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2024.03.09
【2024秋冬パリ ハイライト2】大役を任じられ真価が問われるデザイナーたち
写真左から「ジバンシィ」「ニナ リッチ」「カルヴェン」「バレンシアガ」
デザイナーが着任して2~3回目のコレクションが多かった今季。ハリス・リードによる「ニナ リッチ(NINA RICCI)」や、ルイーズ・トロッターによる「カルヴェン(CARVEN)」など、デザイナーとブランドの親和性について評価が問われ始めている。その一方で、デザイナーを迎えないままデザインスタジオがコレクションを手掛けた「ジバンシィ(GIVENCHY)」は、多くの業界関係者にとって気になる存在である。アレッサンドロ・ミケーレ、あるいはサラ・バートン、はたまたハイダー・アッカーマンが次期アーティスティック・ディレクターに就任するのではないか、と取り沙汰されるも、一向に新デザイナーが着任する兆候を見せてない「ランバン(LANVIN)」も然り。一体誰がやって来るのか、皆が固唾を飲んでその発表を待っている。
ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
Courtesy of Dries Van Noten/Photo by Imaxtree
招待状には、女性の髪の毛がテープで留められていた。前髪を切った女性の大胆さと神秘性をコレクションに込めた「ドリス ヴァン ノッテン」。マスキュリンとフェミニン、強さと優しさ、矛盾するものを敢えてミックスし、色とスタイリングを主題に掲げた。1つ1つのアイテムはカジュアルで、普遍的であるが、それらに特別な価値を持たせたい、とする意向が反映され、カラーリングと素材の合わせに独自性が生まれている。
ペールトーンとビビッドカラーのコントラストや、デニムの袖を配したサテンジャケットなど、異質なものを組み合わせて新しいスタイルを創生。手描きの千鳥格子のプリントの上から刺繍を施したり、スパンコール刺繍の上からプリントを施したり、ブロケードに立体的な刺繍を施したり。
そんな装飾的なアイテムがある一方で、シンプルなコートを美しいライムグリーンの生地で作り、ベロアのような独特の手触りの起毛素材でコクーンシルエットのコートを仕立て、そのコントラストを見せる。
「着やすいアイテムがつまらないものである必要は無い」とするヴァン・ノッテンの持論はコレクションを通して貫かれ、その結果として新しいエレガンスが生まれていた。
ジバンシィ(GIVENCHY)
デザインチームによる「ジバンシィ」は、本社のショールームスペースにてショーを開催した。1月に発表されたメンズコレクション同様、ユベール・ドゥ・ジバンシィ時代のアーカイブから、ネコやシャンデリアのモチーフを引用。
ファーストルックは、シルバーのバゲットビーズを全面に刺繍したネコイメージのドレス。今季はツバメもイメージソースとなっていたが、スワローテールはツバメのフォルムからの着想と思われた。
ネコのプリントのドレスには、胸元に黒の縁取りが配されているが、これはツバメのイメージ。また全面に羽を刺繍したコートドレスも、ツバメからインスパイアされている。
バスクブルーのベルベットのドレスやコートなどが登場したが、これは黒に代わるキーカラーとして打ち出されたもの。後半はツバメのフォルムからインスパイアされたジャケットやドレスが続き、アイテムによってはユベール・ドゥ・ジバンシィが好んだ羽のモチーフがあしらわれる。最後に羽を刺繍したマリエ(ウェディング)が登場したが、ツバメイメージのリボンのヘッドドレスと共に、オート・クチュールの象徴が散りばめられ、「ジバンシィ」がオート・クチュールメゾンであることを強く印象付けた。
ニナ リッチ(NINA RICCI)
ハリス・リードによる「ニナ リッチ」は、サル・ワグラムでショーを開催した。昨年9月に衝撃的なデビューコレクションを発表したハリス・リードは、セント・マーティン卒業後に自身のブランドを設立し、多くのセレブリティに衣装を制作。昨年、26歳にして「ニナ リッチ」のクリエイティブ・ディレクターに就任している。
「ニナ リッチ」のドレスをまとった、モデルのスージー・パーカーを撮影したリチャード・アヴェドンによる1960年代の写真からインスパイア。女性の自由な装いが許され始めた時代のスタイルを、リードらしいセンシュアルでアグレッシブな手法でモダナイズしている。
レースのシースルーボディスとピンストライプのスカートでスタート。マスキュリン・フェミニンな雰囲気は、先述の写真の中でスージー・パーカーの着用していたドレスからインスパイアされたと思われるトレンチにも見られた。ピンストライプのジャケットドレスには、「ニナ リッチ」の象徴でもあるリボンのヘッドドレスをコーディネート。
モンゴリアンラムをあしらったクロコレザーのコートドレスや、同じくクロコレザーのスーツなど、マニッシュでスポーティだが、艶やかでグラマラスなルックと、フェミニンなシースルーのレースボディスとのコントラストが、コレクションに一定のリズムを生み出している。様式化された大きなリボンは、シンプルなロングドレスに合わせられ、大きなインパクトを残した。
カルヴェン(CARVEN)
「ラコステ(LACOSTE)」から移籍する形で着任した、ルイーズ・トロッターによる第2回目の「カルヴェン」のコレクション。今季もブランドの新しい方向性を模索するべく、実験的なシルエットの追求が行われていた。
ジャケットはドロップショルダーで、コートは大きなラウンドショルダーに仕立てられ、合わせられたパンツはバギーだったり、張りのある素材による彫刻的なラフルを描くスカートだったり。ジャケット類は、シルエットを強調するために敢えて小さなボタンを装着。身体に合わせて作られた服、というよりも、様々な体型の女性を包み込むような雰囲気を醸し出している。
ウエストラインを絞ったジャケットは造形的なシルエットを描き、首元が大きく開いたドレスやプリーツのドレスは彫刻的。今季は「カルヴェン」グリーンを意識したグリーンのトップスと起毛素材のスカートのアンサンブルの他に、差し色として赤のアイテムが登場。起毛素材と、起毛素材のように見えるジャカードによるフリンジ素材のドレスとのコントラストも美しかった。
アン ドゥムルメステール(Ann Demeulemeester)
Courtesy of Ann Demeulemeester
「アン ドゥムルメステール」は、マレ地区の展示会場、エスパス・ブラン・マントーにてショーを開催した。わずか半年でブランドを去ったルドヴィック・ドゥ・サン・セルナンの後任として、昨年クリエイティブディレクターに着任した27歳のステファノ・ガリーチによる第2回目のコレクション。ブランドのアーカイブを紐解きながら、今季は多様性を重視したモデルのキャスティングによりモダンな印象を与え、より若々しいイメージを打ち出している。
ステファノ・ガリーチは、ヴェネツィア建築大学を卒業後、「ハイダー アッカーマン(HAIDER ACKERMANN)」でキャリアを築き、アントニオーリ社に入社。2020年にアントニオーリ社が「アン ドゥムルメステール」を買収した後は、同ブランドのメンズコレクションを手掛けていた。
ファーをあしらったレザーのコートでスタート。ヘアスタイルやコートのカットは「アン ドゥムルメステール」そのものではあるが、インナーにシルクのランジェリーを合わせている点が新鮮。ブーツと白いソックスのコーディネートも若者らしい発想。
長いストリングをあしらったシルクドレスや、モスリンのロングドレスは「アン ドゥムルメステール」のスタイルを継承しているが、レザーのプリーツスカートや格子プリントのスカート、ダメージ加工を施したタートルネックのプルーオーバーなどが新しさを感じさせる。今後、「アン ドゥムルメステール」のコレクションの中でガリーチのクリエーションをどのように打ち出すのか、期待をしながら注目して行きたい。
バレンシアガ(BALENCIAGA)
デムナによる「バレンシアガ」は、ナポレオン・ボナパルトの墓を擁すアンヴァリッド(廃兵院)の庭に特設テントを建ててショーを開催した。LEDスクリーンには、朝から夜にわたる自然の風景と電子的な風景をプロジェクション。
ラグジュアリーとは何か、ファッションとは何かを考察し、クリストバル・バレンシアガ作品からインスパイアされながら、創造性こそがラグジュアリーの礎になるという結論に達したという今季。デムナらしいユーモアを織り交ぜながら、斬新で新鮮なアイテムでコレクションを構成している。
ショルダーパッドをウエスト部分に配したドレスは、クリストバル・バレンシアガ作品からインスパイアされたもので、新しいシルエットを創出。GARDE-ROBEのタグが縫い付けられているシリーズは、脱構築的なテイラーリングのシリーズで、レザーのブルゾンのようなドレスやトレンチのようなドレスなどが登場。
ホコリ避けのバッグ用ダストバッグをそのままセットアップにしたルックや、バッグやリュックサックを再構築したドレスなど、奇想天外なアイテムはデムナならでは。2つのアイテムを接合させたアイテムには、ビニールテープが巻かれていたが、店頭ではビニールテープは別添えになり、購入者が好きに貼り付けられるようになっているという。キャミソールやTシャツを重ねたドレスやビキニやスウェットを組み合わせたドレスなどに続き、無数のブラを組み合わせたドレスが登場してショーの幕を閉じた。
ステラ マッカートニー(Stella McCartney)
「水と空地を提供しているのに、なぜ私のことを傷つけるの?」という地球からのメッセージをコレクションに落とし込んだ「ステラ マッカートニー」。その地球からのメッセージを象徴するモチーフとして、今季、唇が様々なアイテムを彩っている。アンドレ・シトロエン公園内の温室でショーを開催した。
オーバーサイズのシルエットを追求し、1970~80年代に母親のリンダ・マッカートニーが着用していた服からインスピレーションを得ている。オーバーサイズではあるが、メリハリのあるシルエットで、着やすさも追及。パワーショルダーのドレスも、リンダ・マッカートニーのイメージで、肩パッド自体は丸みを帯びた特徴的な形状を見せている。
地球からの悲痛な叫びを受け止め、サステナブルなコレクションで応えるという姿勢を示し、オーガニックコットンはもちろんのこと、認証素材のシルクを使用。リンゴの搾りかすを再利用したクロコ風型押し素材や、鉛フリーの金属やラインストーンを刺繍に使用。
今季は、特にエアライトと呼ばれるエコレザーでバッグを制作。空気中の二酸化炭素を分解し、10年間の保証が付くという。これまで通り、徹底的な姿勢を貫いていた。
取材・文:清水友顕/Text by Tomoaki SHIMIZU
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)
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