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2024.01.25

【2024秋冬パリメンズ ハイライト2】存在感増す日本の才能 ドレッシーでフォーマルなコレクションで完成度を高める

写真左から:「ヨウジヤマモト プールオム」「ダブレット」「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」「エム エー エス ユー」

 

 

 パリ・メンズコレクションのリポートの後半では、パリコレクションを主宰するクチュール組合の公式スケジュールに参加するブランドの中で、実に2割弱を占める日本のブランドを特集する。

 

 日本のメンズファッションについては、ストリートスタイルがすう勢とイメージするが、パリコレクションに参加する日本のブランドは、ヨーロッパ市場を意識してかドレッシーでフォーマルな側面を打ち出すブランドが見られるのが特徴。

 

 各々、確固たる世界観があり、イメージが重ならず、絶妙に棲み分けが出来ているようである。そして、各コレクションの完成度は、他の主要なブランドと比べても非常に高いものとなっている。そんな日本のブランドの数々を紹介したい。

 

キディル(KIDILL)

Courtesy of KIDILL

 

 パリコレクションを主宰するクチュール組合に正式登録して2回目のコレクション発表となった、末安弘明による「キディル」。公式カレンダー上ではプレゼンテーション扱いではあったが、実際にはモデルをウォーキングさせるランウェイショーを行った。

 

 2020秋冬コレクションでもコラボレーションをした、セックス・ピストルズのアートワークを手掛けたジェイミー・リードが昨年夏に逝去。その作品は末安の原点でもあったという。今シーズンはリードへのオマージュを捧げながら、反逆の精神としてのパンクの概念を現代的に解釈し、様々なテクニックによって自らのクリエーションを前進させる姿勢を見せた。

 

 破れたデニムやヴィンテージウォッシュ加工のアイテムには、時折フローラルプリントや鹿といったモチーフがミックスされる。それだけに着目すると可愛らしいのだが、一つのルックとして全体を眺めると、強い毒を放っているから不思議だ。スタッズや缶バッジといったパンク的なものから、細長い金属によるメッセージ刺繍まで、今季は装飾性の強さが目を引く。またダメージニットやダメージ加工のGジャンなど、ダメージ自体が装飾となっているアイテムがコレクションのアクセントにもなっていた。

 

 内側の精神性としてのパンクを感じさせながらも、表面的な部分で、同時に「キディル」による新しいパンクスタイルを提案していたのではないか、と思わせる内容となっていた。

 

オーラリー(AURALEE)

Courtesy of AURALEE

 

 パリコレクションの公式カレンダー上で、プレゼンテーションではなく、ショーとして初めてコレクションを発表した岩井良太による「オーラリー」。オフィスで仕事をした後、食事に出掛ける、あるいは家路につく時の期待と高揚感に着目し、日常から息抜きの時間への移り変わりを一つのコレクションとして表現した。

 

 オフィスワークの時に首から掛ける社員証や、クリーニング店から引き揚げた街着、スーツを収めるガーメントケースが効果的な小物となり、それぞれのルックにストーリーを与える。

 

 スーツ類はゆったりしたシルエットで、リラックスした雰囲気。適度なカジュアル感を持たせ、ウォッシュデニムやブルゾンなど、スポーティな要素も盛り込んでいる。夜を意識した服は、特にレディースでアルパカ素材のドレスやベアショルダーのドレスなど、エレガントでフェミニンなアイテムが登場。

 

 ウール地にメルトンをボンディングした素材によるジャケットやコートは、立体的なシルエットを生むが、抑えたフォルムで、このブランドらしいエレガンスを漂わせる。ダブルフェイスのウールのパーカやボンバースジャケットなど、スポーティなアイテムもバランス良く織り交ぜ、アイテムのバリエーションはこれまで以上に豊か。そして、パープルやターコイズといった明るい色を含んだカラーパレットも美しい。アイテム同士が主張し合うことなく互いに融合し、全体に統一感を生み出している。一つの完成形を見せたコレクションだった。

 

エム エー エス ユー(MASU)

Courtesy of MASU

 

 「エム エー エス ユー」は、アートスペースの「ル・コンシュラ」にて初のショー発表を行った。

 

 「エム エー エス ユー」は、OEMや縫製事業を行う「ソウキ(SOHKI)」が立ち上げたブランドで、2018秋冬より後藤愼平がデザイナーに就任。後藤は、それ以前にヴィンテージショップの「ライラ ヴィンテージ(LAILA VINTAGE)」に勤務し、その間に培われたヴィンテージについての知識が現在のコレクションに反映。ストリートファッションが中心となっていた東京のファッションに、ドレッシーな作風を打ち出し、注目される存在となっている。

 

 今季は蜘蛛の巣やコウモリといった、ダークなイメージを象徴するものを敢えてモチーフとして選び、これまでに美しいとされなかったものに光を当て、新しい美の概念を提案。コレクションはダークトーンでまとめられているが、ケーキボックス型のバッグや、オーロラのフーディ、ハートモチーフのジャカード素材によるパジャマ風セットアップなど、可愛い要素を盛り込み、そのコントラストも新鮮さを増幅させていた。

 

オム プリッセ イッセイ ミヤケ(HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE)

Courtesy of 2024 ISSEY MIYAKE INC.

 

 “没入。野性溢れる創造力”と題したコレクションを発表した、「オム プリッセ イッセイ ミヤケ」は、ブルターニュ出身のデザイナー、ロナン・ブルレックとのコラボレーションによる美しいルックの数々を披露した。

 

 ブルレックのドローイングをプリーツ素材にプリントしたシリーズは、有機的なモチーフがシンプルなフォルムのアイテムを彩り、見事な調和を見せている。同じくブルレックのドローイングからインスパイアされたマフラーとスヌードのシリーズは、頭や腕を通す場所を変えることで、様々なスタイルをアレンジ可能。ブルレックのドローイングをシルクスクリーンでプリントしたコートのシリーズは、大胆な表現によるものではあるが、モダニティとエレガンスを湛えている。

 

 グリーンやバーガンディなどのアイテムに合わせられた、ボールペン画を刺繍で表現したシリーズや、前身頃に付いているポケットにコートを入れ込むことでクッションになるシリーズなど、見所が多かったが、無数の線で構成されるドローイングをプリントしたプリーツ作品は新鮮な驚きを与えた。線と線が重なり合い、立体と平面が響き合い、引き込まれていくような魅力を放っている。ブルレックとオム プリッセの親和性を象徴するような作品となっていた。

 

ヨウジヤマモト プールオム(Yohji Yamamoto POUR HOMME)

Courtesy of YOHJI YAMAMOTO

 

 立体的なショルダーのコートで幕を開けた「ヨウジヤマモト プールオム」。更紗モチーフのワークウェア風ブルゾンコート、ドロップショルダーのサテンのコートなど、捻りを加えたアイテムが続くが、ショーが進むにつれてその自由度が高まって行く。

 

 裾がめくれて表側に裏地が出たコートをまとったヴィム・ヴェンダース監督が、オペラ座のエトワール、オニール八菜を伴って登場。ヘムを切りっ放しにしたドロップショルダーのブルゾン、ツイードのリブ付きブルゾンなど、ごくありふれたメンズのアイテムをディテールとシルエット、素材に変化を付けて新しさを加えている。

 

 90年代に活躍したモデルのマリー・ソフィー・ウィルソンと俳優のノーマン・リーダス、そして「ワイズ(Y’s)」のキャンペーンフォトを手掛けるマックス・ヴァデュカルは、メッセージを刺繍したスーツやコートを着用。

 

 黒がメインではあったが、ベージュやブルー、バーガンディ、赤、そしてピンクまでと、カラーパレットのレンジが広く、またアイテム自体のバリエーションも豊かだった。山本耀司のクリエーションを楽しんでいる様子が伺え、それがコレクション全体をオプティミスティックなものにしているように感じられた。

 

メゾン ミハラ ヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)

Photo by Luca Tombolini/Courtesy of Maison MIHARA YASUHIRO

 

 三原康裕による「メゾン ミハラ ヤスヒロ」は、今季はストリートウェアとクラブウェアの融合を試みながら、引き続きビッグシルエットの研究を試みていた。

 

 ショー冒頭にPARISのアップリケのトップスとプリーツミニスカートをまとったチアガールが登場し、彼女たちが踊る中モデルがウォーキング。

 

 ドロップショルダーのブルゾン風ジャケット、ドロップショルダーのジャケットが続き、クラブウェアを想起させるラメニットのトップスが登場。ウォッシュジーンズの継ぎはぎのセットアップや色が褪せたかのようなニットやスカジャンは、ヴィンテージ風に手が加えられ、長く伸びた袖の先のニットリブにも穴を開けてダメージ加工を施している。

 

 オーバーサイズの先のビッグシルエットを追求したアイテムは、袖も長くしたことにより、コクーンシルエットに近いフォルムを描き、このブランド独自のシルエットが完成。これまで通り、遊びの多いアイテムをシリアスに作る姿勢を見せていた。

 

カラー(kolor)

Courtesy of KOLOR

 

 前シーズン、春夏コレクションにスキーの要素をぶつけた阿部潤一によるカラー。今季は、カジュアルからフォーマルまで様々なアイテムを組み合わせながら、煌びやかさと破壊の両面を同時に描いて見せていた。

 

 ステッチの入ったベルベットジャケットには、作業着のようなペイントだらけのパンツを合わせ、ミリタリージャケットにはダメージ加工を施したパンツをコーディネート。トレンチコートにはリベットを打って刺繍のような効果を出し、ダブルのコートジャケットの襟にはビジュー刺繍を施してコントラストを見せる。

 

 フォーマルなジャケットとパンツのセットアップにも、作業を終えた後のようなペイントが施されたシューズがコーディネートされる。クリスタルを打ったピンストライプのパンツには、ダッフルコートが合わせられるが、襟の始末に敢えて乱雑さを残している。

 

 どこかに壊れていたり汚れていたりする部分が見られた今季だが、丁寧に作られたアイテムとのミスマッチが限りなく心地良い。「カラー」ならではバランス感覚が発揮されたコレクションとなっていた。

 

ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)

Courtesy of White Mountaineering

 

 旅をテーマに、様々な場面をイメージしてバリエーション豊かなアイテムでコレクションを構築した相澤陽介による「ホワイトマウンテニアリング」。

 

 「グローブ・トロッター(GLOBE-TROTTER)」とのコラボレーションによるトラベルバッグ、「アンブロ(umbro)」とのコラボレーションによるベルベット製フットボールシャツ、「リーボック(Reebok)」とのコラボレーションによるスニーカー、「ジョンスメドレー(JOHN SMEDLEY)」とのコラボレーションによるニットプルなど、コラボレーションが多く見られたが、旅というテーマの下、全てが融合して一つのストーリーを描いていた。

 

 「ホワイトマウンテニアリング」はこれまでアウトドアウェアのブランドイメージが強かったが、今季はバリエーション豊かなルックで構成し、シンプルなフォルムのフォーマルなアイテムも随所に見られた。その要素は、イニシャルの刺繍の入った伝統的なルームシューズ風のシューズにも表れていた。

 

 美しいカラーパレットと共に、ブランドの新しい側面を見せるコレクションとなっていた。

 

ターク(TAAKK)

Courtesy of TAAKK

 

 “God is in the details amidst the cycle of growth and creation(神は成長と創造のサイクルの細部に宿る)”と題した森川拓野による「ターク」。前シーズンは“神は細部に宿る”がテーマであったが、より一歩推し進め、デザインのためのデザインをするのではなく、布地自体にストーリーを語らせることをコンセプトに服作りをしたという。今季はニットを取り入れて、新しい境地を見せていた。

 

 このブランドが得意とするグラデーションのジャケットでスタート。前シーズンから続く、テープ状にカットした布を縫い付けたパンツが合わせられる。ノースリーブのタートルネックニットには、ひび割れたようなペイントのレザーパンツを合わせ、素材感のコントラストを強調。波紋を描いた膨れ織りのスーツや、デボレのシースルーのセットアップ、細かなテープ刺繍のブルゾン、細かいドットでフローラルモチーフを構成するニットプル、蜘蛛の巣のようなシースルーニットなど、それ自体が単体で存在感を持つアイテムばかり。

 

 各アイテムはもちろんデザインはされているのだが、素材に重点を置きながらのクリエーションは、ファッションの中で一つのジャンルとして成立して然るべき。そんなことを思わせる完成度の高いコレクションだった。

 

ベッドフォード(BED J.W. FORD)

Courtesy of BED J.W. FORD

 

 

 山岸慎平による「ベッドフォード」は、原点を見つめ直すべく、自らのアーカイブを紐解き、新しく解釈し直したアイテムでコレクションを構成した。

 

 ボックスポケットを取り付けたベスト、ポケット部分を脱色させたワークウェアフーディ、ホック留めのボンバース。オーセンティックなアイテムだが、どこかに捻りと工夫が施されている。

 

 前シーズンに発表した、世界的に名高い襟無しジャケットへのオマージュ作品も、チェーンでトリミングしたモヘア製カーディガンとして新バージョンで登場。パープルやピンク、グリーンやブルーなどの差し色がコレクション全体を明るいものにし、サテンのシャツやラメ入りのニットなど、光を反射するアイテムがダークカラーのアイテムとコントラストを描く。

 

 アーカイブから選ばれたアイテムで構成しただけあり、ある意味ランダムさを感じさせながらも、「ベッドフォード」のコードでしっかりと統一されたコレクションとなっていた。

 

ダブレット(doublet)

Courtesy of doublet

 

 “リカバリー”をテーマに掲げた井野将之による「ダブレット」。ここ最近、井野自身の身の周りで起きた辛い経験が、コレクションに反映されたという。しかし、その過程で受けた傷が治癒していく様も同時に表現。ゾンビのようなメイクのモデル達がランウェイを歩き、まるでホラー映画を見ているかのようだったが、フィナーレではメイクを落とし、生まれ変わったかのようなモデル達が欠伸をしながら登場するという演出だった。洋服を通して世界に希望を与えたいとする井野の意思が、コレクションに光を与えていた。

 

 タイトルに掲げるだけではなく、実際に服自体にもリカバリーの要素が散りばめられている。磁気によって血行を促す医療機器の「コラントッテ(Colantotte)」による永久磁石をあしらったアクセサリーやウェアを作り、免疫機能維持の効果が期待されるヨモギ、イタドリ、柿の葉から抽出した溶液を練り込んだレーヨンの機能繊維「キュアフィーロ(curefilo®)」、血行促進効果が期待されるテイコク製薬社によるミネラル「イフミック(IFMC.)」を付着させた布などがあしらわれていた。また、「シンフラックス(Synflux)」が開発したテキスタイルの廃棄量を減らすためのアルゴリズムと3D 技術を活用して実装された次世代デザインシステム「アルゴリズミック・クチュール(Algorithmic Couture)」を採用。服の3Dデータから、低廃棄に最適化された2D型紙データの生成が可能となり、廃棄率を大幅に削減することに成功。パッチワークのように細かなパーツで構成されたブルゾンは、そのシステムによって生まれたもの。

 

 「リカバリーは運動から」ということで、ヨガマット型のショルダーバッグやプロテイン型のバッグも登場。あらゆる側面でリカバリーにこだわり、徹底して追及したコレクションとなった。

 

 

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)

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