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2024.05.04

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.97】工芸、70年代、反骨で日常服に「背伸び」 2024-25年秋冬・パリ&ミラノコレクション

写真左から「ディオール」「プラダ」「ルイ・ヴィトン」「ドリス ヴァン ノッテン」

 

 盛り上がった「クワイエットラグジュアリー」からの揺り戻しが起きている。2024-25年秋冬のパリ&ミラノコレクションでは飾らないミニマルを軸に据えながらも、工芸品レベルの職人技やひねったディテールに格上感を盛り込んだ。テイスト面でも反骨や70年代ノスタルジー、ダークミステリアスなどが打ち出されている。「隠しテーマ」になったのは、幅広い意味での「ウエアラブル(着やすさ)」だ。主張を抑えつつ、「日常服を背伸びさせたラグジュアリー」は自由な着回しに誘う。

 

■パリ・コレクション

 

◆ディオール(DIOR)

Courtesy of Dior

 

 1967年に発表され、プレタポルテが広まる流れを呼び込んだコレクション「ミス ディオール」へのオマージュを捧げた。クラシックでコンパクトなルックは原点回帰が進んだ今回のパリを象徴する。ベージュと黒をキーカラーに据えて、レディーライクなたたずまいにまとめ上げている。膝丈のトレンチコートやAラインのスカートが端正。チェック柄のミニスカート・セットアップでフレッシュなたたずまいに。身頃を大きく横切る「MISS DIOR」のステートメントロゴは繰り返し登場し、ジャケットやコートにもフェミニズムの主張を宿した。ファッションの民主化を促した記念碑的なコレクションをモダナイズして、静かなウーマンリブや自らへのエンパワーメントをささやきかけた。

◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

Courtesy of Louis Vuitton

 

 10年にわたってアーティスティックディレクターを務めたニコラ・ジェスキエール氏はブランドとの歩みをたどり直した。使い込んだトランクのモチーフをトロンプルイユ風に写し込んだミニ丈ワンピースはブランドヒストリーを映すかのよう。立ち襟のジャケットは構築的なシルエット。まばゆくきらめくスパンコール刺繍が手仕事のリュクスを奏でる。布をかさばらせてリッチな立体感を引き出している。トップスはタイトめで、スカートの裾だけが過剰に広がる上下の量感バランスがルックを弾ませる。フリンジでたっぷり膨らませた大ぶりグローブがファニー。装飾的なディテールが随所にあしらわれ、クラフトマンシップを歌い上げた。

 

◆クロエ(CHLOE)

Courtesy of Chloé

 

 「クロエ」育ちの新クリエイティブ・ディレクター、シェミナ・カマリ氏が鮮やかなデビューを飾った。ブランドの原像に立ち返り、自然体でフェミニンなムードを押し出している。1970年代のボヘミアンシックを軽やかにアップデート。レースのブラウスは切りっぱなしのデニムパンツに引き合わせた。シフォン系のシアー生地をたっぷり用いて、エアリーなルックに仕上げている。シースルーをはかなげではなく、むしろ大胆に演出。キーピースのブラウスはフリルやラッフルで軽やかフェミニンに。ケープや人工ファーコートを重ねて、量感を添えた。ベージュやスモーキー色で穏やかなボーホー気分をまとわせつつ、ロマンティックセンシュアルな「クロエらしさ」がしっかり薫っていた。

 

◆ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

Courtesy of Dries Van Noten/Photo by Imaxtree

 

 ショーの後にデザイナー退任を発表した匠の、奇をてらわない哲学を詰め込んだような装いが並んだ。くすませ色と鮮やか色の響き合いでムードを醸し出した。濃淡やトーン違いを交わらせ、柔和な気分を引き出している。シルエットはほのかに曲線を帯びて穏やかでエレガント。見どころはレイヤード。シャツやニットの上から短め丈ジャケットやストールを重ね、裾を無造作にあふれさせるような自然体の重ね着。ユーモラスな量感を添え、着替えの途中感を宿した気負わない着こなしだ。カッチリまとめた服はほとんどなく、アシンメトリー処理や不定形フォルムの自在感が高い。型に収まらない孤高のクリエーションがかえってこなれ感を生んでいる。

 

■ミラノ・コレクション

 

◆プラダ(PRADA)

Courtesy of PRADA

 

 ミニマルなフォルムを軸に据えつつ、ファッションの歴史を多面的に盛り込んだ。コンパクトなドレスはリボンで埋め尽くした。オーバーサイズ気味のジャケットとスカートのスーツがキーピース。警察官風の帽子をムードチェンジャーに起用。ノースリーブの膝丈ワンピースも準主役を務めた。ミニマルとテーラリング、さらにユニフォームを折り合わせている。バーシティージャケット(スタジアムジャンパー)には胸に「P」のレタードを施した。バッグは専用ストラップで腕に引っ掛けている。特大グローブはスキーヤーのよう。レイヤードでムードを深くし、カーディガンとニットトップスの重ね着はノスタルジックなたたずまい。ロマンティックと歴史意識を交わらせている。

 

◆グッチ(GUCCI)

Courtesy of Gucci

 

 セカンドシーズンのサバト・デ・サルノ氏は「ミニマルグラマラス」を薫らせた。シンプルな縦落ちシルエットに、トム・フォード的なリッチ感を交わらせている。主役はボクシーなアウターとマイクロミニ丈ボトムスのコンビネーション。量感の落差がマニッシュとキュートネスをねじり合わせる。ショートコートしか見えない「ボトムレス」ルックやランジェリーライクなキャミソールドレスなどを披露。長短の丈違いレイヤードで動感を引き出した。スパンコーツやジュエルパーツをあしらって、ニットを格上げ。サイハイブーツとのマリアージュを仕掛けている。ブランドが強みとするレザーをしなやかに操って、テーラードコートを仕立てて、フェティッシュも宿らせていた。

 

◆フェンディ(FENDI)

Courtesy of FENDI

 

 マテリアルやテイストを入り組ませて、多彩なリミックスを奏でた。2025年に創業100周年を迎えるブランドらしいヘリテージの厚みを押し出している。正統派のテーラリングを注ぎ込んだ、スリムなスーツを柱に据えつつ、随所にウィットや職人技を盛り込んだ。スーツにニットを重ねたり、高い襟でフォルムを崩したり。片方の腕だけを覆う、長いアームウォーマーはアイキャッチーで、装いにリズムを乗せている。バッグが主役級に位置付けられ、サイズも形も盛りだくさん。2本のハンドルに袖を通して、横倒しにつかみ持つような持ち方アレンジを披露。繰り返した「2個持ち」は1個に収まりきれない多面性を示す。シグネチャーのレザーウエアはニットと引き合わせ、質感違いを際立たせている。

 

◆モスキーノ(MOSCHINO)

Courtesy of MOSCHINO

 

 前任者の急逝を受けて就任したアードリアン・アピオラッザ氏はブランドヒストリーへの敬意でデビューコレクションを染め上げた。ファニーでウィットフルな、創業以来のテイストをあちこちに注ぎ込んでいる。買い物帰り風のトレンチコート姿にはポケットからランジェリーをのぞかせた。ジェレミー・スコット氏が好んだユーモラスなモチーフ使いを踏襲。スマイルマークや疑問符、新聞柄、反核ロゴを盛り込んだ。ジャケットの襟には「CIAO」、ロング丈カットソーには「LOVE」のメッセージが躍った。ブランドアイコンのトロンプルイユ(だまし絵)をリバイバル。アーカイブを一気に振り返るようなコレクションで歴代デザイナーにオマージュを捧げつつ、ブランドの新章を開いた。

 

 

 

 パリ&ミラノで打ち出されたコンフォート志向は着る人に一段と寄り添った。スタイリングが準主役の扱いに浮上したことは、ウエアラブル意識が強まった今回の変化を示す。強くプラウドなイメージを望むマインドを背景に、「着るエンパワーメント」も進んだ。ミニマルの陰で見えにくくなったが、主張のトーンを抑えながらも、芯の強さを印象付けるような新トレンドが映し出されていた。

 

 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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