PICK UP
2024.02.01
graniph Tokyo/「グラフィックブランド」の多様なコンテンツを凝縮、ポップカルチャーの体験価値を世界へ
graniph(グラニフ)は2023年12月21日、国内最大規模となる新旗艦店「graniph Tokyo(グラニフ東京)」を原宿キャットストリートに出店した。2フロアで構成し、総店舗面積は約430㎡。漫画やアニメ、ゲーム、アートなどのコラボレーションアイテムやオリジナルキャラクターなど、培ってきたグラフィックコンテンツを8つのゾーンに編集し、ブランドとして初のカフェも併設した。グラニフは「デザインTシャツストア」として2001年に創業し、ユニークなキャラクターのデザインや意表を突く数多くのコラボなどでファンを獲得。その後、グラフィックの基盤を生かしてライフスタイル全般に領域を広げ、21年からは「グラフィックブランド」へのリブランドを進めてきた。新旗艦店ではゾーニングの切り口をアイテムからコンテンツへと変え、食も含めた多様なコンテンツを通じて「グラフィック ポップカルチャー」を楽しむショッピング体験を提供する。店舗限定アイテムも揃えるほか、服飾雑貨や生活雑貨が充実しているのも特徴だ。「ここだけ」の体験価値を顧客視点で凝縮し、世界へ発信していく。
「マルチコンテンツ×マルチカテゴリー」
リブランディングの狙いは「グラニフ=Tシャツ」のイメージから脱却し、「グラフィックブランド」へと転換すること。商品をキャンバスと捉え、アパレルではTシャツ以外へとアイテムの幅を広げ、特にこの2年余りでは服飾・生活雑貨の領域も充実させてきた。「創業者がアーティストだったことから、グラフィック作品をTシャツにプリントして販売する業態としてグラニフは始まりました。店舗を展開する過程でTシャツ以外にも少しずつアイテムを増やしていったんです。ただ、屋号が『Design Tshirts Store graniph(デザインTシャツストア グラニフ)』だったので、どうしてもTシャツブランドという認識が強く、店名までは覚えていないという人も多かった」と村田昭彦社長。そこで創業20年を迎えた21年にリブランディングをスタートさせ、店名を「graniph」にシンプル化、グラフィックを通じて豊かな暮らしを提案するグラフィックブランドを目指した。
21年当時で店舗数は100店超あったがスクラップ&ビルドを進め、コンセプトを体現するため約160~330㎡規模の店舗の出店も加速させた。その軸としているのが「マルチコンテンツ×マルチカテゴリー」戦略だ。マルチコンテンツとは、自社IP(知的財産)とこれまでも展開してきたアニメや漫画、ゲーム、アートなどの他社IP、いずれも拡充すること。マルチカテゴリーとは、アパレルはもとより、非アパレルと位置づける服飾雑貨や生活雑貨のカテゴリーでもアイテムを増やしていくこと。「コンテンツとカテゴリーの2軸でアイテムを充実させ、フルラインナップでグラフィックブランドとしての価値をしっかりと伝えていくには、大きな売り場が必要になる」としている。
今年1月現在で国内103店舗の6割ほどは新しいスタイルに切り替えた。その最新形として新旗艦店「グラニフ東京」はある。原宿では長年にわたりフラッグシップとなる路面店を展開してきたが、これまでと大きく異なるのはコンテンツを強く打ち出している点だ。1階では中央のシーズンコレクションを囲むように、店舗限定アイテム、オリジナルキャラクターのアパレル、バッグやソックスなどの服飾雑貨、人気ナンバーワンキャラクター「BEAUTIFUL SHADOW(ビューティフルシャドー)」単独のショップインショップをゾーニングした。
-
1階売り場中央では最新のコレクションを提案
-
グラニフ東京の店舗限定アイテムを展開するゾーン
-
オリジナルキャラクターのウェアをラインナップしたゾーン
-
オリジナルの服飾雑貨も幅広く展開
-
ビューティフルシャドーの多様なアイテムを集積したショップインショップ
2階では、売り場の中央で「今、一押し」のコンテンツを特集し、左奥のゾーンとの連携で見せる。オープニングでは人気急上昇中のレッサーパンダのキャラクター「IKAKU(イカク)」のアパレルアイテムを中央に配置し、左奥では定番キャラクターのシーズナルアイテムを揃えた。左側のウインドー沿いには、ルームウェアやルームシューズ、ベッドリネンなどのホームコレクション、マグカップなどの食器、ノートなどのステーショナリーといった生活雑貨をフルラインで展開。売り場の右から奥にかけてはコラボアイテムを集積し、キッズも充実させることで親子コーデも楽しめる売り場構成となっている。
-
2階の中央では一押しコンテンツを提案。取材時は人気急上昇中のキャラクター「イカク」を特集していた
-
最新キャラクター「ASTRO CAT(アストロキャット)」など、人気キャラクターのシーズナルアイテムを集積
-
ソフビやルームウェアなど最新のホーム雑貨を取り揃える
-
企業や絵本作品など多様なコラボアイテムを集積
-
企業や絵本作品など多様なコラボアイテムを集積
注目はやはり、ブランドとして初めて併設した「graniph Cafe(グラニフカフェ)」だろう。福岡を拠点とするスペシャルティーコーヒー専門店「REC COFFEE(レックコーヒー)」と、東京を拠点とするニューヨークスタイルのドーナツ専門店「DUMBO Doughnut(ダンボドーナツ)」との協業でオープンさせた。専門店の味はもとより、期間限定を含む15種類のオリジナルグラフィックから選べるグラフィックラテ、ビューティフルシャドーのズームバージョンをチョコレートで描いたドーナツも楽しめる。「単にカフェを併設するのではなく、自分が好きなコンテンツを使って暮らしを楽しみ、豊かにするというコンセプトに沿ったもの。このカフェを訪れたお客様がSNS上で感想をシェアすることも良く見受けられます」という。
-
2階売り場に併設した「グラニフカフェ」
-
2階売り場に併設した「グラニフカフェ」
-
オリジナルグラフィックのラテを楽しめる
顧客視点で「絞り込み、深める」
約430㎡の店舗では「ストリートの再構築」をテーマにデザインされ、随所にネオンサインやグラフィティなどが配されている。グラニフのロゴマークにある「g」の丸囲みからの発想だろうか、コンテンツは円やアールの形状でゾーニングされ、路地を巡るような感覚で散策できる。ゾーン区分はありながらも曲線の柔らかさが各コンテンツを融合させ、売り場全体として「グラフィック ポップカルチャー」を体現。他の既存店よりも通路をゆったりと取り、回遊性を高めている。各コンテンツのアイテムは「絞り込んで、深めることに注力している」と村田社長。その基準としているのが「顧客視点」だ。グラニフは会員登録をすると実店舗とECサイトで利用できる特典が受けられるメンバーシッププログラムを実施し、全体売り上げの実に約7割がこの会員(顧客)による。以前の原宿店も遠方からを含め顧客の来店・購買が多かったことから、グラニフ東京は顧客の視点による店作りを重視した。
-
柔らかな曲線でゾーニングされた売り場
-
ロゴマークのネオンサイン
-
ロゴマークのネオンサイン
「コンテンツの一つであるオリジナルキャラクターにはそれぞれにファンがいます。自分が好きなキャラクターを目当てに来店するお客様が多いので、グラニフ東京ではコンテンツごとに各キャラクターのアイテムを絞り込み、より深い品揃えを意識しました。お気に入りのキャラクターを探して店内を巡り、買い物をして、カフェで一休みしながら、そのキャラクターのラテやドーナツを楽しむ。それはファンの皆様にとって充実したショッピング体験になると思うんですね。実際に売り場でお客様からいただいた声やX(エックス)への投稿には多くの方から嬉しいお言葉をいただいているので、まだオープンして間もないですが、私たちが意図したことが実現できていると感じています」
ビューティフルシャドーのショップインショップは象徴的だ。デビューから15年が経ち、今や年間20億円超を売り上げるグラニフの顔に成長している。そのキャラクターをコンテンツとして、ショップインショップ形式で世界観を表現した。ハンバーガーになったビューティフルシャドーを刺繍した中綿入りのスタンドカラーブルゾンや、干支の辰にちなんでドラゴンになりすましたビューティフルシャドーを刺繍で表現したドロップショルダーブルゾン、ハットやキャップ、インテリア雑貨など幅広いカテゴリーからセレクトされたアイテムが並ぶ。ラックの上にはビューティフルシャドーの小さなフィギュアがちょこんと腰掛け、店の様子を眺めているのだろうか。「お客様の中には、ご自身で制作されたビューティフルシャドーの人形を持参し、一緒に写真に収める方もいらっしゃいます」と、すでにファンの間では名物となりつつある。
「遊び心を大切にしているブランドなので、売り場にも遊べる要素を仕掛けとして入れています。1階にはオリジナルキャラクターのミニチュアコレクションが出てくるガチャがあり、好きなキャラクターが出るまで挑戦する様子がSNS上で多く投稿されています」という。
-
ビューティフルシャドーをデザインした様々なアイテムが揃う
-
ラックの上にはビューティフルシャドーのフィギュア
-
オリジナルキャラクターのガチャは来店客に人気
グラニフ東京限定デザインのアイテムも展開し、すでに訪日外国人客など多様な客層に好評だ。一つは、グラニフ人気キャラクターを漢字で表現し、背にgraniph Tokyoのロゴを入れた定番のTシャツとパーカのシリーズ。ビューティフルシャドーは「美麗陰影」、イカクは「威嚇」、ナガスギルイヌは「長過犬」、ラムチョップは「羊手拳」、コントロールベアは「自己操縦熊」と、漢字とキャラクターを組み合わせたデザインは、その佇まいがポップで、どこか渋い。Tシャツは3500円、パーカは6900円。もう一つは、ベロアのトラックジャケットとパンツを打ち出す。上記キャラクターをワンポイントであしらい、サイドにラインを入れたシンプルなデザインと5色のカラー展開で、ジャケットは8900円、パンツは6900円。オープン以降、売れ筋となっている。
-
グラニフ人気キャラクターの店舗限定Tシャツとパーカ
-
店舗限定のベロアトラックジャケットとパンツ
グラニフカフェで使用しているマグカップやカフェのロゴをあしらったタンブラー、キーホルダーやステーショナリーなども、カフェ併設のスーベニアコーナーで販売している。オリジナルキャラクターがデザインされた「ここだけのお土産」が並び、大きなコントロールベアのフィギュアが出迎えてくれる。
-
グラニフカフェのマグカップなどが買えるスーベニアコーナー
-
クマが自らの首を取るというシュールでキュートなキャラクター「コントロールベア」
自分の価値観で物を選び、楽しむ豊かさ
グラフィックの基盤を生かした多様なジャンルの作品やクリエイターなどとのコラボレーションもまた、グラニフの大きな魅力だ。グラニフ東京でも様々なコラボアイテムをランナップしている。コラボアイテムは売り上げの約3割を占めるカテゴリーだが、協業先の選択は「必ずしも今、人気で、売れる見込みがあるからではない」と村田社長。シーズン性に合うか、市場での認知度はどうかなど基本的な要素は検討するが、最も重視しているのはスタッフの熱量だ。漫画作品とのコラボであれば、全巻を読み込み、何に焦点を当て、どう表現するかを練り上げ、作者と意見を交わしながら商品化していく。制作には相応の時間がかかるが、『これがやりたい』という熱意、熱量が結果的に差別化されたデザインとして商品に表れ、その作品を熟知するファンに刺さる。
例えば昨年末から展開している映画「ゴーストバスターズ」とのコラボアイテムも、新作が上映されるタイミングでもなく、リバイバル人気が高まっていたわけでもない。「ゴーストバスターズが大好き」という強い思いからスタートし、もともとのファンの共感はもとより、新たにファンになる人も増やしながらヒット中だ。
マーケットの意表をつくコラボは「そうきたか」「攻めている」「よくぞこの作品のココを選んでくれた」といったSNSの発信につながり、「すごく期待値の高いカテゴリーになっている」。様々なコラボの背景はグラニフの公式オンラインサイト内のコンテンツ「STORIES」で「コラボの原産地」として紹介し、それぞれの魅力を深掘りできるコンテンツ作りにも力を入れている。
-
公式オンラインストアで公開している「コラボの原産地」
顧客構成比が高いグラニフだが、顧客の次回購入意向も80%に上り、商品や店舗などに関する自身の感想をSNSで発信する顧客も「ファッションブランドと比べ圧倒的に多い」。顧客エンゲージメントと顧客ロイヤルティーが非常に高いビジネスモデルとなっている。
「流行っているからとか、他人はどう思うだろうかではなく、自分が好きな物にこだわり、好きな物に囲まれて暮らす。自分の価値観で選んだ物で暮らしを楽しむことが豊かさであるという考え方が、グラニフというブランドの根幹にはあります。その思想が、サブカルチャーやオタクと言われていたものがメインストリームになってきている多様性の時代にマッチしているのだと思う」と村田社長。個々の興味関心やニーズを捉え、商品や店作りに反映していくため、顧客の視点を重視してきた。「売り上げの数字だけでは、お客様がブランドや商品をどう感じているのかが分かりません。購入した場合も、商品が良かったからか、購買体験が良かったからか、次回以降も買いたいと思っているのか、他人に薦めたくなるぐらい気に入っているのかなど様々な角度から、お客様の肌感覚の反応をウォッチしている」。
その回答として導き出されたのがグラフィックブランドというコンセプトであり、マルチコンテンツ×マルチカテゴリーという戦略だった。今後は服飾雑貨と生活雑貨を充実させ、非アパレルの構成比を50%にまで高めていく考えだ。現在、グラニフ東京を含む約160㎡以上の店舗では雑貨の導入が進み、全体で25%程度の商品構成比になっている。ライフスタイル全般にコンテンツとカテゴリーを広げ、多様なコンテンツの融合によって醸成される「グラフィック ポップカルチャー」を提案していく。その新旗艦店となるグラニフ東京で世界に向けて発信しながら、グラニフの世界観をこれまで以上に体感できるスケール感を備えた店作りを年間10~15店舗ペースで進める。直近では今春に吉祥寺に路面店を出店する計画だ。
久保雅裕(くぼ まさひろ)encoremodeコントリビューティングエディター
ウェブサイト「Journal Cubocci(ジュルナル・クボッチ)」編集長。
この記事は「encore(アンコール)」より提供を受けて配信しております。
■USENのウェブマガジン「encore(アンコール)」
株式会社USENの音楽情報サイト「encore(アンコール)」、ファッションメディア「encoremode(アンコールモード)」への取材依頼、広告掲載等のお問い合わせはサイト内の「お問い合わせ」ボタン(メールフォーム)をご利用ください。
「encore」
https://e.usen.com/
「encoremode」
https://e.usen.com/encoremode/index.html