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2023.09.26
【2024春夏ミラノ ハイライト1】新たな才能を迎えて次のステージへと進むブランドの数々
写真左から「バリー」「グッチ」「トム フォード」「ファビアナ フィリッピ」
2023年9月19日から25日、ミラノ・ウイメンズ・ファッションウイークが開催された。イタリアファッション協会の発表によると、トータルで176項目、62のフィジカルショー、5のデジタルショー、72のフィジカルプレゼンテーション、33のイベントを開催。今回も最終日のみデジタル発表となる。
初日から3日目まで雨が降ったりやんだりで、フィジカルショー最終日になって今さらながら快晴に。雨天の中、ショーをやるブランドあり、直前に会場を変えるブランドあり・・・で天候には泣かされるファッションウィークとなった。
今シーズンは新クリエイティブディレクターを迎えるブランドに注目が集まった。サバド・デ・サルノのデビューコレクションとなる「グッチ(GUCCI)」、ピーター・ホーキングスを迎えてミラノに発表の場を移した「トム フォード(TOM FORD)」、シモーネ・ベロッティを迎えた「バリー(BALLY)」、そして「モスキーノ(MOSCHINO)」はスタイリストのカーリン・サーフ・ドゥ・ドゥゼール、ガブリエラ・カレファ=ジョンソン、ルシア・リュー、ケイティ・グランドとコラボして40周年記念ショーを開催した。
ハイライト1では今シーズン、変革があったブランドのショーと展示会のハイライトをレポートする。
グッチ(GUCCI)
前任のアレッサンドロ・ミケーレ退任の後の2シーズンは、デザインチームの手によってコレクションを制作してきたが、今回、満を持して新クリエイティブディレクター、サバト・デ・サルノによる初のショーを開催した「グッチ」。元々はブレラ地区の道を封鎖してランウェイにする予定が、悪天候のため、ギリギリにグッチハブでの開催に変更となった。
テーマは“GUCCI ANCORA”。このANCORAというイタリア語には、「もっと」と「再び」という両方の意味があり、それは「もっとグッチを愛してほしい」とも、「再びグッチの伝統を振り返ろう」とも解釈できる。ファッションウィークの前から、このスローガンはミラノの街を走るトラムや市内各所に貼り出されていたが、それに使われていた(そしてコレクションでも登場する)レッドカラーは、創設者グッチオ・グッチがブランドを創設する前に働いていたサヴォイ・ホテルのエレベーターの内装の色だとか。
コレクションは、アーカイブのインスピレーションや、トム・フォードやフリーダ・ジャンニーニが積み上げてきた「グッチ」らしいエッセンスがぎゅっと詰まった感じだ。そこに「ヴァレンティノ(VALENTINO)」で経験を積んだサバトならではのコクーンラインやAラインのクリーンなシルケットや、深いVのラインのトップスなどオートクチュールを連想させるアイテムも。さらにクワイエットラグジュアリー的な要素と現代的なトレンドをうまく取り入れた、「もっと」みんなに愛されそうなアイテムが揃う。
テーラードコートにマイクロショーツ、そしてアーカイブから復活させたマリナチェーンを合わせたファーストルックに始まり、トップにボリュームがあり、ボトムがタイトなシルエットは数多く登場。ショーツインのスリットスカートやスカートに見えるショーツもたくさんあり、今のトレンドを程よく取り入れている。
そして、パテントレザーを施したカーフのミニドレスやアーカイブのタイガーヘッド付きミニドレスなどシンプルな中に小さなディテールを入れたドレスや、クロシェ網のショーツやミニスカートとポロシャツのセットアップ、パイソンのマイクロショーツのセットアップなど、個性の強いものは面積を少なくし、全体的にミニマルなイメージだ。
その一方で、1950年代のクラッチからのインスピレーションでビジューをほどこしたトップにボーイフレンドデニムを合わせたコーディネートや、レースとレザーカーフなどの重みのある素材を繋げたスリップドレスなどコントラストの遊びも見られる。足元にはスニーカーや、ウェッジソールのホースビットローファーを合わせてスポーティさをプラスする。バッグは、クロージャーにマイナーチェンジがなされたジャッキーバッグや バンブーハンドル バッグが登場。
エクレクティブなアレッサンドロ・ミケーレから、主張しなくても質の高さがわかる職人技や手仕事を活かした、サバト・デ・サルノの時代へ。新体制に対して、賛否両論はあると思うが、「もっと」広い層に愛される「グッチ」への道が切り開かれたのは間違いなさそうだ。
トム フォード(TOM FORD)
創業者であるトム・フォードがブランド売却により退任した後(現時点ではスーパーバイザー的存在)、26年間、「グッチ」でトムの右腕として活躍してきたピーター・ホーキングスが新クリエイティブディレクターとして舵を取る最初のシーズン。トムへのリスペクトを前面に出しつつ、「トム フォード」と、トム・フォード時代の「グッチ」の双方の魅力を詰め込んだコレクションとなった。
60年代から70年代初頭に活躍した、デトロイト生まれの黒人スーパーモデル、ドニエル・ルナからインスピレーション得たセンシュアルでグラマラスな雰囲気を、「ゼニア(ZEGNA)」を製造パートナーとした仕立ての良さが引き立てる。ピークトラペルでパワーショルダーのルーレックスのスーツや、パンツにサイドラインを施したベルベットのスーツ、ブレザーと同じくらいの丈のマイクロショーツとのセットアップのようなマスキュリンなスタイルから、ドレープを効かせたドレスやガラスビーズのマイクロミニスカート、裾にカッティングを施したナッパタイトスカート、透け感のあるビスコースジャージニットなどフェミニンでセクシーなアイテムまで。また、フィールドジャケットをあえてシルクやベルベットでエレガントに仕上げたり、クロコ風のカーフ型押しレザーを、コート、ショーツを合わせたスーツもある。
トムがパートナーの名前をバッグに付けたように、妻の名を冠したチェーンバッグ「ホイットニー」も登場。コスメティックピンク、ペルシアンブルー、コニャックブラウン、シャルトルーズ、そしてブラックとホワイトといった、ドラマティックなカラーパレットもトム・フォードのクリエーションを彷彿させる。
クリエイティブディレクターが変わる時には大胆な変更が期待されるのが常だが、ブランドの精神をリスペクトし、守っていくことも新ディレクターのミッションだ。そこはブランド自身が伝統か革新かどちらに焦点を当てるかにもよるのだが、クリエイティブディレクターがあまりにも激しく変わり、それによって個性が失われつつあるブランドも多い今日この頃、このような真摯で誠実な姿勢には好感が持てる。
モスキーノ(MOSCHINO)
ブランドの40 周年を記念して、“40 years of love”と題したアニバーサリーショーを行った「モスキーノ」。ジェレミー・スコットが今年3月で退任し、クリエイティブディレクター不在の今回は、4 人のスタイリスト、カーリン・サーフ・ドゥ・ドゥゼール、ガブリエラ・カレファ=ジョンソン、ルシア・リュー、ケイティ・グランドによる特別コラボを行った。
1983 年から1993 年までのフランコ・モスキーノのアイコニックなデザインにインスパイアされて4人が製作したそれぞれのコレクションを4部構成で繰り広げ、さらにバイオリニストの演奏+エルトン・ジョン・エイズ財団と提携したチャリティー限定版40周年記念Tシャツも発表。ショー会場にはスカラ座のポスターをイメージした演目が展示され、赤いカーテンからモデルたちが登場する、歌劇場のような雰囲気だ。
最初に登場したカーリン・セルフ・デ・デュゼールは、フランコ・モスキーノのシックな定番アイテムに注目。ウエストを絞ったタイトなテーラードパンツスーツやボディコンシャスなニットドレスなどシンプルなアイテムにビジュー、ロゴ入りまたはハート型のミニバッグなどのアイコニックな装飾を加えた。
2番目のガブリエラ・カレファ=ジョンソンは90年代前半のショーのスタイルを再現。レザーのフリンジやクロシェ編みのスカートやタイダイのセットアップなどにヒッピーテイストが漂い、赤のドットのジャケットやはと目を施したレザージャケットなどパンチの強いアイテムなど交差させながら、自由な着こなしを提案する。
3番目に登場したルシア・リューは、フランコのスイートでロマンチックな面にフォーカス。レースやレイヤードフリルのドレスやパンツ、トレーンを施したミニドレスやジャケット、リボンとコサージュをあしらったプリンセスドレスなど。そんな中にもフランコ時代の「Protect Me from Fashion System」と描かれたT シャツを登場させ、ひそかに反骨精神を強調していたのが印象的。
4番目のケイティ・グランドは、ロイヤル・バレエ団の専属振付師でもあるウェイン・マクレガーが振り付けを担当し、パフォーマンス形式で作品を発表。スローガンとして複数のアイテムに描かれた“LOUD LUXURY”をテーマに、イラストで体の絵が描かれたブラトップやスイムウエア、ブラジャーで作られたチュチュ、「モスキーノ」お馴染みの「?」や「!」が描かれたボディスーツなど、フランコの突き抜けたユーモアセンスを再考した。
10月には新クリエイティブディレクターが発表されるとのこと。(個人的には)ジェレミー・スコット時代の「モスキーノ」が良かっただけに、後任者が気になるところだ。
バリー(BALLY)
新クリエイティブディレクター、シモーネ・ベロッティによる「バリー」の初コレクション。ルイージ・ビラセニョールの電撃的な退任による交代劇かと思いきや、昨年の10月から準備は進んでいたのだとか。ショーはサン・シンプリチアーノ教会の庭園で開催。
コレクションは、スイスのアスコーナにある丘、モンテ・ヴェリタの精神からのインスピレーション。これは20世紀初頭、近代文明に疑問を持ち、自然への復帰を目的とした菜食主義者たちがコロニーを作り、知識人やクリエイティブな人々も集ったユートピア的な場所だ。ひいてはクラシックなデザインと現代のライフスタイル、几帳面と言われるスイス人の自然でおおらかなもう一つの一面・・・と言った二面性をコレクションに投影する。
長めのテーラードジャケットにミニスカート、レザージャケットにショーツのセットアップなどトップにボリュームを持たせる今風のコーディネートで、マスキュリンとフェミニンをミックス。レザーコートに立体的なレイヤードフリルミニスカートを、クラシックシャツにミニバルーンスカートをコーディネートし、異なった素材やスタイルを合わせることで二面性を強調。ドットやレザーなど様々な素材で登場する大きなUカットのシンプルなミニドレスにはミニポーチ(ショーでは小花が入っていた)の付きベルトでアクセント。
シモーネ曰く「スイスの山でのハイキングのイメージ」のイチゴのプリントがバッグやドレスやトップスなど各所に使われたり、バッグにはスイスらしいカウベルが付いていたり・・・と遊び心のあるディテールがふんだんにみられる。バックル付きポインテッドトゥのフラットシューズ「グランデール」やバーニッシュド・トゥのレースアップシューズ「スクリベ」などアーカイブからの復刻シューズも登場。
イタリア人デザイナーならではのさりげない品のよさが「バリー」というブランドにうまく呼応し、新ディレクターによる「バリー」は快調なスタートを切ったと言えそうだ。クワイエットラグジュアリーが流れとなっている今のムードにもマッチしている。
ファビアナ フィリッピ (FABIANA FILIPPI)
新クリエイティブディレクター、ルチア・デ・ヴィートを迎えた初のコレクション。上質でシンプルながら、今風のトレンドはふんだんに入れ込んだ、新生「ファビアナ フィリッピ」がスタートした。
テーラードジャケットやアシンメトリーのジャケットにはかっちりした素材を使いつつ、透け素材のスカートやバミューダを合わせて厚さの違う素材を重ねたり、または光沢とマットといった、対照的な素材を組み合わせたコーディネートが印象的。フリンジスカートやフェザーのデコレーションが施されたオーバードレスなど軽やかに揺れるイメージも強調される。
コレクションは、ダンサー兼振付師のヨアン・ブルジョアによるパフォーマンス形式。音楽はピアニスト兼作曲家のハニア・ラニがこのパフォーマンスのためにオリジナルで作曲したものだとか。洋服が持っている軽やかさ、コレクションが放つ躍動感のある女性らしさが十二分に表現された、圧巻のパフォーマンスだった。
ヘルノ(HERNO)
ミラノショールームにて、コレクションを発表した「ヘルノ」。前シーズンから、アイテムごとの展示方法からコーディネートして見せるやり方へ移行していたが、今回はトータルルックで提案する形に完全にシフトした。ディスプレイもこれまでは各アイテムをあえてフックにひっかけてずらりと並べるのが「ヘルノ」の象徴的な展示方法だった(そして、それを「ヘルノ」が始めた当時は画期的だった)のを、今回からはトルソーに着せて展示しているところにも変化が見られる。
コレクションは「ヘルノ」らしいアウターも揃えつつ、夏を意識した透け感のある素材や光沢のある素材が、パンツ、スカート、ジャケットなど様々なアイテムに使われている。またサロペットやマイクロショーツなど、今の潮流を反映したアイテムも揃う。
「ヘルノ」モノグラムは半そでのサマーダウンや、トレンチのベルト、スカーフなどに使われるほか、Hロゴがさりげなく刺繍されたジャケットも。カラーパレットはイエロー、ライトブルー、アクアマリンといったパステルカラーが主役だ。
時代に合わせて変身する「ヘルノ」。その一方で老舗ならではの良さを失わず、ブランド自体の軸がぶれることはないのは、創業者ファミリーによる経営だからこそ。
取材・文:田中美貴
画像:各ブランド提供
田中 美貴 大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。apparel-web.comでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。 |