて、「コーチ」のサスティナブルな姿勢を感じさせる。ウサギ型のスリッパも登場して、Z世代に訴えるポップカルチャーと、スケーター文化、そしてニューヨークらしいテイストを添えてみせた。
トリー バーチ(Tory Burch)
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「トリー バーチ」は、2025秋冬コレクションとして、アメリカンスポーツウェアを、今いちど再考するコンセプトのコレクションを2月10日に発表した。
会場は、MOMA(ニューヨーク近代美術館)で、そこに登場したルックも、モダンクラシックのテイストがある。
袖に切り込みを入れたカーディガン、日本製のジャージーで編んだスウェットパンツ、ツイードのような刺繍を施したセーターなど、クラシックに捻りを加えたスタイルを発表。
女性たちが年月を経て、お気に入りのアイテムを揃えていくように、自分にとってのクラシックを形成する過程を表現したと、トリー・バーチは語る。
コーデュロイで立体的に仕立てられたカットアウトドレス、スパンコールのニットドレス、起毛したアルパカや、シワ加工されたベルベッドなど、着古したような風合いを持たせた生地を取りいれてみせた。
マイケル・コース(MICHAEL KORS)
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2月11日に催された「マイケル・コース」のランウェイには、イサム・ノグチのランタンが吊り下げられ、ジョージ・ナカシマ様式のミッドセンチュリーの家具が置かれ、あたかも静かな住まいのような空間が創られた。
そこを闊歩したのは、リラックスさのあるアメリカンクラシックだ。プリーツスカートやプリーツパンツの上に羽織る、ソフトに仕立てられたメンズウェア調のコートやジャケットで、リラックスした魅力を表現。ソフトなドレスやリキッドシルクのオーバーシャツ、ドレープブラウスで流れるような動きを与える。
ブラック、グレー、ブラウンの落ちついた色彩パレットで展開され、同色のモノクロームなコーディネートが主調のなか、アイリスなどの差し色が入る。グレーのニットには、グレーのスリットが大胆に入ったスカートを組み合わせて、色ではなくて動きで変化を添える。居心地の良いブランケットやパジャマ風のスタイルも目につき、ゆったりとリラックスできるエレガンスさが伺えた。
今季のテーマを“Dégagé chic(洗練された上品さ)”に掲げて、「タイムレスで温かみがあり、モダンで建築的でありながら官能的でもある、居心地の良いモダニズムとポケットに手を入れたシックなスタイルを体現するコレクションにしたかった」とマイケル・コースは語る。
トム ブラウン(THOM BROWNE)
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「トム ブラウン」は、トリになる2月11日に、メンズ&レディースの2025秋冬コレクションを披露した。会場には、白いオリガミの鳥たちと、白い鳥籠がインスタレーションとして飾られ、そこに二人の鳥類学者に扮したモデルが登場するという趣向だ。フィールドジャケットに合わせて、今季初めて出たニーハイのダックブーツを組み合わせてみせた。
まず目を奪うのが、シェイプを研究するかのように表れる、さまざまなアウターの形だ。丸い曲線を描くドロップショルダーのジャケットとロングタイトスカート、極端に肩が張りだしたビッグショルダーのスーツやコート、アメフトのように肩パッドを縫いつけたカーディガン、あるいはパニエを入れて円錐形に形づけられたドレスや、ソフトなコクーン型のドレスなど、あらゆる形が披露される。その一方で、シルクのギンガムチェックのシャツには縮んだようなサイズのカーディガンを合わせて、トラッドの型を自由に再解釈してみせる。
今季は装飾も、美しい。目を奪うのは、「スワロフスキー(Swarovski)」のクリスタルが飾りつけられたピースで、全身が大ぶりのビジューで作られたドレスも登場。コートに施された鳥の模様は、アップリケではなくて、インターシャであるという凝り方で、これは日本で縫製されたという。また鳥の刺繍も驚くべき精巧さで施されていて、アーティスティックだ。
ボックスプリーツスカートには、レジメンタル柄のネクタイを彷彿させるシルク地が差し込められていて、動きによって色が変わり、さらにそれを斜めに施したドレスも登場した。スポーツテイストのある「65」の番号が施されたピースは、トム・ブラウンの生まれた年にちなんだ数字で、英国調トラッドからアメリカンスポーツウェアまで、コレクション全体で、多くのモチーフを網羅している。
カゴのなかの鳥でなくて、自由に飛ぶ精神の鳥でいたい、という隠喩だろうか。さまざまな形を究めて、美しい装飾とともに提示したコレクションは、「トム ブラウン」の自由で高いクリエイティビティを反映していた。
取材・文:黒部エリ
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)
>>>2025秋冬ニューヨークコレクション