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2021.09.02

「スーパーファストデリバリーサービス」は日本に上陸するのか?

シティバイクのステーションにJOKRの広告

 アメリカの飲食業では大抵、配達専門スタッフが雇われデリバリーに対応していることが多いです。アメリカのレストランのデリバリーには、Uber Eats(ウーバーイーツ)はもちろん、Postmates(ポストメイツ)、今年6月に日本の仙台市でサービス開始が発表されたDoorDash(ドアダッシュ)などがありますが、このようなサービスは日本でも定着している頃だと思います。

 

 筆者が暮らすニューヨーク市では、飲食物に限らず、薬やトイレットペーパーなどの日用品、生鮮商品など、時間がない時や急遽必要になり困った時などに大抵の物をデリバリー注文することが出来ます。また、日頃からオンラインスーパーのFreshDirect (フレッシュダイレクト)や、AmazonアプリからオーダーができるAmazon傘下のWhole Foods Market (ホールフーズマーケット)は頻繁に利用しています。Costco(コストコ)もデリバリーサービスのinstacart (インスタカート)を介して、食品から非常用品までを同日配達するサービスを展開しており、デリバリーサービスは着実に利便性が高まっています。

 

 以前からアメリカのデリバリー業界における競争は激しい印象がありますが、パンデミックをきっかけに、“買い物を代行してもらう”“配達をしてもらう”便利さを知る人が増加したことで、顧客のニーズに応えるかのごとくさらなる変化が起こっています。

地下鉄駅内でもデリバリーサービスの広告が多くみられる

同日配達から、更に最短配達へ

 ついこの間まで、注文同日に商品が届く「同日配達」に対応していると便利だと感じていましたが、最近、特にこの数ヶ月間では、マンハッタンの街中で30分以内に配達をする“スーパーファストデリバリー”の広告宣伝を良く目にするようになりました。Instagramなどのソーシャルメディア上でもこのようなデリバリーサービスのPRを目にすることはありましたが、そこまで生活上では必要性を感じず、“利用してみよう”というまでには至っていませんでした。最新のサービスには常日頃からアンテナを張っている筆者ですが、従来のinstacart(インスタカート)や Shipt (シップト)といった同日配達サービスで十分だと思っていた訳です。

 

 しかし、よく利用するinstacartも最近では、希望の配達時間に空きが無いことが多く、AmazonのWhole Foods Marketでも最近、注文した商品の買い物が店舗で開始される前にも関わらず、あまり詳しい説明がなかったのですが、なぜか追加注文することが出来ず、残念な体験をしました。もちろん、サービスに完璧さは求めませんし、失敗もあっていいと思います。日々改善され、次回利用した際に“あ、便利になっている!”というのが理想的だと筆者は考えます。ただ、先述したような苦い思いから、もしかすると他にもっと便利なサービスがあるのではないか?と感じる消費者が増え、スーパーファストデリバリーサービスのような新サービスが続々と誕生しているのかもしれません。

最速15分で配達可能の「JOKR

 筆者が気付く限りでは、最近マンハッタンの街中で、デリバリーサービスのJOKR(ジョーカー)、Fridge No More(フリッジ・ノー・モア)そして1520(フィフティーン・トウェンティー)の広告があらゆる形で目に飛び込んできます。同時期に広告を打つことで相乗効果を期待しているのか、もしくはそれほどまでにデリバリー競争が激化しているのか、と思わざるを得ないほどこの三社の広告をよく目にするのです。調査してみたところ、JOKR はドイツ人の起業家が創業、すでにサンパウロ、リマ、メキシコシティーなどでサービスを提供しているといいます。今年6月には国境を越え、ニューヨークでサービスの提供を開始したそうです

 

 JOKRのサービスはいたってシンプル。専用アプリをダウンロードし、必要な物を注文。最速で15分程度で求めていたものが届くというシステムです。値段は、デリやスーパーの価格と同値で上乗せなどはありません。そしてなんと、デリバリー料金もありません。ミニマムオーダーも設定が無いことから、牛乳一本でもデリバリー可能です。JOKRでは、注文データを活用しそのエリアで何が必要とされることが多いのかを分析。MFC(マイクロフルフィルメントセンター)を地域ごとに設置しデリバリー対応域を広げていくスタイルだそうです。

最速10分で配送「Gorillas

 他にはGorillas(ゴリラス)という名称のデリバリーサービスも、今年5月30日からアメリカでサービスを拡大。まずはブルックリンのブッシュイック地区から展開し、その後ウィリアムズバーグやニューヨーク市のダウンタウンエリアへと拡大していくと同社のプレスリリースでは発表されています。8月時点では、サービス対応エリアがニューヨーク市のかなりの広範囲に拡大しています。GorillasもJOKR同様、地域ごとにマイクロウェアハウスを設置しています。他サービスとの差別化として同社は、ユーザーが普段スーパーで好きなものを買い物しているような感覚で、ローカルブランドの商品も手に入れられるよう対応しています。例えば、ニューヨーク市であれば人気のベーグルショップBlack Seed Bagels(ブラック・シード・ベーグルス)やアーティサナルナなアイスクリームブランドのOddFellows Ice Cream Co., (オットフェローズ・アイスクリーム)などもオーダー出来るようです。

 

 Adobe社が今年3月にリリースしている、コロナ禍におけるデジタルエコノミーについての調査報告によれば、オンラインでのグローサリーショッピングはパンデミック以前と比較すると230%増加と伝えられています。パンデミック以前よりオンラインスーパーを利用していた筆者も、確かにオンラインの利用頻度は増えたと実感しています。

実際にスーパーファストデリバリーのサービスを体験!

 JOKRやGorillasに対して、ニューヨーク発のFridge No Moreは昨年、1520は今年初旬にローンチし、スーパーファストデリバリーサービスに参入しています。ニューヨーク市街の体感気温が40度まで上がり注意勧告が出されていた某日。筆者は切らしてしまい困っていた食料品を酷暑の中買いに出歩くことに気が引け、これらの新しいデリバリーサービスを試す絶好のタイミングが訪れました。早速、先に紹介した4つのサービスのアプリをダウンロード。その中で一番UXの視点からも好感度が高く、求めていた商品も注文できるFridge No Moreを試してみることにしました。

Fridge No More」のアプリ

 アプリを起動し、初めに会員登録をします。まず、電話番号を入力すると、その際、問題が発生したときのための注意書きが表示されました。その後、テキストメッセージでセキュリティー番号が届き、その番号を入力後、氏名と配達先を入力し登録は完了です。Eメールの登録は不要で、最小限の情報のみが求められました。次に、商品をカートに入れ、決済に進みます。決済の工程に至るまで、全くフリクションを感じず注文を完了。注文完了時刻は“2:21PM”で、そのわずか“2分以内”に、“パッケージしています”“デリバリーに向かっています”とアプリ内の表示が着々とアップデートされていきました。一瞬の出来事でしたが、まだ筆者は15分以内に正しい商品が届くかはわからないと疑ってかかっていました。

Fridge No Moreから届いた商品

 しかし“2:29PM”、玄関のベルが鳴った。注文していたココナッツシュガーが届いたのです!思わず、配達してくれた青年に“You guys are amazing! (あななたち素晴らしい!)”と、ソーシャルディスタンスを取りつつも感謝の気持ちを伝え、彼もスマイルしてくれました。配達スタッフはFridge No Moreのウェアとロゴの入ったキャリーバッグを着用していて、注文した商品は紙の袋に入れ届けてくれました。

 

スーパーファストだから無駄がない

 よくあるデリバリーサービスでは、注文から配達までに時間を要すると、“注文を受け付けました”“準備しています”“配達に出ました”“もうすぐ到着します”“配達が完了しました”等々、安心感はありますがメッセージが多く煩わしいと感じる時もあります。しかし、前述したFridge No Moreのデリバリーサービスでは、注文してからお湯でも沸かしている間にもう届いてしまうことから、コミュニケーションも最小限で済みます。実際、“注文が完了しました”というテキストメッセージも無かったので、受信料もかかりません。

 

 では一体どのような仕組みで情報を確認するのだろう、とアプリを再び見てみると、注文履歴に配達してくれたスタッフの名前が表示されていました。これだけでは戸惑う時もありますが、今後の改善に期待し、初回利用の感想としてはとりあえず好感度が持てました。

 

 このようなサービスが世界中どこでも求められるとは言い切れないですが、ニューヨークは特に一人暮らしや狭いアパートに暮らしている人も多く、冷蔵庫が小型で食品を常時ストックするスペースがないというような人もいます。そのようなライフスタイルには、必要な時に必要な物だけを、そして思い立ったタイミングで手に入れたいと思うでしょう。パンデミックを経て、オンラインスーパーや同日配達の便利さが浸透しユーザーが増えたように、今回紹介した新たなデリバリーサービスにおいても、一度利用してみると筆者のように、その便利さに価値を感じると思います。

 


 

 

R I N A

90年代の米国がネットバブルだった頃に米国にて日本向けのファッションポータル事業にコンサルタントとして関わる。

 

以降、「ファッション」と「インターネット」上で行われるビジネスを中心とした事業に15年ほど携わり、Web製作やディレクション、ビジネスのコンサルタントを行う。現在は米国のファッション事情やトレンド、ファッションとIT関連を中心とした執筆、今までの経験と知識を活かしビジネスサポートも行っている。

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