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2017.11.29

【宮田理江のランウェイ解読 Vol.45 】2018年春夏パリ、ミラノコレクション

 解体や装飾に象徴される、チャレンジングな試みがランウェイを揺さぶった。2018年春夏シーズンのパリ、ミラノ両コレクションはカルチャーミックスやキッチュ、プレイフルなど、クリエイター魂を感じさせる提案が相次いだ。花柄やミニスカートといったスーパーフェミニン志向も打ち出され、モードの表現力が一段と高まった。

◆ミラノコレクション

 2018年春夏もやはりトレンドリーダーは「グッチ(GUCCI)」のアレッサンドロ・ミケーレ氏のようだ。時代やテイストをいたずらっぽくねじり合わせる持ち芸はさらに熟成の度を増し、メンズとウィメンズを計100ルック以上も披露。装いは全体的にデコラティブ(装飾的)。ブランドロゴや「GGモチーフ」を繰り返し登場させ、強く押し出した。両肩を張ったスクエアショルダーにも1980年の気分が薫る。ネオンカラー、ピンク、グリーン、イエローなどを使った強い色使いが着姿にパワーをまとわせている。

 

 70年代のグラムロックを思わせるけばけばしさも投入。ゴージャスで複雑なレイヤードがミックス感を引き立てている。飾り立ててはいるのに、どこかアンニュイでシニカルな雰囲気が漂う。ジャケットでテーラード感を、ミニスカートで初々しさを呼び込み、性別も年齢も不詳の風情を醸し出している。着姿のスパイスになっていたのは、ウィットフルなバッグ。ジャケットの上から巻いたウエストポーチや、特大のトート、斜め掛けショルダーと手提げの2個持ちなどを提案。「GUCCY」というロゴ入りのクラッチも興味深かった。

 カートゥーン(漫画)をモチーフに選んだのは、アートとモードの融合にかねてから熱心な「プラダ(PRADA)」。アメリカンコミックや日本漫画の作品をコマ割りごとワンピースやバッグに迎え入れた。登場するキャラクターは「強い女性」を印象づけるヒーロータイプが多く、先シーズンからグローバルモードのテーマに浮上した「ネオフェミニズム」にポップな表現を加えた。

 

 正統派のテーラーリングに別ムードを帯びさせている。左右で色が異なるスリーブレスジャケットはクールなたたずまい。コートやジャケットはひじ上まで袖まくり。サルトリアル文化を写し込みながらも、若々しい着姿に整えた。襟だけ色の違うシャツの上からエプロン風ワンピースを重ねるレイヤードもジェンダーレス感が強い。ビニールコーティングを施したレインコートや、スタッズを配したバッグはパンクやミリタリーの雰囲気をプレイフルに味付け。繰り返し登場したつやめいた樹脂加工のアウターはフューチャリスティックな空気も宿した。ストライプ柄、ポルカドット、ハワイアンモチーフ、レオパード模様などが投入され、柄の面でもダイバーシティー(多様性)を歌い上げた。

 ブランド創設者のコンスエロ・カスティリオーニ氏が退いて2シーズン目のウィメンズコレクションを発表した「マルニ(MARNI)」。ガーデンパーティーのような明るい彩りとプレイフルなムードでランウェイを華やかに染め上げた。バラの花びらがキーモチーフに選ばれ、赤やピンク、グリーンがポジティブなあでやかさを引き立てている。バラモチーフにチェック柄を重ねるような「柄on柄」も大人っぽいレイヤードルックに導いた。

 

 色・柄に加え、フォルムや素材感でもスーパーフェミニンの気分を押し出している。キャミソールトップスはペプラム風の張り出しを利かせ、たおやかな曲線を描く。シルキーな質感を帯びた生地が着姿を優美につやめかせた。ファーやビッグイヤリング、ワイヤーネックレスなども朗らかな風情を醸し出していた。アシンメトリーやハイブリッドの手法を組み込んで、ドラマティックな表情をまとわせている。正面と両サイドで生地や色を変えて複数のムードを交じり合わせた。オーバーサイズや切りっぱなし加工などの演出もリズムを生んでいた。

 ポジティブでキッチュな新トレンドを先導した「モスキーノ(MOSCHINO)」のジェレミー・スコット氏はパンクルックとバレリーナ衣装という真逆の装いを力業で引き合わせた。アニメのキャラクターを取り入れて新世代の消費者「ミレニアルズ」への目配りも見せている。ふわふわのフェザーをあしらったパステルカラーのチュチュスカートを、硬質なバイカージャケットにミックス。仲を取り持つのは、愛らしいポニーのキャラクターをプリントしたTシャツだ。このポニーはアメリカで人気の女の子向け玩具キャラクター「マイリトルポニー(My Little Pony)」。カラフルなポニーがキュートな雰囲気を呼び込んでいた。

 

 レザーのビスチェや、スタッズ付きのブーツ、革のポリス帽などはフェティッシュなムード。網目のゆるいフィッシュネット風ストッキングも妖しくセンシュアル(官能的)。パステルカラーのチュチュスカートや巨大リボン形のスカートと響き合って「タフ&ガーリー」の不思議な雰囲気をまとわせた。全身を色とりどりの花で埋め尽くした「人間花束ドレス」はロマンティックの極み。多幸感を目に飛び込ませた。強さとたおやかさをクロスオーバーさせて、あらためてフェミニンの意味合いを再定義するかのようなコレクションにまとめ上げていた。

◆パリコレクション

 「私たちはみんなフェミニストであるべき」という意味の「We should all be feminists」を胸に大きくプリントしたスローガンTシャツをデビューコレクションで打ち出した、「ディオール(Dior)」のウィメンズを担当するアーティスティック ディレクターのマリア・グラツィア・キウリ氏は今回もフェミニスト宣言を発した。ガーリーでポジティブな着姿はミレニアル世代を視野に入れているように見える。マリン調のボーダー(横縞)柄とモノトーンのチェッカーフラッグ柄で装いを元気に弾ませた。

 

 女性賛歌を歌い上げたアーティストのニキ・ド・サンファル(Niki de Saint Phalle)に着想を得て、楽観的なムードをまとわせている。ニキが得意としたカラーリッチなモチーフも取り入れた。パッチワークやフリンジのディテールも70年代気分を帯びた。若々しく気取らない風情が全体に漂う。マイクロミニ丈のボトムスがアクティブなムード。チュールスカートやチュール付きベレー帽をコーディネートに組み込んで、フェミニンなレイヤードを組み上げている。「WHY HAVE THERE BEEN NO GREAT WOMEN ARTISTS?(なぜ偉大な女性アーティストが存在しなかったのか)」というメッセージをTシャツに配して、再びフェミニズムをうたい、服の内側からも女性を応援していた。

 「バレンシアガ(BALENCIAGA)」のデムナ・ヴァザリア氏は柄や素材のミックスでプレイフルな装いを打ち出した。着姿にウィットをふりまいたのは、たくさんのモチーフ。ドル紙幣、新聞記事、カムフラージュ柄、千鳥格子(ハウンドトゥース)柄などがユーモラスにあしらわれた。夕焼けの風景を写し込んだつややかなパンツまで披露した。光沢を帯びたシャツ、マルチカラーの花柄ワンピースなどが着姿を華やがせた。フープ(輪っか)のピアス、チェーンのウエスト飾りといったアイキャッチーなアクセサリーも楽しい。どっさりとフリンジを垂らした特大のトートバッグは原色で彩った。

 

 服の「解体」も試みた。両袖をオフしたトレンチコートやライダースジャケットは身頃の前面に吊り下げたような立体的な見え具合。オーバーサイズと組み合わせた、複雑なレイヤードにいたずらっぽさが潜む。デニム、レース、シフォンなど、質感の異なる布を引き合わせた重ね着も表情が深い。ファニーなアイデアの極めつけは「クロックス(CROCS)」とのコラボレーション。見慣れたクロックスのアイコニックなサンダルを高さ10cmの厚底プラットフォームシューズに変身させた。

 フリルやラッフルを多用したデコラティブ(装飾的)なルックでランウェイを色めかせたのはサラ・バートン氏の手がける「アレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)」。創業デザイナーが得意とした解体と再構成の技法を駆使して、立体感の豊かな着姿に仕上げている。イメージの下敷きになっているのは、英国の田園や庭園。イングリッシュガーデンを写し込んだようなフローラルモチーフで彩った。ノスタルジックな風情が装いにヴィンテージ感を添えた。デニムやオーガンジーなど、風合いの異なる布を響き合わせて、趣を深くした。

 

 トレンチコートをドレスライクに変形させたり、レザードレスをパンク風に仕立てたりと、クチュール技を惜しみなく注ぎ込んだ。オーバーサイズのコートドレスはエレガントな量感を宿した。チェック柄の多用に英国趣味が薫る。やさしげな花柄を繰り返し登場させながらも、甘さは控えめ。むしろ、毒っ気や不安感が忍び込むような演出だ。生地や縫製、刺繍などに英国の伝統的な服飾ヘリテージ(遺産)をちりばめていて、時空を超えたクロスオーバーを形にしている。硬質なレザーとやわらかいシースルー素材といった質感のずれ、正統派のテーラードと大胆なリコンストラクション(再構築)という相反するものを交差させて、タイムレスなムードを立ちのぼらせた。

 支援者・理解者だったピエール・ベルジェ氏が死去したメゾン「サンローラン(SAINT LAURENT)」。あらためてブランドヒストリーを振り返る立場になったアンソニー・ヴァカレロ氏は往年のイヴ・サンローランを彷彿させるセンシュアリティー(官能性)でコレクションを包んだ。ゴールドの縁取りを施したジャケットと、あちこちからフリンジを垂らしたショートパンツで幕開け。ショートパンツはその後も繰り返し登場し、フレッシュでポジティブな装いを印象づけた。ニーハイのファーブーツをはじめとするボリュームシューズが視線を引き込む。全体にエナジーを添えていたのは、アフリカンエスニックなアクセサリー。大ぶりでエキゾチックな耳飾りやネックレスが着姿に勢いを乗せていた。

 

 ミニ丈復活を象徴するかのような、コンパクトでフレッシュなルックも押し出した。後半は一転、ボリューミーな装いで着姿を揺さぶった。バレリーナが着るチュチュのように過剰な量感を持たせ、起伏を与えた。まばゆいタキシード風パンツルック、胸元を深く切れ込ませたVネックトップスなどがグラマラスなムードを薫らせる。肩や袖をはじめ、身頃を斜めに横切るファー使いも提案。「ラグジュアリー」の意味を確かめるようなコレクションにまとめ上げていた。

 

 やりすぎを慎重に避けながらも、しっかり主張するデザインが増え、ミニマル志向ははっきり後退した。ミレニアル世代への訴求やSNS受けへの目配りもあってか、ややアイキャッチーな演出が目立ち、若返り傾向も加速。ミックステイストやジェンダーレスがもはや「常識」となり、違いを示す仕掛けどころが減る中、クリエイターたちは解体・再定義や原点回帰など、思い思いの手探りを進め、「モード」の意味を問い直しているかのように見えた。


 

 

宮田 理江(みやた・りえ)
ファッションジャーナリスト

 

複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスを経験後、ファッションジャーナリストへ。新聞や雑誌、テレビ、ウェブなど、数々のメディアでコメント提供や記事執筆を手がける。

コレクションのリポート、トレンドの解説、スタイリングの提案、セレブリティ・有名人・ストリートの着こなし分析のほか、企業・商品ブランディング、広告、イベント出演、セミナーなどを幅広くこなす。著書にファッション指南本『おしゃれの近道』『もっとおしゃれの近道』(共に学研)がある。

 

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