PICK UP

2022.12.03

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.85】 身体性が主役 「着るエンパワーメント」 2023年春夏パリ&ミラノコレクション

写真左から「シャネル」「ディオール」「ルイ・ヴィトン」「プラダ」

 

 ファッションは本来、「服」を見せるはずだが、2023年春夏は「身体」が主役の座を奪う。いよいよ「ポスト・パンデミック」が現実味を増すのを見越して、健やかさを印象づけるボディーコンシャスの季節が再来。素肌見せやタイトフィットが勢いづく。前向きな時代感を追い風に、自己肯定感を帯びた装いも盛り上がる。「着るエンパワーメント」と呼べそうなパワードレッシングが台頭。きらめきやボリュームでゴージャスに華やがせる「強め」のトーンが軸に。横並びや他者依存を好まない「凜とした自己中」が新キャラクター像だ。

■パリコレクション

 

◆シャネル(CHANEL)

◆シャネル(CHANEL)

 

 ブランドを象徴するツイード生地を押し出した。裾フレアのミニ丈ドレスはフレッシュな雰囲気を呼び込んだ。ランジェリーのようなショートパンツのルックもコケティッシュな小悪魔風セクシーを漂わせて。網目ソックスはほのかにセンシュアル(官能的)。全体にムードが若返った。レトロ感を醸し出しながらも、みずみずしいシルエットでモダンに昇華させている。

 

 黒×白のシックな色調を軸に据えつつ、パステルカラーでノーブルな華やぎを添えた。クラシックな風情の装いに動きを加えたのは、ボウ(リボン)をはじめとする、多彩なディテール。刺繍、フェザー、レースなどで、手仕事職人のアトリエを抱えるクチュリエの強みを示した。スパンコールやビジューがまばゆい彩りを演出。マイクロバッグもルックにリズムを乗せている。

◆ディオール(DIOR)

◆ディオール(DIOR)

 

 歴史と身体という、新シーズンのグローバルモードが重んじる2大テーマをねじり合わせた。中世の宮廷貴婦人を連想させるコルセットやクリノリンで優美な曲線を描き出している。クラシカルでありながら、古風ではない、モダンなアレンジが巧み。適度に素肌をのぞかせて、生命感を息づかせた。花柄の刺繍はナチュラル感を寄り添わせている。

 

 ボトムスのキーピースはカーゴパンツ風な新ピースだ。張り出しポケットを備えつつ、エレガントなフォルムにリモデル。ロマンティックなモチーフもあしらって、新シーズンのエッセンシャルボトムスに位置付けている。ランジェリー風味のキャミソールやビスチェとも引き合わせた。ブラトップや黒レースを生かして、ほのかな色香も漂わせている。

◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

◆ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)

 プレイフルな気分が戻ってきたのは、新シーズンの目立った変化だ。ファスナーやボタン、ネームタグをデフォルメして、特大サイズにスケールアップ。ファニーなディテールに昇格させた。ベルトやバッグもスーパーサイズに拡張。遊び心がルックに立体感と高揚をもたらしている。マルチカラー柄が装いをチアフルに彩った。

 

 コンセプチュアルアートに通じる知的な遊びを仕掛けた。シルエットはミニ丈ワンピースを柱に、コンパクトでありながら、身頃の左右で色・柄を変えたり、裾をトリッキーに躍らせたり。極太のバックルベルトはまるでコルセットのよう。ボディーのめりはりを際立たせている。美術館を舞台にウィットフルなウエアをそろえて、「着るアート」の宴に誘った。

◆サンローラン(SAINT LAURENT)

◆サンローラン(SAINT LAURENT)

 

 強くてしなやかな女性像を打ち出した。アイコン的なウエアはレザー仕立てのライダースジャケット。バイカー(オートバイ乗り)ルックは新シーズンに盛り上がりそうなエッセンシャルピースだ。ロックなアウターとシルクジャージ素材のロングワンピースを交差させて、硬軟の二面性を表現。80年代風の張ったショルダーラインも凜々しさを印象づける。

 

 髪を覆うフード付きのワンピースが「ロング&リーン」のシルエットを描き出し、ドレープが醸し出す、流麗な落ち感はブランドのヘリテージを示す。肌見せロングドレスも自然体の「パワーフェミニン」感を秘める。その一方でボマージャケットやトレンチコートといったマスキュリンアウターも用意。「かっこいい」と「きれい」の掛け算が新キャラクターを呼び込んでいる。

■ミラノコレクション

 

◆グッチ(GUCCI)

◆グッチ(GUCCI)

 

 突き抜けた多様性で、アレッサンドロ・ミケーレ氏がラストショーを飾った。双子モデルをそろえつつ、各組の装いはテイストも時代感もカオス気味に混在。同じ方向を向かない美学を極めた。レトロとサイケデリックが交錯するような、懐かしげで狂おしい「ミケーレ・マジック」。シノワズリ(中国趣味)やグレムリン(映画の愛らしい怪獣)も持ち込んで、文化の持ち寄りパーティーを盛大に催した。

 

 ダブルブレストのパンツスーツは、もも部分にガーターベルト風ディテールで肌見せ。持ち味のギーク感やカルチャーミックスを発揮しつつ、フェティッシュさやセンシュアリティー(官能性)も薫らせている。正調のテーラリングと常識外のアレンジがタイドアップにエスプリを効かせ、コレクションもエモーショナルに包んだ。

◆フェンディ(FENDI)

◆フェンディ(FENDI)

 

 2023年にメトロポリタン美術館で回顧展が開催されるカール・ラガーフェルドへの敬意を込めて、アーカイブを掘り起こした。スレンダーなシルエットに、多彩な質感を重ね合わせ、上品なナローシルエットを演出。ブランドを代表するブラウン系の色を軸に据えつつ、グリーンやピンクで華やぎを加えている。サテン系の質感を帯びたテキスタイルがエフォートレスと洗練をまとわせた。

 

 「F」ロゴの多彩なアレンジが歴史的なバッグに斬新な表情をもたらしている。帯状ストラップを垂らしたり遊ばせたりして動きを加えた。足元には厚底プラットフォームシューズを迎えて、Y2K気分も寄り添わせている。シアー素材でレイヤードを組み立てて、しなやかなカーゴパンツも提案。リュクスなつやめきが身体性を際立たせた。

◆プラダ(PRADA)

◆プラダ(PRADA)

 

 ミニマルの「奥」を探った。端正なテーラードジャケットはイレギュラーに丈が長い。つやめいたワンピースは引き裂いたかのようなスリット入り。きれいに整えすぎない「破調」の美意識を忍び込ませている。しわや折り目、ねじれを宿らせ、着た人の所作に応じて表情が深みを増す仕掛け。ヒューマンな服を取り戻す試みのようにも映る。

 

 ボディースーツのように素肌となじむコンビネゾンが身体のリアリティーを引き出す。テーラードジャケットとのコンビネーションでボリュームコントラストを描き出した。ベビードールやネグリジェ風のドレスで昼夜・シーンをクロスオーバー。異なる素材やムードを入り組ませて、ミニマルなシルエットに意外感を乗せている。

◆ジルサンダー(JIL SANDER)

◆ジルサンダー(JIL SANDER)

 

 メンズとウィメンズの合同ショーで、ジェンダーフルイド(流動的)のムードを濃くした。キーピースは着丈の長いジャケット。膝丈のショートパンツと組み合わせて、落ち感のきれいなセットアップに仕上げている。両袖を裁ち落としたロングジレ(ベスト)は、しなやかに仕立て直したカーゴパンツとマリアージュ。テーラードスーツとワークウエアを自然体の手つきで融け合わせた。

 

 アメリカ西海岸風の気取らない雰囲気を迎えて、エフォートレスに整えている。スカートにはフリンジが躍る。足元はスニーカーで軽やかに弾ませた。ノースリーブを多用して、ミニマルなフォルムを切り出している。グラマラスを掛け合わせ、スパンコールやフェザー、ビーズでゴージャスに華やがせた。つやめいた生地や繊細なクラフトワークで静かなクラス感を漂わせている。

 

 

 

 自らのありようを前向きに受け入れる「ボディーポジティブ」がモードの新潮流となりつつある。ジェンダーレスからの揺り戻しはさらに強まって、「女らしさ」に自信を深めるかのよう。タイムレス、シーンフリー、オールシーズンの流れが定着する一方で、少しいたずらっぽくテイストをずらし混ぜるスタイリングが「自分らしさ」を後押し。着る人が自らの「表現者」となるようなスリリングなおしゃれが始まる。

 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

宮田理江 公式サイト
アパレルウェブ ブログ
ブログ「fashion bible」

 

メールマガジン登録