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2023.06.08

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.90】フォーマルにスパイス 身体性を強調した「自分本位」へ 2023-24年秋冬ファッションの6大トレンド

写真左から「サンローラン」「ルイ・ヴィトン」「ディオール」「プラダ」

 

 2023-24年秋冬コレクションでは「服の力」を借りたエンパワーメントが勢いを増した。パーティやイベントの復活を追い風に、クラシカル志向のドレスアップがカムバック。夜会服風のフォーマルな装いもよみがえった。シルエットはミニマルに抑制を利かせながらも、素材やディテールにあでやかさやゴージャス感を宿らせている。たおやかな身体性を押し出した曲線フォルムが打ち出される一方で、パンクテイストや透け感がルックに強さやフェティッシュをまとわせる。

 

 

◆テーラリングセンシュアル(Tailoring Sensual)

写真左から「ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)」「アレキサンダー ・マックイーン(Alexander McQueen)」

 

 ロングトレンド化したセンシュアリティ(官能性)に、フォーマルな装いが交わる。「タイドアップ」やスリーピースがウィメンズの着こなしに溶け込む。テーラードの紳士風ウエアに透け感や素肌見せを組み入れるようなスタイリングだ。英国調トラッドは解釈が広がる。マニッシュなタキシードやスーツに、グラマラスなドレスやスカートをクロスオーバー。透けるシアー生地やカットアウト(くり抜き)、クロップド丈がクラシックな出で立ちからしなやかな身体性を引き出す。チェック柄と花柄ミックスがジェンダーレス感を強める。オーセンティックな紳士ムードとガーリーなマイクロミニが響き合い、女性像を書き換える。

 

 

◆ボディコンフィデンス(Body Confidence)

写真左から「ランバン(LANVIN)」「バレンシアガ(BALENCIAGA)」

 

 かつての「ボディコンシャス」は他人の視線を意識したが、今の流れは「自分目線」を重んじる「ボディコンフィデンス(自信)」。年齢や体型に関係なく、自らを肯定する身体観だ。ポジティブで健康的な気分を印象づける。体の輪郭になじむミニ丈ドレスやボディスーツが流麗さと強さをまとわせる。縦長ストレートのシルエットを軸に、伸びやかなレッグラインを強調。こびない凜々しさがプラウドなキャラクターを醸し出す。ランジェリー風のアイテムや大胆なスリットは妖艶さを帯びる。曲線を強調した「セカンドスキン」、タイツ主体のボトムレスなども身体性を歌い上げる。

 

 

◆ミニマルグラマー(Minimal Glamour)

写真左から「ジル サンダー(JIL SANDER)」「バルマン(BALMAIN)」

 

 シルエットは全体にシンプルへ向かう。飾り気をそぎ落とした姿でありながら、ウィットやエスプリを盛り込んで、ムードを濃くする。かつての味気ないミニマルとは別物の、主張を帯びつつ、奇をてらわない着映え。つやめきやゴージャス感を宿したグラマラスなウエアがパワーを注ぎ込む。ビッグショルダーのボクシーなジャケットに、タイトなボトムスを引き合わせ、ボリュームのコントラストを演出。オーセンティックなスーツ姿にも、スラッシュやダメージ加工などを施して、意外感を添える。朗らかさやチアフル感を寄り添わせるディテールは、ミニマルにエモーションを乗せる。

 

 

◆ウォームガード(Warm Guard)

写真左から「ステラ マッカートニー(Stella McCartney)」「バーバリー(BURBERRY)」

 

 防寒・保温の面で実用性の高いアウターが打ち出された。着心地重視の「コンフォート」や機能性志向の「ユーティリティ」といったロングトレンドが追い風に。ぬくもりを体感しやすいブランケットやケープ、マントなどの「包み込み系」が穏やかなくるみフォルムを生む。バラクラバやロンググローブのような小物類も体を覆う面積が広め。チェック柄やペールトーン、ニュアンスカラーがやわらかい華やぎを添える。人工ファーやフェザーの質感でリュクス感とあたたかみを表現。タイトな縦長ボトムスを引き合わせて、上下の量感コントラストを引き立てていく。シアートップスと組み合わせた「薄×厚」のコンビネーションも提案されている。

 

 

◆トラッドパンク(Trad Punk)

写真左から「ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)」「フェンディ(FENDI)」

 

 原点回帰やシグネチャー重視が進む。英国趣味の復活が代表例だ。全体に正統派でスタンダードな装いがリバイバル。しかし、単なる懐古ではなく、パンクやロック、ダークロマンティックなどのテイストを持ち込んで、まとまりすぎを崩す。下地になっているのは、目先の流行に左右されない「タイムレス」。そのまま古典的でレトロな装いに終わらせず、ひねりを加えるのが新しい趣向。オーセンティックスタイルにレザーのサイハイブーツがフェティッシュ感を添える。ユーモラスなモチーフやトリッキーなギミックも投入。トラディショナルな出で立ちから内なる反骨を引き出す重層性が打ち出されている。

 

 

◆ウインタースキン(Winter Skin)

写真左から「モスキーノ(MOSCHINO)」「ヌメロ ヴェントゥーノ(N°21)」

 

 季節感を裏切る「シーズンレス」の着こなしがさらに拡張する。春夏が「定位置」だったシアー服が秋冬に引っ越し。透け感を帯びた装いがオールシーズンで盛り上がる。ふわもこ仕様のパファージャケットとのレイヤードはシアーアイテムの出番を広げる。サプライズな見え具合もこのスタイリングの魅力。ファーアウターとの組み合わせは量感の落差を生んで、スレンダーな着映えに導く。ほとんど何も着ていないかのような錯覚を引き起こす「ネイキッド」系のウエアも秋冬に出現。素肌にぴったりする「セカンドスキン」や、タイツを使った「ボトムレス」もヌーディ感を高める。

 

 これまで以上に多様性が広がって、主張や遊び心、ユーモアも加わったのは、23-24年秋冬の目立った変化。型にはまらない「ずらし」のスタイリングが勢いを増して、様式美の象徴だったはずのフォーマルさえも再解釈の的になった。性別や季節、場面などにとらわれない新感覚の着こなしが一段とスリリングな「自分本位」のミックスコーディネートへ導くかのようだ。

 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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