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2024.06.27

【2025春夏パリメンズ ハイライト2】独自の顧客層を開拓するクリエーターズブランド

写真左から「ヨウジヤマモト プールオム」「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」「アンダーカバー」「プロトタイプス」

 

 ショー会場へ行くと、しばしばそのブランドのアイテムを全身にまとった顧客が見受けられるが、不思議なことに、あのブランドでもこのブランドでも同じ人を見る、という事態は起こらない。顧客が重なることはほぼ無く、見事な程に棲み分けが出来ている、と毎回思わされるのだ。

 

 ファッション業界において、特に独立系のクリエイターたちにとって独自の顧客層を開拓することが、ビジネスをより長く持続させることに繋がって行く。多くは俳優やアーティスト、インテレクチュアルな層に訴える「ヨウジヤマモト プールオム(Yohji Yamamoto POUR HOMME)」や「オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)」、セレブを取り込みつつある「アミリ(AMIRI)」、アウトローな人々から注目される「プロトタイプス(PROTOTYPES)」。それぞれが独自の支持基盤を巧みに築き上げている。

 

 そんな熱狂的な顧客を抱える、強い個性を発揮するクリエーターズブランドを紹介する。

 

ヨウジヤマモト プールオム(Yohji Yamamoto POUR HOMME)

Courtesy of Yohji Yamamoto

 

 レディースコレクションの時とは異なる、リラックスムードが漂う「ヨウジヤマモト」のメンズコレクション。先日逝去したフランソワーズ・アルディの「Comment te dire adieu」のカバーバージョンが流れてショーがスタートした。

 

 一見スローガンのようだが、その実、詩だったり駄洒落だったりする日本語がプリントされたアイテムが目を引く。そこに唱歌の「茶摘み」や山本耀司本人による鶴田浩二の「傷だらけの人生」のカバー曲が流れ、絶妙なはまり具合を見せる。

 

 花などの具象的なモチーフやジオメトリックモチーフ、ファッションイラストがジャケットやベストにプリントされ、開放的で自由なクリエーションを感じさせる。襟だけを外せるジャケットや前身頃を開けることの出来るフロックコートも、オープンな雰囲気。そんな中、杏とシャーロット・ランプリングという日英の女優が登場し、ショーにアクセントを加えた。

 

 最終ルックもシャーロット・ランプリングによる、「うつろい 移る 映る 写る 感染る」などの文字がプリントされたシャツドレス。このブランドとしては以前から打ち出して来たことではあるが、メンズとレディースとの境目を取り払った、ボーダーレスなモードをあらためて提案しているように感じられた。

 

オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)

Courtesy of 2024 ISSEY MIYAKE INC.

 

 大統領官邸のエリゼ宮が所有する家具類を保管・修復する国営動産管理局(モビリエ・ナショナル)の前庭でショーを行った「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」。“Up, Up, and Away Away”とするタイトルのコレクションは、風を感じる現象、風を受けて動くものの構造、そして風を形にしたものを取り入れ、風にまつわることをテーマに制作している。

 

 太さの異なる線で描いた格子模様のシリーズでスタートし、ハンドプリーツで有機的なシルエットを描いたシリーズを経て、凧の構造を衣服に応用したシリーズへ。布をたっぷりと使い、着る人が動くことで風をはらんで膨らみが生まれる。ハーネスのようなストラップによって背負えるコートは、パラシュートのようなイメージ。

 

 例え量感のあるプリーツ加工を施したアイテムであっても、透けるような薄い素材によって作成されているため、動くことで服の内側に風が入り込み躍動感が生まれる。その様は清涼感を漂わせ、心地良い残像を残す。

 

 後に「コンクリートの父」と呼ばれたオーギュスト・ペレによる直線的でモダンな建築と、直線と曲線を組み合わせたシルエットの服とのコントラストが美しい。風を受けて揺らぐタンポポのような形のオブジェの間を、風をはらむほど軽やかな服をまとったモデル達が歩き、終始ファンタジックな様相を見せた。

 

アンダーカバー(UNDERCOVER)

Courtesy of UNDERCOVER

 

 「架空の民族」をイメージし、着やすさと軽さを追求したという高橋盾による「アンダーカバー」。パリ大学の学生食堂だったグラン・プラトーを会場に、様々な境界線を取り払ったアイテムで構成されたコレクションを発表した。

 

 YouTubeで見つけたというオーストリアのバンド、「Glass Beams」からも大きなインスピレーションを受けたという今季は、彼等にショー用の音楽を依頼し、MVが流れる中でモデルがウォーキング。

 

 ウィメンズの要素をメンズに取り入れたかったという高橋は、中性的なイメージに焦点を合わせ、年齢を重ねて軽い生地軽くて涼しいリネンなどの天然素材にこだわった。高橋本人の油彩とイタリアのペインター、ロバート・ボシシオの作品を取り入れ、高橋自身が想像する絵描きの日常着もテーマの一つとしている。

 

 ウィメンズとメンズのボーダーが無くなっている現在、今後はメンズの会期にコレクションを発表する予定という。そして、民族的な境目を取り払い、様々な対立を解消したいと考える高橋は、ファッションにおいてはそれが実現出来るはず、と語っていた。今季は、不安定な情勢に対し、世界平和と安らぎを強く願う気持ちを込めたコレクションとなった。

 

メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)

Courtesy of Maison MIHARA YASUHIRO

 

 どこでも音楽を奏でて良いとするフェット・ドゥ・ラ・ミュージックの日に合わせたかのような演出で喝采を浴びた、三原康裕による「メゾン ミハラヤスヒロ」。会場となったのは、19世紀半ばに建立され、現在は歴史的建造物に指定される劇場、サル・ワグラム。

 

 ランウェイ正面にはシルバーのグリッターフリンジが飾られ、モニターが掲げられている。ショーがスタートし、モデルがウォーキングすると、モニターに「Bill Withers – Lovely Day」と映し出された。音楽が流れるも、ビル・ウィザースの歌声ではないことに気付き、ふと斜め前を見ると、眼鏡を掛けた青年がマイクで歌っていたのだった。カラオケ大会は続き、ニール・ダイヤモンドやフォー・トップスの曲が続き、それぞれ歌い手がノリノリで歌い上げ、その度に拍手が起きた。

 

 カラオケに気を取られがちだったが、コレクションはこのブランドらしいアイデアに満ちたものだった。シャツやボンバース、スカジャンやGジャン、どこにでもありそうなアイテムだが、捻りが加えられ、どこにもないものに生まれ変わっている。

 

 シャツは襟が幾重にもなり、スカジャンの袖は長く伸び、アイテムによってはこのブランドらしいダメージ加工が施される。パジャマかと思ったらオールインワンだったり、ロングのトラウザーかと思ったらバックサイドがオープンだったり。トレンチのバックサイドもオープンで背中が見え、Gジャンのバックサイドにはシャツが付く。バックサイドもしっかりとチェックすることで、このコレクションの面白味が見えて来る。

 

 モンキーズの「Daydream Believer」を酔い酔いの男性が歌ってフィナーレに。拍手喝采となり、招待客はこの上なくハッピーな気分で会場を後にしたのだった。

 

アミリ(AMIRI)

Courtesy of AMIRI

 

 マイク・アミリによる「アミリ」は、パリ植物園に特設会場を設置してショーを開催した。ロンドンのジャズドラマー、ユセフ・デイズを中心としたThe Yussef Dayes Experienceが生演奏をする中、ヴィンテージテイスト溢れるアイテムをまとったモデル達がウォーキング。

 

 前シーズンのハリウッドの銀幕のイメージから、ミッドセンチュリーのジャズやビッグバンドに移し、ステージ衣装を思わせるゴージャスなアイテムから、カジュアルでスポーティな街着までをカバー。しかし、手刺繍を施したりするなどして、クチュール的なテクニックを配し、ラグジュアリーに仕上げている。

 

 ピークドラペルのダブルブレストのジャケットはゆったりしたシルエットで、長く緩やかに仕立てられたフォルムはカリフォルニア的。和のモチーフを配したアロハには、サテンのスタジアムジャンパーと2タックのパンツが合わせられ、ヴィンテージルックをモダナイズ。パンツは緩やかに広がり、ボリューム感を持たせてスリムなトップとのコントラストを見せている。カジュアルなブルゾンも、刺繍を施してセミフォーマルな雰囲気に。

 

 音楽との関係性を強調した今季は、ドラム型のバッグが登場。ト音記号や五線譜のブローチが各アイテムを彩り、コレクションに遊び心溢れるアクセントを加えていた。

 

アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)

Courtesy of Acne Studios

 

 ジョニー・ヨハンソンによる「アクネ ストゥディオズ」は、プティ・ゼキュリー通りに新設した社屋にてプレゼンテーション形式で最新コレクションを発表した。

 

 ヨハンソンが子供の頃に夢中になっていたスーパーヒーローをモチーフに、トロンプルイユやダメージ加工のテクニックを用いて、アーティスティックでポップなコレクションに仕上げている。

 

 ワンダーウーマンやキャットウーマンのモチーフが登場しているが、これはワーナー・ブラザースの子会社であるDCコミックスとのコラボレーションによるもの。昔着ていたスーパーヒーローのプリントTシャツを引っ張り出して着た時の、今の感覚との衝突・違和感を表現。

 

 ダメージジーンズをプリントしたシャツやデニムパンツ、ウレタン製のスキューバウェア風セットアップ、ムラ染めを施したニットのジャンプスーツなど、ユーモアさえ感じさせるルックを披露。破壊的なダメージモチーフを表面にプリントしながらも、その実、繊細な服作りがなされており、完璧な仕立てのスーツと対極にあるように思わせるも、不思議な調和を生んでいた。

 

キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)

Courtesy of KIKO KOSTADINOV

 

 「キコ コスタディノフ」は、そのカッティングの技巧によって、唯一無二の独自性を持たせたコレクションを披露。生と死、再生と退化の舞台であり、人間の脆さと革新性が共存する病院、診療所、研究所をインスピレーション源にしている。

 

 スタンドカラーのジャケットは、スナップボタンを配することで彫刻的なシルエットが生み出され、膝の脇をつまんだパンツは有機的なフォルムを見せる。Mの字のリブを配したニットプル、病院の作業衣を思わせるカフタンドレス、圧着テープによって膨らみを出した袖のブルゾン、ドロップショルダーのジャケット。丁寧な仕事による各アイテムは、シルエットも作りも仕上がりも色合いも独特である。

 

 顕微鏡写真の中で見られるような有機的な物体をモチーフにプリントしたアイテムも、奇異ではあるが、この上なくポップに感じられる。ボーダーのニットは所々をつまむことによって、不思議な凹凸が生まれ、シンプルなアイテムに終わらせず、敢えて手間を加えている。

 

 シンプルなアイテムが登場したと思っても、コートのジッパーは曲線を描き、ジャケットは前身頃が微妙に立体的。偏執とも思える程の凝りようだが、各ルックには心地良いバランスが生まれているから不思議だ。

 

プロトタイプス(PROTOTYPES)

Courtesy of PROTOTYPES

 

 デムナ在籍時の「ヴェトゥモン(VETEMENTS)」のメンバーだったカラム・ピジョンとラウラ・ベハムによる「プロトタイプス」は、旧変電所のイベント会場、ル・コンシュラを舞台にショーを開催した。21時開始予定が、イエ(カニエ・ウエスト)夫妻の来場を待ったため、22時過ぎからショーが始まった。

 

 「ヴェトゥモン」の流れを汲むアウトローなファッショニスタが大集合し、登場したルックも初期「ヴェトゥモン」の勢いを感じさせる危険な香りのするものばかり。

 

 拘束衣のようなシャツやベスト、寸分の隙無く絞ったGジャンなど、極端に身体に沿わせたルックが目を引く。中心線のずれた「ロンズデール(LONSDALE)」のポロシャツ、解体して再構築した切りっ放しの「アンブロ(UMBRO)」のブルゾン、エミレーツ・クラブのウェアをモスリンに接着したトップスなどはアップサイクル作品。変質・劣化したものであっても、一つの素材として扱い、再利用している。

 

 ブルゾン類が多く見られたが、バックサイドはオープンになっているものが多く、それもほぼ裸と言える程の露出具合。挑発的な過激さの中に、服へのリスペクトと熱心な研究心が感じられ、「ヴェトゥモン」門下生らしさの漂うコレクションだった。

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供

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