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2023.12.18

【マーケットアイvol.5 】伊ミラノのファッションリテール事情 進む多様化・国際化

 コロナ禍においては中国に続いて初期段階から感染が拡大し、大きなダメージを受けたイタリアですが、その分、以前のような日常を取り戻したいという欲求も強く、今やパンデミックは遠い昔の出来事のように受け止められています。“ポストコロナ”という言葉さえ、もはや過去のものとなっていますが、あえてミラノのコロナ後の変化についてレポートしたいと思います。

 

顕著なフィジカル回帰とオーバーツーリズム

  • ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世

 まず一つにはリアルショップの強化が挙げられます。コロナ禍においては、ご多分に漏れずイタリアもeコマースに焦点が当てられ、現在でも多くのブランドが力を入れています。が、実際のところ、ラグジュアリーブランドを中心にポストコロナのeコマースの売り上げには陰りがでているという結果が出ています。これは全世界的な傾向でもあると考えられますが、イタリアは特に、信用している店の懇意の店員に接客してもらい、モノに実際に触れてみて質を確かめ、試着したりお直ししながら洋服を購入するというスタイルを珍重してきた国で、そもそもeコマースにおいては後進国でした。

 そしてコロナ以降、空前のオーバーツーリズムで、観光客、特に外国人客のインバウンド消費が期待できることもあり、ブランド側も実店舗に力を入れている傾向があると思われます。これまではイタリアの中でも観光地としての注目度は決して高くはなかったミラノでさえ、2023年の観光客数は約650万人、コロナ前の2019年比で6%の上昇だそうです。

 

スターデザイナーが手がけたリテールが次々とオープン

  • エコアルフ

 それ故に、最近オープンしている店は、有名建築家による凝ったインテリアや、イベントスペースやハブ的な作り、またはカスタマイズサービスやメイド・トゥ・オーダーを充実させるなど、実店舗ならではの魅力を活かすところが多いようです。

 

 例えば、今年オープンした、スペイン生まれのサステナブルファッションブランド「エコアフル(Ecoalf)」のミラノ店は、インテリア業界のスターデザイナー、パトリシア・ウルキオラによる設計。9月に改装されたばかりの「ベルシュカ(Bershka)」のインテリアは、ブラダ財団の設計や「プラダ(PRADA)」のショーのセットデザインでも有名なオランダの設計事務所OMAによるものです。

 

イタリアンブランドならではパーソナイズを強化

  • トッズ ガレリア ミラノ

  • トッズ ガレリア ミラノ

  • トッズ ガレリア ミラノ

  • カスタマイズサービス(トッズ ディーアイ バッグ)

  • カスタマイズサービス(トッズ ディーアイ バッグ)

  • カスタマイズサービス(トッズ ディーアイ バッグ)

  • カスタマイズサービス(トッズ ディーアイ バッグ)

 一方、クラフトマンシップに定評のあるイタリアンブランドたちは、実店舗ならではのパーソナライズサービスを強化。「トッズ(TOD’S)」は、同ブランドのアイコン的バッグであるディー・アイ・バッグに文字を入れたり、色を選べるサービスや、ゴンミーニの素材や色、アクセサリーを選べるカスタマイズサービスをスタート。「エトロ(ETRO)」は、1月のメンズファッションウィーク中にメンズテーラリングとメイド・トゥ・オーダーサービスに特化した新ショップを、モンテナポレオーネ通りにオープンする予定です。

 

ミラノの目抜き通りの顔ぶれに大きな変化

  • ガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世

  • モンテナポレオーネ

  • ティファニー

 ちなみにミラノの2大ラグジュアリーショッピングゾーンは前出のモンテナポレオーネ地区とガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世ですが、これらのゾーンは常にブランドの入れ替わりが激しく、最近も勢力地図は塗り替えられています。前者では、モンテナポレオーネ通りの入り口に「ティファニー(Tiffany)」がオープン予定で、その前に「フェンディ(FENDI)」がオープンするという噂もあります。この一角はLVMHグループの勢力が強く、モンテナポレオーネ通りに入るすぐ手前の老舗駐車場だったところに、今年「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」のメガストアがオープンしています。

  • シャネル

  • モスキーノ

 その他、最近では「グッチ(GUCCI)」や「ロエベ(LOEWE)」がリニューアルオープンし、「シャネル(CHANEL)」もモンテナポレオーネ通りに進出しました。一方、スピガ通りには、「スピガ26 アリアス」という12000㎡の複合ビルができ、ここには「ケリング」のオフィスや、「モスキーノ(MOSCHINO)」、「セルジオ・ロッシ(Sergio Rossi」」、「ボルサリーノ(Borsalino)」などの新ショップが入っています。この複合ビルが音頭を取り、フラワーカーペットやクリスマスデコレーション、写真展など、スピガ通りを盛り上げる企画も実施されています。

  • コルソ・コモ

  • ガエ・アウレンティ広場

 またガレリア・ヴィットリオ・エマヌエーレ2世も同様にショップの入れ替わりは続いています。ここはミラノ市が管轄している為、賃料を競りにかけて落札することで店が出せる仕組みとなっていますが、そんな経緯を経て、記録的な年間賃料12000€/㎡で落札した「ロロ・ピアーナ(LORO PIANA)」を初め、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」、「ボッテガ・ヴェネタ(BOTTEGA VENETA)」がオープンの予定です。

 

 一方、高層ビルが続々建設されている新開発地区ガリバルディゾーンの中心的存在、ガエ・アウレンティ広場とコルソ・コモを繋ぐヴィンチェンツォ・カペッリ通りは当初、新ラグジュアリーストリートとして期待されましたが、最近は少々、盛り上がりに欠ける様子。「ディースクエアード(DSQUARED2)や「モスキーノ(MOSCHINO)」など勢いのあるブランドが姿を消し、テナントが空いていたり、飲食店などになっているところも。ただし、ガエ・アウレンティ広場に面するショップたちは、スポーツ、カジュアル系のブランドが多く、どの店も盛況の様子です。ここには「ユニクロ(UNIQLO)」のミラノ二号店もオープンする予定です。

 

進化系SCが大きな話題に

  • メルラータ・ブルーム

  • メルラータ・ブルーム

  • メルラータ・ブルーム

  • メルラータ・ブルーム

  • メルラータ・ブルーム

  • メルラータ・ブルーム

  • メルラータ・ブルーム

 もう一つの傾向として、世界の他都市に比べてミラノには少な目だった複合施設やデパート、ショッピングモールなどのオープン、および建設ラッシュが挙げられます。これはミラノ市が郊外の再開発地区に力を入れていることと、市内においてはコロナ禍でストップしていた工事が一気に進んだことがあるでしょう。最近、最も話題になっているのは、11月にオープンした巨大ショッピングモール「メルラータ・ブルーム(Merlata Bloom)」。210軒の店が入った70,000㎡の大型モールで、イタリアには未上陸だった外国ブランドやフードチェーン店も多くみられます。これまでは、ハイブランド以外の外国ファッションブランドのミラノ進出は遅めでしたが、「メルラータ・ブルーム」にはデンマーク発の「オンリー(ONLY)」、ポーランド発の「リザーブド(RESERVED)」 、日本発の「モヒート(MOJITO)」(近日オープン)などが出店。これらの新進中小ブランドはローンチに際して店舗の賃貸料の高い中心地のショッピングゾーンではなく、まずはモールから参入するという戦略なのかもしれません。

インターナショナルプレイヤーが進出

  • エンド

  • エンド

  • リナシェンテ

 もちろん街の中心に進出する外国企業勢もあり、今年、ドゥオモ近くにオープンしたイギリス発のセレクトショップ「エンド(END)」はかなり好調な様子。またドゥオモ脇の老舗映画館が閉館した跡地(ミラノ随一のデパートである「リナシェンテ(Rinascente)」の隣には、フランスの老舗デパート「プランタン(Printemps)」ができるという噂で、中小ブランドに限らず、ミラノもどんどん国際化が進んできた感じです。

昔ながらの店や風景も様変わり

  • メデラン

  • メデラン

  • パラッツォ・コルドゥシオ

  • アントニア(中庭)

  • アントニア(中庭)

  • アントニア(中庭)

  • アントニア(ウィメンズ)

  • アントニア(ウィメンズ)

  • アントニア(ウィメンズ)

  • アントニア(ウィメンズ)

  • アントニア(メンズ)

  • アントニア(メンズ)

  • アントニア(メンズ)

 その他の大型施設に話を戻すと、ドゥオモからも近いコルドゥシオ広場では、保険会社や銀行だったビルが続々と複合施設に変身。「メデラン(The Medelan)」という複合施設には、「コイン(Coin)」グループの高級バージョン「エクセルシオール(Excelsior)」がオープン予定。またその向かいの保険会社だった「パラッツォ・コルドゥシオ」には、5つ星ホテル「グランメリア(Gran Meliá)」が入り、一階の路面部分には「ボス(BOSS)」、「スワロフスキー(Swarovski)」などがオープンしています。

 

 また、「フェラガモ(Ferragamo)」一族経営のホテル会社「ルンガルノ・コレクション」がラグジュアリーホテルを併設した商業施設「ポートレート・ミラノ」をオープン。ここには有名セレクトショップ「アントニア(Antonia)」の750㎡の広大なショップが入って大きな話題となりました。また回廊型になっている同施設の広大な中庭ではファッション関係を初め、様々なイベントも行われています。

 

 イタリアらしい昔ながらの店がコロナ禍において閉店し、チェーンストアになってしまったり、老舗の店が世界的グループの傘下に入ってお洒落にリニューアルされてしまうパターンも多く、いささか残念な部分もありますが、コロナ後の今、ミラノは多様化、国際化に向けて大きな変化を遂げています。

 

 

画像・文:田中美貴

 

 

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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