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2024.01.24

【2024秋冬パリメンズ ハイライト1】テーラリングや英国調などエレガンスが継続 素朴要素も加わる

写真左から:「ディオール」「ジバンシィ」「ロエベ」「ルイ・ヴィトン」

 

 2024年1月16日から21日まで、パリ市内にてメンズコレクションが開催された。

 

 今シーズンは73ブランドが参加。前シーズンの80からは減少しているが、コレクション発表がパリに集中する傾向が落ち着き始めたとする見方も出来るかもしれない。日本のブランドについては、15から14に減ってはいるものの、MASUの公式カレンダー外のショー開催を含めると変化は無い。コレクション全体の2割弱を占めていることを考えると、依然として日本勢の強さを感じさせた。

 

 ロシアによるウクライナ侵攻に続き、イスラエルとパレスチナとの紛争が勃発し、双方の賛同者による政治的なデモ行進が連日のように行われているが、総じて平和な雰囲気の中でのファッションイベントとなった。ただ、最終日の日曜日には、仏政府の移民政策に反対するデモ行進が開催され、交通機関は混乱し、「ベッドフォード(BED J.W. FORD)」以降のショーが影響を受けた。そして、今夏のオリンピックに向けての工事による道路や地下鉄の閉鎖が各所であり、移動を阻害される場面が多く見られた。

 

 パリにやってくるバイヤーやジャーナリストの数は、コロナ禍以前と変わらない程度に回復しており、アジアについては日本や韓国からのバイヤー・ジャーナリストの数は多い。しかし、依然として中国の勢いが戻っておらず、今後どのような影響が出るのか、推移を見守る段階と言えるかもしれない。

 

 コレクション自体に目を向けて見ると、取り立ててトピックの無いシーズンであった。マシュー・ウィリアムズが退任した「ジバンシィ(GIVENCHY)」は、スタジオのデザインチームがコレクションを制作してショールームで発表をしたが、新任のクリエイティブ・ディレクターは未だに発表されていない。様々な意味で、様子見が必要なシーズンだったのかもしれない。

 

ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

Courtesy of Louis Vuitton

 

 ファレル・ウィリアムによる「ルイ・ヴィトン」は、美術館として機能するフォンダシオン・ルイ・ヴィトンに隣接する遊園地の一角に特設テントを建ててショーを発表した。テントにはパリ・ヴァージニアの大きな文字が書かれ、今季はアメリカのカルチャーに根差したアイテムを「ルイ・ヴィトン」的に解釈したアイテムで構成している。

 

 カウボーイ、ロデオ、アメリカン・ダンディといったキーワードが並び、クリスタルを散りばめたGジャンや、刺繍を施したウエスタンシャツ、クロコダイルレザーのコートなどが登場。ドロップショルダーのコートには、インディアンジュエリーを思わせるターコイズのボタンが飾られ、ワークジャケットとバギーパンツのセットアップには、ダミエモチーフにターコイズのスタッズが打たれている。

 

 ダミエモチーフのGジャンとデニムパンツは開拓時代を思わせ、フリンジのレザーチャップスはそのままロデオのコスチュームのよう。リアリティとファンタジーの間を行き来しながら、アメリカンテイストを飛び切り煌びやかに、ポップに表現していた。

 

ジバンシィ(GIVENCHY)

Courtesy of GIVENCHY

 

 クリエイティブ・ディレクターのマシュー・ウィリアムズが退任し、スタジオのデザインチームによるコレクションを本社ショールームにて発表した「ジバンシィ」。ユベール・ドゥ・ジバンシィによる1956年のシルク製メンズジャケットをアーカイブより発掘し、新たに解釈。フューチャリスティックな雰囲気をも漂わすシンプルなフォルムは新鮮な印象を与え、「ジバンシィ」のモダニティは時代を問わないとのメッセージを送っているかのようだった。

 

 ネコやシャンデリアのモチーフもアーカイブからの引用で、パンツやバッグ、シャツなどに散りばめられている。ゴートヘアのブルゾンにもネコが刺繍され、まるでネコが這っているかのような質感を創出。

 

 パンツのシルエットは、やや裾広がりで60年代風。紳士用のルームシューズをコーディネートし、ルックによってはおさげ髪のプリントのシルクスカーフを合わせられ、全体的にヴィンテージの空気感をまとわせている。

 

 家具用の堅牢な素材によるジャケットや、脇から腕を通すことのできるケープスタイルのジャケットなども目を引いた。フリンジを束ねて刺繍したジャケットや、艶やかな繊維を束ねて刺繍したフライトジャケットなど、手の込んだアイテムも見られ、クチュールハウスとしての「ジバンシィ」像をあらためて印象付けた。

 

アミリ(AMIRI)

Courtesy of AMIRI

 

 マイク・アミリによる「アミリ」は、古いハリウッドのイメージに90年代のテイストをミックスして、時代のアイコンとなるアイドルをイメージした。ショー会場となったキャロ・デュ・トンプルのランウェイ正面には、大きなカーテンが飾られていたが、これは古いハリウッドの銀幕になぞらえたもの。

 

 美しい仕立てのジャケットやコートには、シルクサテンのショールを合わせてレトロな雰囲気に仕上げている。ヴィンテージのテイストを積極的に取り入れてきた「アミリ」らしい手法によるもので、終始エレガントな印象。

 

 今季は特に、サテンのスーツやビーズ刺繍のシャツ、ラメのジャケットなど、光を反射するアイテムが多く見られ、煌びやかなイメージがプラスされている。ニットにはゴールドのボタンをあしらったりラインストーンを刺繍したり、スーツにはブローチを飾り、ニット帽にもビジューを刺繍。ゴシック調の新しいモノグラムが登場し、コートやベルトのバックルにあしらわれ、コレクションに変化を与えるアクセントとして目を引いた。

 

ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)

Courtesy of Dries Van Noten

 

 “予期せぬもののエレガンス”と題し、相反するテーマやアイデアを衝突させ、半ば偶発的に生まれる美しさを服として具現化した「ドリス・ヴァン・ノッテン」。

 

 英国産の生地をあしらったジャケットには、流れるようなシルエットを見せるカーゴパンツや、スカートのようなバギーパンツなど様々なスタイルのパンツが合わせられる。ジャケットもドロップショルダータイプのものから、細長いシルエットのものまでバリエーションがあり、ポケットをいくつも取り付けたワークウェア風だったり、ウォッシュデニム製だったり、トレンチコート風だったり、様々な種類が揃っている。ベルベット製のワークウェア風ジャケットは、意外な素材使いで目を引いたアイテム。ビッグシルエットに仕立て、バギーパンツを合わせてルースなフォルムを強調していた。大きなピクセルのプリントには、チェーンやアニマルが採用され、1つのルックの中でアクセントを生み出すアイテムとして登場。

 

 Simple Mindsの「Theme for Great Cities」のタイトルを刺繍したブルゾンや、英国のワークウェアからインスパイアされたワックスコーティングのジャケットが見られたが、今季は英国からの影響が色濃く現れていた。

 

ポール・スミス(Paul Smith)

Courtesy of Paul Smith

 

 クラシカルなテーラードの世界に新たな局面を加え、伝統とモダニズムの融合を試みる意欲的なコレクションを発表した「ポール・スミス」。ミッドセンチュリーのスタイルのスーツには、第二次世界大戦前から採用されていた、イギリス軍の伝令兵がバイクに乗る際に着用したディスパッチ・ライダースからインスパイアされたベストをアウターとして重ねている。バックサイドにはベルトが付き、ウエストマークをしてシルエットに強弱を加える工夫も見られた。

 

 ボザール様式の壁紙プリントから着想を得たという「フォトグラム」プリントは、ネクタイやネスト、シャツなど様々なアイテムあしらわれているが、初期の写真方式である青写真や、マン・レイが好んだレイヨグラフ作品を彷彿とさせる。

 

 アースカラーを中心にしたスーツ類には、オレンジやブルーのライニングが見え隠れし、そのコントラストの美しさが「ポール・スミス」らしい。抑えた色調のパープルやグリーン、イエローのアイテムも、コレクション全体に効果的なアクセントを与えていた。

 

ディオール(DIOR)

Courtesy of Dior

 

 キム・ジョーンズは、バレエと「ディオール」の関係性に着目しながら、プレタポルテのリアリティとオートクチュールのドラマティックさを組み合わせたコレクションを発表した。

 

 英国ロイヤル・バレエのマーゴ・フォンテインは、ムッシュ・ディオール時代の顧客であったが、フォンテインのパートナーであったロドルフ・ヌレエフの人生と実生活をイメージ。そこにリアリティとドラマティックさを重ねた。そして、ヌレエフを撮影したこともあるジョーンズの叔父、元バレリーナでフォトグラファーに転身したコリン・ジョーンズへのオマージュともなった。

 

 日本の職人10人が3か月かけて完成させた引箔の技術で製作したシルバーの打掛の着物は、ヌレエフが所有し着用していたものをベースにしたアイテム。また、1950年にムッシュ・ディオールがマーゴ・フォンテインのためにデザインした「ドビュッシー」ドレスや、アイコンであるバー・ジャケットはよりマスキュリンな手法で仕上げられ、新たな解釈で登場している。

 

キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)

Courtesy of KIKO KOSTADINOV

 

 衣服における古いものと新しいものとの間を考察し、新しいものを想像することとは何かを問いた「キコ コスタディノフ」。ブルガリアのバックグラウンドを持つキコ・コスタディノフは、伝統的なものと実験的な要素を組み合わせて、新鮮なアイテム群でコレクションを構成した。

 

 ワークウェアは流線形で構成され、不思議な柔らかさを見せる。全体的に丸みを帯びたシルエットのルックが多く、グリーンやイエロー、モーブなどの明るい色も相まってオプティミスティックな印象を与えた。

 

 これまでに存在していなかったものを最初の段階から生み出すことは至難の業だが、このコレクションではその一端を見せていたかもしれない、と思わせる新しさが感じられた。

 

ロエベ(LOEWE)

 Courtesy of LOEWE

 

 ジョナサン・アンダーソンによる「ロエベ」は、コラージュをテーマにしたコレクションを発表。ショー会場となったフランス共和国親衛隊宿舎内の馬術練習場には、リチャード・ホーキンスによる男性をモチーフにした動画作品が展示され、様々なイメージが登場しては消えて行く。色鮮やかなアートピースが、そのままランウェイに現れるかのような錯覚を起こした。

 

 特定の人物ではなく、バリエーション豊かな男性像をイメージしたといい、様々なルックを組み合わせてコラージュしている。BGMもラジオのチャンネルを回してランダムに聴いているかのようで、「荒野の七人」のテーマが掛かったと思ったらボン・ジョヴィが続いたりし、コラージュ的だった。

 

 LAのブルジョワ家庭の男子をイメージして、寝坊してパンツを穿き忘れて外に出てしまったようなボトムがタイツだけのルックや、家にあったものを全て着て来てしまったかのような無数のシャツとコートが一体型になっているルックなどが登場。カーディガンとコートとレザーパンツが一体型となったアイテムは極端な例だったが、今季は特にシューズと繋がっているパンツが多く見られた。

 

 リチャード・ホーキンスのコラージュ作品をそのままビーズ刺繍で表現したブルゾンやニットドレスは、今季のコレクションで特に目を引いた作品。商品化するか否かが検討されている段階だそうだが、同モチーフのビーズ刺繍のレザーバッグは数量限定にて販売予定で、アートピース価格となる予定。

 

エルメス(HERMÈS)

Photo by Bruno Staub/Courtesy of HERMÈS

 

 ヴェロニク・ニシャニアンによる「エルメス」は、ブランドのコードを守りながら素材、色、シルエットでエキセントリックなダンディスタイルを提案。アニスグリーンやパープル、ブルー、パンプキンなどのカラーを交えながらも抑えた色調で統一し、英国スタイルをなぞりながらも、崩したスタイルに変換してフランスらしいエレガンスを描いて見せた。

 

 今季は透け感のあるラバー素材がキーとなり、様々なアイテムにあしらわれている。プリンス・オブ・ウェールズチェックのブルゾンにはラバー素材が重ねられているが、セパレートで着用可能。ラバー素材のレインコートやフーディも登場。インナーに合わせられているニットカーディガンが透けて見え、絶妙な立体感を生み出す。

 

 シルエットとしては、短いトップスに細いパンツを合わせ、厚底のブーツを合わせてコントラストを出している。ジャケット類も細めでタイト。それらに合わせられているニットは、馬のモチーフを拡大したもので先染めの糸で織られており、イレギュラーなパターンが浮かび上がるのが特徴。また、中心線をずらして崩したアーガイルのニットもコレクションの中でアクセントとなっていた。

 

バルマン(BALMAIN)

Courtesy of BALMAIN

 

 アフリカにイメージ求めたオリヴィエ・ルスタンによる「バルマン」。アフリカのアーティスト達とコラボレーションすることで華やかなアフリカ像を描き、「バルマン」に新しい局面を加えた。

 

 今季は、特にコンゴを中心に活動するSAPE(Société des ambianceurs et des personnes élégantes=お洒落で優雅な紳士協会)の会員の装いにインスパイアされている。SAPEの会員はサプールと呼ばれ、美的センスを磨き、平和を愛すジェントルマンとして敬われる存在。独自の哲学を持つ人々としてファッションを超えた存在となっている。1950~60年代のスタイルが基本となっているが、その色遣いはアフリカ的で、オプティミスティックな雰囲気を醸し出している。

 

 カメルーン出身のアーティスト、イブラヒム・ジョヤは、服やアクセサリーに使われたエレクトリックパターンを生み出し、ガーナ出身のフォトアーティスト、プリンス・ジャスィは服やバッグなどのプリントのために作品を提供。今季の鮮やかなカラーパレットも、彼の作品から引用されている。プリンス・ジャスィの代表作である、ブルーの布を手にした男性3人のイメージをそのまま表現したルックも登場した。

 

 最終ルックはナオミ・キャンベル。キャメルのフラネルのコートに、ゴールドの花束を手にしたかのようなベルトを着用し、セレブレーション的な締めくくりとなった。

 

ザ・ロウ(THE ROW)

Courtesy of The Row

 

 メアリー・ケイト・オルセンとアシュリー・オルセンによる「ザ・ロウ」は、2024フォールコレクションとして、レディース26体とメンズ16体をパリ市内のショールームにて披露した。今季は「ザ・ロウ」におけるワードローブがテーマで、スーツ類、トレンチ、レザージャケット、そしてドレスをより上質な素材で表現。異なる素材のアイテム同士を一つのルックの中で組み合わせ、コントラストを強調している。

 

 一枚仕立てのカシミアのコートには、シルクのシャツやニットを合わせ、メンズではインナーアイテムとしてカシミアのポロシャツが登場。一枚仕立てのカシミアのドレスは、ボタンで留めることで2ウェイのフォルムが楽しめる仕掛け。今季は差し色として赤を使用し、イギリスの織機を使用して仕上げたゴールドの起毛素材のドレスが目を引いた。

 

 コーデュロイの多くはコットン製だが、このブランドではコットンにカシミアが混紡される。ウールのコートにはシルクのアウターを重ね、ダウンジャケットの裏地にはカシミアが使用され、シルクのTシャツにはコットンペーパーのトレンチを合わせる。どのアイテムを見ても、それぞれ贅を尽くした素材使い。実際に手で触れてこそわかる、本物のラグジュアリーを体現したコレクションとなっていた。

 

ゲーエムベーハー(GmbH)

Courtesy of GmbH

 

 メンズコレクションの締めくくりとなった、セルハト・イシュクとベンジャミン・ヒューズビーによる「ゲーエムベーハー」。ショーの前に、昨今のイスラエルとパレスチナの紛争について10分間に渡り私見を涙ながらに述べ、パレスチナを強く想起させるコレクションを発表した。

 

 エモーショナルなアラブ音楽が流れる中、パレスチナのスカーフ、グリーンのクーフィーアをアレンジしたトップスが登場。伝統的なアイテムを西洋的なフォーマルなスタイルに昇華。

 

 戦士を思わせる目出し帽のモデルにはロングコートが合わせられ、フォーマルなルックがまるで戦闘服のように見えるから不思議だ。モスクで祈りを捧げる時に使用する帽子は、フリンジケープのジャケットやファーコートなど様々なアイテムに合わせられ、国連の旗を思わせるモチーフがフーディなどにあしらわれている。象徴的な意匠やアクセサリーの存在がパレスチナのイメージを増幅させ、闘いが現在も進行していることを強く印象付けたのだった。

 

 

 

取材・文:清水友顕(Text by Tomoaki Shimizu)
画像:各ブランド提供(開催順に掲載)

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