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2023.05.09

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.89】フォーマルを日常に、パワードレッシングに新時代 2023-24年秋冬・パリ&ミラノコレクション

 社交界へいざなうかのような、フォーマル志向が強まった。テーラードやマスキュリンの勢いがさらにリュクス方向へ加速。2023-24年秋冬の装いはタイドアップに象徴される正統派のドレッシーやエレガンスが勢いづく。シルエットはミニマルが軸だが、たおやかな曲線を織り交ぜている。ジャケットはボクシーでビッグショルダー。シアー素材やクロップド丈で官能的なムードを添えた。オケージョンとリアルクローズをねじり合わせるスタイリングは着る人の独立心を印象づけるかのようだ。

 

 

 

■パリコレクション

 

◆シャネル(CHANEL)

◆シャネル(CHANEL)

 

 メゾンコードの花弁モチーフ「カメリア」でコレクション全体を包んだ。プリントやコサージュ、刺繍など、多彩なクチュール技で、曲線的な花びらを装いに写し込んでいる。黒、白、グレーのシックな色を主体に、気品とフェミニンを薫らせた。メゾンのDNAと呼べるツイード生地を多用し、品格を際立たせた。コートやスーツにはマスキュリンなフォルムを生かし、強さや凜々しさも漂わせている。バミューダパンツやミニスカートを、ツイードのセットアップに組み込んで、フレッシュで楽観的なムードを醸し出した。ロングネックレスの重ねづけにもココ・シャネルの面影があり、原点となるコードを持つクチュールメゾンの強みを印象づけた。

 

 

◆ディオール(DIOR)

◆ディオール(DIOR)

 

 黒を主体に、強さとエレガンスが響き合うフレンチシックの装いをそろえた。プラウドで気高い人物像を描き出している。ボトムスは大半がミモレ丈の裾広がりスカート。レディーライクな印象を濃くした。ドレスはウエストをシェイプ。フラワーモチーフで優美に彩っている。白シャツにネクタイのタイドアップといったマスキュリンな出で立ちにはインディペンデントなムードが漂う。ブラトップにジャケットやシアー服を重ねるスタイリングは程よくセンシュアル(官能的)。ドレッシーでありつつ、芯の強さを感じさせるスタイルを打ち出した。ロンググローブやレースアップブーツなどの小物・靴類にもタフ感と品格が同居している。

 

 

◆サンローラン(SAINT LAURENT)

◆サンローラン(SAINT LAURENT)

 

 1980年代風のパワーショルダーを迎え、凜々しいスーツルックを打ち出した。横に張った肩とタイトなスカートがめりはりの利いた逆三角形シルエットを描く。ブランド創始者、イヴ・サンローランの提案したマニッシュな装いをモダナイズ。クチュール感の高いテーラリングと、クールなエレガンスを交わらせている。ピンストライプのジャケットに引き合わせたのは、スリットが深い膝丈スカート。白いトップスはネックラインが深い。パイロット風サングラスや太めバングル、レザーグローブがフェティッシュ感を添える。ケープ風のブランケットアウターがレディーライクな輪郭を描く。構築性と官能美を同居させ、ミニマルとドラマを交差。新時代のパワードレッシングに誘った。

 

 

◆ヴァレンティノ(VALENTINO)

◆ヴァレンティノ(VALENTINO)

 

 紳士のフォーマルウエアを大胆に再解釈した。タイドアップのテーラード姿を軸に据えつつ、ウィットフルな読み換えを試みている。白いシャツ襟をホルターネックに置き換えたミニドレスはコレクションを象徴するアイテム。黒ネクタイを巨大化して、ドレスに仕上げている。コンパクトなタイドアップの装いにミニ丈ボトムスを絡ませた。ピンクの立体的なバラ花弁モチーフで埋め尽くしたミニスカートはキュートで妖艶。市松模様やドット柄、ストライプもフォーマルムードに動きを添えた。正統派礼装の文脈をあえて裏切る「ドレスコード破り」を仕掛けた。スリリングなアレンジがファッションの多様性を際立たせていた。

 

 

 

■ミラノコレクション

 

◆プラダ(PRADA)

◆プラダ(PRADA)

 

 広い意味での「制服」にひねりを加えて、日常と非日常を交わらせた。選ばれた「制服」は看護師の白衣や兵士の軍服、花嫁のドレス。それぞれに象徴的なユニフォームをドラマティックにトランスフォーム。ウエディングドレスはセーターとのミックスで、オケージョン服の普段使いに誘った。長いトレーンもまとわせている。ミリタリー風の装いには花柄や花コサージュを添えた。クルーネックのミニマルなニットトップスには相反するドラマティックなスカートをマッチング。パッファージャケットにはプロテクション感が漂う。相反ムードや逆説的ニュアンスは以前からの持ち味。今回はユーティリティーとクラシカル、テーラードとデイリーといった真逆テイストをねじり合わせてみせた。

 

 

◆グッチ(GUCCI)

◆グッチ(GUCCI)

 

 デザイナー交代タイミングにふさわしく、ブランド史をとらえ直すようなコレクションを見せた。創業以来のアイコン的なホースビットをはじめ、トム・フォード時代のグラマラス、アレッサンドロ・ミケーレ期のカルチャーミックスなどをアーカイブからよみがえらせつつ、モダンに磨き上げている。ランジェリーライクなトップスや、シャープなペンシルスカートはフォード時代の空気感を呼び覚ました。マニッシュなテーラリングやシースルーの多用、ゴージャスなフェイクファー使いも復活。プレイフルなカラーパレットはミケーレ流。ビジューやビーズ刺繍に象徴される、あちこちに施されたハンドクラフトはブランドのDNAを印象付けた。引き継ぎコレクションを任されたデザインチームはヘリ:テージにオマージュを捧げ、100年を超えるブランドの重みを証明してみせた。

 

 

◆フェンディ(FENDI)

◆フェンディ(FENDI)

 

 アーティスティックディレクターのキム・ジョーンズは「さりげない破壊」を掲げて、ブランドのアーカイブにワークウエアやパンク、フェティッシュなどのテイストを交わらせた。クラシシズムやエレガンスを軸に据えつつ、質感やディテールに別ムードを盛り込んで、ひねりを加えている。シルエットは細長くしなやか。ボディにフィットし、きれいな輪郭を描く。ヘリテージやカール・ラガーフェルドへの敬意も随所に織り交ぜた。ボイラースーツ、エプロン、ユニフォームなどをフェミニンにリモデル。スリットやカットアウト、ランジェリー感がほのかにセンシュアル。レースアップのサイハイブーツも目を引いた。

 

 

◆ジル サンダー(JIL SANDER)

◆ジル サンダー(JIL SANDER)

 

 ミニマルを柱に据えつつ、アクティブ感やポップさを高めた。ライダースジャケットやバイカーブーツでモーターサイクル文化を取り込んだ。フルーツやキャンディー柄のプリントが装いを弾ませる。ジェンダーレス度も高い。天然素材と職人技をマリアージュ。マトラッセ技法やニードルパンチが表情に深みをもたらした。全体に落ち感を際立たせてエアリーな浮遊感を帯びている。テーラードジャケットはゆったりシルエットでロング丈。ロングチュニックは自然体の伸びやかなシルエットを描く。デニム生地にもクチュール技を注ぎ込んだ。メタリックパーツを多用し、ジップやスパンコールできらめきをまとわせた。ビッグバッグがボディの華奢感を引き出していた。

 

 

 ブランドそれぞれの原点回帰が進み、クラシック感や英国趣味が磨き上げられた。極上素材やクラフトマンシップがミニマルなフォルムに特別感を寄り添わせている。刺繍やジャカード、ツイードが好例だ。マスキュリンとフェミニンはいっそう自然に融け合い始めた。個々の身体を肯定的にとらえる「ボディポジティブ」は一段と深化。体の輪郭に沿うジャージー系生地のドレスが増えた。逆に、全身をぬくもりで包むブランケット系アウターも打ち出されている。フォーマル、夜会服からグランジ、ボトムレスまでシャッフルされた、多彩なクリエーションが多様性の加速を物語っていた。

 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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