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2022.01.21

【2022秋冬ミラノメンズ ハイライト】アバンギャルドやスポーツ要素をフォーマルでクラシックに解釈

 2022年1月14~18日、「ミラノメンズ・ファッションウイーク」が開催された。事前のイタリアファッション協会の発表によると47ブランドが参加予定となっている。が、オミクロン株による感染拡大の影響で、直前になってからフィジカルショーを予定していたいくつかのブランドが直前にキャンセル、またはデジタル発表に変更した。特に「ジョルジオ アルマーニ(Giorgio Armani)」がメンズとオートクチュールのショーをキャンセルしたことも影響を与えた様子だ。展示会にはフィジカルで行われるものも多くあったが、いずれにしても多くのブランドが、ワクチン接種、またはコロナからの回復の証明によって得られるスーパーグリーンパス(QRコード)の提示とFFP2マスクの着用を義務とする厳格な感染拡大防止体制を引いていた。そんな中でも前シーズンまでパリで発表していた「ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)」と「1017 アリクス 9SM(1017 ALYX 9SM)」、ロンドンがベースだった「ジョーダンルカ(JORDANLUCA)」がミラノコレクションに初参加したり、「フェデリコ チーナ(FEDERICO CINA)」などの新進ブランドが初ランウェイショーを行うなど、ニューエントリーの明るい話題もあった。

 

 経済活動は止めないという政府の方針により、ロックダウンや時短規制などはせず、スーパーグリーンパス(前出)があれば、ほとんどこれまで通りの生活ができるものの、感染爆発の影響で街には人出少なめのミラノ。昨年の春夏コレクションの頃(メンズ6月、ウイメンズ9月)にはかなり順調だったのが、その何か月後にはまた逆戻りしている状態となっているが、そんな浮き沈みの激しい状態がコレクション全体の傾向にも反映しているようで、どの方向にかじを取るかはブランドによって分かれた感がある。前シーズンに引き続きリラックス・カジュアルムード、または外への欲求からのアウトドアやカラフル&キラキラムードもある一方、リラックスの次に来るものとしてのフォーマルクラシックムードを打ち出すブランドも多く見られた。とはいえ、それは正統派クラシックではなく、テーラリングでスポーツやストリート、またはアバンギャルドを包んだり隠したりしているような感じだ。そして肩を強調した構築的なフォルムやビッグボリュームの男性的なシルエットが目立つ一方で、スカートやアクセサリーを始めとした女性用のワードローブやディテールをメンズでも提案しているブランドが目立った。相変わらず勢いのあるニットを始め、ダウンやシアリングなど暖かい素材やレイヤードのコーディネートが多く、冬らしい防寒度満載の雰囲気も全体的に流れている。映画や文学、建築など文化的な土壌からテーマを組み立てているブランドも多く、以前の様にダイナミックに動けないことでゆとりが生まれたデザイナーたちが、よりクリエーションを深く掘り下げているようにも見えた。

ゼニア(ZEGNA)

 昨年12月にエルメネジルド ゼニア グループはニューヨーク証券取引所に上場し、その際、ブランド名を「ゼニア」とし、ロゴも変更した。ビキューナ色のダブルストライプで表現したそのロゴデザインは、112年前に創業者がこの地を切り開き、同社の歴史を築く布石となった232号線という道を表している。今回のコレクションはその新しい出発への決意を示すかのように、“A PATH WORTH TAKING”というテーマで、同社の歴史を現代に調和したワードローブを提案する。それは上質な仕立てで、機能性があり快適ながら個性的、かつアウトドアもインドアにも対応する進化したフォーマルスタイルであり、1年前に始まったテーラリングのリセット=現代のテーラリングを再解釈し再構築する姿勢に繋がっている。「今日、私たちが生きている現実は、適応性を必要とし、私たち全員に流動的であることを求めています」「私は、ハイブリッドという概念を常に探求し続けてきました。何故なら堅苦しいカテゴリーを取り払うことで進歩が生まれるからです」とアレッサンドロ・サルトリは言う。

 

 そんなコレクションでは、オフホワイトやライトグレーからブラック、マホガニーブラウンやオーベルジクォーツなどの品の良い色でまとめられている。シルエットは流動的でありながらシャープで、ボックスシルエットのジャケットやトラペーズラインのコートに、パーカー、アノラック、プルオーバー、テーパードパンツなど、ワークやストリートのテイストを入れた組み合わせで構成される。そんな中、ジャケット類にはウールやカシミアを多用、テープ加工されたテクニカルシルクのインナーシェルやウール素材のリアノラック、上質なレザーとカシミアと貼り合わせたシャツなど、高級素材を使って実現している。そこに大きなパッチポケットやジップ、ドローストリングス、タイダイとジャガードのストライプや継ぎあてのモチーフなどディテールの遊びがふんだんに使われる。スキー帽やゴーグル風サングラス、パッド入りバッグやスキューバブーツの小物類もモダンさを加える。

 

 コレクション発表は映像と本社でのフィジカルプレゼンテーションの両方で展開。映像は「ゼニア」のルーツであり、同社所有の自然保護地区のオアジ ゼニアを横断する232号線をランウェイに見立てた大自然の中でのシーンに始まる。そして最後はフランス人の振付師サデック・ワフによる、「ゼニア」のクラフトマンシップとコレクションを作り出した160の手を象徴する特別なパフォーマンスで、ミラノのドゥオモ脇の道に人文字で新ロゴを描くという、今シーズンも圧巻のフィナーレ。それは今回もミラノコレクションの幕開けに相応しい存在感を放っていた。

ディースクエアード(DSQUARED2)

 久々のフィジカルショーを発表した「ディースクエアード」は、デザイナーのディーン・ケイティン、ダン・ケイティンが約二年ぶりのランウェイショーへの思いを込めた挨拶からショーをスタート。

 

 テーマとして掲げた“#D2Hi_king”は、ハイキングと、同時に山を制覇した時に感じる、世界を支配した王様のような気持ちをかけた言葉遊びなのだとか。そんなコレクションはカナダの厳しい冬の大自然を連想させる、防寒度満点のアウトドアテイスト。客席としてトランクを積み上げた演出にも旅や探検のムードが漂う。

 

 トップは色とりどりに様々なパターンが施されたブランケット、ダウンのロングやケットやジレ、スノーボーダー風のアノラック、フランネルシャツ、山の風景が描かれたニットなど。ボトムはワークパンツや迷彩ミリタリーパンツ、コーデュロイパンツ、スノーパンツやキルティングショーツまで。これらのアウトドアテイスト満載のアイテムの中がこれでもかというほどのレイヤードスタイルで登場。そこにはテーラード風ジャケットやトラウザー、シャツが差し込まれたり、なぜかキルト風のオーバースカートが合わせられていたり、または「ディースクエアード」お得意のジーンズやチェックシャツ、バンダナなどもコーディネートされたグランジテイストも。そんな中にスパンコール入りのアウターやニットなどのアイテムが差し込まれ、華やかさをプラスする。小物類では、アウトドアアクセサリーブランド「インヴィクタ(INVICTA)」と共同で作成した様々なバックパックが登場し、カップとテディベアもセットで身に着けているモデルもいる。またニット帽やハーネス、アルパインブーツやトレッキングシューズ、モヘアの靴下などもアウトドアテイストを盛り上げる。

 

 オミクロン株によってまた動きを制限されている現状において冒険への欲望がますます膨らむ中、そんな気分をカラフルに体現したコレクションは、ポジティブなエネルギーを与えてくれる。

1017 アリクス 9SM(1017 ALYX 9SM)

 イタリアのフェラーラで創業し、ミラノにもデザインオフィスを開いた「1017 アリクス 9SM」はこれまで発表してきたパリから「本国」へ場を移し、今回初めてミラノコレクションに参加。現在では教会としては機能していないサン・ヴィットーレ・エ・クアランタ・マルティーリという旧教会にてフィジカルショーを行った。

 

 たくさん登場するのが、スポーティとテーラリングのミックススタイル。カーゴパンツ、オールインワン、ジョギングパンツ、スエットシャツなどスポーティなアイテムに、肩を強調したテーラードジャケットやコートをコーディネート。またはトラウザーにオーバーボリュームなダウンジャケットやパーカを合わせた。トータルブラックをメインにオリーブグリーンやライラックなどトーンオントーンのルックが多いが、色がモノトーンなのと対照的に、革、ウール、ナイロン、ブークレ、PVCなど天然素材と合成素材の意外な組み合わせによって、質感の遊びがなされている。そこにシャーリングのディテールが様々なアイテムに付けられてクチュール感を添え、その一方で新バージョンの「モノブーツ」がテクニカルなイメージを与える。

 

 クリエイティブディレクターのマシュー・ウィリアムズは“Fade”をコレクションテーマとしているが、これはパンデミックで主流になったリラックス着でも、それを脱出したフォーマル回帰でもない今のうやむやな流れを示唆しているのであろうか。そしてそんな中、素材やシルエットの様々なコントラストと言う形で、次のシーズンへの答えを導き出したのかもしれない。

フェンディ(FENDI)

 ミラノショールームに設置されたFFロゴデザインの形の鏡張りのランウェイを舞台に、メンズでは久々にフィジカルショーを発表。アーティスティック ディレクター、シルヴィア・フェンディは「狂騒の20年代」をイメージし、古き良き時代のクラシックなメンズワードローブを再解釈したとか。そこには往年のエレガンスに遊び心や挑戦を加えたニューダンディ像が浮かび上がる。

 

 白、黒、バーガンディ、ラズベリー、モカなどの控えめな色使いで、ヴィシーチェックのツイードや千鳥格子のスーツ地などのクラシックな生地を多用した、スーツ、ジャケット、トラウザー、コートなどフォーマルなアイテムが揃う。が、ブレザーはケープになり、ダブルのジャケットはクロップトされてマイクロ丈に。首元が大きく開いたノーカラーのレザージャケットや胸元が大きくくりぬかれたセーターや、さらにはハーフスカートが付いたトラウザーズやロングドレスのようになったニットまで、ウィメンズのワードローブを連想させるような様々な遊びが加えられている。アクセサリーも同様で、ブートニエールの替わりにフラワーブローチ、カラーピンの替わりにパールの「オーロック」チョーカー、タイドアップする替わりに「FF」ペンダントで飾られる。これによって古い時代のフォーマルの中に、これまでの常識を打ち破るような自由な着こなしを提案している。

 

 さらに、立体的なパールとダイヤモンドによるモダンなデジタルプリントが多用されたり、ストラップ付きの腕時計が備えられたメリージェーンブローグやハイテクスニーカーなどをコーディネートしたルックも。さらに「オーロック」モチーフと「バゲット」デザインが、デジタルハードウェアウォレット「レジャー ナノ X」のためのテックアクセサリーになるなど現代的な要素もふんだんに取り込まれている。

 

 長いパンデミックでリラックステイストの続いた後、フォーマルの復活を謳うブランドもいくつかあるが、「フェンディ」のそれは単なるレトロ回帰ではない。ルールを覆す自由さと未来感覚をふんだんに入れ込んでひねりを効かせ、今回も一筋縄ではいかないコレクションとなっている。

ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE&GABBANA)

 今回もフィジカルショーを開催した「ドルチェ&ガッバーナ」。コレクションのテーマはラッパーのマシン・ガン・ケリーとメタバースの二つの共存する世界へのトリビュート。ショーではマシン・ガン・ケリー本人がライブパフォーマンスを披露し、オープニングとフィナーレのルックを飾った。そんなランウェイにはグラフィティがカラフルなライトと共に映し出されている。

 

 このカラフルなスプレープリントのグラフィティは、アーティストBoche / Thoroによるもので、Tシャツ、パーカ、アノラック、ダウンコートからテーラードジャケットやタキシードまで様々なアイテムで登場。併せてDGロゴがグラフィカルに使われたアイテムも多い。プロポーションは全体的にオーバーボリュームで、特にダウンジャケットやファーコート、ブルゾンなどアウターにおいてマキシシルエットなものが目立ち、テーラードジャケットは肩を強調したものが印象的だ。そんなアウターに対して、レギンスやスリムフィットのタートルネックをコーディネートしてコントラストを出しているコーディネートもあれば、パターンや素材が同じアイテムで全身を統一するという提案もなされている。提案と言えば、スカートルックも多く登場し、ジェンダーレスに自由に着る服を選ぶ世代に向けたものとなっている。エコファーやキルテッドナイロンのスノーブーツに加え、シャイニーカラーやサテン、グラフィティのラバーシューズ、メタバースの世界からインスパイアされたサングラスなど小物類も個性を放つ。そんな中に所々に「ドルチェ&ガッバーナ」らしい色気のあるタキシードやきらびやかな金のジャケットなども差し込まれ、その職人技を思い出させてくれる。

 

 これまではいつもかなり明確なテーマを立ててコレクションを展開してきた「ドルチェ&ガッバーナ」だが、時代が何を求めているかを常に敏感に察知する同ブランドだけに、今シーズンは、目まぐるしく変わる現代にあわせて一つのテーマには絞らないスタンスを取ったようだ。そんなコレクションは、テクノロジー、メタバース、バーチャルといった未来的な要素を前面に出したかなり弾けたものだった。が、それもイタリアらしいモノづくりの確かさがベースにある同ブランドだからこそできるコレクションではないかと思う。

トッズ(TOD’S)

 今シーズンは“Italian Routes”というテーマでデジタル配信にてコレクションを発表。映像の舞台のトリノ郊外にあるリヴォリ城は世界文化遺産にもなっている11世紀に建てられたサヴォイア家の旧邸宅で、現在では現代美術館になっている。このロケーションとも連動する、イタリアが持つ芸術的遺産というルーツとモダンなイタリアの創造性の融合がコレクションで表現されている。

 

 例えば、カシミアのトラックスーツや、アースカラーと逆刺繍を織り交ぜたローゲージのニット、ファーのような効果を出したシアリングがボンバージャケットやピーコートのラペル、パーカのライニングに使われるなど、カジュアルなアイテムを高級素材と職人技で仕上げている。コーデュロイパンツはトーンオントーンを基調としたコーディネートされていたり、ジーンズにはトレンチコートのようなクラシックなアイテムと合わせていることでも、カジュアルとクラシックの微妙なバランスを作り出している。またクラシックな着こなしの足元だけ白ソックスをパンツONしているのにも小さな遊びが見られる。

 

 そんな足元にはラバーペブルが大胆になったゴンミーニや、厚いソールが際立つウィンター ゴンミーニの進化系トッズ W.G、スエード、テクニカル素材、上質なレザーが一体となり、馬具風のロングステッチが効いたスニーカーがコーディネートされる。

 

 クリエイティブ・ディレクター、ヴァルター・キアッポーニが得意とする、職人技を活かしたノンシャランなスタイルはさらにモダンに進化を続ける。

エトロ(ETRO)

 今シーズンはボッコーニ大学でフィジカルショーを行った「エトロ」。そのロケーションは今回のコレクションで本や文学をフィーチャーしているところに通じる。ショーのインビテーションにも、ショーでモデルが手にしていたようなペーパーバックが同封されていた。

 

 そんなこのコレクションは本をポケットに入れて人生の冒険に直面する若者のイメージなのだとか。そんな知的な旅は、物語に出てきそうな雪の結晶、オオカミ(2020年から「エトロ」はWWFと協力してオオカミの保護に取り組んでいる)、バラなどのモチーフを多用し、多くのルックに使われたニットの柄となって登場する。知的なイメージを強調するかのようにテーラードジャケットやコートなどを合わせているルックも多く、タイドアップしたスーツスタイルのウエスト部分にカマーバンド風のニットのベルトが巻かれているものもある。

 

 ジェラバ風のオーバーシャツ、カフタン、ガウンのセットアップなど「エトロ」らしいノマドスタイル、またはフーディやトラッキングパンツやリブパンツなどスポーティなスタイルも多く、色もオレンジ、フォレストグリーン、コバルトブルー、パープル、マスタード、レッド・・・といった多くの鮮やかな色を使ってはいるのだが、トーンオントーンのコーディネーションが多いせいか、品の良い秩序を感じさせる。お得意のペイズリー柄も、今回は大きな勾玉柄をひとつだけモチーフとして使っているアイテムが多く、普段のコレクションより無地の使用が多いのも、知的な落ち着きを醸し出している。故にリュックのストラップに書かれたスローガン「Etro C’est Trop(エトロ トゥマッチ)」は自虐なのかとも思われる。

 

 旅や冒険をテーマにするブランドは多いが、今回の「エトロ」ではあくまで精神的、知識的部分で何かを求める旅。今回のコレクションは必要なものだけを抽出してシンプルにまとめた感がある。これは様々な模索の後にたどり着くのは、そぎ落とされたスタイルということなのかもしれない。

プラダ(PRADA)

 ミラノのプラダ財団にてメンズでは久々のフィジカルショーを行った「プラダ」。今回のテーマは“BODY OF WORK”。「仕事は現実の状態であり、人生の重要な要素」と定義し、現在のリアルな男性像を評価し、それを優雅に洗練されたものとして提案する。ショーに起用した世界的に有名なハリウッドスター10人(トーマス・ブロディ、サングスター、エイサ・バターフィールド、ジェフ・ゴールドブラム、ダムソン・イドリス、カイル・マクラクラン、トム・メルシエ、ジェイデン・マイケル、ルイス・パートリッジ、アシュトン・サンダース、フィリッポ・スコッティ)が、俳優ではない素の自分でランウェイを歩くと言う部分を強調しているのだそう。とっさに連想されるのは、10年ほど前のウィレム・デフォーやエイドリアン・ブロディが登場して話題になったショーだが、その関連性は特にはないとのこと。でもセレブをショーに起用することは少ない「プラダ」があえて作り上げた映画的な世界(ショーのシートもプラダ財団の映写室で使われているシートだ)は、今回も大きなインパクトを放っていた。

 

 さて、コレクションはかねてからミウッチャ・プラダとラフ・シモンズが重要なキーとしていた「ユニフォーム」がベースになっている。ビジネスマンにとっての制服といえるべきスーツ、作業用のオールインワン、そして数々のミリタリーアイテム。それらを特に肩を強調したオーバーボリュームで展開するが、これは先々シーズンから見られるオーバーなMA-1やボンバージャケット、ニットなどの延長線上にあるのだろう。ちなみにニットにもナイロン糸を混ぜて編むことで構築的なショルダーラインを演出している。同様に、前回の秋冬シーズンで使われたロングジョン的な役割として、今回はテックシルクやオックスフォード生地のパジャマが登場し、テーラードコートの中や、トラウザーズの下などに着用して、ウエストや裾からチラ見せしている。これはまるでリモートワークで慣れたパジャマスタイルの上に、スーツを着て出勤するビジネスマン(が本当にいるかどうかは別として)。そんな過渡期である今を表しているかのようだ。そしてそこには、ヘムやフードにモヘアウールをあしらったり、三角ロゴやロボットモチーフのイヤリングをつけることで、今の時代、無視できないジェンダーレス要素も小さく入れている。また、小物類ではナイロン、コットン、シルクなど様々な素材のカラフルな手袋、大きめのトラベルバッグや二つのパーツが取り外しできるリュックなど、モダンで機能的なアイテムが登場している。

 

 現実のあらゆる側面に、重要性、洗練性、尊敬、永続的な価値を見出し、使い捨てのファッションではなく、長く続き、関連性があるクラシックのコンセプトを「プラダ」風に見直したコレクション。クラシックに回帰しつつもそれは全く新しく、かつブランド独自の連続したストーリーを保つ・・・「プラダ」は、現在と過去と未来を連続して一つのコレクションで描き切るという離れ業を見事にやってのけた。

エムエスジーエム(MSGM)

 当初はフィジカルショーを予定していたが、直前にデジタル配信に変更した「エムエスジーエム」。

 

 今回のコレクションでは、イタリアの偉大なる建築家、ガエターノ・ペッシェからのインスピレーションで、テーマの“IL RUMORE DEL TEMPO(時間のノイズ)”はコレクションノートに書かれていたペッシェの「時間は並外れたものであり、私たちの前にも後ろにもある。そのリズムに合わせる必要がある。さもなければ年をとってしまう」という言葉に繋がるらしい。映像の中でもペッシェがカッシーナのためにデザインした名作「フェルトリ」やメリタリアのためにデザインした「ミケッタ」が登場している。

 

 そんなペッシェが得意とする色鮮やかなプロダクトデザインからの連想か、または意識を錯覚させる時間感覚からの連想か、今回のコレクションではサイケデリックな幻想的世界が展開される。全体的にピンク、ライトグリーン、オレンジ、パープルなどのビタミンカラーを多用したカラフルな色使い、そしてヘンプやマジックマッシュルームのモチーフが様々なアイテムに登場し、「Freak Out」というスローガンが描かれたアイテムも登場することから、(そして映像からも想像するに)、ハイの状態も示唆している様子だ。

 

 フーディ、ボクサーパンツやトラックパンツ、などスポーティなテイストや、ゆったりしたビスコーススーツやソフトなフリース、(ペッシェからの連想らしい)モジュラーソファに使われるようなキルティングジャケットなどラウンジテイストと、このサイケデリックなテイストのコントラストがユニークだ。そしてファッションと並んでミラノの主要産業であるインテリアとの連結も個人的には嬉しい。

JWアンダーソン(JW ANDERSON)

 パリからミラノに場を移して発表する初めてのコレクション。当初はフィジカルショーを予定していたのが、感染拡大のために直前にデジタルでの発表に変更となった。

 

 今シーズンのコレクションについて「子供のように純粋で無邪気な、または子供の頃の思い出を探すような、来るべき将来にむけての楽観主義なアイデアから生まれている」というジョナサン・ウィリアム・アンダーソン。そんなコレクションでは、ジェンダーやカテゴリーといった既成概念を取り払ったキッチュな世界が広がっている。

 

 例えば、多く登場するのがドレスやスカート、またはワンショルダーやクロップトのトップなど、ウィメンズのワードローブやディテールを使用したジェンダーレスなコーディネート。そしてそれらのドレスの多くはコートドレス、シャツドレス、ニットドレスなど、どちらのカテゴリーにも準じないアイテムだ。これらのアイテムにはフープの付いたヘムラインが効いていて躍動的なイメージを加える。そのフープと連動するようなチェーン状のモチーフが使われたニットも登場する。

 

 子供のようなイメージは特にハトやゾウのハンドバッグ、幼稚園児の長靴のようなブーツなど小物類で表現される。またニットの柄やプリントでは象のモチーフが大胆に使われている。その一方で、メタリックのオールインワンやスパンコールのポロやレギンスなどの煌びやかなアイテムも。映像のロケーションはナイトクラブのような場所の階段と通路が使われており、いつかまた戻って来るであろうナイトアウトも意識しているのであろう。

 

 楽しく、無邪気に弾け、そして様々な世界観がミックスされたコレクションは、この状況から抜け出し後に生まれる、明るく自由な未来への希望が、これまで以上に込められているのかもしれない。

 

取材・文:田中美貴

 

「ミラノメンズ」2022秋冬コレクション

https://apparel-web.com/collection/milano_mens

 

田中 美貴

大学卒業後、雑誌編集者として女性誌、男性ファッション誌等にたずさった後、イタリアへ。現在ミラノ在住。ファッションを中心に、カルチャー、旅、食、デザイン&インテリアなどの記事を有名紙誌、WEB媒体に寄稿。アパレルWEBでは、コレクション取材歴約15年の経験を活かし、メンズ、ウイメンズのミラノコレクションのハイライト記事やインタビュー等を担当。 TV、広告などの撮影コーディネーションや、イタリアにおける日本企業のイベントのオーガナイズやPR、企業カタログ作成やプレスリリースの翻訳なども行う。 副業はベリーダンサー、ベリーダンス講師。

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