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2025.02.12

【2025秋冬東京 ハイライト1】有力ブランドが東京でショーを開始 日本の伝統技術や最新技術と現代的なデザイン手法を融合

写真左から「タナカ」「アタッチメント」「アモク」「セヴシグ」

 

 2025秋冬コレクションが東京でも始まった。2月にはメンズブランドを中心に、有力ブランドがランウェイショーを開催。バイヤーが集まる展示会に合わせ、ファッションショーをビジネスにつなげる動きが活発化している。各ブランドは、日本の伝統技術や最新技術を現代的なデザイン手法と融合させ、独自の世界観を打ち出している。

タナカ(TANAKA)

Courtesy of TANAKA

 

 タナカサヨリとクボシタアキラがデザインする「タナカ」は、“今までの100年とこれからの100年を紡ぐ衣服”というコンセプトのもと、ミリタリーウェアとの対峙をテーマにしたコレクションを発表した。平和な世界「SIDE A」と、争いの絶えない現実世界「SIDE B」を対比し、ミリタリーウェアを再構築。日本の伝統技術やデニム加工を用い、新たな解釈を加えたツイードやプリントを展開した。

 

 コレクションは、MA-1などに使用されるミリタリーナイロンを裂き、テープ状にしてツイードとして再構築したベストやジャケットからスタート。花柄のプルオーバーやレザーなど、ヨーロッパのクラシックなデザインも取り入れた。半透明の素材を使ったパンツやコートなど、未来的なムードも加わる。

 

 解体と再生を象徴するような白のデザインは、ヴィンテージのミリタリーウェアを解体・染色したもの。透ける素材を重ね、エレガントなモードに仕上げている。日本的なムードのプリントや柄も、西陣織の技術をグラフィカルに配置したものだという。

 

 また、鳩のような形にした布を前身頃にあしらったブラウスや、鳩や鶴を刺繍したチェックのコート、ヘリンボーンジャケットなども印象的だった。タータンチェックのコートには、千羽鶴のように多数のチェック柄の鳩があしらわれている。さらに、デニムやシャツにも折り鶴のモチーフが施されていた。

 

 さらに、多くの白い折り鶴をあしらった白のシャツやスカート、花や鳩のモチーフ、レースなどを装飾した白のシリーズが登場。広島平和記念資料館のメッセージを受け、平和への願いを込めた作品を披露した。フィナーレでは、白銀の世界を象徴し、理想の「SIDE A」を表現した。

 

 「これからの100年において唯一紡いではいけない服と向き合いました。ただ、制作を進める中で気づいたのは、ミリタリーウェアは決して攻撃のための服ではなく、命を守るための服でもあるということ。服の本質という視点では、決してかけ離れたものではないと改めて感じました。また、コレクションの終盤では、新しいデニムシルエットのシリーズを発表しました。デニムはアートの題材として非常に優れたキャンバスであり、これからも新しいデニムの表現を追求し、発信していきたい」とクボシタ。

 

 また、「楽天ファッション・ウィークでの開催も考えましたが、私たちのビジネスの中心はデニムであり、生産のタイミングが合いませんでした。展示会が終わった後にファッションショーを行うことで、メディアの皆さんに見ていただけるのはありがたいのですが、ビジネスを成長させる上では最適なタイミングではありませんでした。今回のショーを見ていただき、バイヤーやメディアの方々に良いと感じてもらえれば、それが次のステップにつながると考え、単独での開催を決めました」と話した。

 

アモク(amok)

Courtesy of amok

 

 「アモク」は、ブランド設立10周年を記念して初のショーを開催した。テーマは“AMULET(魔除け・御守り)”。デザイナーの大嶋祐輝は、ヨーロッパの祝祭や先住民族の文化に着想を得て、伝統と現代のファッション技術を融合させた。

 表参道のオモカド屋上で行われたコレクションは、多数のコインや花、円のアクセサリーをあしらったコートとニット、異なる素材をドッキングしたボトムスで幕を開けた。顔にも羽やアクセサリーを付け、全体を覆い隠している。

 

 一見すると落ち葉が積もっているように見える、無数のモンスターをあしらったコートは、10年間にわたり進化を続けてきたレーザーカット技術を活かし、1着に1500匹のモンスターをデザインしたという。モデルの顔も多くのモンスターで覆われていた。

 

 骨のモチーフを取り入れたユーモラスなジャケットや、ダメージデニムを使用したシャツとパンツにはジュエリーが施されている。ブランドの象徴であるニットウェアには、天然石の装飾や立体的なモンスターのモチーフが加えられた。天然石やモンスターをプリントしたシャツやボトムスなど、リアルで着やすいデザインも展開された。

 

 また、「SUPER PUMA」のロゴをハンドステッチで復活させ、「プーマ(PUMA)」とのコラボレーションも注目された。メディコム・トイの「ベアブリック」とのコラボでは、ニットで包んだユニークなフィギュアを制作した。

 

 個性的で奇抜なスタイルを提案し、見る者に新たな解釈を促すコレクション。“呪術的な意味を持つ服やデザイン”というコンセプトは、ある意味、衣服の根源の一つともいえる。

 

 大嶋は「第1章が終わり、第2章に入ったような感覚です。これまで多くの方に支えられてきたことは間違いなく、感謝の気持ちが一番強いです。その思いを込めて今回のショーを開催しました。また、ここから新たに走り出したいという気持ちです。今後については、まだ具体的には考えていませんが、新しい表現方法や、自分たちらしいスタイルを確立しながら続けていきたいと思っています」とコメント。また、「ブランドとしてパリの展示会に出展しており、その流れが最も大きな要因です。特に、バイヤーの方々にとってはちょうどメンズの展示会シーズンということもあり、東京でのショーをこの時期に開催することでビジネスとの連動を強めました」と話した。

 

アタッチメント(ATTACHMENT)

Courtesy of ATTACHMENT

 

 ブランドの哲学やレガシーを踏まえながら、気軽さやモダンなシルエットを追求し、現実主義的な視点から服作りを行ってきた「アタッチメント」。今シーズンは、表舞台(公の場)と裏舞台(私的空間)の境界を溶かし、「服は個性を引き立てる付属品である」という理念を基に、日常に潜む偶発的な瞬間を取り入れた。

 

 コレクションは、グレーのスーツとシャツ、グレーのプルオーバーとピンストライプのパンツ、胸のVゾーンを大きく開けたシャツなど、グレーを基調としたルックから始まった。無駄をそぎ落としたミニマルでシャープなグレーのコートやニットなど、モノトーンのルックが続く。

 

 ワイドシルエットのトラウザーズや軽量化された重衣料など、快適性と機能性を重視。フォーマルとカジュアルを柔軟に行き来できるデザインが特徴だ。パンツの腰部分を折り曲げて裏地を見せるレイヤード風のデザインや、ベルトから上が長く伸びたデザインのパンツなど、ウエストをポイントにしたデザインも目を引いた。コートやパンツには、さりげなく取り入れられたアシンメトリーがアクセントになっている。

 

 また、リラックスムードのプルオーバーや、美しいドレープが特徴のパンツなど、部屋で過ごす時間にも適したカシミア素材のセットアップも登場。快適でリラックスしたムードのデザインが印象的だった。外履きとしても使えるスリッパのような形のシューズやヘッドバンドなども、リラックスした雰囲気や快適さを強調している。

 

 カラーは抑制されたデイリーカラーを基調とし、ライムグリーンをアクセントに使用。ペーパークリップが日常の特別な瞬間を象徴し、服が個性としなやかな関係を持つことを示している。

 

 コレクション全体を通じて、日常の淡々とした流れの中に潜む緊張や逸脱を繊細に表現し、新たなエッセンスを加えることに挑戦。ラグジュアリーとリラックス、ミニマリズムと装飾といった相反する要素が共存していた。

 

セヴシグ(SEVESKIG)

Courtesy of SEVESKIG

 

 「セヴシグ」は、日本の独自の美意識をテーマに、「無常」の思想をデザインに取り入れた。風化や経年変化の美しさを反映し、伝統技術と現代的な手法を融合させたアイテムを展開した。

 

 伝統技術を活かした新作には、京都・伊根で制作された「焼箔」を用いたライダースジャケットや、半手織りのウールツイードチェック、針穴でグラフィックを表現したスーベニアジャケットなどを発表した。また、「キッズラブゲイト(KIDS LOVE GAITE)」との継続コラボでは、紗綾形の刺繍を施したウエスタンブーツを、「アヴニエ(AVNIER)」と「スブ(SUBU)」とのトリプルコラボでは冬用サンダルを発表した。

 

 国立劇場で行われた今回のショーは、生演奏と多数の提灯を背景に、モデルがランウェイを進む演出。コレクションは、オーバーサイズのブルゾンや、ほつれた布を巻きつけたようなラップスカート風のボトムスから始まった。腰にはお守りが付けられている。

 

 パッチワークニットとダメージジーンズ、日本を代表するイラストレーター・江口寿史とのコラボでは、アニメ映画「老人Z」のイラストをデザインに採用し、新たな要素を加えたTシャツやトレーナーも目を引く。

 

 歌川国芳の浮世絵やレントゲン写真を思わせる骨のプリントが施されたトレーナーやレザージャケットも印象的だ。チェック柄のシリーズなど、ストリートのベーシックアイテムを変形・デフォルメし、リメイクしたようなデザインが続く。また、パンティストッキングのような素材で顔や頭を覆う演出もあり、1980年代から1990年代のアバンギャルドなデザインを彷彿とさせた。

 

 レトロムードのトレーナーやパンツも登場。古着をリメイクしたようなムードのデザインが続く中、日本からインスピレーションを受けたことを象徴するかのように、日本地図が描かれた白いコートやスカートも登場。さらに、刺し子やしつけ糸を残したデザインなど、日本的な要素を強調するアイテムも見られた。

 

 さまざまな日本的な要素をリミックスし、日本人デザイナーとしての強みを生かしたコレクションとなった。

 

取材・文:樋口真一
画像:各ブランド提供

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