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2024.05.02

【2024ミラノサローネハイライト】ファッションブランドがますます勢力拡大するデザインの祭典

 イタリア・ミラノにて、2024年4月16日~21日まで、ミラノデザインウィークが開催された。これは、この時期に行われるミラノサローネという家具の国際見本市の時期に合わせて、街をあげて行われるデザインの祭典だ。市内の至る所でインテリアやデザイン関連の一連のイベントが企画され、お祭り騒ぎの一週間となる。

 

 このデザインウィークにはインテリアメーカーだけでなく、様々な業界が参加しているが、特にファッション業界との結びつきは強い。年々、コラボレーションが増えており、今やファッションブランド主催のインスタレーションやホームラインの展示はデザインウィークの華となっている。今年はヴェネチアビエンナーレのオープニングに重なり、そちらに力を入れるブランドもあったが、その一方で初参加のブランド達も多数。そんな中から注目のファッションブランドの展示を紹介する。

 

エルメス(HERMÈS)

Courtesy of HERMÈS/©Maxime Verret

 

 毎年、最も注目を集める展示の一つである「エルメス」。今回は、手前にジョッキーのシルクフラッグからのインスピレーションで、自然の素材で作られた大きな長方形にXが描かれた「旗」のインスタレーションが。“大地”というテーマで、レンガ、石、スレート、木材、土などの自然の素材を使って、色彩的にも装飾的にもコントラストを効かせた壮大な作品となっている。1ヶ月前から会場に入り作り上げ、16種の石、10種の土、4種の木材、再利用されたレンガの素材を使用。素材のほとんどはフランスとイタリアのものを使用し、フランスの職人の手により製作されたのだとか。

 

 そしてその奥には、コンセルヴァトワールに保存されている「エルメス」のアーカイブからインスピレーションを受けた数々の新作が、その着想源になったアーカイブのオブジェと共に展示されている。例えば、1950年代の刺繍入りシェーヴル・ヴェロアの手袋からのインスピレーションの時計&ジュエリーボックス 「アマルテ・ミリアッド」は、木製のベースに革張りがなされ、手袋のステッチと呼応するドットやラインのモチーフが施されている。

 

 またシルクコットンの混紡ツイルと裏地にはカシミアを使ったベッドカバー 「イピック」は1960年代のシルクのジョッキージャージからのインスピレーション、同様にジョッキージャージからの連想のカシミア製ブランケット「タータン・ダイ」はオートクチュールに用いられる、格子模様の折り染めの技法で作られている。

 

 さらに70年代のレザーブレスレットからインスピレーションのバスケット「ダービー」、馬具づくりに用いられるふち飾りや組紐のモチーフが描かれたテーブルウェア「トレサージュ・エケストル」など。「エルメス」のサヴォワールフェールが伝わるだけでなく、並べて展示してあるがゆえに、見る人も楽しみながら納得できる仕組みになっている。

 

ロエベ(LOEWE)

Courtesy of LOEWE

 

 「ロエベ」は、ブランド史上最大級の展示をパラッツォ・チッテリオにて開催。ジョナサン・アンダーソンが選んだ24 人のアーティストたち、アルヴァロ・バーリントン(ベネズエラ)、ニコラス・バーン(英国)、エンリコ・ダヴィド(イタリア)、アンディレ・デャルバニ(南アフリカ)、エルンスト・ガンペール(ドイツ)、浜名一憲(日本)、アンセア・ハミルトン(英国)、平井明子(日本)、ジョー・ホーガン(アイルランド)、アン・ヴァン・ホーイ(ベルギー)、石塚源太(日本)、ダヘー・ジョン(大韓民国)、桑田卓郎(日本)、ジェニファー・リー(英国)、ヤンソン・リー(大韓民国)、アン・ロウ(カナダ)、松本破風(日本)、デーム・マグダレン・オドゥンド(ケニア)、ジジフォ・ポスワ(南アフリカ)、マガリ・レウス(オランダ)、四代田辺竹雲斎(日本)、アンドレア・ワルシュ(英国)、ケリス・ウィン・エヴァンス(英国)、横山翔平(日本)によって、今回の展示のために特別にデザインされたランプのコレクションを発表した。多くのアーティストにとっては、ランプの制作は初めての経験だったが、時にデザインチームともやり取りしながら、それぞれの個性が強調される作品に仕上がった。

 

 例えば、石塚源太は光沢のある漆を塗り重ねて仕上げ、その層を剥がして金の層をのぞかせることで内側から発せられる柔らかな明かりが特徴的なペンダントランプを発表。陶芸家、デーム・マグダレン・オドゥンドは自身の代表作である手で磨きをかけた丸い器をもとに、丸めて先端をとがらせた鞘さや状のレザーが中央の円柱から突き出すようなデザインの照明を作成した。エンリコ・ダヴィドは背を丸めて立つ人の姿を模して、オニキス製の円盤型の照明が顔の部分のシルエットを浮かび上がらせるテーブルランプを、松本破風は竹の伸張性を巧みに扱う技術を駆使し、平らにした竹を編み合わせたテーブルランプを作りあげた。

 

 またアーティストの手によるバッグも製作・販売された。松本破風は「ロエベ」を代表するパズルバッグとハンモックバッグの再解釈を行ったほか 、ホーボーバッグとポケットバッグも発売。竹工芸の四代田辺竹雲斎はその編みの技術をカーフスキンレザーに応用したバスケットを作成 。陶芸家のアン・ヴァン・ホーイは ナパラムスキンの余剰材を利用してさまざまなボウルをデザイン。ケイ・セキマチは自身の先駆的な機織り作品と 「Takarabako」シリーズ1999をインスピレーション源に「ロエベ」のパズルトートを2種類のサイズに再解釈したほか、新しいバケットバッグをデザインした。これらのアイテムはすべて、パラッツォ・チッテリオと「ロエベ」のモンテナポレオーネ店で販売された。松本破風とケイ・セキマチとがそれぞれロエベとコラボレーションして完成したバッグは、6月末より日本のカサロエベ2店舗とオンラインでも発売予定。

 

アルマーニ / カーザ(ARMANI / CASA)

Courtesy of ARMANI / CASA

 

 前年に続き、「アルマーニ / カーザ」は本社のあるパラッツォ・オルシーニにて新作を発表。普段はオートクチュールの採寸室としても使われている宮殿の空間で、初めて「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ(GIORGIO ARMANI PRIVÉ)」のアーカイブピースと共に新コレクションを展示した。

 

 今回は“ECHOES FROM THE WORLD (世界からの響き)”をテーマに、ジョルジオ・アルマーニが世界中を旅して得た様々なインスピレーションによってコレクションを制作した。中でも特に彼のインスピレーションの源となっている、日本、ヨーロッパ、中国、アラビア、モロッコを取り上げ、「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」のドレスと共にそれぞれの地域から連想されたコレクションが繰り広げられる。

 

 例えば、日本のスペースでは、以前、映画「影武者」からインスピレーションを得たコレクションが。刀のツカをハンドルのディテールに使用した「ヴェルテュ」キャビネットや、日本の侍の甲冑の質感、カスタマイズされたグラフィックが施された畳風のインテリアを発表。1981年の「サムライ」コレクションのドレス(今回展示のドレスの中では唯一のプレタポルテ)と「日本へのオマージュ」 という2011秋冬「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」コレクションのオレンジのスパンコールと花柄のガウンと共に展示された。

 

 中国のスペースには、竹の幹のような彫刻的な脚と天板にバラ色の銀箔をあしらったテーブル「ヴィヴァーチェ」、背面に金箔をあしらったラッカー仕上げのガラス天板が特徴のコンソール「ヴィーナス」、吊り棚を備えた書棚「ヴィルゴラ」、曲線を描くソファ「ヴィーゾ」を、「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」2009春夏や2023秋冬の作品と共に展示。ヨーロッパのスペースでは、プレキシガラスの脚とプラチナラッカー仕上げのウェーブテクスチャーの天板のテーブル「トロカデロ」や、シームレスに調和するチェア「ソフィア」を発表した。

 

 また奥の部屋には、ジョルジオ・アルマーニ本人が世界を旅した時の映像や写真が飾られており、同コレクションのインスピレーションを間近で感じることができる。

 

サンローラン(SAINT LAURENT)

Courtesy of SAINT LAURENT

 

 「サンローラン リヴ・ドロワ(SAINT LAURENT RIVE DROITE)」は、「ジオ・ポンティ:プランチャート邸」展をサン・シンプリチャーノ教会にて開催した。これは、ジオ・ポンティ・アーカイブスおよびアナラ&アルマンド・プランチャート財団とのコラボレーションによる特別なプレートコレクションを、アンソニー・ヴァカレロのキュレーションによって展示したものだ。

 

 アナラ&アルマンド・プランチャート夫妻が1953年にジオ・ポンティに設計を依頼して、ベネズエラのカラカスを見下ろす最も高い丘に別荘を建てた際、ジオ・ポンティはプランチャート邸の室内装飾の一部として、彼が以前アーティスティック・ディレクターを務めていたフィレンツェの名窯「ジノリ1735」の職人に依頼して磁器の食器セットを作った。

 

 太陽、三日月、北極星、またアナラ(Anala)とアルマンド(Armando)へのオマージュである「A」の文字の繰り返しなど、別荘のシンボルやモチーフで装飾された美しいプレーとコレクションとなっている。

 

 「サンローラン リヴ・ドロワ」は、「ジノリ1735」とのコラボレーションにより、1957年にジオ・ポンティがデザインしたヴィラ・プランチャート・セーニャポスト コレクションのオリジナルプレート12点を復刻。伝統的な手法で製作されたデコラティブな磁器プレートは、イタリアにある「ジノリ1735」の工房で手描きされている。

 

 この限定プレートは「サンローラン」公式サイト(日本では一部のみ購入可)、ロサンゼルスの「サンローラン リヴ・ドロワ」、またパリの「サンローラン バビロン」で販売される。

 

グッチ(GUCCI)

Courtesy of Gucci

 

 「グッチ」はミラノの旗艦店にて、「デザイン アンコーラ(Design Ancora)」という、サバト・デ・サルノが企画した特別なプロジェクトを発表した。これはイタリアンデザインの巨匠たちがデザインした過去のアイコニックな5つの名作を、アンコーラ・ロッソで彩って復刻させたものだ。

 

 トビア・スカルパが60年代にヴェニーニのためにデザインした花瓶、マリオ・ベッリーニが1972年にデザインしたタッキーニのソファとシェズロング、ピエロ・ポルタルーピのデザインを使ったCCタピスのラグ、ナンダ・ヴィーゴによる1994年のアチェルビスのキャビネット、ガエ・アウレンティとピエロ・カスティリオーネによる1980年作のフォンターナ・アルテの照明が、アンコーラ・ロッソ色で蘇り、建築家のギレルモ・サントマによるライトグリーンの空間に鎮座する。これらの展示製品は、会期後に「グッチ」公式オンラインショップにて購入可能。

 

ゼニア(ZEGNA)

Courtesy of ZEGNA 

 

 「ゼニア」は、同社が所有する100km²超の自然保護区、オアジ・ゼニアにまつわるブランドヒストリーを描いたアートブック「BORN IN OASI ZEGNA」の発売に因んで、デザインウィーク中にミラノ本社にて、ローンチエキシビションを開催。この本では「ゼニア」の歴史、価値観の源であるオアジ・ゼニア、そしてオアジ・ゼニアにまつわるブランドの哲学が描かれているが、それに因んだ美しい自然の映像が上映され、また本社の広大なエントランス部分をまるで自然の中にいるかのような雰囲気に仕上げた没入型の空間展示が行われた。この「BORN IN OASI ZEGNA」は現在、世界中の「ゼニア」ストアとゼニアオンラインストアにて発売中だ。

 

 さらに、デザインウィーク中の4月19日、「ゼニア」はドゥオーモ広場の花壇の管理者に就任し、ミラノ市に新しい花壇を寄贈。世界中に新しいオアジ・ゼニアを作ることを目指すプロジェクトをスタートした。これはミラノ市との協力のもと、3年の歳月をかけて実現したもので、オアジ・ゼニアの植物たちを季節のサイクルに合わせて植え替える仕組み。花壇にはQRコードが表示され、「ゼニア」が再植林しているテリトリーをライブで見ることができるようになっている。

 

イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)

© 2024 ISSEY MIYAKE INC.

 

 「イッセイ ミヤケ」はミラノの旗艦店にて、オランダの創作集団We Make Carpetsによるプロジェクト「Fold and Crease」の展示を行った。今回は「イッセイ ミヤケ」のクラフツマンシップとそのものづくりの部分にフォーカスし、そこから着想を得て、職人技を駆使して作られたインスタレーションを繰り広げた。1階の広いスペースでは、繊細な表情を持つ「イッセイ ミヤケ」の洋服と呼応するような、手作業で先端に色をつけた60,000本の竹串を一本一本、手で並べた大きなオブジェを展示。ショップの2階の各所にも、スポンジのベースに服づくりを連想させる針をシルバーとゴールドの2色で刺し、木の枠にはめ込んだ4つの作品が、洋服やアクセサリーに調和する形で展示された。

 

ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)

Courtesy of JW ANDERSON/De Pasquale + Maffini

 

 「ロエベ」としては毎年、デザインウィークに参加してきたジョナサン・アンダーソンだが、「ジェイ ダブリュー アンダーソン」としては初のインスタレーションを発表。パトリック・キャロルによる“Days”というテーマのアートワークを、ミラノの旗艦店に展示した。

 

 展示されているのは、ファッション業界の残余を処分する残材ショップから集めた大量の糸を1970年代の家庭用平織り機で編んだテキスタイルを張って木枠に入れた、まるで絵画のような作品。ロサンゼルスにあるスタジオで一つ一つ、アーティスト本人が手作業で作品を制作したこれらの作品は、ウールやリネン、シルク、カシミア、モヘアなど様々な素材を使うことで、質感と素材、色、透明度のコンポジションを織りなしている。

 

 またそこには「music」(音楽)、「abnegation」(自制)、「pity」(同情)、「voices」(声)、「permanence」(永続性)などの概念的な言葉や、文学作品からの引用や今なお残っている芸術作品への言及、そしてときにはキャロル自身の言葉が編み込まれている。

 

 これらの37点のアートワークは、「ジェイ ダブリュー アンダーソン」ミラノ店で購入可能だ。

 

トム ブラウン(THOM BROWNE)

Courtesy of THOM BROWNE

 

 「トム ブラウン」は、160年の歴史を持つホームリネンブランド「フレッテ(frette)」とのコラボレーションにより、ブランド初となるホームコレクションをパラッツィーナ・アッピアーニにてお披露目した。

 

 “TIME TO SLEEP”というテーマのプレゼンテーションでは、「フレッテ」の上質なコットンサテンにブランドのシグネチャーである4BARを細部にあしらった寝具で覆われたベッドを会場の中央に配置。そこに下着姿のモデルたちが登場し、ミッドセンチュリーのオフィスユニフォームを「トム ブラウン」のシグニチャーカラーのグレーで再解釈したスーツを着用した後、ベッドに横たわりアイマスクを付けて昼寝を始め、合図の音で起床するとスーツを脱いで、また下着姿で退場・・・というパフォーマンスが行われる。

 

 複数のモデルたちがみな淡々と単純な同じ所作をするシュールな動きは、ピッティに招聘された際や、「モンクレール ガムブルー(MONCLER GAMME BLEU)」時代の過去のショーでも使った、ある意味トム・ブラウンがお得意とする演出だが、それをデザインウィークでも行った。

 

 このホームコレクションは日本では6月から展開を予定している。

 

 

取材・文:田中美貴

画像:各ブランド提供

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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