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2024.01.04
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.94】 品格保ちつつ、ストレンジ感を加味 2024年春夏ファッションの6大トレンド
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写真左から「プラダ」「ディオール」「ロエベ」「シャネル」
2024年春夏コレクションでは見た目の主張を抑えながら、ブランドの価値や服のありようを掘り下げるアプローチが相次いだ。共通する傾向は「本物回帰」。今までのワードローブにありそうでなかったアイテムを送り込む提案も目立った。10年先まで着続けたくなる服を望むという着る側の意識を受けて、ブランドそれぞれの強みを押し出すような試みが相次いだ。品格を重んじつつ、かなり肌合いの異なるテイスト同士を掛け合わせるミックススタイリングが登場。着こなしの可能性を広げている。
◆エアリーリシック(Airy Re-chic)
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写真左から「ジバンシィ(Courtesy of GIVENCY)」、「ルイ・ヴィトン(Coutesy of LOUIS VUITTON)」
正統派の装いを印象付ける「テーラード」は勢いが続く。ロングトレンド化したのを受けて、アレンジが加速。春夏らしい「相棒テイスト」は、透け感を帯びた「シアー」。エアリーで凜々しく、オーソドックスではかなげというハイブリッドが生まれた。テーラードのキーアイテムはスーツやセットアップ、ベスト(ジレ)。タキシード調のフォーマルウエアも持ち込まれる。一方、シアー素材は風向きが変わる。先シーズンまで続いたセンシュアル(官能的)が後退。涼しげでさりげない透かし見せが取って代わる。レースやチュールは裾や袖だけではなく、身頃や正面にも居場所を広げ、テーラードとの好相性を証明している。
◆ミニマル・ストレンジ(Minimal Strange)
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左から「ジル サンダー(Courtesy of JIL SANDER)」、「バルマン(Courtesy of BALMAIN)」
装い全体はミニマルに向かう。流行に左右されない「タイムレス」志向が背景にある。かつてのミニマルは禁欲的に飾り気をそぎ落としたが、今の流れはややエキセントリックで異色のムードを忍び込ませる。全体はシンプルでありながら、あちこちにひねりを加え、エッジィ感を寄り添わせている。色や柄はベーシックに抑えつつも、襟や袖先、裾などにデコラティブなディテールをあしらう。きらめきパーツやフリンジでグラマラスな動感を上乗せ。朗らかなエスプリも加えて、ミニマルを素っ気なく見せない。シルエットは細身が主流に。縦長の「ロング&リーン」で落ち感を際立たせている。
◆ユーティリティ・ドレッシー(Utility Dressy)
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写真左から「バーバリー(Courtesy of BURBERRY)」、「マックスマーラ(Courtesy of Max Mara)」
「地球沸騰」の時代になり、服に快適さを求めるニーズが一段と高まってきた。カットアウトやスリットなど、涼しげなディテールが随所にあしらわれる。素材の面でも風通しや汗抜けに配慮。エアリーなたたずまいが春夏ルックの基本線に据えられる。しかし、カジュアルに見せないアレンジが品格をキープ。刺繍やボウ(リボン)、袖コンシャス、ペプラムなどがノーブル感を漂わせ、ストライプ柄やチェック柄、ドット柄が落ち着きともたらす。薄手のウエアを重ねるレイヤードは温度調節と格上げを兼ねる。ブラトップやバンドゥを組み込むという、新顔のセットアップが登場。スイムウエアまでも街中に出番を広げる。
◆プレッピー・トリッキー(Preppy Tricky)
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写真左から「セリーヌ(Courtesy of CELINE)」、「グッチ(Courtesy of GUCCI)」
英国紳士服の流れを受け継ぐプレッピーに再評価が進む。トラッドの軸を守りつつ、着崩しの度合いを深めるのが新シーズンの方向感。「差しムード」に投入するのは、スポーティやユースカルチャー。パンツは重心をぐっと引き下げた「ローウエスト」が復活。スケートボードやサーフィンの気分が持ち込まれる。ボーイズ風味のハーフパンツをセットアップに組み入れるスーチングも現れた。ジャケットの裾をウエストインするようないたずらっぽいアレンジがプレッピーの良家テイストをはずす。パーカやドロストパンツを、「きちんと感」を残したジャケットと交わらせる「崩しプレッピー」が型にはまらないキャラクターを引き出す。
◆クワイエット・ラグジュアリー(Quiet Luxury)
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久しぶりの大型トレンドと言えそうな「クワイエット・ラグジュアリー」は節度を保った、品格重視の装いだ。装飾性は遠ざけて、上質感を醸し出す。決め手はリュクスな質感。極上素材を用いて、色・柄やロゴではなく、風合いや素材感を前面に押し出す。「オーセンティック」を求める意識がこのトレンドを押し上げている。ワンピースやセットアップがアイテム面での主役。主張は控えめだが、地味には見せないさじ加減がポイント。つややかなマテリアル、起伏を宿したシルエット、優美なドレープなどに格上イメージを託す。
◆アート×クラフトマンシップ(Art × Craftsmanship)
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写真左から「アレキサンダー・マックイーン(Courtesy of Alexander McQueen)」、「ラバンヌ(Courtesy of RABANNE)」
アート作品の図像を取り入れた「アートを着る」は以前から続く手法だが、次に来たのは「手工芸の美」だ。織りや編み、染めなどの職人技を、ダイレクトに服づくりへ注ぎ込むのがこれまでとの違い。服そのものを美術工芸品として作り上げる点で志が高い。レザーを多用するのも、今回の目立った変化。レザー加工の奥深い技術が立体感や重厚さを引き出す。デザイナーそれぞれの美意識が写し込まれているのは、クラフトマンシップを重んじる手法ならでは。ビーズやエンブロイダリー、パッチワークなどの技法がオンリーワンの価値を宿らせる。
ファッションとの向き合い方に変化が起きつつある。表面的な見えかたよりも、着続ける価値を示そうと試みる提案が増えた。服を通して、ブランドやデザイナーの「アティチュード(精神性、立ち位置)」を伝えるような取り組みだ。スタイリングの余地を従来より大きく表現しているのも、着る人に寄り添う姿勢を物語る。着こなしてもらって服が生きるというストーリーを語りかけるかのような、懐の深い春夏コレクションだ。
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宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
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