PICK UP

2020.11.04

デジタルの“渦”が世界を飲み込む海外最新DX事情~世界をリードする「デジタル社会」中国のいま

アパレルウェブ「AIR VOL.40」(2020年10月発刊)の特集ページより一部の内容を抜粋して転載しております。

  先日、日本政府はデジタル庁を創設しました。キャッシュレス決済の推進、次世代通信規格5Gの整備など国をあげたDXが急ピッチで進む日本に対し、AI、5Gなどの先端技術の分野で躍進している中国は、社会全体のDXが世界トップレベルで進んでいます。本稿では、日本でもいま最も注目されている分野、「貨幣のデジタル化」、「5Gの実用化の最新状況」、「生活場面でのデジタル技術の活用」といった視点から中国のDXを紐解きます。

貨幣のデジタル化が進む中国、世界初「100%キャッシュレス社会」が目の前に

デジタル化された人民元(左)
お年玉のようなクーポン券が配布される(右)

 2020年10月9日、日本銀行がデジタル通貨による日本円の実証実験を2021年に実施すると発表しました。ただし、現段階では「デジタル日本円」を発行する計画はなく、今後は、日本国内の環境や金融システムに関わるインフラ整備を整えつつ、民間事業者や一般消費者を含めた実験も検討するといいます。一方、10月12日、中国深
圳(シンセン)では、一般市民向けに、デジタル人民元の配布実験が行われました。

 

 深圳政府は事前にSMSで、デジタル人民元の説明や利用の流れを市民に説明。今回は約1億5千万円に相当する金額を配り、一人あたり200元(約3100円)の受け取り分となります。配布したデジタル人民元は10月12日から18日の間、深圳周辺地域、約3,000箇所以上、指定の飲食店や小売店で利用が可能、大手スーパーマーケットのウォルマート中国法人や大手飲食チェーン店を中心に実験を進めています。
 

 デジタル人民元の配布はランダムに抽選で行われます。まず深圳政府の中国中央銀行が主導でリリースした「デジタル人民元アプリ」というアプリをダウンロード。アプリ内で、デジタル人民元が貰える「お年玉」(クーポン券)に応募し、当選した市民には深圳政府からSMSが届き、アプリ上でデジタル人民元の受取に必要な口座を開設するという流れとなります。10月13日時点で、5万人がデジタル人民元を受け取っており、現地のメディアによると、このアプリは、WeChatPayなどの決済アプリとも連携されており、チャージや公共料金の支払いも可能。また、今回デジタル人民元の実証実験と協力する小売店や飲食店には、デジタル人民元の決済専用のPOSを提供しています。実験期間中は、中国中央銀行の職員が毎日、店舗の営業前と営業後にPOSや決済システムの点検をするといいます。

 

 今回、デジタル人民元の取り組みを遡ると、実は2014年の時点で、中国政府がデジタル人民元の構想を発表、実行するために専門家による専属部署を発足していました。そして、2020年8月に深圳、広州、成都などの大都市を中心に、金融と政府機関を中心にデジタル人民元の実験的運用を開始しています。また、2020年9月には中国4大銀行の1つ、中国建設銀行が、同社の公式アプリでデジタル人民元のチャージが可能となる機能をベータ版としてリリースしました。将来的には決済機能も追加予定で、決済方法は中国で浸透しているQRコードの形式を踏襲すると発表しています。

 

 中国中央銀行は今年の9月下旬に、ECモール「JD.COM」を運営する京東集団傘下のフィンテック部門とパートナーシップを締結。EC業界では、京東集団がデジタル人民元による決済を可能にするシステム、インフラ設備に着手し始めています。

「デジタル人民元」は偽札にも有効

実験用デジタル人民元専用の決済デバイス

 元々中国におけるQR決済の発展のきっかけは、偽札の不正利用を防ぐためのテクノロジーでしたが、今回のように、法定貨幣そのものがデジタル化されることは、中国社会の商習慣、金融や行政システムのあり方自体を根本的に変えてしまうほど大きな改革だと言えます。デジタル 人民元と今の貨幣システムの最も大きな違いは、ブロックチェーンの応用です。現在ネットバンキングで行われている取引は、それぞれの銀行が持っているシステムに依存しています。つまり、仮に不正行為があったとして、いざ不正元を追跡すると、複数の銀行のシステムを横断する必要があり、追跡が難しいのです。しかし、ブロックチェーンの技術を応用することで、中国中央銀行が発行するデジタル人民元には全て暗号化されたIDが付与されます。金融機関はその人民元に付与されているIDを用いて追跡することが可能になり、個々の人民元のブロックチェーン上での流れが可視化されます。このようにデジタル人民元は金融犯罪を防ぐ手段としても注目されています。また、デジタル人民元が本格的に普及すると、ATMや外貨両替店が不要となり、銀行の店舗の縮小のスピードがさらに加速するとも言われています。

5GやAIを活用、深圳と杭州が魅せたスマートシティの取り組み

1つの都市をまるごと管理するために5Gを活用

 

深圳の地下鉄はHUAWIと提携し、5Gによる自動運転の取り組みを発表

 2020年の7月に、中国の深圳は、建設済みの5G基地局が約45,000箇所となり、世界で最も5Gの基地局が多い都市となりました。5Gの活用としては、警察部門、医療、観光、交通インフラ整備など幅広い分野で行われて います。例えば、交通インフラ整備の分野では、2019年5月に、深圳の地下鉄ネットワークの自動運転の取り組みを発足し、2022年には、時速120kmの自動運転の電車が開通予定です。また、警察部門では、2018年から、深圳の町で実装されているAI(人口知能)による顔認証機能が搭載された監視カメラに5Gを活用。全国の警察部門が共有できるクラウドのデータベースに、犯罪者の顔データを共有しています。監視カメラによって、逮捕できたケースも増え、深圳が模範都市として他の都市からも注目を集めています。 

アリババの「杭州城市大脳」計画の発表会

 深圳のように先端技術を生かしたスマートシティは、アリババの本拠地、杭州(こうしゅう)でも今、話題になっています。2016年、アリババは杭州の医療機関、政府機関のデータの管理、杭州の電力、水道、交通インフラなどの公共資源を1つのシステムで中央管理できる仕組みを開発。このシステムを杭州政府に提供し、町全体を管理しています。この取り組みを「杭州城市大脳」(こうしゅうじょうしだいのう、意味は杭州の大脳)と呼び、発足のきかっけは杭州の交通渋滞を解決するための方案でしたが、のちに町全体の機能を改善するシステムまでに発展しました。

 

  2020年には、AI、クラウド、ブロックチェーン、5Gなどあらゆる最新の技術を生かして取り組んでいます。例えば、杭州の市民は公共病院に行く際に、市が提供している専用のアプリ経由で、予約、決済が可能です。政府は市民の同意のもとに、ブロックチェーンを生かした管理システムで、市民のカルテのデータを各公共病院がアクセスできる共通のクラウドに保存します。仮に患者がA病院からB病院に転院する際、B病院がクラウド経由で、これまでその患者のカルテの履歴をすぐに確認ができるだけではなく、ブロックチェーン上で管理されているため、人的ミスにより発生するカルテの患者間違いや改ざんによる医療事故の発生率も改善され、医療機関の効率が上がり、現場の医療従事者への負担も軽減されたと現地のメディアが報道しています。また、「杭州城市大脳」で町全体の交通網を管理しているため、重大な災害があった際には、AIが災害現場から最も近い病院までルートを検知し、5G経由で交通信号機を制御しながら、救急車のルートを指示できるまでの精度に到達してきています。

社会のDXを進めるためには民間企業との連携が必要不可欠

 貨幣のデジタル化から、5Gなど最先端のIT技術を活用したスマートシティまで中国では、政府がリードする形で民間企業とタッグを組み、社会のDXに取り組んでいます。これらの取り組みは、中国で生活する人々がより快適に日々を過ごすことを可能にします。一方で、個人で所有している貨幣や医療カルテのクラウド化、AIによる顔認証など、個人に関する情報のほぼすべての情報がデジタル化される流れは技術的に可能になってきています。国によって様々な議論はありますが、すべてをデジタル化した場合の社会ではどうなるのか?そういった未来像を知るうえで、今後も中国のDXは貴重な先進事例になっていきます。

このコンテンツは弊社の会員誌「アパレルウェブイノベーションレポート」の40号から転載しております。

 

会員専用ログインページはこちら

 

AIRの詳細、バックナンバーはこちら

 


AIR(APPARELWEB INNOVATION REPORT)

 

新しいデジタルファッションマーケティングを考えるうえで必ず必要とされる知識や、海外事例、独自のECデータ分析などを盛り込んだ、AIL(APPARELWEB INNOVATION LAB.)会員様向け月刊誌です。

メールマガジン登録