PICK UP
2018.05.02
【宮田理江のランウェイ解読 Vol.49】2018-19年秋冬パリ、ミラノコレクション
宮田理江のランウェイ解読 Vol.49
2018-19年秋冬シーズンのパリ、ミラノ・ファッションウイークでは、強くプラウドな女性像が打ち出された。女性を取り巻く状況が様変わりする中、「フェミニン」をモードで定義し直すような提案が相次いだ。ボリュームアウターを主役とする「プロテクション(防護)ルック」が出現したのは変化の象徴だ。大胆なクロスカルチャーや、踏み込んだジェンダーレスが加速。ストリートとラグジュアリーの接点を探る動きも広がった。
【ミラノコレクション】
◆グッチ(GUCCI)
ミラノで最大の関心を集め続けるのは、やはりアレッサンドロ・ミケーレ氏の「グッチ(GUCCI)」。モデル本人にそっくりの「生首」を小脇に抱えさせた「攻め」の演出が話題を呼んだが、得意技の「スーパーミックス」はそれ以上のインパクト。胸にはニューヨーク・ヤンキースのロゴ「NY」をあしらった。
目だけを残して顔をすっぽり覆うニット頭巾の「バラクラバ」は不穏な空気を呼び込んだ。ロングコートは花柄やビニールコーティングで華やがせた。顔をスカーフで囲み、目尻の上がった角張りサングラスも添えた。バッグのショルダーベルトは超ロング。80年代に足場を据えたカルチャーミックスは日本の少女漫画や映画会社のロゴも取り込んだ。過剰と混沌が呪文のようにランウェイを覆い、どこかノスタルジックで、不思議にファニーな魔法にかけられた。
◆プラダ(PRADA)
女性の尊厳をあらためて主張するムーブメントがモードにも押し寄せている。「プラダ(PRADA)」はパッドをたっぷり詰めたパフィなビッグアウターを押し出し、着る人を守る「プロテクション」のムードを印象づけた。ロングコートやビッグベストのバルキーな量感が自信や安心感を漂わせる。ピンクや黄緑、オレンジなど、高発色、蛍光のケミカル色がポジティブ感をまとわせた。
チュールやツイード、ナイロン系などの異素材を響き合わせ、複雑な質感を生み出している。ウエストを締めるコルセットをあえて一番外側から巻いた。ハイテク素材とネオンカラーの交差が工業的イメージを帯びた。胸に企業のIDカードを添えるウィットフルな演出も冴えた。
◆ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)
装いにパワーを注ぎ込む提案が相次いだ。「ドルチェ&ガッバーナ(Dolce&Gabbana)」は金糸刺繍やビジューでゴージャスな着姿に仕上げた。カトリックへの信仰をテーマに据え、天使や十字架などの宗教的モチーフをちりばめている。デニムジャケットのようなストリートテイストのウエア、ミニスカートのような若々しいアイテムにも、まばゆい装飾を施し、グラマラスに華やがせた。ミニドレスやブラトップといった官能的なムードのアイテムで80年代感を醸し出している。
タキシード、パンツスーツなどの凜々しい着姿もベルベット系生地やブロケードでデコラティブに盛り上げた。「FASHION SINNER(ファッション罪人)」といった、ファッションへの情熱を表現したステートメントを繰り返した。ハンドクラフトとバロック感、シチリア愛などを交じり合わせ、きらびやかで情熱的に演出した。
◆ヴェルサーチ(VERSACE)
グラマラスや装飾性を通して、女性の強さ、センシュアリティーなどを表現する創り手が目立ってきた。つやめいたレザーやケミカルなネオンカラーで装いを盛り上げたのは、40周年の「ヴェルサーチ(VERSACE)」。超ハイウエストのミニスカートはボディーラインを艶美に描き出した。
マルチカラーのチェック柄スーツ、特大バックルの太ベルトは80年代気分を帯びた。大学生やサッカーファンが好む、太く長いマフラーにはビッグロゴが躍った。髪の毛をくるむようなヘッドスカーフはレトロでプレイフルな風情。タータンチェックやキルト、紳士服風テーラーリングで英国テイストも持ち込んだ。カラーリッチなベレー帽、アーガイル柄のニーハイ・ソックスにはアクティブ感とヘリテージが同居。ビジューを襟に配したシャツや胴を締めるコルセットにはほのかなパンキッシュが薫った。
【パリコレクション】
◆ディオール(Dior)
ユース(若者)カルチャーへの接近は今回のパリ、ミラノに共通して見られた傾向だ。「ディオール(Dior)」はちょうど半世紀前の1968年にパリで起きた学生運動に着想を得て、反抗や主張のムードを装いに写し込んだ。チェック柄のセットアップはTシャツとワークブーツで合わせ、型にはまらないテイストミックスに仕上げている。
キャスケット風の帽子をモデル全員がかぶり、モッズ気分を匂わせた。ピースマークやフリンジにもヒッピー気分がうかがえる。斜め掛けのバッグにはギターを吊るような太いストラップを添えた。バックルがブランドロゴを兼ねる太ベルトはキーアイテムを担った。モード界でのフェミニズム提唱で先駆けとなったデザイナーに現実が追いついてきた感じがある。
◆バレンシアガ(BALENCIAGA)
立体裁断の名手とされた創業者の原点に立ち返る取り組みを見せたのは、「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデムナ・ヴァザリア氏だ。ブランドの遺産と言えるカッティングの技術を先端的テクノロジーでモダナイズ。デジタルテーラーリングで艶美な曲線を描き上げた。徳利風に腰のくびれを強調する、ファニーなふくらみを帯びたボディーコンシャスな装いをランウェイに送り出した。
アーカイブに敬意を払う一方で、後半は自身の持ち味としている過剰感を押し出した。シンボルになったのは、アウターを何枚も重ねたように見える、ギミック感たっぷりのレイヤード。まるで、平安時代の十二単を連想させるような重層襟はプレイフルの極み。ファッションを面白がるマインドがあふれ出ていた。
◆ヴァレンティノ(VALENTINO)
「フェミニン」の解釈が広がった。はかなげ感や甘さを印象づけるのではなく、むしろ芯の強いロマンティシズムを「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は示した。主役のドレスは大半が足首より長い着丈で、床に届きそうなロングドレスも多い。シルエットはロング&リーン。何者にももたれかからない女性像を映し出している。
大胆な花柄のビッグモチーフも気品や落ち着きを寄り添わせる。裾や縁には朗らかに波打つスカラップのディテールを施した。前半は白と黒を主体にしつつ、後半ではアイコニックな赤をはじめ、グリーンやピンクなどが加わって、華やぎを増した。しなやかなパワーをグラフィカルなロングドレスで歌い上げた。
◆ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)
ドキュメンタリー映画でもテキスタイルへの情熱や手仕事へのリスペクトが映し出された「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)。アート愛や花好き、職人気質といったドリスの特質は新コレクションでも揺るぎない。誰の真似でもない、自由なアート表現を、手描きモチーフとして服に写し込んだ。
独特の生命感を宿した曲線モチーフが服の全面を埋め尽くし、エナジーと情念をみなぎらせた。ロング丈のジャケットはテーラードの技とスポーツテイストの健やかさが融け合って、性差を越えたドラマティックなシルエットに。シーズンや性別、トレンドなどの約束事にしばられない「スタイル」がプラウドな女性像を描き上げていた。
全体に「主張」を帯びたクリエーションが相次いだ。強い訴えの言葉(ステートメント、スローガン、プロテスト)でメッセージを発信する表現に加え、レインボーカラーやビッグロゴ、ファニーモチーフがアピール度を高めた。入り組んだレイヤードや素材・仕立てのハイブリッドも目立った。ファッションを通して、堂々と「女性らしさ」に胸を張るかのような提案が目立ったパリ、ミラノ両コレクションだった。
宮田 理江(みやた・りえ)
複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。 コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。
|